匿名性の高いビジュアルを纏い、多彩で緻密な楽曲を展開する4ピース編成のプロジェクト、ariel makes gloomyが2nd ep『oxymoron』をリリースする。昨年10月にリリースした初の流通音源となる1st e.p.『carbonium』からは「slowmotion」が日本テレビ系「バズリズム」2017年9月度POWER PLAYに選ばれるなど、注目を集めている存在だ。とはいえ未だミステリアスなその実態に迫るべく、メンバー4人へのインタビューを敢行。果たして、謎のヴェールに包まれた中に見えたのは実像か虚像か…?
「いえ、これでも今回は結構出したほうですね」
●まずアーティスト写真が暗すぎて、ほぼ人が見えないという…。もはや“見せたくないのか?”と思うほどなのですが。
イシタミ:いえ、これでも今回は結構出したほうですね。
●“出した”というのはどのあたりが?
イシタミ:私は鍵盤担当なんですけど、(アー写では)ギターを持っているんです。そこですね。
●確かにプロフィールのパート表記にはキーボードと“Vox”だけで、ギターは書かれていないですよね。
イシタミ:そうなんです。あと、自分で“ボーカル”とは言えないところがあるというか。
●とはいえ、ariel makes gloomy(以下amg)の軸になっているのは、イシタミさんの歌なのかなと思っていて。ポップなメロディと歌が軸にあることで、4人の演奏が複雑なことをしていても聴きやすい仕上がりになっているところもあるのでは?
ワダ:メロディはポップでキャッチーですね。だから僕らも安心して何でもできるし、アレンジもどうにでもできるんじゃないかなと思います。
関:軸があるからこそ、(演奏が)どこかに行っちゃってもまた帰ってこられるところがあって。その軸になっているのは、やっぱり歌なのかなと思います。演奏に関してamgの場合は“普通ならこう弾くだろうな”というものから、どれだけ離れられるかというところが重要なんですよ。
●“普通ならこう来るだろう”という予想を裏切るようなアレンジになっている?
関:全体的にそういう感じですね。
佐々木:ドラムに関しても、なるべくセオリー通りにならないようなアレンジを考えています。
●そこはamg内で共有しているテーマ?
ワダ:話し合ったわけではないんですけど、スタジオでアレンジしていく中でそうなったという感じですね。
佐々木:トラックで遊んでも曲がちゃんと成り立つのは、それだけ歌がキャッチーだからこそできているという共通認識はあるかもしれない。
イシタミ:よく“正解はない”という話をみんなでしていますね。正解がないからこそ、各パートがそれぞれの立ち位置で“どういったものを付けようかな?”と考えていて。それは良いことだと思っています。
●アレンジで遊べるということは、演奏する側の自由度も高いんでしょうか?
ワダ:でも“セオリーではないアプローチをまず考えてみる”ということは、意外と自由ではないのかなと思ったりもします。たくさんのセオリーがある中で、そこから離れるというのはなかなか難しいんですよね。
●音楽的なセオリーというのは、長い歴史の中で色んな試行錯誤を経て蓄積されてきたものですからね。そこを外すというのは難しいのかもしれない。
ワダ:そうなんですよ。
●だからそういうことではなくて、“ギターロックならこう”、“ポストロックならこう”といったジャンル的なセオリーから離れようとしているのかなと。
佐々木:確かにそうですね。
イシタミ:これまでに色んなバンドやプロジェクトを経験してきたメンバーの方々と一緒にやらせていただいているので、せっかくなら“既存のものと(それとは違う)何かを混ぜたら新しいものが生まれるんじゃないか”というところをやっていきたいなとは思っていて。それがこの4人で“バンド”とはあえて名乗らずに、“プロジェクト”というふうにコンセプトを決めてやっている意味なのかなと自分では思っています。
●“バンド”ではなく、“プロジェクト”というところにもこだわりがある?
イシタミ:かなりこだわっています。それは“造り”もそうですし、“関係性”もそうですし、全てに共通した軸としてあるんです。たとえば“バンドってこうだよね”と言われた時に、“いや、私たちはプロジェクトなんです”と言えるところがまずあって。
●“バンドとはこうあるべき”という固定観念に縛られたくない?
