今年は“スペースシャワー列伝JAPAN TOUR 2018”に参加して全国9ヶ所をまわり、3月には自主企画では最大キャパとなる恵比寿LIQUIDROOM公演もSOLD OUTさせるなど、バンドとして着実に上昇してきているリーガルリリー。6/6には3rdミニアルバム『the Telephone』をリリースするが、ここに収められた新曲の数々を聴けば彼女たちの状態が良いことは明確に伝わるだろう。まだ20歳になったばかりのメンバー2人は様々な経験を糧に急速な進化を遂げながら、新たなる名曲たちをこれからも生み出していく。
「今の若い時期って1年1年が大事なので、この1年でしか作れない曲って絶対にあると思うんですよ。だから絶対に作らなきゃなと思っています」
●去年にメンバーの脱退もあって今は2人だけになったわけですが、それによる変化はあったんでしょうか?
ほのか:私は“新しいものが作れるかな”って思いました。前の3人でやっていた頃は、自分が超えたい(と思っている)枠の中に収まってしまっている感じがしていたんです。でも2人になってからはその枠を壊しつつあるので、今めっちゃ楽しいです。好きなことをやれているなっていう気がします。
●より自由になった?
ほのか:そうです。自由になりました。
ゆきやま:自由度が高まった感覚はありますね。最初はどうなるのか予想できなかったので、ちょっと不安だったんです。でも“ヤバい!”と思っているぶん、頑張れたのかなと思うところもあって。頑張って良い方向に持っていこうという気持ちはあったので、それによってバンドの雰囲気も変わったのかなと思います。
●2人になってからも“スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2018”(以下、列伝)で全国をまわったり、恵比寿LIQUIDROOMでの自主企画をSOLD OUTしたりとバンドが上昇している感覚はあるのでは?
ほのか:確かに。でも自分の中では、LIQUIDROOMも(以前に自主企画を開催した新代田)FEVERもあまり変わらなかったです。始まる前の気持ちは違ったけど、ライブが始まったら空間自体は同じだなと思って。
●会場が大きくなっても、緊張はしない?
ゆきやま:人が多くてもそんなに気にはならないんですけど、“自主企画”というところで緊張するんですよ…。
ほのか:自主企画の時は、新宿JAMでやっていた頃から緊張していました(笑)。ライブそのものというよりは、“お客さんが本当に来るのかな…?”っていう不安のほうが大きいんですよね。
●そういう意味では、LIQUIDROOMも緊張した?
ほのか:結構、緊張していました。
ゆきやま:でも自主企画の中では一番緊張しなかったというか。“列伝”で色んなところをまわった後だったので、“ここがツアーファイナル”みたいな感覚があったんです。だからどっしりとした感じで、良いグルーヴが出せたんだと思います。
●確かに最近は、ゆきやまさんのドラムにどっしりした安定感が出てきた気がします。
ほのか:ゆきやまのドラムはかなり変わったと思います。私も歌が上手くなったと思うし、お互いに良くなったんじゃないかな。そこも“列伝”を経て、変わりましたね。
●LIQUIDROOMの自主企画タイトルが、今回の新作に収録されているM-2「うつくしいひと」の“夜のとばり、あけた窓辺”というフレーズだったのはどういう理由で?
ほのか:「うつくしいひと」は半年ぶりにできた新曲だったんですよ。この曲を作っている時、一番最初に出てきたフレーズがそれだったんです。だから、この曲の歌詞を企画名にしたら良いかなって思いつきました。
●それまで新曲があまりできていなかった?
ほのか:そうなんですよ。メンバー脱退があって以降、何をやれば良いのかわからなくなっちゃって。何か曲を作ってみても自分で“つまらない”と思ってボツにすることが多くて、形にできていなかったんです。
ゆきやま:「うつくしいひと」は最初にサビの部分だけあったんですけど、形にできなくて。それが去年の5月〜6月くらいで、もう1回やってみようとなったのが10月くらいでしたね。
●そこで完成したわけですね。
ほのか:最初はボツにしたんですけど、時間を置いたら形にできたんですよね。
●寝かせた意味があったと。既存曲のM-1「スターノイズ」以外は、それ以降に作った曲だったりする?
