PANと四星球は特別な関係だ。先輩(PAN)と後輩(四星球)であり、それぞれの音楽性(と表現の方向性)が違うとは言え、常に刺激を受け、お互いがリスペクトし合い、それぞれ影響を与え合って成長してきた。そんな彼らが、全ての歌詞が中国語のスプリットアルバム『包』を日本と台湾でリリースし、レコ発ツアーも日本と台湾で開催するという。全国各地のライブハウスで爆発的な盛り上がりを作り出してきた両者が、「お客さんを思い切り楽しませる」という部分で共鳴し、国境を飛び越えて台湾で鳴らす奇跡のコラボ。両者を追い続けてきたJUNGLE☆LIFEは、スプリットアルバム『包』の制作現場に潜入し、両バンド全メンバー参加の座談会を開催。スプリットアルバム『包』の制作秘話と、両バンドの“繋がり”について深く訊いてきた。
●もともとPANと四星球はすごく仲がいいですけど、そもそもなぜスプリットアルバムを出すことになったんですか?
U太:確か先に台湾でのライブが決まったんですよね。PANから「一緒に台湾行かへん?」って誘ってもらって。
川さん:PANは1回台湾でライブをしたことがあって、また行きたいなと。で、どうせ行くんだったら日本から誰かと一緒に行きたい…ライブがいいなと思うバンド…四星球。
●あ、四星球出てきた。
川さん:せっかく行くんだったらライブやるだけじゃなくてCDを台湾でリリースしようと。
●今回のスプリットアルバム、こんな大変な作品なのに後付けなんですね。
ゴッチ:そうなんです(笑)。もともと「ライブしに行こう」というのがきっかけなので。
U太:ちょうど四星球も海外を考えていたんですけど、そのときにちょうど誘ってもらったから、タイミングがよくて。
●海外を考えていたというのは、どういう発想で?
U太:四星球は去年で47都道府県全部行けたんですよ。それにちょくちょく海外の人から「ライブしに来てください」っていうメールをいただくんです。
●海外の人はどうやって四星球を知ったんですか?
U太:わかんないです。YouTubeとかからですかね。こないだドイツからもメールが来てて。
一同:えー!!
川さん:四星球と一緒に行ってライブしたら絶対におもしろいじゃないですか。四星球が台湾の人にどういう風に見られるのかも興味があるし。
●あ、それ興味ある。日本のボケは通じるのか。
川さん:日本やったら知ってる人も多いし、あの格好でステージに出てきてもびっくりするというより、馴染んでいる部分もあると思うけど、初めて行く土地で誰も知らん場所でやるときの感覚…僕らも海外に行ったときはそうやったけど、バンド力が問われるというか。それがすごく楽しかったから、もう1回行くときに一緒に行きたいなと。
●で、台湾でリリースするスプリットアルバムですが、共作というのも1つの大きなハードルだと思うんですが、全曲中国語というえげつないコンセプトがありますよね。
一同:はい。
ダイスケ:大変でしたね。
川さん:まず“曲を作る”ということに関して、そんなに簡単には進まなかった。
ゴッチ:何回もやり取りして、転がって転がって「こんなんどう?」「こんなんどう?」って探るのが大変だった。
●ややこしい奴らが8人も居ますけど、どうやってまとめたんですか?
ゴッチ:いちばん最初は、お互いゼロの状態でスタジオに入ったんです。
まさやん:セッションでしたよね。
●えー!
ダイスケ:「台湾でラップが流行ってるらしいからラップ入れようか」みたいなこと言って。
康雄:お互いめちゃくちゃライブやってるじゃないですか。だから日程を合わすのもなかなか難しくて、最初は米子のスタジオに一緒に入ったんです。
●台湾でリリースする楽曲は米子で生まれたのか。
ゴッチ:それでなんとか曲ができて、デモを持って帰ったんですけど、改めて聴いてみたら「うーん。これはナシやな」と。
まさやん:その場ではみんな「これええやん!」っていう感じなんですけど、1日空けて冷静になって1人で聴いてみると「いや、違うやろ」と。「これ四星球とPANでやる意味あるの?」って。
●ハハハ(笑)。
U太:みんなで合わせてる楽しさ=いい作品と勘違いしてたよな。
康雄:ああ〜、そういうのがあったかもしれないですね。四星球とPANじゃなくて、新しいバンドになっていたんかも。
●あ、ということは、PANらしさも四星球らしさも無かったんですか?
