今年のエイプリルフールに突如、7人組バンド“アルカラcinema staff”として活動することをお互いの公式サイトで発表し、世間をざわつかせた2組。後に明かされた真相は、cinema staff×アルカラでSplit EPをリリースするというものだった。メジャーレーベルの垣根を越えて奇跡的に実現した今作『undivided E.P.』には、それぞれの新曲やお互いの楽曲のカバー、そして両者による共作楽曲も収録。互いにリスペクトを抱きつつ、刺激を与え合う関係の2組からG.辻 友貴とVo./G.稲村 太佑による激レアな対談が実現した。
●両バンドの出会いは2009年とのことですが。
稲村:最初に出会った頃のcinema staffはわりとトガッた感じで、ボーカルの立ち位置が変わっているなというのが第一印象で。ちょうどその当時そういうバンドが流行っていたというのもあって、雑に“ガァッー!!”って叫んだりする…若い子が“エモーショナル”を履き違えたような感じの音楽をやっているのかなと勝手に想像していたんですよ(笑)。
辻:ハハハ(笑)。
●勝手にそんなイメージをしていたと。
稲村:でもライブを観てみたら全然イメージと違って、“めっちゃカッコ良いやん!”と思ったんです。衝撃的な出会いやったんですけど、当時はまだ挨拶をする程度の関係で。その後2012年に京都のイベントでtricotと3マンをやらせてもらったのを機に、ようやくつながり始めました。それで2013年の3月にcinema staffの自主企画“two strike to(2) night〜2013開幕版〜”の名古屋・大阪公演に誘ってもらって、そこから一気に仲良くなりましたね。
●何かキッカケがあった?
稲村:初日の名古屋で打ち上げをした時に、辻が僕の隣に座ってきたんですよ。本人は覚えていないと思うんですけど、最初に僕から“おまえがギターをプルルプルルプルルって弾いてる感じを、最近の若い子はみんな真似しとるで。おまえ、やるやん!”みたいなことをわざと言ったんです。
辻:めっちゃ覚えています(笑)。
●辻くんはどういう反応だったんですか?
稲村:“形式上で打ち上げをするような子なら、こういう切り口をされると弱いやろうな”と思って僕は言ったんですけど、実は辻も“こっち側”やって。“あっ、面白おじさんがいた!”みたいな感じで、目を輝かせていましたからね(笑)。僕もそこから“めっちゃ楽しい!”となって、その日の打ち上げは“完璧”やったんですよ。cinema staffのBa.三島が“後にも先にもこんなバランスの良い打ち上げはない”というコメントを残したくらいで。飲み過ぎてグチャグチャになるわけでもなく、ただただ喋っているだけで特に盛り上がらない感じでもなく…。
辻:裸になることもなく…(笑)。
●そういう暴走もなく(笑)。
稲村:本当に一番良いバランスの打ち上げやったんです。それで2日目の大阪で“おはようございます”と挨拶した時にはもう、どっちも顔がニヤけていたんですよ。まるで“前世で好きだった人と出会った”くらいの感覚があって、そこからお互いの自主企画やツアーに呼び合う関係になりました。その流れの中で、僕と辻は“いつかスプリットとかも作れたら良いね”という話をしていて。
●この2人でそういう話をしていたんですね。
稲村:実は、他のメンバー同士も話していたんですよ。お互いにそういう話をしているとは知らなかったんですけど、各々がやりたいと思っていたみたいで。でも所属事務所やメーカーが違うこともあって、スプリット盤を出すとなると色々と越えなきゃいけない壁が多くて、なかなか実現は難しいだろうなと思っていたんです。
●最初は難しいだろうなと思っていた。
稲村:そんな中で去年、アルバム(『KAGEKI』)を出してツアーをまわる直前にウチのギターが抜けることになって。“これからどうしようかな…?”と思っていたところに、辻から“今から遊びに行っても良い?”っていう連絡が来たんです。タイミングがタイミングやったんで、“もしかしたらcinema staffを辞めて、アルカラでギターが弾きたい”とか言うんじゃないかと思って…。
辻:ハハハハハ(笑)。
●まさかの(笑)。
稲村:だから辻がもし何か変なことを言い出しても酒の力で誤魔化そうと思って、昼間から居酒屋に入ってビールを飲ませたんです。そこで“何の話?”と訊いてみたら、“スプリットの話、マジでやりましょうよ。ウチのチームで既に話ができあがっているんです。僕らが船を用意したので、あとはアルカラに乗ってもらえば良いだけなので”と言われて。僕らも“次はどうしようか?”というタイミングやったからすごくありがたいお話で…って、ヤバい! 真面目な話になってきているな(笑)。
辻:しかも、ほとんど喋ってもらっている(笑)。
●出会いから今作までの経緯をほぼ全て、太佑さんに話して頂きましたね(笑)。ここまでの話を聞く限り、この2人が特に仲が良い?
稲村:それぞれに仲は良いんですけど、辻の場合は歌うわけではないので打ち上げで呑むことに関しては(バンド内で)最前線にいるんですよ。アルカラに関しては、その位置に僕がいて。
辻:ボーカルなんですけどね(笑)。
●ノドは大事なはずですけどね(笑)。
稲村:そうなんですけど(笑)、ツアー先で本当にハモってしまって。“今、◯◯で呑んでいるけど、太ちゃんも来ない?”みたいな連絡が急に来るんですよ。一緒にツアーに行っても、辻は最終的に僕の部屋で寝ていたりするんです。自分も覚えていないんですけど、起きたら辻がいるから“おいっ!”っていう。そこから荷物を取りに自分のホテルに戻って、そこからまた会場入りするわけですからね。そんなことばっかりです。
辻:ホテル代を無駄にしました…(笑)。
●ある意味、お酒が2人を結びつけたんでしょうか?
稲村:最初のほうはお互いに近付きにくかったところを、お酒が上手くほぐしてくれたというか。でも“ただの呑み仲間で、一緒にいたら楽しい”というだけではないですね。色々と取材を受ける中で、今回のスプリットに至った理由を考えてみたんですよ。
●その理由とは?
稲村:2バンドともメロディや歌がしっかりと作られた音楽を看板に掲げてやっているけれど、たとえばボーカルの裏で鳴っているギターのフレーズとかに関しても絶対に手を抜かないんです。ベースにしてもコードを押さえておけば上手くいくであろうところであえて違うことをやってみたり、常に人をアッと言わせようとしている。音楽性は違っていても、そういう見えないところまで意識するような感覚が近いから、お互いにリスペクトし合えているんだろうなって思います。
●そういう相手だから、スプリットを出すという企画にも同意したわけですよね。
稲村:最近はバンド同士でスプリットを出すことって、あんまりないじゃないですか。そういう時代だからこそ、あえて今やることの意義は深いと思うんです。cinema staffのメンバーが本気でやりたいと思ってくれて、しかもアルカラがちょうど“次はどうしよう?”となっていたところの一歩目を支えてくれたことには本当に感謝していて。僕らも次に行くキッカケになる曲を作らせてもらえたし、cinema staffも10周年での新しい挑戦ができたというのは意味のあることだと…って、(辻に向かって)おまえがこれを言えっ!
辻:ハハハ(笑)。
●cinema staff側の気持ちも代弁してくれた(笑)。
辻:…ありがとうございます。
稲村:かわいいな〜(笑)。
●ハハハ(笑)。新曲とカバーを各1曲ずつで、共作を1曲という構成も話し合って決めたんでしょうか?
稲村:そうですね。辻から“こういう形が好きなんです”と参考用にもらったスプリットもお互いの曲があって、カバーし合って、最後の1曲は共作というものだったんです。そういうモデルケースがあったので、その形にしましょうとなって。ここまでcinema staff側が船を用意してくれたので、料理を作るのは僕かなと思って、最後のコラボ曲は“自分にやらせて下さい”と言いました。
●だからコラボ曲のM-5「A.S.O.B.i」は、太佑さんの作詞・作曲なんですね。
稲村:元々この曲では、僕らのツアー(※“ガイコツアー2014”)で2組で沖縄・台湾へ行った時のことを歌おうと思っていて。そのツアーが本当に記憶から消えないくらい、すごく面白かったんです。当時、台湾で“えび釣り”が流行っていたので、みんなで一緒に行ったんですよ。観光客向けに日本語の案内も色々と書かれてあるんですけど、その中に間違いがいっぱいあって。その中の1つに“えび料理”と書くべきところに“そび料理”と書かれていたのを見て、“そびって、何やねん!”っていうので全員がずっと爆笑していて…。今聞いたらそこまで面白くもないんですけど、その時は“旅スイッチ”が入っていたので何でも楽しかったんですよ。
●そういうことってありますよね(笑)。
稲村:あと、たまたま入ったおみやげ屋で、ボタンを押すとキャラクターがサックスを吹くというオモチャを買って。ツアー中も何かの度にそのオモチャを鳴らしていたんですけど、旅スイッチのせいでそれも面白くてしょうがないっていう。
辻:全員、爆笑していました(笑)。
●旅スイッチで、変なテンションになっている(笑)。
稲村:そのサックスのメロディが印象に残っていたので、そこから着想を得たものを共作曲の中に取り入れたいと思って。でも実際にやってみるとフリースタイルで吹いているサックスのメロディに当てはまるコード感というのは、ファンクやジャズになるんですよ。だから、結果的にめちゃくちゃジャジーな曲になったんです。
●確かに曲調はオシャレですよね。
稲村:このジャジーな曲調に乗せて、Vo./G.飯田があの言葉から歌い始めたら面白いなと思って(笑)。リスペクト感もあるし、ちょっと料理している感じもあるなと。そこからデモを作ってcinema staffチームに投げたんですけど、最初は“どうなるかな?”と思っていましたね。
●反応が不安だった?
稲村:作品や音楽に関しては自分たちの領域がしっかりとあって、カッコ良いイメージがcinema staffにはあるから。“僕たちのキャラクターとはちょっと違うので…”と言われるかもしれないなと思っていて。でも僕としてはやっぱり一緒に呑んでいる時やライブ以外の時に見せる4人の面白い部分とか、人間的に深みのある部分も引き出して、彼らの“遊び”の面を表現したいなと思っていたんですよね。
●その狙いがまさに曲名にも出ているわけですね。
稲村:そういうものもありつつ、それぞれの新曲では“絶対に譲らないぞ!”という気持ちが出ているし、カバーはお互いにリスペクトを感じられるものになっていて。M-3「チクショー」に関しては、cinema staffがアルカラのことをすごく気にかけてくれたのが伝わってくる仕上がりなんですよ。特に辻がギターで、アルカラの曲のフレーズをふんだんに取り入れてくれているんです。
辻:最初に「A.S.O.B.i」のデモが送られてきた時に、“ヤバい! カブった!”って思いましたけどね(笑)。カバーの手法がカブってしまったなと…。
●逆にアルカラ側のカバーはどうでしたか?
稲村:僕らがカバーしたM-4「great escape」も原曲をいかにアルカラらしくトリッキーに変えながらも、最後にどうやって原曲へのリスペクトのある形へ戻っていけるかというところを考えていましたね。
辻:最初に聴かせてもらった時は、衝撃でした。“拍子を変えるんかい!?”と思って。
●ビックリしますよね。
稲村:ただリズムを変えたり、速くしただけの安易なカバーなら、自分たちがやる意味がないなと思って。「チクショー」を聴いた時も、そこにcinema staffがやる意味を感じられたから。4曲目までがすごい重量感なのもあって、最後の曲はお互いに普段やらないようなものにしたんです。僕としてはcinema staffのそういう側面を引き出せるものができたというのが良かったなと思います。お互いにどこか天邪鬼なので、お酒が徐々につなげてくれたところもあるんですけど、それがこんな作品にまで結びつくというのはバンドマンにとって一番良い形なんじゃないかなって思えるくらいですね。
辻:“こういうことがやりたかった”と思うバンドマンは、いっぱいいると思います。
●バンドにとって理想のスプリットができた。
稲村:お客さんにとっても新鮮な作品だと思いますね。色んな遊びも含めて、三島が言った“バランスの良い打ち上げ”にも近い感じがあるというか。そこから始まって、こういう結果を1つ出せるというのは…って、これはもう文字数が収まらないんじゃないですか?
●収まらないですね。というか、最後までほとんど太佑さんが喋っているという…。
稲村:辻が喋ったところで、何を言っているのかよくわからないですからね(笑)。
辻:cinema staffの取材の時も、いつも一緒にいてもらおうかな…。
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI