前作のアルバム『ストライク・リビルド【アッパー】』から約2年の時を経て、ジェッジジョンソンのニューアルバム『ストライク・リビルド【ダウナー】』が遂にリリースされる。二部作構成のコンセプトアルバム後編となる今作は、前作に続いてインディー時代の作品からフルリメイクして生まれ変わった楽曲を中心とするアルバムだ。それに加えて、劇場アニメ『「PEACE MAKER 鐡(クロガネ)」前篇〜想道〜』主題歌にして、約3年ぶりの新曲となる「Rust」も収録。数々のアーティストへの楽曲提供から映画やCMの音楽制作まで、国内外を問わない多岐にわたる創作活動の経験を昇華した上での“次なる未来”を指し示す音がここに鳴り響いている。
「“中二病”という言葉ができる前から、僕は“中二病”だったんです。そういう意味では、ジェッジジョンソンは中二病の先駆けでもあったんだなっていう(笑)」
●前作のアルバム『ストライク・リビルド【アッパー】』が2016年5月リリースでしたが、その際のインタビューでは“今年はもう1枚アルバムを出す”というお話だった気がして…。
藤戸:それは…たぶん気のせいだと思います。
一同:ハハハハハ(笑)。
●とはいえ翌2017年には出るのかなと思いきや、まさかそこから2年も出ないとは…っていう。
藤戸:いや〜、随分延びてしまいましたね。しかも完全新作という意味でいうと、2年ぶりどころじゃなくて。今作に入っているM-11「Rust」は、『テクニカルブレイクス・ダウナー』(2015年)から数えて約3年ぶりの新曲ですからね。
●確かに。
藤戸:ただ、今作に関しては去年の3月頃にレコーディングまで終わっていたんですよ。ある程度まではできていたし、出そうと思えば去年にでも出せたんです。でも紆余曲折があって僕はアメリカと日本を行ったり来たりの生活になり、制作案件もどんどん増えてきてしまって、あれよあれよと時間が流れて…今になってしまいました。
●ジェッジジョンソン以外での、音楽制作の仕事が増えたということでしょうか?
藤戸:音楽の制作は圧倒的に増えましたね。アメリカのハリウッドで映画音楽の制作に携わるというお話を頂いたのが、前作を出した直後だったんですよ。その他にもたとえば緒方恵美さんの作曲・編曲からリミックスまで色んなことを任せて頂いたり、アニソンの楽曲提供の依頼を頂いたり、CM音楽制作のお話を頂いたりもして、色んな窓や未来が広がったのが去年だったと思います。
●可能性は広がった1年だったと。その間も今作のリリース自体は計画していたわけですよね?
藤戸:今年の2〜3月頃には一度、リリース日も決めていて。でもそこからまさかのアニメ主題歌のお話を頂いたのもあってスケジュールをもう一度考え直して、最終的に着地したのがこの6/13だったんです。
●「Rust」は劇場アニメ『「PEACE MAKER 鐡(クロガネ)」前篇〜想道〜』主題歌になっているわけですが、これはどういった経緯で?
藤戸:アニメのプロデューサーの方から連絡を頂いて、“何か新曲はありますか?”というお話を頂いたんです。もちろん僕も『PEACE MAKER 鐵』は知っていたし、原作も読んでいたので、その日のうちに歌詞と曲を書いて納品したんですよ。そしたらありがたいことに、決まったという。
●楽曲の世界観もアニメに寄り添った内容で書かれたんでしょうか?
