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Andare

変わらないものがあるから、どこまでも進化していける。

“国吉亜耶子and西川真吾Duo”として精力的なライブ活動を展開してきた2人が2016年に“Andare(アンデア)”と改名し、初のアルバム『鏡に映る花のように』をリリースする。アルカラのBa.下上貴弘などサポートメンバーを迎え、これまでのDuo形態だけに囚われない、多彩なバンドサウンドも聴かせる今作。国吉の歌と独自の世界観を持った歌詞、そして西川と2人で生み出すグルーヴ感という軸を太くしつつ、1つ先へと進化を遂げた新たな傑作がここに誕生した。

 

「名前が変わって、周りの関わってくれる人たちが増えたおかげで、“国吉亜耶子と西川真吾である”というところがまたさらに強くなったというか。もう1つ深く、そういうものになれたかなと思っています」

●“国吉亜耶子and西川真吾Duo”としてリリースした前作『RECORD』(2013年)から5年ぶりの新作にして、“Andare”と改名してから初のリリースを迎えるわけですが、この5年間に何があったんでしょうか?

国吉:『RECORD』を出した翌年(2014年)に私は体調を崩してしまって、1年くらい活動を休止していたんですよ。2015年の8月に“そろそろやろうか”ということで活動再開したんですけど、その時はまだ“国吉亜耶子and西川真吾Duo”として復活をして。そこから約1年かけて、今までお世話になった各地のライブハウスに“無事に復活しました”という挨拶まわりを可能な限りしたんです。

西川:1年かけて大体の場所はまわれたので、そのタイミングで名前も変えようとなって。2016年の8月から、今の名前に変えました。

●名前を変えたのは、心機一転的なところもある?

国吉:ずっと2人だけでやってきたし、もっと色んなことに挑戦していけたら良いなという想いはあって。あと、名前が名前なので、CD以外のグッズを作ったこともなかったんですよね。たとえばTシャツにしても、個人情報をさらしている感じになってしまうから(笑)。

●確かに(笑)。

国吉:そういうこともあって、“さらっと言える名前にしよう”というところで色々と考えて。その結果、“and”と“dare”を掛け合わせて、“Andare”という名前にしたんです。

●2つの単語を組み合わせた造語なんですね。

国吉:造語なんですけど一応、イタリア語では“アンダーレ”と読んで、“行く”という意味があるんです。“dare”は英語で“挑戦する”という意味だし、ちょうど良いなと思って。

●“これからも挑戦し続けていく”という意味を込めているのかなと。

国吉:“前に一歩進む”という想いはありましたね。

●名前を変えるにあたって、音楽性や方向性の変化はなかったんでしょうか?

国吉:そこはあまり変わっていないです。これまでに出した作品の曲をやらないわけでもないし、実際に今でもライブでやっている曲はたくさんあって。ただ、今も2人だけで活動することはあるんですけど、日によってはギターやベースの方に参加してもらったりしています。

●2人だけの編成にはこだわらなくなったわけですね。2016年8月に改名してからも今作『鏡に映る花のように』リリースまでに約2年ほどかかったわけですが、その間はどういう時間だったんでしょうか?

西川:サポートメンバーを入れてライブができる形になるまでに、時間が結構かかったんですよ。ギターやベースのアレンジを国吉がイチから考えたり、みんなにアイデアを出してもらったりして。そこから何回もみんなでリハーサルして、ライブでやれるようになるまでに時間がかかりましたね。

国吉:サポートメンバーも固定されているわけではなくて、日によって違ったりするから。たとえば地方に行った時はその土地ごとに違うメンバーに弾いてもらったりしているので、そういうところでも時間がかかりましたね。ある意味、今までは2人の間で完結していれば良かったんですよ。でも人が増えたことによって表現の幅も広がったぶん、ライブで披露できる形になるまでの時間もかかるようになってしまって…。

●既存の曲を今のバンドスタイルで再構築する時間が必要だった。

国吉:これまで出した作品の中でも特にライブで人気のあるような曲を、またイチからアレンジし直すようなところから始まったんです。2016年から1年くらいかけて、やっとバンドらしくなってきたかなという感覚はあります。

西川:そうこうしているうちに曲もだんだん貯まってきたので、“そろそろ(アルバムを)出したいな”という気持ちになりました。

●今回の収録曲は、改名してから作ったものが多い?

