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BUGY CRAXONE

人生を健やかにするためにがんばる みんなに捧げる『ふぁいとSONGS』

20周年を迎えた2017年に渋谷CLUB QUATTROでのワンマンを大成功に収めたBUGY CRAXONEが、14枚目のフルアルバムを完成させた。“いろいろあるけど、みんなでがんばろうぜ”と歌う表題曲を中心に、40歳になったVo./G.すずき ゆきこ自身が日々を生きていく中で必要な10曲の“ふぁいとSONGS”を収録。彩り豊かな楽曲たちは、この時代を必死にサバイブしている人々の人生を健やかにする助けとなるものだろう。そして21年目に踏み出した4人は、これからも大成長を遂げていく。

 

「小さな“不公平”とか“不平等”はあるけれど、“私が私である”とか“あなたがあなたである”ことに関しては、絶対に平等だと思うから。私は今、自分にもみんなにも“しっかりしようぜ?”って問うていると思う」

●前作『ぼくたち わたしたち』から約1年ぶりの新作リリースとなりますが。

すずき:まず去年は、20周年というのがあって。ひとしきり自分たちの20年を振り返って、“こんなふうにバンドをやってきたのか”とか“まだこんなことはできていないよな”ということを考えたんです。バンドとしては“早くアルバムを作ろうぜ!”という感じでもなくて、かといってダラダラしていたわけでもないんですけどね。

●これまでを振り返る期間でもあったんですね。

すずき:去年の11月に、渋谷CLUB QUATTROでのワンマンがあって。そのライブで味をしめた我々は、今年2月に渋谷TAKE OFF 7でもう一度ワンマンをやったんです。そこではQUATTROでやらなかった曲を中心にやったんですけど、それにあたって過去の曲を全て自分たちでコピーしたんですよ。そしたらかなり彩りがあって、自分たちの曲だけど“すごく面白いことをやっていたんだな”とか“こういうことを難しくやっていたから、当時は伝わらなかったのかもな”という色んな気付きがあったんですよね。

●過去の楽曲をコピーしたことで見えたものがあった。

すずき:その2月のワンマンが終わって“そろそろやろうかね”というところでみんなで曲出しをした時に、バラエティに富んだ曲が出揃ってきて。そういう色とりどりの曲たちが出てきたのを見て、私の気持ちも自由になっていった感はありますね。

●自由になっていったというのは?

すずき:“こういうものを作ろう”とか“こういうことはしたくないな”といった気持ちをまるで持たずに、今回は自然に作れたというか。だからフザけた感じのタイトルや今までやっていないような歌詞とかも、自然に思い付いたんです。今までなら思い付いても“これはちょっとやめておこう”とナシにしていたことも、今回はタガを外してやっていけたところがあって。その結果として幅が広がって、肩の力が抜けているような作品になったんじゃないかなと思います。

●自分でも、肩の力が抜けた作品になっているように感じている。

すずき:そうですね。これまでも肩の力を入れているつもりはなかったんですけど、今と比較してみると“やっぱり力が入っているよな…”という気はします。

●特に初期の作品では、緊張感のようなものが漂っていたというか。

すずき:何しろ若くて元気だったし、色んな気持ちに勢いもあって。当時はそれが力強さや鋭さになっていたと思うんですけど、“20年経って今、私はこういうところにいるんだな”と思いますね。

●とはいえ、今作の1曲目が「わたしは怒っている」というストレートなタイトルだったのはちょっと驚きました。

すずき:元々、この曲はもっとストレートなロックンロールだったんですよ。ただ、メロディや掛け合いで歌う部分の“まぶしさ”みたいなものがこの曲にはすごくあるなと思って、そこから歌詞を書いていったんです。そんな時にちょうど歳の近いバンドマンが“金がねぇ”とか“活動がしんどい”みたいなことを愚痴っているのを風のうわさで聞いて、ちょっと腹が立ったんですよね。

●腹が立った?

