音楽メディア・フリーマガジン

S.H.E

何万回繰り返したって終わらない葛藤の先に射す光を求めて。

優しくも突き抜けるYucci(Vo./G.)の歌声を軸に、繊細かつダイナミズムに満ちたサウンドを奏でるトリプルギターロックバンド、S.H.Eが6thアルバム『A to Z -Anxiety to Zillion-』を完成させた。Yucciが作った楽曲を中心に据えた今作は統一感を増しつつ、バンドとして揺るぎない芯の強さも感じさせる1枚だ。必死にもがき続ける中で確実に光射す方角へと進んでいることを示す快作の誕生を祝う、メンバーインタビュー&親愛なる仲間たちからのコメント集。

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■『A to Z -Anxiety to Zillion-』トレイラー映像

 
 

●4thアルバム『ScHrödingEr』から前作の5thアルバム『BUBBLES』までは約1年のスパンでしたが、そこから今回の新作『A to Z -Anxiety to Zillion-』まで2年空いたのは何か理由があったんでしょうか?

Ryosuke:単純に前2作のスパンが短かったんですよ。前作の時は、Kazukiが“やっぱり夏に出したいよな”と言ったこともあって…。

Yucci:夏にリリースして、ツアーも夏のうちに楽しくまわりたいっていう。“みんなで海に行こうか!”なんて盛り上がったりもしていたんですけど、結局のところツアーでは1回も海に行かなかったです(笑)。

●ハハハ(笑)。そもそも前作を夏に出すキッカケは、Kazukiさんだった。

Kazuki:今までは冬にツアーをまわることが多かったので、行ける場所も限られていて。だから“夏に出したら色んな場所に行けるし、もっと楽しみながらツアーをまわれるんじゃないか”と安易に考えていたんです。でも実際にやってみたら機材車の中は暑くてたまらないし…、“やっぱりいつもどおりの時期に出すのが良いな”ということになりました(笑)。

●その結果、今作は秋のリリースになったと(笑)。

Kazuki:そうですね(笑)。

Yucci:あと、今作では私がほとんどの曲を書いているんです。これまでは大体、みんなで作っていく感じだったんですよ。そういうことをしたのは今回が初めてというのもあって、時間が少しかかりましたね。

Kazuumi:今回はアプローチをちょっと変えたというか。曲を作る人に一貫性を持たせてみようと考えたんです。今までは作詞と作曲が別の人だったり、曲調がバラバラなところもあって。そこに今回は筋を1本通してみようかなということで、制作の仕方を変えてみました。

●それはいつ頃に決めたんですか?

Kazuumi:前作を出した時点で“次のアルバムはこういうふうにしたいな”ということを話し合ってはいました。

●Yucciさんがメインで曲を書くということは、その時点で決まっていた。

Ryosuke:そうですね。今回重きを置いたのは、何よりも“フォーカスを絞る”というところだったんです。

●それによって曲やメロディにも、Yucciさんらしさがより強く出ているのでは?

Yucci:レコーディングに関しては今までで一番録りやすかったんですけど、それは自分が作った曲だからというのもあるかもしれないですね。でも唄っている時に力が一番入ったのは、実はRyosukeの曲だという…(笑)。

●M-3「週末紀行」ですね。

Yucci:これはもうライブでもやっているんですけど、すごく広がっていく感じのする曲で唄っていても気持ち良いんです。

Seiji:「週末紀行」は早朝6時くらいにバンドの全体LINEに、録音したものが送られてきたんですよ。俺は起きていたのでその場で聴いたんですけど、すごく良いなと思って。みんなにも“良い曲だから聴いてみてよ”と勧めたところから、曲作りが始まりました。

●RyosukeさんとYucciさんは岩手出身ですが、この曲の“銀世界 足跡無く”という情景はそういう出自に根付いた表現かなと思いました。

Ryosuke:雪景色の中を歩いていると、雪がしんしんと降り積もるので足跡が消えてしまうんですよ。それで前後不覚の状態になるというか。“自分がどこにいるのかもわからないし、誰がここにいたのかもわからないようなところから始めよう”という唄い出しにしようとは最初から決めていました。ぼんやりと頭の中に浮かんだ情景があって、そこから言葉を拾っていったらこうなったという感じですね。

●「週末紀行」というタイトルはどこから?

Ryosuke:これは『少女終末旅行』(つくみず・作/新潮社)というマンガが、モチーフになっていて。“終末”の世界に取り残された女の子2人が旅をする物語なんですよ。そこにバンドがライブで演奏するのは“週末”が多い…という意味もかけています。

●“終末”と“週末”をかけている。

Ryosuke:“週末にライブをするようなバンドマンとしての生活を送ってきた”ということを捉えた、ポートレイト的な側面も「週末紀行」にはあるんですよね。これまでにバンドを辞めていった仲間たちや、思うようにライブができずにいるヤツらとか、そういうところにも想いを馳せて書きました。“ステージに立って歌っているヤツらも結局、後も先もわからないところで活動している”という意味で、銀世界に足を踏み出すようなことだなと思ったんです。

●バンドを続けることへの想いも込めているんですね。

Yucci:M-2「No Carnival」も、それとテーマの近い曲なんです。自分の好きな世界観や音楽性を持ったバンドが“俺らは絶対に辞めないから!”と言っておきながら、散ってしまったりもするわけで…。その悲しみを歌った曲ですね。

●お互いに近い想いを抱いていたんでしょうか?

