対談参加者
篠塚将行(それでも世界が続くなら)
カザマタカフミ(3markets[ ])
町田直隆(moke(s))
海北大輔(LOST IN TIME/moke(s))
小寺良太(moke(s)/ex.椿屋四重奏)
鈴木実貴子(鈴木実貴子ズ)
高橋(通称:ズ/鈴木実貴子ズ)
ロンドンタナカ(アラウンドザ天竺)
tokumei-kibou
東京・吉祥寺を拠点にした新進気鋭のインディーズレーベル・Low-Fi Recordsが、初のレーベルナイト“ローファイナイト #1”を8/17に開催する。同レーベルには、3markets[ ]、アラウンドザ天竺、鈴木実貴子ズ、こうなったのは誰のせいに加えて、町田直隆・海北大輔(LOST IN TIME)・小寺良太(ex.椿屋四重奏)の3人からなるmoke(s)も所属。さらには、ネット上に発表した作品が注目を集め始めている新世代の小説家・tokumei-kibouの参加も決定した。ジャンルも出身も世代も異なるが、いずれも強烈な個性を持ったアーティストたちが集うレーベルを運営する篠塚将行(それでも世界が続くなら)を軸に、代表者たちが一堂に会した特別対談が実現!
「Low-Fi Recordsっていうのも1つの居場所で。しのくんが1本釣りで釣り上げた品種も生息地も違うような人たちを1つ屋根の下に集めて”さぁ、ここが僕らの居場所です。みんな、それぞれ面白いことをやりましょう”と言っている感じがする」
●このLow-Fi Recordsは、しのくん(※篠塚)が運営しているんですか?
篠塚:Low-Fi Records自体は元々、吉祥寺Planet Kの当時の店長とブッキングマネージャーが始めたレーベルなんですよ。自分もその時からバイトとして働いていたんですけど、その2人が辞めるとなった時にレーベルを代わりにやって欲しいと頼まれて。その結果、俺がアルバイトでありながらレーベルの代表代理みたいな感じになったんです。
海北:そのスタンス、ちょっと新しいね(笑)。レーベル代表代理、兼アルバイトっていう。
●アルバイトという立場ながら、実質的にレーベルを運営している。
篠塚:でもバイトだから、(気持ち的に)そこまで背負っていないんですよね。“定時に出社して、定時に上がれば良い”っていうのに近い感覚でやっていて。自分にとっての”定時”というのが、Low-Fi Recordsに所属するバンドをたくさんの人に聴いてもらえるようにするということで、それだけが目標なんです。だから、売上を残すということはあまり意識していないんですよ。CDの売上は、それぞれのバンドのために全部使っちゃうから。
小寺:良い意味で、社員としての責任を背負っていないんだね。
●お金儲けをするために、レーベルをやっているわけではない。
篠塚:儲けるためならもっとたくさんバンドを手掛けたほうが良いのかもしれないけど、お金を稼ぐ気があんまりないというのが前提にあるかもしれない。それは自分自身がバンドマンだからというのもあるだろうし…、そもそもバイトですからね(笑)。
海北:今いる所属バンドは、しのくんがやるようになってから集まった人たちなの?
篠塚:そうですね。元から所属していたバンドはもう残っていないです。
海北:最初は“居抜き物件”的なレーベルだったんだね(笑)。でも気付いたら、これだけの数のバンドが集まっているっていう。
●しかも最近加わったtokumei-kibouくんはバンドではなく、小説家ですからね。
tokumei:自分でも不思議な気持ちです。
篠塚:初めて知り合った時から、tokumeiくんはすごく良い言葉を書いている人だったんですよ。自分の本当に思っていることを、“誰にも好かれなくていいや”という感じで書ける人で。それをちゃんと認めてくれる人が増えてきた結果、(通信販売の注文が増えて)短編集を自分で100冊くらい梱包して窓口に持っていったら郵便局の人にも引かれたらしくて。その話を聴いた時に“誰かが助けてあげないと無理だよな”と思ったのが(レーベル所属の)キッカケですね。
●最初に所属したのは、どのバンドなんですか?
篠塚:去年7月に3markets[ ](以下スリマ)のシングルをリリースしたのが最初ですね。その後に出したのが今はまだ遅刻して参加していないアラウンドザ天竺で(笑)、こうなったのは誰のせいがその後に決まって。最初は3組が限界だろうと思っていたんですけど、鈴木実貴子ズとmoke(s)に出会ってしまったので“これは当然やるよね”と(笑)。他にやる人がいないなら、絶対に自分が(レーベルを)やりたいと思う2バンドだったから。
●最初に所属したスリマへの思い入れは、特に強いのでは?