西川:前の名前の時に作ってはいたけど、出さずに温めていたものもあって。M-3「サムタイム・サムデイ」やM-4「NUMBER」、M-6「鯨波の声(ときのこえ)」あたりは、そういう曲ですね。

国吉:たぶん半分くらいは、『RECORD』を録り終わった後にできていて。“次に出そうか”と思って貯めておいたものも入っていますね。

●「鯨波の声」は、西川さんが上京する前に過ごした大阪での思い出を歌っているそうですが。

国吉:これはもう、ほぼドキュメンタリー的な内容ですね。西川さんは兵庫県の田舎から出てきて、大阪の音楽専門学校に通っていたんですよ。その当時の友だちと“あんなことがあったんだ。こんなことがあったんだ”という話を聴いて、面白かったので曲にしてみました。

西川:僕にとって、青春の想い出が詰まっている曲です。

●“赤いクジラ”と歌詞にも出てきますが、実際に梅田にある商業施設“HEP FIVE”内にそういうオブジェがあるんですよね。

西川:そうなんですよ。当時はよく友だちとその前で待ち合わせしていたんです。

●それが「鯨波の声」という曲名にもつながっていると思うのですが、これで“ときのこえ”と読ませるのも面白いなと。

国吉:戦いの時に挙げる“鬨(とき)の声”のことで、“エイエイオー”みたいな意味ですね。“鯨”という漢字を使って同じように読ませられると知って、ちょうど良いなと思ったんです。

西川:大阪から東京に出る時の“行くぞ!”っていう、僕の気持ちを歌ってもらいました。

●過去にも西川さんの気持ちを歌った曲はあったんでしょうか?

西川:なかったです。

国吉:今回が初めてですね。西川さんから聴いた大阪時代の話が色々と面白かったので、そういうことを試してみても良いかなと思ったんです。

●M-7「my name is」も男性目線のように感じたのですが、これは西川さんの曲ではない?

国吉:これは違いますね。人生の中で色々とチョイスしてきたけど、名前だけは自分で決められないものじゃないですか。そして“名前がないと会えないな”と思ったのが、キッカケで作りました。

●“my name is から始まる すべてのストーリー”という歌詞のとおりで、まず相手の名前を知らないことには、その人との間に物語は生まれないというか。

国吉:そうなんですよ。わりとさらっと書いた歌詞で、スッと聴ける感じの明るい曲調なんですけど、メッセージ性が意外と強くて。できあがってから、自分でもそれに気付きましたね。

●メッセージ性という意味では、M-5「立春」やM-10「希望のうた」では“人はひとりで生きてはいけない”ということを歌っていて。同じような表現が他の曲でも見受けられるので、今作のキーになるフレーズかなと思ったんですが。

国吉:実は今作のM-2「トリックとりっくら」「立春」「希望のうた」は劇団・東京ハイビームさんの公演用に提供した曲で、お芝居の脚本を読んで作ったものなんです。だから自分の頭の中だけにあるストーリーというよりも、元々あるお話を読んだ上で作っていて。お芝居のテーマが、わりとそういう感じだったんですよね。

●どちらも演劇用に提供した楽曲だから、共通するところがあるんですね。

国吉:そうですね。でもお芝居の内容に照らし合わせつつ、それを見ていない人が聴いてもちゃんと1つの楽曲として成り立つように作るというテーマが自分の中ではあって。そういう外からの情報に自分が思うことを織り交ぜたような歌詞を書いたのは、今回が初めてでした。

西川:ちなみに今年の夏は、本人も出演させて頂いたんですよ。

●えっ、そうなんですか?