Ryosuke:今作の曲が出揃うくらいのタイミングで、Yucciと気持ちがリンクした部分もあって。ちょうど懇意にしていたバンドが立ちゆかなくなってしまったことが、自分の中で結構なショックだったんです。そういうところからできたのが「週末紀行」でしたね。

Kazuumi:やっぱりバンドを続けていく上では、色々と大変なことがあるんですよね…。ただしゃかりきにやっていた時期は、僕らの中でも終わったから。

●「No Carnival」の“変わらない事は喜ばれるのに 変われない事はこんなにも苦しい”というのはバンドだけでなく、人生にも通じることかなと思いました。

Yucci:変化していく周囲の状況と、今も変わらないあの頃のままの自分の心情を比較して出てきた歌詞ですね。

●M-1「canon」の歌詞は、そういう悩みや葛藤から抜け出そうとしている心境を表しているのかなと思ったんですが。

Yucci:そうですね。実はこの曲が今作に向けて作った中では一番古くて、前作のリリース直後くらいにはできていたんです。その頃に“自分たちのこれからの歩みをどうしていこうかな?”ということをすごく考えていて。“今までと違う歩き方もちょっと考えようかな…でもできない。さぁ、ここからどうしようか!?”という感じで、自分に吹っかけるような曲にもなっています。

●バンド名にも“もがいている状況からの脱出”という意味を込めているわけですが、今も悩んだり葛藤している状況は変わっていないんでしょうか?

Yucci:ずっと悩んでいますね。ただ、“何に悩んでいるか”というところは正直、自分の中でもはっきりしないんです。

●バンドや音楽についての悩みだけではない?

Yucci:言ってしまえば今、(地元にいる)家族の元を離れて生活していることについてもずっと悩んでいて。私は本当に家族が好きなので、できればずっと一緒にいたいんですよ。でも自分のやりたいことや色んなことを考えると、まだまだこっちでやり続けなきゃいけないっていう…。

●家族に対する想いも込められている。

Yucci:それこそM-6「seek」は、家族について歌った曲なんですよ。東京に住んでいることで、家族の誰かが亡くなる時に立ち会えないという経験もしていて。大事な人が若くして亡くなってしまったこともあったので、そういう人に対して“次はまた来世で会えたら”という願いも込めています。

Ryosuke:“偲(しの)ぶ”気持ちというか。“あの時のままのあなたに会えたら”という歌詞もあるように、自分の記憶の中にある頃の姿にしか会えないから。僕もわりと早く父を亡くしているので、そういう部分でYucciと気持ちがリンクする部分もありますね。

●同じような経験をしているんですね。

Yucci:ちょうど私の叔父さんも同じタイミングで亡くなっていたりして、つらい時期をお互いに乗り越えたというか。そこから2人で支え合う部分ができてきたんです。この曲を作る時にもサウンドのアプローチについて、Ryosukeはすごく親身に相談に乗ってくれて。

●曲を作っている段階で、そこに込めた想いを話したりもするんですか?

Yucci:私とRyosukeはよくしますね。

Ryosuke:ただ、それがどの曲の話なのかはよくわかっていなかったりして。“今取り掛かっている曲はこういう感じで…”という話はされるんですけど、その時点ではまだ明確な歌詞ができていなかったりもするから。

●とはいえ、そういう会話が日々蓄積していく中で、イメージを共有できているのでは?

Ryosuke:そうですね。形としては色々あるんですけど、根幹にある唄いたいテーマは1つしかない気がしていて。2人の会話は、そういうところを確認し合う感じですね。

●唄いたいテーマはずっと一貫している?

Yucci:そうだと思います。その対象が生活をしていく中で変わっていったりはするんですけど、根本的には人に対して唄っているものが多いですね。

●悩みや不安はなくならない中で、それとどう付き合っていくかという部分での変化はあるのかなと。

Yucci:悩みや不安のある自分に対して“ダメなヤツだ”と思って落ち込むんじゃなくて、それをどう前向きにしていくかというふうにシフトチェンジしつつはあります。

●「canon」でも“終わらない 何万回繰り返したって”や“ためらいも 不安も切り捨てたところで何を守れるのか?”と唄っていますが、これが『A to Z -Anxiety to Zillion-』というタイトルにもつながっている?

Yucci:結局そこだなと思って。本当に莫大な不安を一生抱えているから。あと、このアルバムを作る時に実は、裏テーマがあったんですよ。“この人がいないと…”とか“これがないと…”みたいな、自分の中で軸になるものがないと生きていけないところが誰しもあるんだろうなっていう。

Seiji:でも“その生き方というのを誰も知らないままいるよね”ということで、“A to Z”には“やり方”という意味も込めたんです。“やり方はわからないけど、ここに入っているかもしれないよ”と。今作を聴くことで“君たちの不安をもしかしたら解消できるかもしれない”という想いはありますね。

●それだけ自信を持てる作品ができた。

Kazuki:毎回アルバムを作るにあたっては、“前作を超える”という気持ちをプレイヤーとして誰もが持っていると思うんですよ。もちろん毎回超えてはいるんですけど、今回はブッチギリで前作を超えたと言える作品ができましたね。

Interview:IMAI

 

 

 

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