VersaillesのVo.KAMIJOのニューアルバム『Sang』が、遂に完成した。2013年1月にソロでの活動を発表してから5年にわたり数々の作品を世に出してきた彼だが、オリジナル・フルアルバムとしては2014年の『Heart』以来となるファン待望の1枚だ。わずか10歳という若さで非業の死を遂げたルイ17世にまつわるストーリーを軸に、過去の作品からの伏線も回収しつつ、壮大なスケールの世界観を描き出していく今作。深い歴史的造詣に基づいて緻密に練り上げられながらも、誰しもが楽しめるポピュラリティとエンターテインメント性も持ち合わせている。重厚なオーケストラサウンドとバンドサウンドを自在に操り、映画音楽とロックの融合を追求する最新型エピックロックサウンドも、聴く者に圧巻の高揚感をもたらす。2017年に10周年を迎えた電子の歌姫・初音ミクとの期間限定デュオによるコラボレーション作品『Sang-Another Story-』も含め、その永遠に尽きない創造性を遺憾なく発揮しているKAMIJO。新たなる傑作とそこに込めた彼の想いに迫る、表紙&巻頭10,000字ロングインタビュー。
●2013年1月にソロでの活動を発表されてから今年で5年目を迎えるわけですが、ブログで“あの時から僕の頭の中にあった物語”と書かれていたように、当時から既に今回のアルバム『Sang』に連なる構想はあったんでしょうか?
KAMIJO:ありましたね。僕はVersaillesというバンドをずっとやっていて、その前はLAREINEというバンドをやっていたんです。“LAREINE”はフランス語で“女王”という意味でマリー・アントワネットのことを指す言葉で、“Versailles”は“ヴェルサイユ宮殿”という意味でもあって。Versaillesが活動休止した時点で、次に自分が選ぶテーマもそこから続くものにしたかったんですよ。そこでルイ17世という人物に目を付けて、題材にさせて頂こうとは思っていました。
●ルイ17世をピックアップした理由とは?
KAMIJO:ルイ17世という人物は10歳で亡くなってしまっていて、とても悲しい過去を持った方なんです。そんな彼の歴史を、明るく塗り替えたいと思ったところが発端ですね。
●悲しい歴史を“明るく塗り替えたい”という発想がまずあったんですね。
KAMIJO:Versaillesの代表曲「The Revenant Choir」(アルバム『NOBLE』収録/2008年)にも“記憶の中の紅い血を薔薇に変えて”という歌詞があって。自分の中にある悲しみや苦しみといった負の部分を閉じ込めたり消したりするのではなく、“変化”させないと、人は前に進めないと思うんですよ。それもあって僕は人の“過去”は、その人の“未来”につながっていると思っているんです。“人の過去をいかにポジティブなものに変えられるか?”というのが、僕が色んな物語を書く根本の理由にもなっています。
●過去の事実は変えられないけれども、その解釈はいくらでも変えられる。
KAMIJO:そうなんです。人って、受け止め方によって全く変わるものだから。人によって、同じ事柄でも受け止め方は全然違うわけですからね。
●確かに。ルイ17世に特別な想いを抱くようになったのは、いつ頃からなんですか?
KAMIJO:2013年に入ってからですね。ちょうど2012年の12/20にNHKホールでのライブをもってVersaillesの活動を休止しまして、その後のお正月にちょっとゆっくりする時間があったんですよ。そこで自分が今後描いていきたいものについて、おぼろげながら考え始めたんです。その時、以前に知ったルイ17世の存在を思い出して、彼のことを描いていこうと思いました。
●そこからルイ17世についての物語を構想し始めたと。
KAMIJO:最初は“ルイ17世を王様にしたい”という想いからスタートしていて。『Symphony of The Vampire』(ミニアルバム/2014年3月)では、彼は自分の心臓をえぐり出して父と母が眠る同じ墓に乗せるという意味での“王”にしかなれなかったんです。でも今回の『Sang』は、より核心に迫った形で“ルイ17世が王になるにはどのような道のりを歩んだら良いか?”というのが見えてくる作品になっています。
●ルイ17世が王になる方法を具体的に考えているわけですね。
KAMIJO:フランス革命の時に死んだとされているルイ17世がもし生き残っていたとして、“どうしたら彼が今のフランスの王様になれるだろう?”ということを僕は常に考えているんですよ。そこから彼が今、エネルギー問題や高齢化社会の問題を抱えている日本に来て…というところも描いていて。
●ブログにアップされているストーリーの中で、ルイ17世は21世紀の日本を訪れていましたね。
KAMIJO:あそこに書いてある、人間の血液を使っての発電に関する研究は実際に行われたことなんですよ。
●えっ、そうなんですか?