西川:舞台の横に小さなステージを作って頂いて、劇中にそこで生演奏をしたんです。

国吉:お芝居のほうにも少しだけ出させて頂きました。今までやったことがないことに挑戦してみようと思って。今回は初めて自分も出演して、その場で生演奏をするという形でやらせて頂きましたね。

●そういうことも良い経験になったのでは?

国吉:はい。関わる人が増えるというのは、すごく面白いなと思いました。

●それはサポートメンバーを加えて、バンド編成で活動するようになったことにも通じる部分ですよね。

西川:そうですね。仲間のミュージシャンに参加してもらうということも、自分たち主導でやっているからこそできる部分があって。今回はレコーディングスタジオに関しても自分たちで選びましたし、ジャケットの写真も自分たちの好きなカメラマンの方にお願いして撮ってもらったんです。

国吉:しばらく活動を休んでいた時期もあったので、復活のタイミングで当時の事務所を離れて、もう一度イチから自分たちだけでやってみようという話になったんですよ。今思えば、そこから“リスタート”みたいな感じで始まっていたのかもしれないですね。

●スタジオに関して言うと、今回は茨城県日立市のSTUDIO CHAPTER H[aus]のエンジニア・樫村治延さんに、プログラミングについてのアドバイスを受けたことも大きかったのでは?

国吉:今回の作品では(自分たちの)楽器以外にもストリングスやオルガンだったり、デジタルな音を使ったりもしたんです。そういうものに関しては、私が作ったものを“どういう音にしたら良いか”というところを樫村さんに相談して。そのまま使うわけじゃなくてデータを変換したり、CHAPTER H[aus]にある機材を使ってみたりとか、色んな提案をして頂きましたね。

西川:樫村さんのところにはたくさん機材があるので、それを使ってみたかったというのもあります(笑)。

●その結果、国吉さんの頭の中で鳴っている音をより具現化できたわけですよね。今回は色んな面で、新しい挑戦をした作品になっているのかなと思います。

国吉:そうですね。せっかく名前も変わったし、やれることはやりたいなと思って。かといって今まで2人でやっていたことをないがしろにするわけではなく、それもやりつつ、これまでやれなかったことも“やれるんだったらやってみよう。やってみてダメだったらまた考えれば良いじゃない”くらいの気分で今はいるんですよ。

西川:“成長していきたい”という気持ちがやっぱりあるから。色んなものを吸収して、色んなことをやれたらなと思っています。

●色んな挑戦をすることで、さらに成長していける。

国吉:名前が変わったことで何かが大きく変わるかと思ったけど、人ってそんな簡単に変わるものではなくて。“名前が変わっただけだ”ということに、自分たちでも気付いたんです。

●名前や活動の形態が変わっても、軸にあるものは変わらない?

国吉:周りに与える印象はまた違うかもしれないんですけど、自分たちの中では2人でやっていても、3人でやっても、4人でやっても、“結局、自分は自分だった”ということに気付いたんですよね。そうなった時に“根を張れたぶん、葉も広げられるかもしれない”という感覚になったんです。根っこの部分は何をやっても変わらないなと思ったから。

西川:ある意味、“地に足がついた”という感じはありますね。名前が変わって、周りの関わってくれる人たちが増えたおかげで、“国吉亜耶子と西川真吾である”というところがまたさらに強くなったというか。もう1つ深く、そういうものになれたかなと思っています。

●根っこがしっかりしていることで幹もより太くできるし、枝葉を広げたり、花をたくさん咲かせたりすることもできるのかなと。

国吉:そうですね。やっぱり今でも前の名前で知っている人のほうが全然多いだろうし、結果的に“変えなきゃ良かったじゃん”となってしまう可能性もあったと思うんですよ。正直、もし名前を変えてダメだったら、そこで踏ん切りがついて辞められるかもしれないと思っていたんです。でも変えたことによって、逆に“自分たちは結局これだ”ということを思い知らされたというか。そういうことを感じさせられたので、今はもう“99%変わっても、1%変わらない部分があるなら、何でもやろう”というくらいの気持ちでいます。

Interview:IMAI

 

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