ほのか:それ以降ですね。他は全部、1ヶ月くらいで作ったんです。すぐにできました。
●そう考えると、「うつくしいひと」ができたことが大きなキッカケになった?
ほのか:大きいですね。土台になったと思います。
ゆきやま:私にとっても大きかったですし、すごく気に入っています。
●この曲に出てくる“アイネクライネ”、“アベマリア”、“ペトラルカ”、“カムパネルラ”というワードは何を意味しているんでしょうか?
ほのか:全部、クラシック音楽の曲名なんですよ。戦争系の映画には、ピアノ音楽やクラシックがわりとよく使われている印象があって。あと、クラシックが流行していた時代って、今よりも戦争が多かったと思うんです。だから戦争が非現実ではなく、現実だった時代のBGMは、クラシックだったのかなっていう。
●「ジョニー」(1stミニアルバム『the Post』収録)でも“ばかばっかのせんじょうに”という歌詞が印象的でしたが、リーガルリリーの曲には戦争にまつわるキーワードも多い気がして。
ほのか:確かに。私は戦争のドキュメンタリー映画をよく見るので、その影響かな。戦争ってすごくショッキングで、自分のモノの見方を変えてしまうくらいのものじゃないですか。それが当たり前だった時代もあるけど、私たちはただ知らないだけなんだなと思ったんです。そこから“戦争”という言葉を、わりと使うようになりましたね。戦争が(色んな曲の)背景にあるのかもしれない。
●戦争が背景にある?
ほのか:自分が普段生きている中の背景にもあるから。私たちが住んでいる街(※福生)は米軍基地が近くにあって、オスプレイとかもよく飛んでいるんですよ。アメリカ軍の兵隊さんが軍服を着て、街を普通に歩いていたりもして。そういうのもあって、普段から戦争を意識しているんだと思います。
●M-4「overture」の“アメリカの基地、チャリで行けるね。”というのもそういう環境を表しているというか。
ほのか:これは中学校の時のことを思い出して書いた曲なんです。学校にいる時も戦闘機の音が鳴ったらもう何も聞こえないんですよ。その爆音がめちゃくちゃロックだと思ったので、“戦闘機の爆音、最高にロックだった!”という歌詞を書きました。
●政治的なメッセージを込めているわけではなく、そういうピュアな感性で捉えていることが良い方向に出ている気がします。
ほのか:私は政治がわからないので(笑)。政治も何もわからない中学生時代の私が純粋に思ったことをただ書いている感じですね。
●この曲の“君は景色を殺せるのだよ”というのは、どういうイメージで?
ほのか:その前に出てくる“9mmパラベラム、白い手首と引き金”というのは、女の子が銃を持っているイメージで。その子がもし引き金を引いて銃を撃てば、地獄絵図みたいになるじゃないですか。それが“景色を殺せる”という意味なんです。だから、“中学生の君がもしこの日本で銃を撃ったとしても、景色を殺せてしまうんだよ”という想いで書きました。
●それも中学生時代の気持ちを思い出して書いたんですか?
ほのか:あと、小説からインスピレーションを受けて書いた部分もあるかもしれないです。
●小説といえば、M-3「いるかホテル」のタイトルは村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる場所の名前でもありますが、何かつながっている?
ほのか:『ダンス・ダンス・ダンス』の“いるかホテル”というものが、私の“キュンキュンポイント”に一番合っていて。この曲は、私の身のまわりでキュンキュンしている出来事について書いているんです。“愛を知る言葉はきょうぼうでいるかのよう”という歌詞があるんですけど、いるかって実は凶暴なんですよ。“キュンキュンしているし、凶暴だし…”というところから、“あっ、いるかホテルだ!”と思いつきました。
●なるほど。この曲には“あいしている”という言葉も出てきますが、こういう恋愛を匂わせるような曲は今までになかった気がします。
ゆきやま:確かに。
ほのか:今年は自分が恋愛に向き合えた年だからだと思います。今までは恋愛にあまり興味がなかったし、そういうことを書いてもキュンキュンしなかったんです。
●M-5「僕のリリー」の歌詞で“誰かの愛を待つふりをして 逃げていました”というのも、今まで恋愛に向き合っていなかったことにつながるのかなと。
ほのか:まさにそうですね。本当に逃げていただけで、向き合っていなかったんだと思います。足を踏み入れてはみたけど“なんだかな…”という感じになって、それでもう“バイバイ”っていう。私は“恋愛をすると、気持ち悪い”が口癖になっていたくらいなんです。
●そこに心境の変化があったと。「スターノイズ」にも恋愛を思わせる部分がありますが、そういうことも歌っている?