KAMIJO:そういった研究をされている方がいて。そこでルイ17世はヴァンパイアだという設定なので、その血液を使えばものすごい電力を作ることができるんじゃないかと思ったんです。血液を使って美しいエネルギーを作り出すことができれば、人の心というのは動くんじゃないかと。そういう“理想世界”を目指していくことで、ルイは王様に近付いていくんじゃないかと思ったんですよ。
●完全に空想の世界のお話ではなくて、エネルギー問題や高齢化社会といった現実的な事象ともリンクしているんですね。
KAMIJO:なるべく事実に基づいて書くようにしています。できる限りリアリティを持たせて、その中でファンの方々が“自分の世界は本当にこういう世界なんじゃないか”と思ってもらえるようになるのが僕の理想だから。どちらが本当の世界かわからなくなるというのが、僕にとっての理想ですね。
●ライブも同じように非日常の世界を具現化することで、普段の日常生活が本当なのか、それともライブのほうが本当なのかをわからなくする狙いがあるのかなと思いました。
KAMIJO:まさにそうですね。今作の1曲目のタイトルになっている「Dead Set World」にも、ちょっと面白い意味があって。〆切を“デッドライン”と呼ぶのはそれが動かせないものだからなんですけど、同じように“Dead Set World”という言葉には”動かない世界”から転じて”理想の世界”という意味があるんです。そういうものをファンの皆さんと一緒に、ライブでは作っていきたいなと思っています。
●今回はアルバムとライブの制作が同時に進行していたそうですが、それだけ密接に関わっているということですよね?
KAMIJO:そうですね。アルバムだけで完結しようとは思っていなくて。逆に言えば、ツアーという楽しみがまだ残っているので、これからも創作活動になります。
●創作活動は永遠に終わらないというか。
KAMIJO:終わらせたくないですね。僕は子どもの頃にマンガをよく読んでいて、特に『名探偵コナン』(青山剛昌・作)が好きだったんですよ。あのマンガって、ずっと終わらないんですよね。少しずつ謎が解けて、それでまた謎が生まれて、ずっと続いていく。そういうものが僕の理想です。
●ブログにも「永遠目指して頑張ります!」と書かれていましたね。
KAMIJO:完結はしたくないんです。自分にとっての“永遠”というのは、“自分自身が永遠でいたい”というよりも、“人に対して永遠でいてあげたい”っていう気持ちなんですよ。たとえば僕の音楽をこれから先もずっと届けたいですし、そういう意味で“永遠”を目指したいと思っています。
●もし作曲者が亡くなったとしても、その人が作った曲は永遠に残っていく。
KAMIJO:ただ活動しているだけだと、永遠には残らないと思うんです。それこそベートーヴェンなんかは、今もずっと演奏し続けられているじゃないですか。「運命」は未だに演奏され続けているし、年末には「第九」も歌われていて。でも僕の曲って、まだせいぜいカラオケで歌われるくらいだと思うんですよね。演奏ももちろんしてくれるとは思うんですけど、コピー/カバーということだけじゃなくて、もっと堂々と世界中で演奏されるようなところまで持っていきたいなと思っています。
●今回の【完全限定受注生産豪華盤】に付属している弦楽四重奏とピアノの生演奏とKAMIJOさんの声のみによる室内楽アルバムは、より広い層に届けるためのアプローチの1つかなと思ったんですが。
KAMIJO:そうなってもらえたら良いですね。でもあれは単純に、昨年の10月にやった室内楽のコンサートが本当に気持ち良かったというところから作ったもので。せっかくだから1枚アルバムを作って、今作に入れてしまおうということでした。
●そういうことだったんですね。アルバム本編の話に戻りますが、今作にも収録されているシングルの表題3曲も最初から一連の物語に沿ったものとして書かれたんでしょうか?
KAMIJO:そうですね。あと、今回の曲順は(物語の)時間軸のとおりになっているんです。
●そう考えると、シングルは時間軸の順番どおりにリリースされたというわけではないんですね。
KAMIJO:僕は曲を作るよりも前にまず“原作”を書くんですけど、それに沿って今作で一番最初にできあがっていたのはM-3「Nosferatu」なんですよ。でもこの曲はライブで結構やっていたので、それよりもまだ誰も聴いたことのない新曲をシングルで出したいという気持ちがあって。すごく久しぶりのシングルだったというもあって、最初にM-10「Castrato」をリリースしました。
●できた順番にリリースしているわけでもない。
KAMIJO:そういうわけではないですね。自分の中で管理している大きな年表があって、常にその年表に基づきながら色んなシーンを曲にしていったりしているんですよ。その中でたまたま曲にしやすいものが先にできたりするんです。
●その大きな年表はいつ頃から作り始めたんですか?
KAMIJO:2013年からです。エクセルの表で、何千年分かの年表になっていて。今作はその中でもメインのストーリーに当たる部分ですね。
●現時点でブログに上げられているストーリー(※第18話)は、どのあたりのお話なんでしょうか?
KAMIJO:「Dead Set World」の前までの物語になります。今までの作品を聴いて頂く際にあのストーリーを読んで頂くと、過去の作品とは全てリンクしているのでよりわかりやすいと思いますね。
●これまでの作品ともリンクしているんですね。
KAMIJO:でも今まではストーリーを前面には出していなかったんです。何よりも曲のメッセージを届けたかったので、自分の書いたストーリーというのは自己満足になってしまうのかなと思っていて。でもある時から、“これは出したいな”と思うようになりました。それで今回はストーリーを前面に出してリスナーの方々に押し付けるくらいの形で(笑)、聴いて頂こうということでやってみました。
●ストーリーを前面に出したいと思うようになったキッカケとは?
KAMIJO:『Sang』の原作が完成に近付くにつれて…というところですね。
●それは『Sang』の原作が良いものになっているという実感があったからでしょうか?
KAMIJO:そうですね。今まで僕は“一番伝えたいメッセージだけが曲を通して抽象的に伝われば良い”と思っていて。ファンの方々が自分で想像できる自由を奪いたくなかったんです。でもいくら僕が伝えたところで、みなさんはさらに自由に想像を広げて下さるわけだから、もっともっと僕の世界を提示していくことこそが自分の役目なのかなと思ったんですよね。
●M-2「Theme of Sang」は、まさに今作のテーマとして書かれたのでしょうか?
KAMIJO:この曲のメロディが、僕の中ですごく大きな位置付けにあったんです。そういう意味で「Theme of Sang」と名付けたところから、スタートしているんですよね。
●このメロディこそが、今作のテーマというか。歌詞はどういった内容なんですか?
KAMIJO:これはブログに書いたストーリーの中で、サンジェルマン伯爵がルイのもとを訪れているシーンなんです。本当にストーリーのままですね。
●この曲は英詞ですが、今作において日本語詞の楽曲との違いは何か基準がある?
KAMIJO:今回(アルバム用に)書き下ろした曲は、全て英詞なんですよ。元々「Theme of Sang」の仮歌を日本語詞で歌ったところ、自分の中であまりピンとこなくて。この曲はメロディが重要なので、だったら1つの音符の中にもっと多くの言葉を詰め込める英語にしようと思ったところがキッカケですね。そうすることで結果としてメロディ自体にすごくノリが生まれたので、その良さに気付いてから全曲を英語に変えてしまいました。
●音楽的な良さをより活かすために英語にしたというか。
KAMIJO:そうですね。もちろん日本語詞で日本人の方にストレートに伝わることの大切さもあるんですけど、今回はメロディをより良い形で伝えたかったんです。英語だったらメロディを変えずに、そのままいけるんですよね。
●逆に日本語でもメロディを変えなくても良ければ、そのままにするわけですよね。
KAMIJO:もちろんです。ただ今回、本当は最後のM-14「Sang III」を日本語詞でも書いていたんですよね。でも最後の1曲だったのでどうせだったらこのまま英語にして、“書き下ろしは全部、英詞です”と言える状態に持っていってしまおうと思って(笑)。
●そこは統一感を重視したわけですね。歌詞を書くのに苦戦した部分もあったんでしょうか?