篠塚:スリマに関しては、もう友だちですからね…。カザマくんは本来レーベルにこだわるような人じゃないんですけど、Low-Fi Recordsのことはめちゃくちゃ愛してくれているんです。
カザマ:レーベルにお金がないとみんな大変なんだというのは、最近思うようになりましたね。
篠塚:あ、それは思ってくれるんだね。
カザマ:うん。だから、ちゃんと稼がなきゃって。
●そういう意識は大事ですよね。
海北:傍目から見て、このレーベルに移籍したことでスリマはすごく変わったと思いますね。すごく突き抜けたなっていう感じがして。バンドとしての根っこやカラーが変わったわけじゃなくて、“こういうバンドだよね”というのがよりわかりやすくなったというか。余分なものが全部取れた気がする。
篠塚:俺がプロデューサーとして入ったことでも、かなり変わったと思う。元々のスリマもすごく良かったんだけど、自分の歌いたいことが前に来すぎていて。聴き手のことも考えてはいるんだろうけど、不器用なタイプだからあまり上手くいっていなかったんですよ。
●しのくんがプロデュースしたことで、そこも変わっていった?
篠塚:変わってくれていたら良いんですけどね。プロデューサーとして関わっている俺も、外から見てスリマの魅力がちゃんと伝わりやすくなっていたら良いなと思うけど、根本的には何も変わっていないから。リード曲になりそうじゃない曲を、本人はリード曲にしようとしたりして。
カザマ:ダメ出しをされるんですよ。今ちょうどアルバムを作っているところなんですけど、「俺は社会のゴミ、カザマタカフミ」っていう曲をすげぇ良いだろうと思って持っていったらボツにされたり…。
篠塚:“俺は社会のゴミ、カザマタカフミ”ってラップ調で歌っている曲なんだけど、本人はそれをリード曲にしたいくらいの勢いで持ってきたから“それはまずいだろう!”って(笑)。他にも良い曲がいっぱいあるわけだから…。
小寺:内容はちょっと気になるけどね(笑)。
●ある程度のセーブはかけている(笑)。
篠塚:カザマくんは自分のことを赤裸々に歌っている人だし、そこが俺はすごく良いと思っているから、歌詞について言えることはあんまりないんですけどね。口出しするとしても、曲順くらいかな。バンドによっても、接し方が結構違うんですよ。
●たとえばmoke(s)との接し方は?
篠塚:moke(s)に関しては、尊敬を形にするという感じですね。だから基本的に、何も言わないです。僕は元々、町田くんの大ファンで。自分が19〜20歳くらいの時に、町田くんが当時やっていたBUNGEE JUMP FESTIVALのライブを観に行ったりしていたんですよ。当時はBUMP OF CHICKENと対バンしたりもしていて…。
(※ここで、ロンドンタナカが遅れて登場)
小寺:走ってきた(笑)。
篠塚:彼が吉祥寺Planet Kの店長かつアラウンドザ天竺(以下、アラ天)のロンドンタナカさんです。
ロンドン:遅れてしまって、本当にすいません…!
●改めてよろしくお願いします(笑)。
篠塚:moke(s)に話を戻すと、メンバー3人(がやっていたバンド)は僕にとって“青春”なんですよね。同世代だけど(バンドマンとしては)先輩で、憧れの人たちだったから。
町田:moke(s)もこういうメンバーを集めたんですけど、当初はなかなかレーベルが見つからなくて…。
海北:僕はLOST IN TIMEをやっているけど、moke(s)はまたそれとは別の人格を持ったバンドだから、ちゃんとがっぷり組んで一緒にやれるチームを作ったほうが良いよねという話は3人の間でもずっとしていたんです。みんなが“一緒にやりたいよね”と思える相手とやれたら良いねという話になっていたタイミングで、しのくんが手を挙げてくれたというか。
●しのくんから誘ったんですね。
篠塚:一緒にイベントをやったりして仲良くなってから、Planet Kのイベントにも出てもらったりするようになって。ある時に町田くんと話している中で、自分が今レーベルをやっている話をしたんですよ。そこで“もし他に誰もやる人がいないんだったら、いつかmoke(s)をリリースしたいな”という話をしたら、町田くんから“じゃあ、やってよ!”と言われたんです。
町田:僕も前のバンドの時に色々とあって、いわゆる“音楽業界”という感じのところに所属するのはすごく嫌だったんです。moke(s)を始めた当初もなかなかレーベルが決まらなかったし、本当に心から嫌になっていて。そんな時に俺の大好きなヤツがやっているレーベルから誘われたので、これはもう信頼しようと思いましたね。