すずき:“自分が好きでわざわざバンドをやっているくせに、何を今さらそんなことで文句をタラタラ言っているんだよ!”と思ったんです。“それでも力を貸してくれている人とか、好きで観に来てくれている人もいるのに、それを美学とするんじゃねぇ!”という感じで腹が立っちゃって(笑)。

●本当に怒っていたと(笑)。

すずき:20代とか30代の人が言うならまだわかるけど、“わりと大人だし、そういうのはやめようぜ”と思ったんです。それで腹が立って書き始めたんですけど、書いているうちに“ていうか、すずきはどうよ?”という気持ちになって。人に怒るっていうよりは世の中にも怒っているし、“何だ、このざまは? でも私もその一員だよな”という想いがすごくあるから。

●自分自身に対する怒りもある。

すずき:こういう気持ちって、子どもの時からすごくあって。それを表現するにしても、これまではもうちょっとまわりくどかったと思うんですよ。当時の自分もストレートに言っているつもりではいたんだけど、やっぱり生活があまり伴っていなかったというか。実体験が伴っていないような書き方をしていたのかな…と、これを作って思ったんです。だから、この曲は自分のアイデンティティになるところなのかなと思いますね。

●この曲の“いいひとになりたかった わるいひとにあこがれた だけどそういうとこが そもそもまちがっていたんだよ”という部分も、ある程度生きてこないと言えない言葉な気がします。

すずき:ここの部分は一番最後に書いたんですよね。曲がどんどん展開していくから、“ここまで散々怒っているけど、どういうふうに展開するんだろう?”と考えていて。ここで“怒り”というよりは“情けなさ”を書けたのは、この曲の“まぶしさ”の影響なんじゃないかなと思います。

●“ひまわりが揺れている〜”のくだりは、その“まぶしさ”につながる部分かなと思いました。

すずき:“生命”って、やっぱりまぶしいんですよね。年齢にかかわらず、キラキラしていると思うんです。でも“子ども”から“学生”や“大人”とか名称がどんどん変わっていくにつれて、その“まぶしさ”に膜がかかっていくような感覚があって。

●歳を取るほどに、生命のまぶしさに膜がかかっていくというか。

すずき:私たちは大人だけど、やっぱり“生命”なんですよ。M-6「平和」でも言っているように、敵だったり味方だったり他人だったりするけど、みんな“生命”なんです。そのまぶしさを忘れたくないっていうか。そういう根源的な気持ちが、大きな力になるんじゃないのかなと思って。それがこの曲には“怒り”と共に、すごく詰まっている感じがします。

●怒りを歌っているけれども、決してネガティブではない気がして。

すずき:ライブを観にきてくれた友人にも“ゆきちゃん、怒っているとか言いながら、泣きながら歌っているじゃん”みたいなことを言われて、“確かに!”と思ったんです。“怒っている”とは言っても、別に“破壊”したくて怒っているわけではないし、“泣き怒り”というか。自分の中にある“幼い正義感”みたいな、“何かを信じる気持ち”が真ん中にあるのかなって思いますね。

●独りよがりな怒りではないから、共感できるんだと思います。

すずき:そうですね。あと、“すごくニコニコしていて明るい”とか“ポジティブ”と言われることが、ここ最近は多かったんですよ。もちろんそうあろうとはしているんですけど、“でも怒ってるし”というのもちゃんと書いておこうという気持ちもありましたね(笑)。

●“ポジティブ”と言われても、その見えている部分だけが全てではないというか。

すずき:何から発生している“ポジティブ”なのかっていうことなんですよね。そもそも“明るく元気に行こうぜ”って言うということは、何かしら今に問題があるからそういう心持ちでいようとしているわけで。そこを手放しに“明るい”と受け取っちゃうのは、あまり人の心の機微が伝わらないのかなと思うところもあるんです。色んな要素を含めてみんな生きていると思うし、もちろん私もそうだから。そういうところを素直に出していけたのが、今回はすごく良かったなと思います。

●M-5「めんどくさい」は特にそういう部分が顕著に出ていますよね。

すずき:私はしっかり者に見られやすいので、“そうでもないですよ”というのをちょっと言っておこうかなと思って(笑)。“大体めんどくさいんだよな”って思うから。でも意外に私は“働きたくない”という気持ちはなくて、やることが何もないほうが怖いんです。“働く”と言っても別にビジネスの話ではなく、“ライフワーク”として何か世の中と関わっていくというのが大事だなと思うんですよね。

●M-3「ふぁいとSONG」で歌っている“働こう”というのも、“ライフワーク”的な意味なのかなと。

すずき:家族や大事な人を守るために人は働くと思うんですけど、それも結局は自分のためなんですよ。でも自分のためだっていうことを忘れちゃうから、しんどくなるんだと思うんです。もちろん予期せぬことや災害は別なんですけど、やっぱり全ては自己責任なところがあるから。最後の最後に“この人生は私のものだよ”と、“この時間も、今やっていることも、良いことも悪いことも全部、私の人生なんだよ”って思える大人で私はいたい。もし今、何かつらいと感じている人もそういうふうに考えられると、少し変わるんじゃないかなと思うところもあります。