藤戸:もう、そのものですね。幕末が舞台なので、大義名分が次の日には引っくり返っちゃうような時代で。ある意味で、“正解”がない漫画なんですよ。ちょっと悲しいお話で、仲間が1人1人どんどん脱落していくんですよね。“必ず道は分かれてしまうんだけど、その瞬間にみんなで重なった想いは美しいもので。それが将来、儚く見えるのか、それともまた別の想い出になるのかというのは、今ここではわからないよね”ということを歌っています。
●なるほど。
藤戸:そういったことを自分はこの漫画に教わったようなものなので、それに対するアンサーを1人のファンとして言葉にできたら良いなと思って書いたのが「Rust」なんです。
●予告編のショートムービーを見ただけでも、アニメの世界観とすごくハマっているなと感じました。
藤戸:儚い感じがするんですよね。儚さの中にある美しさと、その瞬間の美しさみたいなものは楽曲でも出したいなと思っていて。そもそもジェッジジョンソンの歌詞や楽曲の根本にあるものって、儚さだと思うんですよ。時には力強くもあり、時には儚くもあるっていう。内面的な美しさを音でも描いていきたいという気持ちがあったんですけど、それだけではなくて、聴いた人がなるべく色んな景色を想像しやすいようにしつつ、その場所だけは提供したいと思っていました。
●アニメの世界観を汲み取りつつも、見た人それぞれに色んな情景を浮かべられるような曲になっている。
藤戸:そうですね。映画を観に行った方々には、この曲を聴いて余韻に浸って頂ければ良いなという想いはあります。あと、原作者の方からお褒めの言葉を頂いたのは、冥利に尽きましたね。
●藤戸さんが原作も読んでいて、作品に愛情を持っている人だからこそ実現した企画かなと思います。
藤戸:初めて読んだのは、もう18年くらい前ですからね。子どもの頃に読んで育った人間が今、自分の好きだった作品にこうやって関われるというのはファンとしても冥利に尽きるというか。何よりも自立した1人のプロミュージシャンになった自分が仕事として、この作品に関われたことがすごく嬉しいです。
●今回の『ストライク・リビルド【ダウナー】』は基本的に過去の楽曲をリメイクした作品ですが、そこに最新曲の「Rust」を加えても違和感はなかった?
藤戸:今回の「Rust」に関してはなかったですね。この曲は強烈なオルタナなんですよ。“エレクトロ・ロック”と言われることが多いジェッジジョンソンの中でも、オルタナは重要な要素の1つではあったから。だから今までの楽曲の中に入れても特に違和感はなかったですし、さらに今後は“こういう音でまた続いていくんだよ”という提示にもなったかなと思います。
●なるほど。その他の10曲に関しては『DEPTH OF LAYERS DOWNER』(アルバム/2004年)と『Half World』(ミニアルバム/2006年)からの楽曲がメインになっていますが、そこから収録曲をセレクトした基準は何だったんでしょうか?
藤戸:【アッパー】と【ダウナー】で明確に分けているのは、歌詞と楽曲ですね。特に楽曲に関しては【アッパー】はなるべくライトなものを、【ダウナー】に関しては技工を凝らしたものという感じで分けていて。よりテクニカルで、難しいことをやっているのが【ダウナー】なんです。
●その区分に沿って、セレクトしたと。
藤戸:ジェッジジョンソンはライブハウスにいち早くDTMを持ち込んだ先駆けと言われていますが、持ち込んだだけじゃなくて実践も応用も含めた上で“聴かせる”ことのできるエレクトロ・ロックをやりたいなと思っていたんですよ。そういうところを最大限見せられる楽曲ということでセレクトしていくと、こういう感じになりましたね。結果としてギターをフィーチャーした曲が多いんですが、かなりバキバキで攻撃的な曲が揃っていると思います。
●M-2「ボーン・スピリッツ」やM-10「Thousands of Brave Word」は、特に攻撃的な感じがしました。
藤戸:そうですね。「ボーン・スピリッツ」なんかは、もう20年前くらいに作った曲なんですよ。
●そんなに古くからある曲なんですね。
藤戸:昔から聴いて下さっている往年のファンの方々は知っている人も多いと思うんですけど、やっぱりインディーズ盤で出していた作品なので、メジャーデビュー以降に知って頂いた方々は音源を持っていない人も多いんですよね。そういう方々に届けるという目的もあって、今回のリメイクは始まっていて。そんな中でも特に聴いて頂きたい重要な2曲が、アルバムの冒頭に入っている感じです。
●「ボーン・スピリッツ」の歌詞は、ジェッジジョンソンの楽曲の中でもかなりトガッているなと思って。
藤戸:“暗黒”のほうに入りますよね(笑)。この曲とM-1「HAPPY」は、ジェッジジョンソンの中でもおそらく“暗黒ソング”の両巨頭みたいな感じかなと思います。10代前後の自分は、いったい何を考えていたんだろうという感じですけど…(笑)。
●この2曲の歌詞は、良い意味で“中二病”の感じが出ていますよね(笑)。
藤戸:そうですね。“中二病”という言葉ができる前から、僕は“中二病”だったんです。そういう意味では、ジェッジジョンソンは中二病の先駆けでもあったんだなっていう(笑)。
●ハハハ(笑)。歌い方もあえて少年っぽい感じにしているのかなと思いました。
藤戸:それはありますね。この作品では(原曲が)20年くらい前のものだという“時代感”を出さないようにしつつ、歌い方では当時の少年と大人の中間的なニュアンスを出せたら良いなというコンセプトで作ってみたんです。
●歌が軸にあるというのは、前作の『ストライク・リビルド【アッパー】』から引き継がれている部分では?