小寺:規模の大小やメジャー/インディーといったことじゃなく、やっぱりレーベルに所属するのも“人と仕事する”わけじゃないですか。しのくんは俺らの音楽を本当に愛してくれて“出そう”と言ってくれたわけで。そうやって真剣に考えて、注力してくれる人と一緒にやれることがバンドにとっては最善だと思うんですよね。
●どのバンドもそういう信頼関係があって、集まっている。
海北:全部、しのくんの1本釣りスタイルなんですよね。だから網に引っかかって鱗が取れちゃって…みたいなことが一切ないんですよ。
町田:たとえが上手いね(笑)。
●余計な手も加えないというか。
篠塚:レーベルをやっていく上で、自分にはこだわっていることがあって。歌詞だけは絶対に触れないようにしているんですよ。歌詞に関してはどんなに気になっても言わないようにしていて…アラ天以外は(笑)。
ロンドン:下ネタは全て、かき消されます。
●ハハハ(笑)。
篠塚:アラ天が始まった当初は全部が下ネタだったんですけど、“下ネタで面白くするのは安っぽいからやめよう”という話をして。
ロンドン:“好きなんだけどな〜”という葛藤は、今でもあります(笑)。
●下ネタを諦めきれない(笑)。
篠塚:逆に鈴木実貴子ズに関しては、何も言わないようにしているんですよ。実貴子ちゃんには、とにかく自分を解放して欲しいと思っているから。本人は“この歌が届くんだったら、何でもやる”と言うんですけど、そういう人だから逆に何もしないで欲しいんです。
海北:“何もするな”をしろっていうこと?
鈴木:そう言われています(笑)。
●それはどういう想いから?
篠塚:「音楽やめたい」みたいな歌を歌っている人が、社会に迎合するために無理してニコニコ笑っていたりするのが俺は嫌だなと思っていて。
高橋:実貴子さんって根は非常識だけど、空気は読めちゃう人なんですよね。
篠塚:繊細だから空気を読めちゃうんだけど、違和感は絶対に感じているはずなんです。自分を殺して社会に合わせる必要はないし、それを出せる場所が音楽であって欲しいから。
●だから自分を解放して欲しい。
篠塚:“もう実貴子ちゃんは余計なことを考えなくて良いから”と言って。最近はブッキングの話も高橋くんとしています。
高橋:それによって、ちょいちょい悪影響が出てきていますけどね。音楽に関しては解放して欲しいなと心から思っているんですけど、生活面でもそれに便乗している部分がちょっと大きくなってきているので、ここから先どうなるのかなって…。
篠塚:高橋くんによると、俺が“解放して良い”と言った時の実貴子ちゃんの目がまるで悪魔のようだったらしくて(笑)。
鈴木:“自由にやっていいんや〜”って思いました(笑)。
●ハハハ(笑)。でも解放したほうが、良い音楽も作れるというか。
篠塚:そうなんですよね。どこにも出せない感情の行き場所がロックだったりすると思うんですよ。町田くんやカザマくんなんてその典型だろうし、ここにいる人たちはみんなそうだと思うんです。
海北:それで言うと、tokumeiくんなんかは音楽すらも飛び越えちゃっているわけだよね。心のスタンスは一緒だとしても、それをアウトプットする時にメロディとかも飛び越えて活字になっちゃったっていうのが面白いなと。
tokumei:単体で見たら小説って音楽と全く関係ないんですけど、よくよく考えたら展示であったり、エンディングテーマであったりとか、小説と音楽を絡めることはできると思うんですよ。そこでまだ誰もやっていないことを、自分はやってみたいなと思っています。
●小説と音楽の新しい絡み方を生み出していきたい。
篠塚:音楽系小説家というか、音楽の側で小説を書いている人になりたいという話もあって。それによって、tokumeiくんが自分の居場所が作れたら良いなと思うんですよ。
海北:それがまた、誰かの居場所にもなったりするからね。
篠塚:そうそう。tokumeiくんが自分の居場所を作ることで、誰かの居場所が絶対にできると思うから。
●どんどん新しい居場所が生まれていく。
海北:しのくんはそうやって、みんなの居場所を作る人なんだなって今日思った。Low-Fi Recordsっていうのも1つの居場所で。しのくんが1本釣りで釣り上げた品種も生息地も違うような人たちを1つ屋根の下に集めて”さぁ、ここが僕らの居場所です。みんな、それぞれ面白いことをやりましょう”と言っている感じがするというか。
町田:なんかさ、“定時制高校”みたいだよね。
鈴木:確かに!
小寺:それぞれ環境の違う人たちが集まっているっていう。
ロンドン:何かメッセージ性すら感じるな…。
カザマ:おじさんが山ほどいる定時制高校だけどね(笑)。
篠塚:“定時制高校”って、素敵なまとめだよね。本当にそうだと思います。
Interview:IMAI