ワダ:正確にはバンドというイメージ“だけ”に固まらないようにという意味が強いですね。
●それは具体的には?
佐々木:たとえば細かいですけど、“ライブでのMCはこういうことを言うべきである”といったこととか…。
関:“会場入りから攻撃的でなくてはいけない”みたいな感じとか…。
ワダ:“(ライブ後の)飲み会で友だちを作らないといけない”とか…。
●出演者同士のつながりを作ることには、大事な面もあると思いますけどね(笑)。
ワダ:そうなんですけどね(笑)。普通に話しますよ。
関:そこで無理していないというか。
佐々木:amgにとっては、“無理しない”というムードがあるだけなんですよ。
イシタミ:なんとなく、自分たちのテンション感が、個の集合体としてのプロジェクトなので、そこは各自のスタンスがあると思っています。なので、自分たちが“(バンド)らしいか”というところだとわかりにくくなるかもしれないっていう感じです。
●ステレオタイプなバンドにはなりたくないというか。
イシタミ:“バンド”と名乗ることで、“じゃあ、そういう感じですよね、こういうやり方や考え方ですよね”という前提ありきのお話になってしまうんだなぁと感じていて。そこで“いや、そうじゃないんです”と言う時間を短縮するために、“バンド”ではなく“プロジェクト”だと名乗るとスムーズかなぁと感じています。あと、私はフロントではないんですよ。だからライブでも、あえて立ち位置は(ステージの)センターを外していて。
●“プロジェクト”という呼称には、4人のメンバーが横並びの存在であるという想いも込められている?
イシタミ:そうですね。私たちは全員がフロントで、全員がリーダーなので、誰か1人が中心になって引っ張っていくという感じではないんです。テンション感もそうですし、構造的にもそうですし、全員が“○(マル)”を出さないと進んでいかないんです。その結果が今回の2nd ep『oxymoron』でも出せたんじゃないかなと思っていて。ミュージックビデオやアー写でも、全員が一直線上に横並びであるということはすごく意識しています。
●アー写にもそういう想いが込められている。
イシタミ:アー写というもの自体も本当はない形にしたかったんですけど、やっぱり必要とされる時もあるので、“イメージ図”という形で提出させていただいていて。そういう意味では、今回は(自分たちの姿を)出しているほうではあるんですよね。
●4人でやっていることは伝わる程度の、必要最低限の露出というか。
イシタミ:はい。私のパート表記も最初はキーボードだけだったんです。少ししてから、“声が入っていることは伝わったほうが良いかもしれない”というアドバイスをいただいたので、ラテン語で“声”という意味の“Vox”を便宜的に入れてあるんです。あくまでも“気持ちの上でボーカルではないと思います”という感じですね。シンプルに“音として声を出している”パートというイメージです。
●確かに今作の歌詞にも何か明確なメッセージ性があるわけではないと思うんですが、どの曲にも1節くらい本音のような言葉が入っている気がして。たとえばM-1「focal point」の“言いたいことなんて本当はひとつもなくて なんとなく、僕の姿が虚像でも 君の中に残ればいいと思う”というところには、amgとして音で伝えたいことが表れているのでは?
イシタミ:その通りです…。
佐々木:その通りすぎて、ちょっとすごいなって思いました(笑)。
●ハハハ(笑)。
イシタミ:洋楽の聞こえ方みたいなものは意識していて。洋楽って何語かわからなくて、どういう気持ちでやっているのかもよくわからなくても、“何か良いな”と思える点があるから聴きたくなるわけじゃないですか。聴いていて、心地良いというか。
●歌詞の内容というよりも、音から受ける直感的なフィーリングが重要だったりする。
イシタミ:私たちは、曲から入っていただきたいんです。聴いて下さる方に曲が真っ直ぐに届いて、それを受け取っていただけたら嬉しいという想いがあって。だから事前情報的なものをなるべく削ぎ落とすことで、必然的に曲が前に出るんじゃないだろうかという…何か“願い”にも近いものがありますね。そういった想いが「focal point」のその1節だったり、他の曲にも少しずつ入っているのかなとは思います。
●明確な何かを伝えたいわけではない?
