フルアルバムとしては2016年10月の『WAO!!!!』以来となる、SA待望のニューアルバムが完成した。“窮地に陥ろうとも気高く決断を下す”という意味の『GRACE UNDER PRESSURE』という今作のタイトルは、納得できることが少なくなった時代に抗いながらも逃げずに向き合ってきた彼らに相応しい言葉だろう。従来のサウンドをただ踏襲するのではなく、常に挑戦を続けてきたからこそ辿り着けた進化がここに表れている。新しい景色を求めてステージに立ち続ける彼らの夢は、まだまだ終わらない。
「俺たちみたいな50歳を越えたバンドのライブに新しいお客さんが入ってきて、新しい景色の中でやれているっていうのはノスタルジーじゃなくて、リアルなことだと思うから。そこにはすごく自信を持っているし、“まだまだ先に行ける”っていうことを示せている気がして」
●今振り返ると、2017年はツアーも含めて相当な数のライブをやられていましたよね?
TAISEI:確かに去年はアルバム(『WAO!!!!』/2016年10月発売)のリリースツアーもやって、それからシングル(『MY ONLY LONELY WAR』/2017年9月発売)のツアーもやって、それとは別に自分たちの企画したツアーもやったからね。それが結構、長かったのかな。
NAOKI:春から夏にかけて今回のアルバムの1曲目のタイトルにもなっている“KEEP THE FLAG FLYING”っていうタイトルのツアーをまわっていたんですよ。
●そのツアータイトルが1曲目として今作『GRACE UNDER PRESSURE』につながっているのは、ライブの熱が作品にも注がれている証なのかなと。
TAISEI:その通りですね。それと“KEEP THE FLAG FLYING”には、俺たち“SA”っていうものを“なめんなよ!”っていう気持ちも込めていて。そういう気持ちを込めたツアーだったし、そのままの熱量を曲にも入れられた気がしますね。
●“なめんなよ!”という気持ちが湧き上がってきていたんですか?
TAISEI:気持ちの良い“怒り”があったね。だから今回のアルバムには、そういう要素も少なからず入っていると思う。
●M-6「MORE MORE MORE」の歌詞にもある“忘れかけてたアングリー”が再び甦ってきた感じでしょうか?
TAISEI:“もう一度、牙を剥きたい”というか。そういうところが今回はあったね。
●そんな心境になった理由とは?
NAOKI:SAはある程度、懐の広さも見せようとするバンドやから、それが良い意味で受け入れられる場合もあれば、逆に勘違いされることもあるんだよね。だったら“牙見せたろか?”みたいなところが今回はあって。(今作を聴けば)“やっぱりSAはすごいな”と思ってもらえると思いますよ。
TAISEI:“恐れ入りました”ってね。
●去年1月の“LOVE’N’ROLL TOUR FINAL”での赤坂BLITZ公演を見た時に、会場の雰囲気がすごくピースフルで驚いたんです。そういった空気を作り出すこともできる一方で、牙は失っていないことを証明するというか。
NAOKI:前作では“笑ってこうぜ”っていうのが、俺らの掲げたスローガンの1つでもあったからね。だから「ピーハツグンバツWACKY NIGHT」(『WAO!!!!』収録)も、最初に出した時よりも盛り盛りの増し増しでやったりましたよ(笑)。それが俺らのケツの拭き方やから。“やるなら徹底的にやったるからな!”っていうのが出ていたかもしれないですね。
TAISEI:別に“バカみたいに笑ってようぜ”と言ったつもりはなくて、“辛いことも悲しいこともあるけど、笑っていこうじゃねえかよ”という意味で言っていて。それがファイナルで形になったんだと思うし、そういう気持ちに賛同してくれた新しい“コムレイズ”(=SAファンの総称)が増えたことはすごく嬉しいことだよね。
●ちゃんと伝えたいメッセージを届けられた上で、パンクスだけではない層にもファンが広がっている。
TAISEI:最近のライブでもスパイキーヘアの子たちはたくさんいるけど、それだけじゃなくて俺らと同年代のサラリーマンや主婦だったり、親子連れも来てくれているっていうのは、新しい形のパンクロックとして突破口を開けている自負もあるし、痛快な部分があるよね。
●その成果がツアーファイナルでは感じられたわけですよね。
TAISEI:本当にその通りだね。“パンクっていうのは、すごくマイノリティなもので良いんだ”っていうところから自分たちは始まっているんだけど、やっているうちにだんだんそこに違和感を感じるようになったというか。キャリアを重ねれば重ねるほど、“もっと新しい景色が見たい”って思うんですよ。逆に言えば、そこで諦めたくなかったしね。だから、今までやってこられたのかなとも思っていて。
●ツアーファイナルの赤坂BLITZでは、その新しい景色が見えたのでは?