●M-9「じきにスターダスト」の“人生きっと平等だ 不公平でもきっと平等だ”というのも今の話に通じる気がします。

すずき:“できる人って、ちょっと損しちゃうところがあるよね。やれるから色々頼まれるけど、やっていない人と条件は同じじゃん”っていう話を友だちとしたことがあって。でも何かを任されるということは、金銭に結びつかなくても本人のすごく大きな栄養になっているはずだし、それをポジティブに取れないくらい疲れちゃっているんだったら“まずはそこを一度、改善しようか”って思うんですよ。そういう小さな“不公平”とか“不平等”はあるけれど、“私が私である”とか“あなたがあなたである”ことに関しては、絶対に平等だと思うから。私は今、自分にもみんなにも“しっかりしようぜ?”って問うていると思う。それが一番大きいことかな。

●“こうだ!”と決めつけるわけではなく、“どうですか?”と問うているから、聴き手も素直に受け入れられるというか。

すずき:常に“どうよ、自分?”っていう気持ちを持っていて。それを持てるというのは“強さ”というか、余裕がまだあるということなので大事な気がします。国とか世の中に怒りたくなる気持ちはたくさんあるんだけど、その前に“どうよ、自分?”っていう。“この環境の中でどうやってサバイブして生きていくのかね?”っていうことをいつも考えていますね。

●時代や社会の状況にただ憤るだけではなく、その中でどう生きていくかを考える。

すずき:与えられた環境や生まれた時代で生きていくしかないわけだから。それは誰に何をどうして頂いても変えられないわけだし、そこに対してまで異議や文句を言えるほど私は図々しくもないし(笑)。やっぱり自分のできることから少しずつやっていける人って、強いと思うんですよね。誰かに何かしてもらうのを求めてばかりじゃなくて、自分の手足を動かしている人っていうか。それが大きなテーマかなと思います。

●今回のアーティスト写真も全員がすごく開けた表情をしていて、そういう力強さを感じました。

すずき:みんな、無理矢理ですけどね(笑)。

●無理矢理なんだ(笑)。

すずき:“近寄って、肩を組んで撮ろう”と言われたんですけど、“ヤダ〜”っていう。私は最後の最後まで嫌がり続けていたので、それがこの距離感に出ています(笑)。

●確かに微妙な間が(笑)。笈川さんはすごく良い表情をしていますけどね。

すずき:だって笈川くんは、この段階で既に一杯ひっかけているもん。“とてもじゃないけど、できない”とか言って(笑)。

●そういう意味では、自然体ではないんですね…。

すずき:そうそう(笑)。物事って、何でもナチュラルにやっていれば良いっていうものでもないというか。もちろんそれが基本なんだけど、どこかで踏ん張らなきゃいけなかったり、無理矢理突破しなきゃいけない時が、人生には何度かあるんですよ。“それがこのアー写だったのか?”っていうのはありますけど(笑)。

●ハハハ(笑)。

すずき:飛ばなきゃいけない時があるっていうか、飛ぼうとしなきゃいけない時がある。それも1つの覚悟だと思うし、そこは“頑張らなくても良いよ”ということではないんです。別に“無理しようぜ”と言っているわけじゃないし、“戦おう”と言っているわけでもなく、そもそもフィールドが違うっていうか。自分の生命や人生を健やかにするために“ちょっと頑張ろうぜ”っていう、『ふぁいとSONGS』なんですよね。

●上手くまとめて頂いて、ありがとうございます(笑)。ちなみに昨年で20周年を超えて、21年目に入った今はどんな想いで活動されているんでしょうか?

すずき:20年で辞めたって良いわけじゃないですか。でも“やる”って決めたんだったら、“大成長しようぜ”っていう感じですね。それはたぶん、みんな思っていることで。口には出さないけど、行動に出ているなって思うんですよ。スタジオに入っている時も感じるし、それぞれの心意気が今回の曲出しにも表れていたと思うし、今作の完成度にもつながっていて…まだまだ序の口ですけどね。

●ただ続けていくわけではなく、ここから大きな成長曲線を描いていく。

すずき:そう! 大成長しないとダメだと思う。ダメっていうか、私はイヤだな。のらりくらりやっていくんだとしたら、わざわざこの道を選ばない。21年目に足を踏み入れるっていうことは、そういうことだと思いますね。

Interview:IMAI

 

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