エレクトロ・ポップ・ヴィジュアル系ロックバンド、メトロノームが結成20周年記念作品となるニューアルバム『廿奇譚AHEAD』を完成させた。オープニング曲の「廿奇譚AHEAD」とシングル曲の「幣帚トリムルティ」を除く9曲は、メンバー3人が均等に3曲ずつ作詞・作曲を担当しているというのも再起動後の彼らを象徴していると言えるだろう。【初回生産限定廿メト】に付属の再録ベスト・アルバムも含め、“らしさ”を保ちつつ、20年間で遂げてきた進化も感じられる楽曲が満載の傑作にぜひ触れてみて欲しい。
「常に笑いながら3人でやれているので、それが一番良いことかなと」
●今回のニューアルバム『廿奇譚AHEAD』は結成20周年記念作品となりますが、そういったところも考えながらの制作だったんでしょうか?
フクスケ:そういうところもありましたね。でも20周年の集大成というわけではなく、“先に向けたアルバムになれば良いな”とは考えていました。
●タイトルに“AHEAD”という言葉を入れているのも、その現れかなと。
フクスケ:“その先へ”という感じですね。タイトルを先に決めて、意味もメンバーには伝えていたんですよ。でも“こういうタイトルだから、こうしてくれ”というわけではなくて、何となく(意図を)汲んでくれたら良いかなというくらいの感覚でした。
●フクスケさんの中では、どんな意味でこのタイトルを付けたんですか?
フクスケ:“20年のその先へ、自分たちの不思議な物語は続いていくよ”っていう意味合いですね。そういう意味をメンバーに伝えるのと同時に、衣装の大方のイメージも伝えてから制作を進めていきました。
●衣装はどういうイメージで?
フクスケ:スチームパンク風のイメージですね。何かモチーフがあるほうがわかりやすいので、今回は“歯車”をイメージしていて。“自分たち3人の歯車が上手く噛み合って、前に進んでいけたらな”という意味も込めています。
●アーティスト写真に写っている観覧車も、歯車を想起させるというか…。
フクスケ:確かに…、そういうところもあるかもしれませんね。
●あ、そこは別に意識していなかったと(笑)。
フクスケ:そうですね。でも収録曲が決まる前から、撮影場所も決めていたんですよ。イメージの中には入っていたので、そういうところもきっとあると思います。
●これはどこなんですか?
フクスケ:宮城県にある化女沼レジャーランドという廃遊園地ですね。
●頭の中に“廃遊園地”というイメージもあった?
フクスケ:ありましたね。“今はもう動いていないけれども、以前は楽しい場所だったんだろうな”という感じが出れば良いなと思って。
●事前にアルバムタイトルやアートワークのイメージを聞いていたことが、それぞれの曲作りに反映したりもしましたか?
リウ:歌詞を書く段階でアーティスト写真の撮影場所が決まっていたので、そこをイメージしたところはありますね。廃遊園地や廃墟みたいな場所のイメージが、歌詞の節々に出ていたりはすると思います。
●廃墟のイメージが歌詞に出ている?
リウ:たとえばM-4「回游論」では、わかりやすく“壊れたメリーゴーランド”という言葉を使っていたりもして。M-7「夜空に舞う花弁」は俳句(※松尾芭蕉の“夏草や兵どもが夢の跡”)をモチーフにしているんですが、“昔は栄えていたけれども今は廃墟になっている”ような場所をテーマに書いています。
●そう言われてみれば、アーティスト写真も「夜空に舞う花弁」の“夏草しげる”という歌詞のイメージに合っているんですね。
リウ:そうなんですよ。でもその時点ではまだ現地に行っていなかったので、写真を見ながら想像して書いたんですけどね。
●“20年のその先へ”という意識も歌詞に出ているんでしょうか?
シャラク:オイラの歌詞に関しては、そういうものは全然ないですね。20周年ということをそんなに意識はしていないです。
●M-6「主人公ルート」の“みんなの夢を 叶える事が僕の夢なんだけど”という歌詞は、バンド活動にも通じる話かなと思ったんですが。
シャラク:そういうことも考えて、この歌詞は書きました。
●“みんなの夢を叶えたい”という意識は、シャラクさんの中では2016年の再起動以降で生まれたものなのかなと。
シャラク:そうですね。いきなり、そういうことを考えるようになって。“残りの人生を有意義に使いたいな”と考えるようになった中で、最近思っていることなんです。
●アルバムタイトルを考えたフクスケさん自身は、20周年に対する想いを歌詞に込めているんですよね?
