エレクトロと生音が変幻自在に絡み合うニューウェーヴ・ヴィジュアル系ロックバンド、メトロノームが結成20周年イヤーのプロローグ的シングルをリリースする。7年の活動休止期間を経て2016年9月にZepp Tokyo公演で再起動を果たし、2017年8月に赤坂BLITZで開催した19周年ライヴもSOLD OUT。彼らに対する待望感を証明すると共に、バンドとしての状態も加速度的に良くなっていることを伺わせる中で新作を完成させた。3人それぞれが作ってきた曲に意志を重ねて、音で描き出した“三神一体”を体現するようなキラーチューン揃いのシングルについて訊く、スペシャル・ロングインタヴュー。
「ヴィジュアルシーンの中でどこにも混ぜてもらえない感じが昔は嫌だったのが、今は“まだ混ぜてもらえていない…(笑)”って笑いながらやれている感じです」
●2016年9月に再起動して以降、昨年の19周年ライヴ(@赤坂BLITZ)もSOLD OUTしたりと、すごく良い状況になっていますよね。自分たちでも実感はありますか?
フクスケ:たくさんの人がライヴを観に来てくれていることは、すごく嬉しいですね。ライヴも音源制作の時も、今はみんなが良い意味でリラックスできているというか。キングレコードさんがとても寛容で自分たちのやりたい方向に背中を押してくれるので、環境の良さがそうさせているのかもしれないです。
リウ:ノビノビやらせて頂いていますし、スタッフさんにも恵まれているなと思います。再起動してから周りのミュージシャンに“羨ましい”と言われることも多いので、“きっと充実した活動ができているんだろうな”とは実感していますね。
●7年の活動休止期間もあったわけですが、その前と後では異なる部分もあるんでしょうか?
フクスケ:再起動した時に、7年間も休んでいたようには感じなかったんですよ。もちろん7年経っているのでやれることは増えているし、考え方も変わったところはあるんですけど、気持ち的には何となくつながっているような感覚があって。その状態のまま、良い感じで今に至っていますね。
●自分たちとしては、あまり期間が空いたようには感じなかったと。
リウ:何の違和感もないというか。たとえばファンの方から「当時は中学生や小学生だったのでライヴに行けなかったけど、今は行けます」とか言われたら、めちゃめちゃ実感しますけどね。そうやって外からの声を聞いて、感じることはすごく多いです。でも自分たちの中では、自然と続いている感じなんですよ。
シャラク:7年間置いたことで自分をより俯瞰で見られるようになったので、たぶん前よりは“メトロノームらしい”ことをちゃんとできるようになったと思いますね。
●“メトロノームらしさ”を自覚的に出せるようになった。
シャラク:そうですね。ヴィジュアルシーンの中でどこにも混ぜてもらえない感じが昔は嫌だったのが、今は“まだ混ぜてもらえていない…(笑)”って笑いながらやれている感じです。
●そういうところも今は前向きに捉えられている?
フクスケ:同じような人がいないのでそういう輪に入れていない感じはありますけど、“そこが持ち味だから”と思うところもありますね。シャラクが言ったように、今のメトロノームの中でやっている自分を客観的に見られる力を得たというか。“メトロノームでこういう曲をやるなら、お客さんは自分にこうして欲しいだろうな”っていうことも意識しながらやれるようになりました。特にそういうところは、昔と変わったんじゃないかなと思います。
●自分たちを客観的に見られるようになったことが大きい。
フクスケ:メトロノームしかやっていなかった頃は、どうしても視野が狭くなっていて。(活動休止していた)7年間は個々で活動していたので、そこで勉強になったところもあるし、視野も広くなったんじゃないかなって思います。
●他のメンバーの活動を見たりすることもあったんでしょうか?
フクスケ:シャラクはヴィジュアル系のシーンから少し外れていたので、一緒になる機会はあまりなくて。リウは近場でやっていたのでライヴで一緒になった時に、違いが見えたりしましたね。そういうことが勉強になったり、“自分自身もそう見えているんだろうな”と思ったりしたんです。そういうものをバンドに持ち帰れている感じはしています。
●シャラクさんも活動休止期間中に、他の2人の活動を見たりしましたか?
シャラク:直接見ることはなかったんですけど、人から話は聞いたり、“アルバムを作るから1曲歌ってよ”って呼んでもらったりしたことはありました。その時に“こういう感じなんだな”っていうのは思いましたね。
●そこから再起動後に、バンドにフィードバックした部分もある?