藤戸:そこは引き継いでいますね。ただ、前作と違うのは楽曲自体にドライブをかけたりもしているところで。おそらく今年発売されるロックやエレクトロの音源の中で、一番ヒドい低音が入っていると思います(笑)。
●ヒドいって(笑)。
藤戸:ちょっとやりすぎちゃいましたね。マスタリングの時に、そこに置いてあったコップがガタガタ揺れていたくらいで(笑)。ハイレゾも普及してきて再生環境も変化している時代なので、ぜひともきちんと低音が再生できるヘッドホンで聴いて頂けると嬉しいです。
●そういう音にしようと思った理由とは?
藤戸:元々、低音…“震える音”が好きというのはあって。自分はライブハウスやクラブで育ってきた人間なので、“ライブとは何か”と考えた時に低音が一番重要な要素だと思うんですよ。そして今、欧米の音楽シーンでは低音がまた強くなってきているんですよね。00年代のハイ上がりの曲ではなくて、ドライブがかかっていて低音に重みがあるような楽曲がまた再び出てきているんです。そういった海外で見てきたものを経て、今後の日本において自分がミュージシャン/作家/プロデューサーとして提案したい音を今作には詰め込んでいます。
●実際に海外で体感したことも音に反映されている。
藤戸:今回の音源は僕がアメリカのスタジオでミックスしたんですけど、現地での仕事の同僚も手伝ってくれているんです。それもあって、(普通の)日本人では絶対に真似できないようなミックスになっていて。特にM-8「02mixedLOUDER」では“マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズってこういう感覚だから、こういう音になるんだ”といったことが色々とわかりましたね。
●ミックスに関しても、日本人とは感覚が違う?
藤戸:そうですね。目的は日本人と一緒だとしても、手段が全然違うんですよ。日本人は手段にも美意識を求めるところがありますけど、彼らは手段なんて選ばないですから。できたものさえ美しければ、そこに至る手段は別にどうでも良いんです。
●そういったところも取り入れて、今作はミックスされているわけですね。
藤戸:楽曲自体にドライブをかけて歪んでいる曲もあれば、たとえば坂本美雨さんに楽曲提供したM-6「Swan Dive」という曲はレンジが広くて奥行きのある音にしていたりもして。
●「Swan Dive」もそうですが、今回はライブの情景が見えるような曲が多い気がしました。
藤戸:より近いですね。やっぱりジェッジジョンソンは、ライブハウスで育てられてきたバンドなんですよ。DTMというのも大きなキーワードでありつつ、そこも揺るがざるバックボーンなのでそのフィールドが見える音楽が今作には揃っていると思います。もちろん、そこには電子音楽でなければ成立しない音というものも入っていますけどね。リリース記念のワンマンが9/1にありますので、ライブを観て頂くとそういうベテランの音が聴けますよと(笑)。
●今作を作り終えてみて、ご自身の中でも過去の楽曲が生まれ変わったくらいの感覚はあるんでしょうか?
藤戸:ある意味では過去の自分を全否定するような行為なので、心が打ちひしがれるところはあるんですけどね。ジェッジが今やろうとしているエレクトロ・ロックは、オルタナやニューウェーブの要素がありつつ、ミニマルテクノというものも通過したもので。その次はどのようにソリッドになっていくのかというところを提示できればなと思っているんです。そういう流れの先にあるのが、今作の最終曲「Rust」なんですよ。
●「Rust」が今後への予兆的なものにもなっている。
藤戸:そうですね。しかも、その楽曲をジェッジジョンソン初のアニメ主題歌にも採用して頂いているという。そういったところも含めて、次回作にまたつながっていく部分があるのかなと思います。
●そうですね。5年後くらいに出る予定の次回作に…。
藤戸:いやいや、何てことを言うんですか(笑)! 何とか今年中に出せたら良いなとは思っています。あと、やっぱり自分は叩き上げのバンドマンなので、今後はもっとライブも増やしていきたいですね。
Interview:IMAI