TAISEI:そうですね。俺たちみたいな50歳を越えたバンドのライブに新しいお客さんが入ってきて、新しい景色の中でやれているっていうのはノスタルジーじゃなくて、リアルなことだと思うから。そこにはすごく自信を持っているし、“まだまだ先に行ける”っていうことを示せている気がして。自分たちは音楽をやっているけど、他にも色んな仕事をして、色んな人生を歩んでいる人たちがいるわけで。そういう人たちに“あいつらがやっているんだったら、俺にもやれるはずだ”って思われるようなバンドではありたいよね。
NAOKI:俺らは本当に真正面から色んなことにチャレンジして、何度もコケては這い上がってきているバンドやからね。その生き様は、職種は違っても共感できる姿やと思いますよ。
●「KEEP THE FLAG FLYING」で歌われている“これと違う人生なんて もしかしてどっかあったんだろうか”というのも、誰しも思うことですよね。
TAISEI:“もしあれがこうなっていたら、どうなっていたんだろうな?”とか、たまに思ったりするじゃないですか。たとえば自分自身も“あそこでこのバンドを辞めていたら、どんな人生だったんだろうな?“とか、そんなことを考えてもしょうがないんだけど、つい考えてしまったりもするから。
●そういうことも歌ってしまえる人間らしさが、今のSAが持つ大きな魅力の1つだと思います。
TAISEI:今は色んなものが“パンク”と言われている時代だけど、そういう中に“パンク”っていう看板を背負ったSAもいるわけで。子どもの頃に聴いた(パンクの)“何でもかんでもブッ壊せ”っていうところから始まって、昔はそれに乗っかった自分もいたんですよ。でも人生を経験してきて50歳になった時に“パンクって何だ?”と考えたら、それは“人間らしさ”みたいなところなのかなと。そういうことを、声を大にして歌えることこそが“パンク”な気がしていますね。
●若い頃は“ツッパるのがパンク”みたいなところもありますからね。
TAISEI:それで良いと思う。その頃はツッパんなきゃパンクできなかったし、基本的には頭が悪い音楽だと思うんだよね。
NAOKI:若い時は経験もないし、頭も悪いからさ(笑)。でもそこから始まるんだよね。俺らも“カッコ良いな!”っていう衝動に駆られて、パンクロックを始めたわけやから。ハミ出した格好をしたいとか、そういう欲求に従って若い頃はやっていたわけで。
●M-4「I SAW THE LIGHT」で歌っている“道端に座り込んで 意味もなくツバを吐いて 睨みつけていたモノなら たかだか知れてたよ”というのもそういった経験を経ているから、説得力があるのかなと。
TAISEI:ガキの頃は“政治が悪い”とか何かを否定してみたり、パンクスだからそういうことも歌ったりしたけど、今では“本当に恥ずかしいよ”っていう感じだよね。でもバカはバカなりにやってきたからこそ、こういう歌が歌えるようになったのかなって思う。
●逆に言えば、バカをやってこなければ、今の考えにはなれていなかったかもしれない?
TAISEI:なれていないだろうなって思いますね。色々と失敗したり、ズッコケたりしてきたから…。みんな、ズッコケたくないんだよね。でも10代〜20代は特に、そういう経験をするかしないかが大きいと思うよ。その代わり30代になってから自分に自信を持って思い切り突っ走れたら、すごく良い40代〜50代になるはずだから。そこに気付けたのは大きいかもしれない。
●転んでも這い上がって走り続けてきたからこそ、今がある。
TAISEI:やっぱり闘争心もそうだし、怒りや悔しさを持ち続けたことが原動力になったのかもしれないね。“フザけんな、コラ!”とか、そういう気持ちを持ちながらやってきたのが良かったのかもしれない。
●怒りや悔しさは持ちつつも、憎しみを歌っているわけではないというのが、M-12「吠えたい雨」の“憎しみの歌は欲しくない 背中を押す歌が欲しい”という歌詞に出ているなと。
TAISEI:憎しみからは何も生まれないからね。今は顔の見えないヘイトが多いというか、(生の)声が聞こえないヘイトが多くて。そういう中で日本を含めて、世界がおかしなことになっているのは誰もが知っていることだから。“これくらい泥臭くてアナログチックな言葉で歌えるヤツがいないとダメだよな”っていうところでの使命も感じるよね。
●SAは人の心の闇ではなく、“光”の部分を伝えようとしているのかなと思います。
TAISEI:だから今回の1つのキーワードに“光”というものがあって、ジャケットもそういうアプローチにしているんだよね。俺は太陽の光とかステージの光がすごく好きで。太陽が照っていたらとりあえず外に出たいと思うし、そういう漠然とした自分の好きなことが今作に筋を1本通した気がするな。
●M-5「赤い光の中へ」の“赤い光”とは、太陽の光のことでしょうか?
TAISEI:いや、これはステージの光のことだね。SAはライブが始まる前に、ステージを(照明で)真っ赤にするんですよ。その中へまず先に3人が出て行くんだけど、送り出す時に“よっしゃ行こう!”って言うんです。それをずっと続けてきた中でその“続いていく”っていうこと自体に喜びを感じているし、もっと言えば“それは自分の夢なんだな”っていう。そのことをすごく感じたから、こういう作品になったんだと思いますね。
●“これからも続けていく”という意志も込められているのでは?
TAISEI:70歳や80歳になっても、赤い光の中に飛び込んで行きたいなって思うよね。
NAOKI:本当に“居場所”だよね。居場所がある人生は良いなって。でもそれがあるのが当たり前だとは、思わないようにしたいなと思っています。
●そういう気持ちがあるから“道は果てしなき 夢はまだ五分咲き 気持ちとはうらはらに足は重くなるばかり”だとしても、進むのを止めないんでしょうね。
TAISEI:ライブが続いたりすると、やっぱり“しんどいな”って思うわけで。“声が出るかな?”とか“身体は動くかな?”と本番前は思っていても、赤い光が見えてステージに出たらモードが切り替わっているんですよね。“俺は最高! 俺は王様だ!”みたいな感じで、ちゃんと身体も動くし、声も出るわけですよ。それで終わったら、“やっぱりライブ最高!”って思う。それが“続いていく”っていうことだろうし、“夢”なんだよね。
●今作を作ったことで、ライブへの想いがさらに強まった部分もあるのかなと思います。
TAISEI:すごくあると思う。ファンにも歌っているんだけど、自分にも歌っているんだろうね。自分のケツを叩いているような感じで、“おまえ、言ったからにはやれよ?”っていう。これからまたツアーが始まるにあたって、もちろん今までも思い続けていたことなんだけど、もう一度肝に命じて“1本1本最高のライブをやろう”って思えるようになりましたね。
Interview:IMAI
Assistant:平井駿也