一同:全然ない。
U太:ブレまくってました。
●曲としてはアリかもしれないけど、この2バンドのスプリット作品に相応しいものではないと。そこからどうしたんですか?
川さん:東京で1回打ち合わせだけして方向性やキーワードを決めて、今度は徳島のスタジオに入って。
康雄:あのときに決まりかけたんですよね。
U太:打ち合わせのときに「台湾にツッコミの文化はあるんかな?」という話になって、キーワードとして“チャウチャウ”(「違う違う」の関西弁)はどうかなと。
川さん:それで考えていってたけど、“チャウチャウ”って否定の言葉やし、ポジティブではないから意味合い的にはあまりよくはないかなと。それで歌詞は白紙にしたけど、曲自体は徳島である程度出来て。
U太:その時点では三三七拍子とか入って。
康雄:振り付けも出来てましたよね。あれはあれでおもしろかったえけど、ゴッチさん1人だけ「さくらさくら」のフレーズを弾いてて。
モリス:「日本の文化を大事にしよう」とか言って勝手に。
ゴッチ:「勝手に」とか言うな!
●安直な感じで。
ゴッチ:「安直な」とか言うな!
●徳島である程度楽曲が出来たけど、歌詞は未だ完成していなかったと。
康雄:その次は年末12/31に大阪で集まってスタジオに入って。
ダイスケ:そこで曲はかなり完成に近づいたな。
ゴッチ:うん。曲はほぼ仕上がった。
●歌詞はどうしたんですか?
康雄:電話で「“小籠包”をキーワードにしたらどうでしょう?」みたいなやりとりを川さんと話してて。
川さん:それで1番とかサビを僕が書いて、康雄に「2番とか空いてるところ埋めてほしい」と言って、そういうやり取りの中で新たにキーワードが出てきたりして、微調整をしていったらだんだん歌詞が出来上がってきて。それで2月にもう1回スタジオに入って、最後の最後にピアノの弾き語りのパートとかを入れて。台湾での小籠包って観光客は食べるけど実際に住んでいる人はあまり食べてないらしいから、そういうこと自体を曲中のネタとして使ったらいいなということにして、みんなのセリフの部分も入れて。
康雄:でもまだその段階では日本語なんですよ。そこから翻訳してくれる人のところに歌詞を送って、戻ってきたら字数が莫大な量になってて。
●ハハハ(笑)。
川さん:レコーディングの前に中国語の歌詞をひと通り見たけど、これはヤバいなと。それで発音のチェックとかしてもらってたけど、四星球の曲の中国語の歌詞を見たら…詰め込み度がハンパなくて。僕らやったら例えば「好想吃餃子哪(ギョウザ食べチャイナ)」だと“ギョウザ 食べチャイナ”は“じぁぅず はぅしぁんつな”という文字数で済むけど、四星球の「克拉克博士與我(クラーク博士と僕)」なんて“知らぬ間に始まった人生が知らぬ間に終わっていく”が“ぶずぶじぇぞんかいしどぞごれんせんざいぶずぶじぇぞんじぇじんうぇそん”ですからね(笑)。
一同:アハハハハハ(爆笑)
康雄:僕、レコーディング前はほんまに病みましたもん。“ぶずぶじぇぞんかいしどぞごれんせんざいぶずぶじぇぞんじぇじんうぇそん”とか、パソコンのキーボードをダーッと適当に叩いただけみたいですからね。
●ハハハ(笑)。
川さん:レコーディング前に康雄から電話がかかってきて「この苦しみはみんなで分かち合ってもらえるんですかね?」って言うから「大丈夫や。いける」と答えて(笑)。
まさやん:中国語は意味もわからないですけど、言葉の区切りが全然わからないんですよね。
川さん:勝手に決めてたイントネーションで歌ってると、翻訳してくれる人に「違います」と言われたり。
●地獄ですね。
康雄:ほんまに地獄でした。
川さん:レコーディングはとにかく歌の難易度がダントツで高かったもんな。
ダイスケ:そこがあるから、他の各パート録りは全部巻きで進めようと。
U太:中国語の歌詞を見た時点で“楽器に時間を使っている場合じゃない”っていう。
康雄:めちゃくちゃ巻きで歌録りがまわってきても、結果押しましたもんね。半端なかったな〜。
川さん:だから完成したときの達成感はすごかった。
川さん:“台日爆音BORDERLESS 2018”は渋谷と台湾でやるけど、こういうイベント名を付けているからには当然この5曲は中国語で演るんじゃないかな。
康雄:…。
ゴッチ:(康雄を見て)中国語で歌うよな?
康雄:…歌います。
U太:“台日爆音BORDERLESS 2018”は2箇所ですけど、先に日本で演るからまだよかったです。
康雄:来年ですよね?
一同:今年や!
●ハハハ(笑)。
康雄:レコーディングが終わって何日か、寝ててもひらがなが攻めてくるんですよ。
ゴッチ:それヤバいな(笑)。
康雄:レコーディングでさえそんな感じやったから、ライブだったらもっと大変やと思うんですよ。今気づきましたけど、僕全然台湾楽しめないと思う。
一同:アハハハハハ(爆笑)。
●川さんはどうですか?
川さん:僕は全然。何なら今でも普通に歌えると思う。
一同:すごい!
●でも中国語バージョンを聴くと、言葉自体にリズムがあるから気持ちいいんですよね。
川さん:そうそう。だからもう「ギョウザ食べチャイナ」とか日本語で歌ったらちょっと物足りない感じがあるかも。日本語ではありえへん“し”の後に“ぁ”とか、そういう発音を教えてもらって練習して。それを覚えてしまえばすごく気持ちいいから、ライブで歌うのもおもしろいんじゃないかな。
●うんうん。
川さん:この5曲を中国語で演るっていうのはもちろん台湾の人たちに向けてやけど、まわりまわって、そういうことをやっているのを日本のみんなに知ってもらいたいという気持ちはどこかにあって。「それがおもろいやん」みたいな。そこは意識してたかな。
●なるほど。日本語で歌っている曲を英語にしたりとかその逆とかはよくある話ですけど、中国語にするっていうのはなかなか聞いたことがないですよね。
川さん:だから英語で歌っているバンドとかに「こないだ中国語でレコーディングした」って言ったら、みんな「えっ!?」ってびっくりして。「それは難しかったやろ」と。まあ僕ら英語の曲も歌えるわけじゃないけど。
●さっき川さんが「完成したときの達成感はすごかった」と言ってましたけど、いい機会になりましたね。よくわからないハードルを自らに課して、そのハードルを超えるために一致団結して。
川さん:そうそう。前から仲がいいバンド同士やけど、「まだ隙があったんか」というくらい団結したな(笑)。
康雄:僕、ゴッチさんのことがほんまに好きになりましたもん。
●え? なんで?
ゴッチ:歌いまわしとかを一緒に考えたから。俺やよこしんやまさやんは早めに録りが終わってやることがなかったから「康雄を手伝いに行こう」って。それで康雄と一緒に「こうかな?」「いや、こうかな?」って歌いまわしとかを考えて。それにちょっと康雄は気が立ってる感じやったから、バンドのメンバーじゃない俺とかよこしんが言った方が聞いてくれそうな気がした。
●アハハハ(笑)。
康雄:優しかったな〜。
●ライブ以外で、台湾でやりたいこととかあるんですか?
川さん:一緒にご飯食べに行ったりとかしたいな。
モリス:したいですね〜。
ダイスケ:俺ら「台湾行った」と言うても台北じゃなかったんですよ。台北は首都やし、色々とおもしろいところもあるんと違うかな。
●このプロジェクトは6/1と6/9でひと区切りするわけですが、今後もこのような動きはするんですか?
U太:まだ決まってないけど、やりたいですよね。
モリス:色んな国に行くとか。
川さん:ドイツ行く?
ゴッチ:ドイツ語で歌う?
●確かにこのシリーズは色んな国のバージョン出来ますよね。
康雄:とりあえず台湾! 台湾終わってから考えよう!
一同:アハハハハハ(爆笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka
よこしん:俺、もともとステージではまったくしゃべらなかったんです。でもU太さんが「もっとこうやったらいいよ」とかアドバイスしてくれて。U太さんは打ち上げとかで2人の席になったら、必ずその日のダメ出しとかアドバイスをくれるんです。僕にとってはほぼ唯一の存在。「お前のツッコミもっとこうした方がいいで」って、すごく親身になって相談に乗ってくれる。僕の師匠ですね。
U太:よこしんがPANに加入した当時は全然周りに溶け込めていなくて、それを勝手にすごく心配していたんです。それでよく話すようになって。その延長線上で、偉そうな話ですけど色々とアドバイスさせてもらってるというか。例えばブレイクのときのおもしろい顔だったりとか、よこしんのやろうとする感じがすごく真面目で、それがおもしろいんですよね。今のPANのキャラクターとして、ちゃんと4等分になったなと思います。
ゴッチ:モリスって、キャラ先行に見られがちだと思うんですよ。かわいらしいとか。でも自分をすごく客観視しているところがあると思うんです。「自分がこう動いたらまわりのみんながこう思う」みたいなことを考えて行動出来ているなって。それが最近すごくいいなと思うんです。きっと誰にでも出来るポジションじゃないんですよね。
モリス:ダイスケさんって人間的にもすごく好きなんです。ソフトであるにもかかわらず、ちゃんと物事が言える人っていう印象があるんです。オシャレやし、料理も作れるし、顔面もハンサムやし、人としての魅力に溢れる人やと思うんですよね。先輩としても、人間としてもすごく大好きなので、もしよかったら付き合ってほしいですね。
ダイスケ:バンドのことを客観的に見てると思うんです。あと優しいし。あまり自分の意見を言うタイプには見えなかったんですけど、今回のスプリットアルバムを作っているとき、結構自分の意見を言うまさやんを知ったんですよ。そういうところもいいなと。
まさやん:PAN全員がそうなのかもしれないですけど、その中でゴッチさんは飛び抜けて、何を言ってもちゃんと返してくれるし、絶対に切り捨てないんですよ。切り捨てたように見せかけても絶対に放ったらかしにしないっていうか。すごく安心感があるんです。どんなヘタなことをしてもちゃんとゴール地点まで運んでくれる。
川さん:四星球の要やし、ライブの魅力を生み出しているのは康雄なんかなって。四星球のライブのいいところって「毎回違うことをする」というところやけど、そこを意地を張ってでもやっていると思うんです。ライブに対する姿勢は本当に尊敬してるし、“PANのやり方でそれをやるにはどうしたらいいんやろう?”と考えることもあるし。いつも刺激になるし、負けたくない存在でもあるかな。あと、四星球が何か活動していく中で、“このときに康雄はどう考えているんやろう?”といつも気になりますね。
康雄:四星球に何かいい話をもらったとき、まず川さんの顔が浮かぶんです。“先に言うべきなんかな?”って…簡単に言うとそういう関係性なんです。あと川さんに対していちばん思うのは…僕も大概なんですけど…川さんってめちゃくちゃ人見知りなんですよ。なのに、一緒に居るときはほんまにしょうもない話をずーっと出来る。それは、僕だけに見せてくれる姿なんかなって。だから川さんが他の人とそんなしょーもない話をしてたら、なんか嫌なんです。先輩やのに素で居れる。
取材後、「自分が女だとしたらこの中で誰と付き合いたいかゲーム」をしてイチャイチャしている8人。