シャラク:オイラは逆に、できるだけフィードバックしないように心がけていたんです。活動再開するにあたって“変わっていて欲しくない”ってみんな思うだろうから、“できるだけ(昔のイメージを)再現するようにしよう”と考えていて。でも最近は当時はしていなかった歌い方とかも、面白ければ取り入れるようになりましたね。曲調はできるだけ当時のままにしつつも、それを一段階上がったやり方でできるようになったんじゃないかなって思います。
●らしさは大事にしつつ、表現の幅は広がっていると。7年空いたことで、メンバー間の関係性にも変化はあったんでしょうか?
フクスケ:昔とは、ちょっと違うかもしれないですね。同じバンドをずっとやっていると、良い意味でも悪い意味でもナアナアになっていくものじゃないですか。でも活動休止期間中に会う時はお互いに“違うバンドの人”ってなるので、ちょっと気を遣ったりもして。それを経て戻ってきたことで、ちゃんと相手の心を考えるようになったというか。年齢が上がったこともあるんでしょうけど、昔のように“言いたいから言う”みたいな感じはなくなってきていますね。
●相手の気持ちを考えて、話せるようになった。
シャラク:人として、ちゃんと周りのことを考えられるようになったのかなって思いますね。前よりはメンバーに対して失礼のない接し方ができているんじゃないかなって思います(笑)。
リウ:昔は訊けば良いのに訊かずに自分で勝手に解釈したり、声を一言かければ良いのに“言わなくても大丈夫だろう”と思っていたりして。そういう幼い部分があったんですけど、今はもうないですね。素直に訊けるようになったというところは、すごく変わったなと思います。あと、ライヴが終わってからご飯を一緒に食べて帰ることも増えたんですよ。
●それも関係性が良いからこそですよね。
リウ:元から仲が悪かったわけではないので、基本的な関係性は変わっていないんですけどね。以前もツアー先で一緒に飲んだりはしていたんですよ。でも今は関係性もより良くなっているので、ご飯を食べながら色んなことを話しているんです。傍から見たら、すごく仲の良いバンドに見えるんじゃないかなって思います。
●色んな話をするようになったことで、お互いへの理解が深まった?
フクスケ:そうですね。最初は多少、探り探りの部分もありましたけど。
リウ:今思い返すと、再起動から1本目のライヴまでの間にセットリストのことだったり色んな打ち合わせをやったんですよ。サポートメンバーのドラムも含めて、居酒屋で打ち合わせをしていたことも良かったのかもしれないですね。
●堅苦しくない環境で話し合えたことが良かったと。昨年は再起動後初のアルバム『CONTINUE』もリリースされましたが、その制作を通じても関係性がより良くなったのでは?
フクスケ:最近は制作する時に個々で録音することが多いので、顔を会わせないというところが良いんですよ。すごく煮詰まっている時に顔を会わせないっていうのは、すごく良いことですね。このスタイルはとても良いと思います。
●以前はみんなで一緒に録っていたんでしょうか?
フクスケ:前はレコーディングスタジオに集まって録っていたので、“缶詰”になっていたりもしたんです。でも自分だけだと、肩の力を抜いたりもできるんですよね。
●確かに他の人といると、肩の力を抜くタイミングが難しかったりしますもんね。
フクスケ:そうなんですよ。
●今回のシングルもそうですが、3人が1曲ずつ作っているというのも今の関係性を象徴しているのかなと思いました。
フクスケ:それは再起動するにあたって、最初に決めたんですよ。“みんなで平等にやろう”という話をして。今回はシャラクに歌詞を全部頼んじゃいましたけど、それはシングルの時はそのほうが世界観が統一されて良くなるからで。シングルは3曲入りにしようと決めているし、楽曲の制作に関しては3分割しているので、そこも良い方向に作用しているなと思いますね。
●それは最初に話し合って決めたんですか?
フクスケ:最初に居酒屋で飲みながら“3分割でやれば良いじゃん”みたいな、ノリで話したことを実践している感じですね。
●そうすることで、ちゃんと3人でやっている意識が高まるわけですよね。
フクスケ:それがまさに“トリムルティ”です。…って突然つなげてしまって、すいません(笑)。
●ハハハ(笑)。“トリムルティ”というのは“三神一体”という意味ですが、それは自分たちのことを表している?
フクスケ:“3人の神は同等の力だよ”っていう(ヒンドゥー教の)教えがあって。今のバンドの状況を『弊帚トリムルティ』っていうタイトルに込めました。
●“弊帚”は“使い古してぼろぼろになったほうき”という意味だそうですが。
フクスケ:“弊帚千金”っていう四字熟語があって、“そのぼろぼろのほうきは自分が使ってきたものだから千金の価値があるんだよ”っていう意味なんです。その“千金”を“神様”に置き換えて、“今までやってきた活動には千金の価値があるし、同等の力を持った3つの神が一緒に並走していこうよ”っていう意味合いで付けました。
●“並走”と“弊帚”も架けているんですね。歌詞はシャラクさんですが、タイトルはみんなで話し合って決めたんでしょうか?
フクスケ:3月にQUATTRO東名阪ツアーがあるんですけど、最初はそのツアータイトルとして僕が付けたんですよ。説明文も添えてみんなに送ったら、シングルのタイトルにシャラクが使ってくれて。そして何も打ち合わせしていないのに、リウが作ってきたサビの最後のメロディに字数までピッタリ合って…これが“トリムルティ”です(笑)。
●“三神一体”を体現したわけですね(笑)。曲自体はタイトルよりも先にあったんですか?
リウ:先に曲ありきでしたね。でもきれいにメロディに言葉が乗っている感じが素晴らしいなと。こういう言葉って、なかなかハマらないと思うんですよ。
●なかなか使わない言葉ですからね。
フクスケ:“弊帚”なんて、見たこともない人ばかりだと思いますね。たまたま見つけて良い言葉だなと思ったので、ストックしておいたんですよ。20周年の幕開けには持ってこいだなと思って、今回それを使いました。
「事細かに決めてはいないんです。“地方はどこに行きたい?”とか、呑みながら話した内容を(実際の活動に)反映させているだけというか。次の日には覚えていないくらいがちょうど良いんですよ。全部、リウが覚えているから(笑)」
●20周年の幕開けのシングルになるということは意識していた?
フクスケ:そこは考えていましたね。“トリムルティ”感についても、メトロノームを始めた当初はこういうニュアンスをちょっと出していたんですよ。でも次第に出てこなくなっていたので、20周年というところで改めてポップに取り入れてみようかなと思いました。
●シャラクさんはタイトルのコンセプトを読んで、歌詞に反映したんですか?
シャラク:そうですね。“おっさん3人で頑張ろうぜ”的なニュアンスはあって。“その3人に自分も混ぜてくれて、ありがとう”っていう感じで書きました。
●今回の収録曲についてTwitterでシャラクさんが1曲ずつ紹介されていた中で、「幣帚トリムルティ」に関しては“めっちゃやる気出てるんやで!”と書かれていて。シャラクさんとしては、かなり珍しい感覚な気がするんですが…。
シャラク:初めての感じですね。今までは“できるなら辞めたい”みたいなスタンスが多かったから(笑)。
●基本的に、後ろ向きな感じですよね(笑)。そんな人がこの曲で、やる気を前面に出した理由とは?
シャラク:たとえばライヴ1本でも関わる人数が増えたりしたことで、メトロノームというプロジェクトについて全員が“やって良かったな”って思えたら良いなと考えるようになったんです。そこからすごく前向きに考えるようになりましたね。
リウ:スタッフさんとも長い付き合いなんですけど、復活した時に彼らのテンションが上がったのもすごく感じられて。キングレコードさんも含めて、そこはすごく感謝しています。
●関わる人みんなが楽しめるペースやスタンスで活動できていることが大きいのかなと。
フクスケ:あまりスケジュールを詰め込むと、作品にも関わってくるから。無理して作った感じが出ちゃったりしたら、それこそ本末転倒ですからね。そこはあんまり急かさないキングレコード様々だと思います(笑)。
●自分たちのペースで、余裕を持って取組めている。
フクスケ:“このへんでライヴをやろう”とか“ここでリリースしよう”みたいなことを大まかに決めておく感じで、事細かに決めてはいないんです。“地方はどこに行きたい?”とか、呑みながら話した内容を(実際の活動に)反映させているだけというか。次の日には覚えていないくらいがちょうど良いんですよ。全部、リウが覚えているから(笑)。
●そこはリウさん任せなんだ(笑)。
リウ:僕が覚えていても、アイデアの出所は2人のどちらかということが多いので一応、本人に確認を取るっていう(笑)。
フクスケ:僕らは“それって、何だっけ?”みたいな感じですけどね(笑)。
●ハハハ(笑)。作品の話に戻りますが、M-2「ボクになりたかった僕」は「弊帚トリムルティ」と歌詞の内容がつながっている感じがしたんです。
シャラク:1曲目と2曲目は近いものがありますね。1曲目はガッチリ“頑張るぞ!”みたいな感じなんですけど、2曲目は“とはいえ、潰れないくらいのスピードで頑張るよ”みたいな感じになっていて。
●2曲目は、1曲目で言ったことへのフォローのような形になっている。
シャラク:1曲目の“ガッチリやる気満々の前向きシャラク”に不安を覚える方もいるだろうから、“実際はこのくらいのスピードですよ”っていうのを感じてもらえたらなと思って。
●“厄にまみれた人生さ”と歌っていますが、シャラクさんとフクスケさんと清水(Cosmo-Shiki)さんの3人で厄落としに行ったそうですね。
シャラク:オイラはすごく縁起を担ぐというか、そういうのをめちゃくちゃ気にするほうなんです。今年は20周年というすごく大事な年だし、厄が何を引き起こすかわからないのでとりあえず祓っておこうと思って。
●20周年と重ねることで、厄年も良い方向に転化していくというか。
フクスケ:“厄は悪いことなわけじゃない”って、お坊さんも言っていましたからね。厄祓いに行った時に一番面白かったのが、清水さんの厄を祓ったら“清水さん”という存在自体が消えてしまうんじゃないかっていう話になったことで(笑)。
●ハハハ、それはヒドい(笑)。
シャラク:“清水さんは厄だったんだ…”という話も踏まえて、“厄も僕も同じようなものだからのんびりやるよ”と歌っているんです。
●ちゃんと歌詞にもつながっていると。もう1曲の「友達の和」は、どんなイメージで歌詞を書いたんでしょうか?
シャラク:“誰かわからないけど、ずっといる”みたいな人っているじゃないですか。紹介されてもいないのに、その人が急に友達っぽく話し掛けてきたりすると“誰だか知らないんですけど…”みたいになるわけで。そういう“何かいる”みたいな人はもう勘弁して下さいっていう曲です。
●まさに“友達の友達は僕にとって他人だから”という歌詞のとおりなんですね。
リウ:“こういう歌詞をこれだけキャッチーなメロディに乗せるか!?”っていうところで、すごく感心しましたね。候補曲が集まった時に、僕はこの曲がシングル(のリード曲)で良いんじゃないかと思っていたくらいなんです。
●3曲全てがリード曲に匹敵するということは、まるで3つの神のような…。
フクスケ:それが…トリムルティです(笑)。
●フリを拾って頂いて、ありがとうございます(笑)。全てがリード曲のような気持ちで毎回、曲を作っている感じでしょうか?
フクスケ:曲を持ってくる時は、常にそういう気持ちです。後になって、バランスを取ったりはしますけどね。
●今作を作るにあたって、候補曲自体は他にもあった?
フクスケ:トータルでは10数曲ありましたね。その中からバランスを取って、ヴァリエーションが出るように選びました。
シャラク:候補の曲出しの時点ではタイトルがまだ付いていないので、自分の名前と数字で曲を表すんですよ。「リウ8」とか「フクスケ6」とかある中で、オイラだけ「シャラク2」くらいまでしかなくて…。自分でも“全然作っていないな”っていう(笑)。
●必然的にバレてしまう(笑)。
シャラク:せめて次からは嘘でも「シャラク5」くらいから出して、“頑張っています”感を出そうかなと思っています。
フクスケ:嘘をつくつもりなら、ここでは言わないほうが良いって!
一同:ハハハハハ(爆笑)。
●何はともあれ結成20周年イヤーということもあって、モチベーションは上がっているのでは?
フクスケ:そうですね。今はライヴ1本1本を大事にやれているので、これからもそれを続けていかないとなとは思っています。
リウ:20周年という節目で、注目されることも増えると思うんですよ。そういうチャンスをちゃんと掴んで、次へ上手くつなげられるようにしたいですね。
シャラク:20周年のお祝いムードだからこそできる規模のことがあると思うんです。それを当たり前にできるようになるための1年でもあるので、すごく頑張りたいなと思っています。
Interview:IMAI
Assistant:平井駿也