香織を中心にして2012年に活動をスタートさせ、1年に渡るタフなツアーでたくさんの経験と多くの繋がりを得たthe mother's boothが、記念すべき1stアルバム『Nikolaschka』をリリースする。「すごい地獄を見たからすごく希望も持っている」と言う香織が生み出す、光と影が同居する歌とメロディ。悠介・りょじ・もってぃが創り出す奥深い音像とアンサンブル、バラエティに富んだ世界観。現体制になり、更なる強さを手に入れた彼らの大きな飛躍が始まった。
●the mother's boothは香織さんが「自分の歌詞を軸にしたバンドを作りたい」いうきっかけで2012年に始まったとのことですが、2017年4月から2018年3月まで1年かけてツアー“ホラティウスの流れるプール”(全42公演)をやっていましたよね。そもそも、なぜここまで長いツアーをやることにしたんですか?
香織:強くなりたかったからです(笑)。メンバーチェンジを経たこともあってライブ力も上げたかったし、色んな土地に行ってお客さんと知り合いたかったし、ミュージシャンたちとも繋がりたかったんです。
●実際にツアーをやってみて、どういう実感がありました?
悠介:「ツアーを経たらバンドは強くなる」ってよく聞く話じゃないですか。結果、帰ってきたらめっちゃ強くなってるなという実感がありますね。
香織:最高でした。人間としても強くなれるし。
悠介:そこがいちばん大きかったよね。
香織:音楽に何を求めるか、バンドに何を求めるのか、何を表現したいのか、どうやってこの世界で生きていきたいか…やっぱりツアーをやっていると色々と考えるし、色んな人と話もするし、メンバー間で話す時間も多くなるし。
悠介:知らない土地で知らない人たちの前でライブをする機会も多いし、行くまでに体力も削られるし。その環境下でどれだけクオリティを上げることが出来るかっていうことに迫られるので、自然と考えることが多くなりましたね。
●もってぃさんは今年1月に加入したとのことで、ツアーの途中だったわけですよね? 実際に入ってみて、現在の感触はどうですか?
もってぃ:まず加入したとき、3月のファイナル・ワンマンが目の前にあって。ワンマンなので、今まで聴いたことがある曲が1〜2曲という状態で(笑)。「これは大変だな」と思ったんですけど、それをやるのがプロだと思うので全力で挑んだんです。でも自分のプレイの感覚と、ツアーをまわってきたメンバーの感覚が揃うわけないと思っていたんですけど、意外とバンドに馴染むのが早かったという実感がありました。
悠介:会う前にもってぃが演奏する映像を観たんですけど、その時点で「これだ!」とピンときたんですよ。
香織:だから意外と合うっていうか、ずっと一緒にやっていたと思えたくらい。
●ワンマンを観ても思ったし、今回の1stフルアルバム『Nikolaschka』を聴いても思ったんですけど、ポップな一面とダークな一面、その両面を持っている音楽だと思ったんです。特に香織さんの表現からそれを強く感じるんですが。
香織:自分たちでも「二面性」という言い方をしているんですけど、私はすごい地獄を見てるから、すごく希望を持っていて。それはメンバーみんなが知っていて、私はそれを歌詞に書いて、その両面をいいバランスで表現するということが私たちのコンセプトでもあるし、気をつけていることでもあるんです。
●曲はどうやって作っているんですか?
香織:メンバーそれぞれがデモを持ってくるんですけど、トップライン(歌詞とメロディ)は全部私が作っているので、私の持っているものを強く感じられたのかもしれないですね。デモを聴いて、そこで私が抱いた感情をきっかけにしてメロディや歌詞を作っていくので、the mother's boothの楽曲は私1人か、私と誰かの共作なんです。
●あ、そうなんですね。
香織:例えばM-1「UNDER CONTROL」やM-3「Seize the day」、M-6「カリギュラ・エフェクト」はりょじと私で、M-6「Community」は悠介と私、それ以外は私1人です。
●なるほど。だからこんなにバリエーションが出るんですね。
りょじ:香織さんが強く持っているものがあるので、どんな曲でも安心して曲作りが出来るんです。
悠介:うん。曲作りはやりたいことだけを詰め込む感じですね。
●その中でM-2「ベイビーな彼にニコラシカ」は今年の春の段階でMVを公開していましたよね。かなり個性的な楽曲で、ワンマンライブで初めて聴いたときもすごく印象的だったんですが。
香織:去年の夏くらいにはデモが出来ていたんですが、去年のりょじの誕生日に私が作ったんです。
りょじ:僕の誕生日にバーでパーティーをやる機会があって、香織さんを誘ったんです。そこで飲んだカクテルがニコラシカ。
●あ、なるほど。そういうことですか。
香織:そこに来ていたお姉さんがりょじを指して「マスター、ベイビーな彼にニコラシカ作ってあげてよ」と言っていて、それがすごく印象的で。
●ドラマみたいなこと言うお姉さんですね(笑)。
香織:そうなんですよ(笑)。そのとき私もちょっと人間関係で悩んでいて…だからこそりょじは誘ってくれたと思うんですけど…その場がすごくいい雰囲気だったし、お姉さんの言葉がすごく印象的だったので、これで曲を作ろうと思ったんです。
●そういう出来事をきっかけにして、香織さんの内面から出てくるものを交えて歌詞にするんですね。
香織:はい。全部私の中から出てくるもので、全部何かのきっかけがあって、全部私の何らかの感情があるから書くんですけど、それを聴き手にはそれぞれのシチュエーションで想起してもらうのがいちばんの目標で、聴いた人が身につまされてほしいんです。
●そこは香織さんの表現の核だと思うんですが、「身につまされてほしい」というのは?
香織:“考えさせたい”っていう想いがいちばんかな。身につまされないと人ってわかんないじゃないですか。どれだけ人に言われても「そうなんだな」と理解はするけど実感は出来ないじゃないですか。でも、その人の記憶や感情や経験に語りかけたり突きつけることが出来たときって、その人の内側から出るものがあると思うんです。そういう気持ちを湧き上がらせることが私の目的なんです。
●考えさせたい。なるほど。
香織:考えることって未来に対する指針になると思うんですが、考えることを止めている人も多いし、考えなくても生きていける世界になっていると感じていて。何もしなくても情報がいっぱい入ってきて、実感したり身につまされたりすることが少なくなっていると思うから、私は身につまらせたい。それが私の究極の目標ですね。だから「忘れていたものを思い出させるための場所」っていう意味で「the mother's booth」というバンド名にしたんです。必ずある場所。
Interview:Takeshi.Yamanaka
※当記事のアップ時にthe mother's boothとは関係のない写真が掲載されておりました。メンバー及び関係者、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。謹んでお詫び申し上げます。