フクスケ:多少は入っていますけど、“20周年のその先へ、とにかく頑張ろう!”みたいなわかりやすい形では入っていなくて。ちょっと言葉を置き換えて、そういう雰囲気や姿勢を入れている感じですね。
●M-2「血空」のイントロは軍歌のような勇ましさがあって、前進していく人を鼓舞するような雰囲気を感じました。
フクスケ:歌詞はそういうものではないんですが、曲調に関しては何となく“戦いに行く”ようなイメージを出したかったんです。でも人と戦うわけじゃなくて、未来へ向けて進んでいくような勢いというか。そういうイメージはありました。
●表題曲のM-1「廿奇譚AHEAD」は、アルバムタイトルに込めた想いを表現している?
フクスケ:そういうところも多少はありますね。この曲では自分が今までやってこなかった方法に取り組んだりもしたので、その先につながるようなものになっていると思います。未来に向けて、“もうちょっと面白いことがやれたら良いな”という気持ちで作りました。
●今後を見据えて、新しいことにチャレンジしていたりもすると。
フクスケ:そうですね。パッと聞いただけではわからないかもしれないんですけど、そういうものって雰囲気に出たりもするから。
●シャラクさんも何か新しい挑戦をしましたか?
シャラク:“新しい”と言えるかどうかはわからないんですけど、今までメトロノームではヴィブラートをできるだけ控えていたんです。でも今回はそれを前面に出した曲を作ってみたりはしました。結果的にタイトルにもつながるんですけど、今までのメトロノーム像から一歩踏み出す感じの広げ方ができたら良いなとは思っていましたね。
●リウさんはどうですか?
リウ:M-10「おやすみ世界」みたいな曲は、初めて作りましたね。ちょっとゆったりした4つ打ちの曲なんですけど、こういう曲をやりたいとは思っていたんですよ。そこは今回の新しい試みと言えるかもしれないです。
●それぞれに新たな試みはしているわけですね。今までの“らしさ”はしっかりありつつ、20年間での進化も見せられた作品なのでは?
フクスケ:そういうふうになっていたら良いなと思います。やっぱり衰退していくより、昇っていくほうが良いから。そういうパワーアップした感じを、このアルバムでも見せられているんじゃないかな。
●そういう意味で【初回生産限定廿メト】に付属している再録ベスト・アルバムでは、過去の曲を今の自分たちがやることで進化した形を見せられているんじゃないですか?
フクスケ:そうですね。やっぱり長年やっているとニュアンスも変わってくるし、今の状態で録ればまた全然違うものになるから。そういう部分を伝えたかった部分もあります。
●再録ベスト・アルバムを付けるというアイデアは、どういうところから?
フクスケ:活動休止する前にもベスト・アルバム(『COLLECTION』と『COLLECTION 2』)を出してはいるんですけど、今ではもう買えないんですよ。メトロノームを新たに知ってくれた人たちにも過去の曲を聴いてもらいたいなという気持ちがあったので、今回やってみようということになりました。
●今回の収録曲を選んだ基準とは?
フクスケ:まず最初に自分の曲を自ら選んでいこうということを決めて。そこで定番の曲も選びつつ、“すごく久しぶりだけど今後またライヴでやっていきたい曲”を選んでいきましたね。
リウ:今後何かで迷った時にはこのベスト・アルバムの収録曲から優先的にセットリストに入れていけるようなものを選ぼうというところもあって。今まで年に1〜2回しかやっていなかったような曲もこれを機にちょっとアレンジを変えて、定番になっていけば良いなとは思っていました。
シャラク:ちなみに頭から順番に5曲ずつ、シャラク→フクスケ→リウが選んだものになっているんですよ。
●あ、そうなっていたんですね。
リウ:その中で、それぞれにサプライズ選出もあると思います。自分でも楽しみながら選べましたね。
シャラク:シャラク枠の中では、M-1「誤sick」が一番レアだと思います。
●各メンバーごとにレア曲を選んでいる。
フクスケ:M-6「僕が僕の為に僕を辞める僕」は“僕”が1つ増えているんですけど(※原曲のタイトルは「僕の為に僕を辞める僕」)、この曲はあまりやっていないですね。あと、M-9「先生」もあまりやっていないです。
リウ:僕の曲ではM-13「デリート」とM-14「アクアリウム」がライヴであまりやっていなかった曲で、今回はアレンジをわりと変えて収録してみました。
●アレンジを変えたのは、“今だったらこういうふうにやりたい”というイメージが浮かんでいたから?