ほのか:歌っています。この曲もキュンキュンポイントがかなり大きいですね。
●そういう共通点があるから、今作に再録した?
ほのか:これは、ただカッコ良いからかな。カッコ良い曲なので“これを最初に聴けっ!”と思って、1曲目に入れました。
ゆきやま:去年9月のワンマンで、すごく久しぶりにこの曲をやったんですよ。そしたら“めっちゃ良いな、この曲!”となって(笑)。
●自分たちの中でもそこで再発見したんですね。M-6「せかいのおわり」も、ライブで盛り上がりそうな曲ですが。
ほのか:私もめっちゃ好きなんですけど、演奏が難しいんですよね…。これはスタジオで初めて作った曲なんです。メロディもドラムもギターも全部、スタジオで作ったという。
ゆきやま:2人でスタジオに入っていた時に音を一緒に出していたら、ほのかが急に“あさ、ひる、よる、つき、ぼくの家 帰りたいなぁ”と歌いだして。最初はリフだけがあって何となく演奏していたんですけど、その歌詞が出てきた時に“めっちゃカッコ良くない?”となって一気に作りました。
●「リッケンバッカー」(『the Post』収録)も“降りてきた”という話を以前にされていましたが、そういう何かが降りてきて生まれた曲やフレーズは強いのかなと。
ほのか:無意識に何も考えずに口ずさんじゃったものだから、きっと他の人も口ずさめちゃうのかもしれないですね。でも(今作に収録した)新曲ができてからは、ライブで「リッケンバッカー」をあまりやらなくなったんです。
●それは「リッケンバッカー」を超える曲が作れているという実感があるからじゃないですか?
ほのか:高校生の時の自分に負けたくないですからね。だって、高校生ですよ…負けませんよ!
●ハハハ(笑)。
ほのか:あの曲を作って“バンドを始めよう”と思ったわけだから、良いに決まっているんですよ。でも最近も、別のベクトルで超えたものは作れていると思います。
●今作『the Telephone』はこれまでの『the Post』『the Radio』に続く3作目になりますが、自分たちの進化も感じられているのでは?
ゆきやま:だいぶ感じられますね。この間、1st・2nd・3rdの順番でまとめて聴いてみたんですけど、“なるほどね、変わったな!”と思いました。
ほのか:あと、今回はダイレクトな歌詞が多いなと思います。友だちのミュージシャンに“自分の本当に思っていることを書かなきゃ、バンドをやっている意味がないんじゃないか?”と言われて、“確かに”と思ったんです。そこから結構、変わりましたね。そういう曲を作ってみようと思ったら、上手くできたっていう。
●今は、ほのかさんが本当に思ったことを歌っている?
ほのか:はい、自分が肌で感じたことを歌っています。今まではそれを別の次元に置き換えて書いていたんですけど、今回は肌で感じたことを自分の次元の中で歌詞にしました。
ゆきやま:ほのかの温度感が伝わる歌詞っていう感じがします。
●バンドの状態も良さそうなので、今後生まれてくる曲も楽しみです。
ゆきやま:もう既に良い感じの曲があったりもします。
ほのか:今の若い時期って1年1年が大事なので、この1年でしか作れない曲って絶対にあると思うんですよ。だから絶対に作らなきゃなと思っています。しかも今は1年の中でもこの季節なので、休む暇がないですね。
●休む隙がないんですか…?
ほのか:いや、休みまくっています。
ゆきやま:5月病なんだよね(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI