音楽メディア・フリーマガジン

PAN 川さん、ゴッチ、よこしんインタビュー
(※ダイスケは所用があり欠席)
“音楽やってて良かった”と、 ステージで歌うこと

“音楽やってて良かった”と、 ステージで歌うこと

ライブではステージからパンを投げて大爆笑させ、年々爆発力を増すキレキレのステージで多くのオーディエンスを楽しませてきたPAN。そんな彼らが2015年にリリースしたシングル曲「想像だけで素晴らしいんだ」は、彼らのバンドに対する素の想いがストレートに突き刺さる曲で、普段はワイワイしている彼らの飾らない想いを知ることが出来た。そんな名曲をモチーフにした映画『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』の制作が順調に進む中、同映画の主題歌となるシングル『ザ・マジックアワー』が3/7にリリース。今作は、PANがその想いをストレートに綴った新曲2曲と、「想像だけで素晴らしいんだ」のライブ音源を収録。近年は餃子やたまごをモチーフにいろんなコラボで我々ファンを楽しませてきた彼らだが、今作はひねりも笑いも一切無し。「音楽やってて良かった」とステージで歌う彼らの本心に迫るインタビュー。(※ダイスケは所用がありインタビュー欠席)

 

INTERVIEW #1

「ストレートやし、シンプルでひねりがないから、そういう意味で“どうなんかな?”とは思ってたかな。普通なのかもしれへんし。でも“俺はそんな歌好きやで”っていう宣言でもある」

●先月号で映画『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』の撮影の模様をレポートさせていただきましたが、そもそもなぜ映画を撮ろうという話になったんですか?

川さん:映画『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』の主題歌「想像だけで素晴らしいんだ」にはMVがなくて、“MASTER COLISEUM '15”のライブ映像をYouTubeにアップしてて。

●そうでしたね。

川さん:それで「MV撮りたいな」という話になってて、ちょっと時間が空いたけど(※シングル『想像だけで素晴らしいんだ』は2015年11月リリース)、映像の作品を残そうと。それからだんだん話が膨らんでいって、映画を撮ったらおもしろいんじゃないかということで。

ゴッチ:「この曲いい」っていう声がめっちゃ多かったから、何かしら形にしたいなと思っていて。

●「想像だけで素晴らしいんだ」を3年前の“MASTER COLISEUM”で初めて聴いたとき、実際に僕もめちゃくちゃいい曲だなと思ったし、ライブの反応もすごくよかったですよね。

ゴッチ:うん。仲間のバンドマンが「PANのこの曲が好き」と言ってくれるのが、「想像だけで素晴らしいんだ」にめちゃくちゃ変わりました。お客さんの評判もよかったし。

よこしん:当時、リリースする前は“どうなんやろ?”という不安があったんですよ。自分らでやれることやって、全部出し切って作った曲だけど、ワイワイする系の曲ではないので。

●なるほど。PANのパブリックイメージは「ワイワイしてるバンド」という感じですもんね。

よこしん:そうそう。その上で、バシッと直球勝負の「想像だけで素晴らしいんだ」を投げて、みんなどう受け止めてくれるんやろう? という不安…不安というか、自分たち的には“いいものが作れた”と思っていたけど、どういう風に受け止められるのかな? って。そういう感覚だったので、実際にライブで演ってリリースした後、みんなが「めっちゃいいやん」と言ってくれたのがすごく印象に残ってますね。

●うんうん。

川さん:「想像だけで素晴らしいんだ」はストレートやし、シンプルでひねりがないから、そういう意味で“どうなんかな?”とは思ってたかな。普通なのかもしれへんし。でも“俺はそんな歌好きやで”っていう宣言でもあるというか。もともとブルーハーツがすごく好きで、どの曲を聴いてもシンプルでストレートやし。「想像だけで素晴らしいんだ」はそういう感覚で作った曲で、実際に出してみて“やっぱりみんな「いい」って言ってくれたな”っていう感じ。

●僕が「想像だけで素晴らしいんだ」を初めて聴いたときの印象は「やっとPANが素直になった!」という。

川さん:ハハハ(笑)。

●特に歌詞を書いている川さんは、あまり個人的な感情を自分から話したりしないじゃないですか。そういう意味で、素の気持ちに触れることができて嬉しかったんです。

ゴッチ:なるほどね。

●PANのメンバーは映画の撮影にずっと立ち会っていましたが、どうでした?

ゴッチ:最初に見たのが、東京に大雪が降った日の屋外の撮影で。路上で極楽とんぼの山本さんが薄いパジャマ姿で演技されていて…本気ってわかっていたけど…“あ、これは本気やぞ”と。“今回は冗談は無いぞ”と。

●ハハハ(笑)。

ゴッチ:出演者のみなさんもスタッフも本気で取り組んでくれていて、もちろんそれはわかっていたけど、実際の現場を見て“これはガチやぞ”と気合いが入ったし、出来上がりがすごく楽しみになりましたね。

よこしん:撮影はずっとドキドキしてましたね。PANのメンバーも出演しているんですけど、もちろん演技もしたことがなかったし。自分が演技するということもそうやし、自分たちのバンド仲間にも出演してもらっているんですけど、山本さんやあやまん監督(あやまんJAPAN)さんや他の役者さんたちの中に俺らが入れるのか? っていう。

●自分たちからしたら、映画は別世界ですもんね。

よこしん:そうなんです。だからずっとドキドキしてましたけど、すごく楽しかったですね。監督のアベラさん(アベラヒデノブ)と一緒に、カットのたびに映像チェックで観させてもらっていたんですけど、バンド仲間や自分たちが役者さんの中に入ってるのが“すげぇ!”って。不安やったり感動やったり、ずーっといろんな気持ちが渦巻いてドキドキが止まらなかったですね。

●いい経験だったんですね。

川さん:やっぱり好きやしおもしろかったけど、ただほんまに寒かった。最終日は3時半まで撮影をやっていて。

●え? 3時半?

川さん:雪がまだバリバリ残っている高田馬場の線路沿いで、夜中の3時半まで撮影していて。すごかった。

ゴッチ:あれはヤバかった。

川さん:でも撮影チームの熱心さもすごくて。僕らは一旦車に戻ったりもしていたけど、撮影チームはずーっと外に居てセッティングしたり準備していて。すごい。THEイナズマ戦隊の丈弥(Vo.上中丈弥)とかも出番が多かったからずーっと外でがんばってくれてたし、ほんまにみんなで作り上げている感というのは日に日に出てきて。演技をするっていうのもすごくおもしろくて。まだ完成した映像は観てないから、後から“ここはもっとこうしとけばよかった!”みたいなところが絶対にあるやろうけど、機会があればまたやりたいな。

●バンドマン仲間もたくさん出演されていますが、あの人たちの演技はどうでした?

ゴッチ:みんな思っていたより平均値が高くて、みんなうまかった。

よこしん:丈弥さんすごかったです。主役を受けてくれたし、“すごいなー”って思って見てました。

川さん:確かに丈弥が大役を受けてくれたことが大きいよな。それに尽きる。

ゴッチ:不自然さがまったくなかった。見ていて“うわ! うまっ!”って普通に何度も思いました。

●へぇ〜。

よこしん:演技しているところのカットが多いのは、山本さんとあやまん監督さん、それと丈弥さんの3人だったんです。みんなすごかったけど、やっぱり丈弥さんかっこよかったな。

ゴッチ:丈弥はカメラまわっていないところでも友達の感じを出すために、出演者の人たちと積極的にコミュニケーション取っていて。それもすごいなと。

●すごい!

川さん:それに赤飯(オメでたい頭でなにより)もめっちゃうまかった。ホスト役で出てもらったんやけど、「ホストの役、誰かおらんかな?」と考えたときに真っ先に浮かんだのが赤飯で、当日パッと見た瞬間に「やっぱり赤飯しかおらんかった」と思ったし、カメラがまわった瞬間にスイッチが入って。劇中で、赤飯がダイスケを叱るシーンがあるんやけど、ダイスケがとにかく赤飯にめちゃくちゃ怒られてた。高田馬場の線路沿いで。それがすげぇおもろかったな(笑)。

●ハハハ(笑)。

ゴッチ:実際に部屋のスペースの関係で撮影しているところは見れなかったんですけど、聞いたところでは亮介(佐々木亮介/a flood of circle)がすごかったらしいんですよ。だから早く出来上がりを観たい。

川さん:MOBYさん(オカモト“MOBY”タクヤ/SCOOBIE DO)もすごかった。「この人、なんやねん!」って思うくらいすごかった。

ゴッチ:そうやな。まばたきとか顔の動きだけで演技してるっていうか。めちゃくちゃうまいなって思いました。

 

 

 

INTERVIEW #2

「“あと何回ライブ出来るんやろう?”とか“こうやってみんなでアホみたいなことやってるけど、また同じ場所であと何回あるんやろう?”とか。そういうことはほんまに思う」

●映画『想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE-』の主題歌は今回リリースとなるシングル曲「ザ・マジックアワー」ですが、この曲は映画主題歌という前提で作ったんですか?

川さん:この映画は俺らの曲「想像だけで素晴らしいんだ」をテーマにしているのに、それとは別の曲が主題歌っていうのはちょっとややこしいところがあるんやけど、まあでも映画の中で「想像だけで素晴らしいんだ」は出てくるから、主題歌は違う曲にした方がいいんじゃないかということで。

●なるほど。「ザ・マジックアワー」はどういうイメージで作ったんですか?

川さん:映画のことは特に意識せずに、曲を書いているときの気持ち…何かをやりきって興奮して夜寝られへんというか、いわゆる“余韻”みたいなものが残ってるときって、頭がフル回転してて。

●はい。

川さん:歌詞を書いているときも、「もうやめよ! ここで終わり!」と寝ようと思っても全然寝られへんときがあって。それはライブの後とかの、興奮して寝られへんときと似てるなと。

●ほう。

川さん:それで“いい意味で寝られへん夜って何なんやろう?”と考えて。何かを前向きに考えたりとかして、心地よく寝たいけど寝られへん…そういう時間を“マジックアワー”と呼んでもいいんちゃうかなって。そういう気持ちや意味合いを曲で書いた感じかな。

●「ザ・マジックアワー」はすごくストレートじゃないですか。笑いもひねりもなく、「想像だけで素晴らしいんだ」と同じようなベクトルの楽曲で。PANというバンドにとってストレートな楽曲は珍しい部類だと思うんですが、なぜそういう曲にしようと?

川さん:ストレートにしたいと思ったし、映画は「想像だけで素晴らしいんだ」をテーマにしていて、あの曲に勝てるようなものにしたかったというか。もしくは「想像だけで素晴らしいんだ」を後押し出来るようなもの。

●なるほど。

川さん:両方とも書いてるのは俺やから、気持ちは似ているようなところにあると思うんやけど。やっぱりこのバンドでライブしてることが自分の中にはいちばん大きく存在しているから、ライブのことを思い浮かべて。自分にとっての“マジックアワー”はライブやけど、聴いた人はそれぞれ他のものを思い浮かべてくれたらええなーって。

●「ザ・マジックアワー」で歌っていることは100%のポジティブじゃなくて、刹那的な視点が含まれているじゃないですか。そこがいいんですよね。

川さん:長いことバンドやってきているけど、“いつまで出来るんやろうな”と思うことがあって。“あと何回ライブ出来るんやろう?”とか“こうやってみんなでアホみたいなことやってるけど、また同じ場所であと何回あるんやろう?”とか。そういうことはほんまに思うし。

●うんうん。

川さん:周りのバンドと一緒に今は当たり前のようにツアーをやっているけど、いつか無くなるときがくるし。そう思うと、やっぱりこの1回1回が大事やなっていうのはより思うようになってきていて。ライブをやったりすると“こんな自分がおったんや!”と思うようなところが出てきたりとか、その瞬間に“自分にはこんな一面があったんや!”と発見することもあるから。

●それ聞きたかったんですけど、どういう自分を発見するんですか?

川さん:ライブのモードに入ってしまったときに、「オラーッ!」となるところとか。普段は別にそんなに喜怒哀楽が激しくないし、どっちかと言うとおだやかやけど、ライブになるとスイッチが入って。それが更に激しく、感情も何もかもがバーッとなったときに、“そんな言葉がちゃんと出てくるんや”とか自分でも思うけど、普段から思ってるからこそ言葉として出てくるんやろうし。自分を解放しているというか。

●うんうん。

川さん:そういうとき、やっぱりバンドやっててよかったなと思うし、バンドじゃなかったらそういう自分は出てこないと思う。やっぱりそれは、恥ずかしさを通り越したところじゃないと出てこない。“こういう場面になったらこういうこと言うんや”って、自分で自分を発見するというか。

●確かにいつ頃かを境に、川さんはステージで「ありがとう」って何度も言うようになりましたね。「ほんまにありがとう」って。

よこしん:うん。そうかもしれないですね。

ゴッチ:へぇ〜、全然気づかなかったな〜。ライブ中に? MCで?

●はい。川さん普段「ほんまありがとう」とか言うキャラと違うでしょ(笑)。

よこしん:ハハハ(笑)。

●それは、ステージの上で本当に思っているから出て来る言葉だと思うんです。“こう言った方がお客さん喜んでくれる”とか計算して言うような人じゃないし。そういうことが、「ザ・マジックアワー」で歌われているのかなって。

川さん:そう。だからこの曲をライブでやったら自分らがどうなるんかな? っていう楽しみがある。表現のやり方が変わるんじゃないかなって。しかも、毎回変わるんじゃないかなって。

●なるほど! 確かに「ザ・マジックアワー」には語りのパートがありますけど、あのときに歌詞を変えることも出来る。

川さん:だからライブでどんな感じになるんかなっていうのは楽しみでもある。

 

 

●ところであの語りの部分はどういう理由で入れることになったんですか?

川さん:最初は歌詞もない状態でメロディだけあって、そこで“なんか普通やな”と思って。だからアクセントというか、何かがあればいいかなということで「語りを入れたらどうやろ?」という話になって。こういうのはあまりやったことがなかったし。

ゴッチ:ここまでの語りは初めてですね。

川さん:こういうことをやっているバンドが周りにおらんか? というと、おらんわけでもなくて。でも何かを聴いて参考にしてしまうとそのままになってしまうから、何も参考にせず、何も聴かずに、言いたい言葉だけ、思い付いた言葉だけを入れて。

●なるほど。ということは、気持ちをさらけ出しているわけですね。

川さん:ほんまにそう。だからこそ、人が聴いたらどんな反応するんやろう? というのは、いつになくドキドキしてる。

●あ、そうなんですか? これめっちゃいい曲ですやん。“また素直になった! 「想像だけで素晴らしいんだ」以来、3年ぶり2回目の素直なやつがきた!”と思いましたよ。

ゴッチ:ハハハハハ(笑)。

●PANはさっきよこしんが言っていたようにワイワイしたイメージがあるし、ライブでパンを投げたりもするし。そういうバンドが素直な気持ちを吐露するというのは、やっぱりしびれます。

ゴッチ:ワイワイしたところも、こういう曲も、どっちも「らしい」と言われたら嬉しいな。

●今回の制作はスムーズだったんですか?

ゴッチ:「ザ・マジックアワー」はカツカツで結構大変でした。語りは僕ら初めてのことやったし、どうやったら完成するのかがなかなか見えてこなかったというか。

よこしん:M-2「3年後の自分から来た手紙」の方が、完成像をイメージしやすかったんですよね。メンバー全員が「こういうことよね?」っていうベクトルが合いやすかったんですけど、「ザ・マジックアワー」はメンバー全員が合わなかったわけではなかったんですけど、どういう風に曲の良さを活かしたらいいのかがわからなくて。だから逆に、結果的には「ザ・マジックアワー」の方が今現在のPANを詰め込むことが出来た感じは強いですね。今メンバーがやりたいと思っているやり方で表現できた。だから僕的には、この「ザ・マジックアワー」と「3年後の自分から来た手紙」が対比になってるんですよね。みんなでやりたい方向が決まっていた曲と、決まってないけど今のみんなの持ち味を集結させて出来た曲。

●なるほど。その「3年後の自分から来た手紙」もストレートですよね。そういう作品にしようと?

川さん:今回は映画主題歌っていうテーマがどーんとある中でみんなが曲作りをしていたから、みんななんとなくストレートなものを持ってきて、その中から選んだっていう感じかな。それに今回は新曲が2曲やし、特にひねることもないかなと。「3年後の自分から来た手紙」は曲もわりとシンプルやったし“どんな歌詞にしようかな?”と考えてたけど、ダイスケが作った曲やから歌詞のイメージもダイスケが持ってきていて。

●ほう。

川さん:結果的にその歌詞は形にならなかったけど、なんとなく言いたいことはわかって。ダイスケが書いていた歌詞は要するに「この世界は素晴らしい」みたいな大きなことやったんやけど、“どういうときにそう思えるんかな?”とか曲を聴きながら色々と考えて。それでいちばん最後の“頭抱えて悩めよ 愛しき人へ”というフレーズが最初にポンと出てきて。“愛しき人ってどういうことなんやろう?”と考えてみたら、自分やなと。そこで自分に向けた歌っていうところが見えてきて、出来上がった曲。

●この曲では“3年前の自分へ手紙を送ろう”と歌っていますが、なぜ3年前なんですか?

川さん:3年前はよくがんばってた時期やし。この歌詞を書いたのが2017年で、3年後の自分にこういうことを言ってもらいたいなと。3年後…2020年のPANは25周年をやっている年で、そのときにステージでこういう気持ちで歌えたらいいよなっていう希望も込めて。でもそれは少しだけ先の話やけど、でも2020年もバンドやっているかというと、それもわからへん。

●こういうことを歌えるのは、本当にがんばっているからでしょうね。

川さん:うん。何かを達成した喜びって、苦労してほんまにがんばった人にしかわからへん。その喜びのためにやってるんやろうなって。喜べるための材料はかなり揃ってきたと思うし、これからももちろんがんばるし。そういう感じかな。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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