リウ:それもありますね。やっぱり元の形で聴きたいという人も多いと思うので、ちょっと悩んだんですよ。でも全体のバランスで考えたら、多少冒険したものが入っていても喜んでくれる人がいるかなと思ったのでアレンジしてみました。
●せっかくの再録ベスト・アルバムなのでどこかに変化があったほうが、昔から聴いているファンも嬉しいのかなと思います。
フクスケ:そうですね。あんまり変わっていなさそうに聞こえるものも、よく聴き比べると結構違うんですよ。
リウ:各パートは、特に違うと思います。ギター・ベース・ボーカルのニュアンスとかは色々と変わっているので、そのへんは楽しめるんじゃないですかね。
●違いを聴き比べる楽しみもある。新作のほうでも3人でほぼ均等に曲を出し合っているわけですが、“3分割でやる”ということが再起動以降でとても重要なテーマになっているように改めて感じました。
フクスケ:僕たちは3人とも曲を作れるので全員の色が均等に出ているほうが、今のメトロノームらしくて良いかなという感じがしていて。みんなで並んで走っている感じが良いなって思うんですよ。
リウ:3人とも曲を作ってくるし、3人ともソロでの活動もやっているので、こういうバランスが一番バンドっぽさが出るんじゃないかな。
●3人が曲を作ってくることが、メトロノームの特色にもなっているというか。
リウ:それを最大限に活かせるのが、この形なのかなと思っています。
フクスケ:再び動き始める時点から“みんなで同じくらいやれば、上手くやっていけるんじゃないか”みたいな感覚があったんですよね。
●実際にそれが上手くいっているから、再起動後も順調に活動を続けられているのでは?
フクスケ:上手くいっているかどうかは自分たちではわからないんですけど、特に悪いこともなく続けられているので、それが一番良いことなんじゃないかなと思います。別にケンカをするわけでもなく、常に笑いながら3人でやれているので、それが一番良いことかなと。
シャラク:“これをしなきゃ!”みたいな感じがなくて、“まったり”しているというか。
●無理に頑張らなくても良い?
シャラク:そうですね。トータルで言えばもちろん頑張らなきゃいけないんですけど、無理に“頑張らなきゃ!”みたいな感じには今のこのバランスではならないんです。
リウ:1人3〜4曲くらい作ったらアルバムができるって、すごいことですよね(笑)。
●確かに1人で10曲作るとなると、大変ですからね。
フクスケ:それは大変ですよ。
リウ:そんなにやっちゃったら、やりたいことも出尽くしちゃうかもしれないから。でもこれくらいのバランスだと、常にやりたいことがあって良いなと思います。
●たとえば3曲ずつという中にそれぞれがやりたいことを凝縮するからこそ、良い曲が揃うところもあるのかなと。
フクスケ:それはありますね。本当に良いものを出せる数なんだと思います。
●リリース後にはツアーもありますが、新曲と再録ベスト・アルバムの収録曲を織り交ぜて演奏する感じでしょうか?
フクスケ:基本的には新曲を主にするつもりではいます。ただ、1本1本でセットリストが変わるタイプのバンドなので、その会場でしか聴けない曲もあると思いますね。
シャラク:どのライヴもベストなものを見せられる自信がすごくあるので、どこに来てもらっても満足させられると思います。でもやはり9/1のツアーファイナルが一番最高のライヴになるんじゃないかなと思うので、そこはぜひ観に来て欲しいですね。
リウ:9/1の豊洲PITは今までのワンマンで一番大きな会場なので、そこでの成功に向けてツアーも1本1本取り組んでいきたいなと思っています。あと、ツアー以外にも8/25にWEBでの20周年企画もあったりするので、そういうものも絡めつつ楽しんでいけたら良いですね。
Interview:IMAI