イシタミ:今のところは、いわゆる“伝えたいことがあって、こういう曲を作りました”というわけではない感じです。それこそ洋楽を聴いている時のように“何を言っているのかはっきりとはわからないけれど、何となく良い”という感覚が好きで。そういう“聴き心地の良さ”と感じていただける音像を出せたら良いなと思っています。
佐々木:聴く人のその時のテンション感や気持ちによって捉え方が色々と変わるというのが、amgの強みだなと思っていて。“明るい/暗い”とか印象がはっきり分かれるようなものを伝える楽曲ではなくて、誰しもの日常にあるような空気感とかに合うものを感じてもらえたら嬉しいですね。
関:僕は“ポジティブとネガティブの共存”だなと感じています。
●“シングル”ではなくて“ep”という呼称にしているのもどれか1曲だけが表題曲として突出した作品ではなく、同列の4曲が1枚に収まっている作品だからなのかなと思いました。
イシタミ:その通りかもしれません。もちろんパッケージするにあたって収録曲と曲順はすごく気にしているんです。今は色んな聴き方がありますし、サブスクリプションやストリーミングによって、1曲単位で切り出されるということも考えていかないといけないと思っていて。その切り出された時にM-3「gradation」がまず耳に入ってくる方もいれば、M-2「twilight」の方もいたりして、それぞれにフィットしてもらえたら良いなとは思っています。4曲を通して初めて見えてくる全体像がありながらも、1曲ずつ切り取ってもamgの音像を出せているかを考えて制作しています。
●『carbonium』『oxymoron』というあまり聞き慣れない単語をepのタイトルにしているのは、どういう理由から?
イシタミ:タイトルは、元素周期表の番号から取っています。私たちはデモやプリプロ音源も含めて作品番号を付けていて、その中で前作の『carbonium』は6番目で、今回は8番目の作品なんです。だから元素周期表で8番目のoxygen(=酸素)から、タイトルを付けていて。
●前作『carbonium』は、6番目の炭素(=carbon)からだったんですね。
イシタミ:ただ今回はそのままだと“酸素”という意味のタイトルになるのはちょっと違うかもと思って。なんとなくなんですけど。それで“oxy”から始まる単語を探していく中で、“oxymoron”という言葉を見つけたんです。
●“矛盾語法”といった意味のようですが…。
イシタミ:“矛盾した言葉を組み合わせる表現法”みたいな意味ですね。今作の制作中は色んな葛藤があって混沌としていたり、鬱々とした想いがあったりしたんです。メンバーみんなが単純に忙しかったり、私自身も決断していかないといけないような逼迫した状況が多くて。そういう中で“こういうふうにしたいけど、ああいうものもあるし、どっちを選択したら良いんだろう? もうわけがわからない…!”みたいな葛藤があって、ふと俯瞰的に考えた時に自分の中でも“矛盾しているな”と思うところがあったのでこういうタイトルにしました。
●葛藤の中で作ったとはいえ、完成した作品には満足している?
佐々木:出したものに関して、後悔はないですね。
関:自分の目標としていたところまでいけたかなと思ったけど、いけたと思ったら、まだその先があることもわかったっていう感じです。
ワダ:ちゃんとアレンジ面でお互い考えていることを擦り合わせられたのは良いことだったんだなと、振り返った時に思いました。
イシタミ:反省はもちろんあって然るべきですけど、後悔は一切ないです。できあがったものに対して、後から“やっぱり自分はこうしたかった”とか不満を言ったりするのはフェアじゃないし、誠意がないと思っています。そういうことがないような生き方を自分はしていきたいですし、それを作品やamg全体として、すみずみまでなるべく投影していきたいと思っています。
●生き方や考え方も作品に投影されているんですね。
イシタミ:本当に裏表がないというか。本当にamgは4人全員が“◯”じゃなければ進まないんです。今作もこの4人でないと出せない音像が出せていたら良いなと思います。それが一番難しいことで苦しいことであるとは思うのですが、それがやりたいことなんだなって自覚してきました。どんな気分の時にも聴けるということを意識して作った作品でもあるので、ポジティブな気持ちの時もそうでない時もどんな場面においてもこの4曲が、聴いていただく方の心に寄り添えていたら嬉しいです。
Interview:IMAI