KAMIJO:今回はトランスレーターの方に入って頂いて、歌いまわしも含めて一緒に考えて頂いたんです。日本語詞を先に書いてからトランスレーターの方に英詞を一緒に考えて頂くんですが、それをメロディに当てはめる作業が何より大変でしたね。そこはプロの力をお借りしながら一緒にやっていったことで、自分自身もすごくスキルアップできたと思います。
●制作はかなりギリギリまでやられていたそうですが。
KAMIJO:歌を録ったのは本当に最近ですね。今回の歌録りは結果的に3日間で終わったんです。いつもよりは速かったんですけど、1日にわりと多くの曲数を録っていたので、さすがに今回はちょっと喉が枯れてしまいました…。
●〆切は決まっている中での制作なので、大変だと思います…。
KAMIJO:本来、僕の中では原作を書いたら、そこでもう完成なんですよ。どちらかと言えば、作詞・作曲することは“レコーディング”の一部と捉えているんです。作詞・作曲って普通はそれ自体が“作ること”じゃないですか。でも僕にとってのそれは“原作を書くこと”なので、それを音楽にすることというのはそんなに難しくないんですよね。“いかに良い原作を作るか”というところが重要なんです。
●まず最初に原作ありきというか。
KAMIJO:そうですね。やっぱりどんな音楽であっても、そこにメッセージであったり、どんなことが書かれているのかというのが一番大事じゃないですか。それがまずできあがってからアルバムの発売告知をして、“さあ、足りない曲を作っていくぞ”っていう流れでした。
●原作を書き終えたのは、いつ頃?
KAMIJO:原作が上がったのは昨年の夏くらいです。でもその後にVersaillesのワールドツアーなんかも入っていたので、なかなかそれだけに集中するというわけにはいかなかったですね。
●“音楽にすることというのはそんなに難しくない”というお話でしたが、制作で煮詰まったりすることはなかったんでしょうか?
KAMIJO:いや、今回は煮詰まりました(笑)。特にM-12「Sang I」とM-13「Sang II」は煮詰まりましたね。
●それはどういったところで?
KAMIJO:今回はギターでMekuくんとAnziくんの2人に参加してもらっていて。当初はMekuくんがアレンジしたゾーンとAnziくんがアレンジしたゾーンという感じで、分けて作ろうと思っていたんです。でもそれにこだわっていたら時間がかかりすぎてしまったので、やめることにしました。曲自体というよりも、素晴らしいミュージシャンたちをいかにフィーチャーするかというところで欲を出しすぎましたね(笑)。
●歌詞や曲自体が出てこなかったわけではないと。
KAMIJO:メロディはいつでも降ってくるので、大丈夫です(笑)。いつでも頭の中に流れていますね。
●そこは心配ないわけですね。要所に入っているSEは、どういった狙いで作られたんですか?
KAMIJO:「Sang I」の冒頭のSEがM-11「Ambition -Interlude-」なんですけど、「Castrato」もシングルの時にイントロが長かったので、それをトラック分けしたのがM-9「Delta -Interlude-」なんですよ。再生した時にすぐに曲が始まらないというのが僕の中で反省点でもあったので、そこにマーカーを打ちたいなという想いがあって。そうするからにはタイトルを決めなくてはいけなかったので、こういう形になりました。
●他のSEはまた意味合いが違ったりする?
KAMIJO:「Dead Set World」は「Theme of Sang」のオーケストラ・バージョンのショート・バージョンという感じですね。M-4「Bloodcast -Interlude-」は新しく作ったインストゥルメンタルで、短いラジオのジングルみたいな感じなんですけど、M-5「Vampire Rock Star」はメディアにヴァンパイアが出演しているイメージなので、それにつながる感じで作っています。
●「Vampire Rock Star」の“メディアにヴァンパイアが出演しているイメージ”というのは…?
KAMIJO:ルイ17世は死んだことになっているので、表に出られないんです。その代わりにサンジェルマン伯爵が表に出るんですよ。そうやって表に出ているサンジェルマン伯爵に対して、ルイは自分自身を重ねていて。“公の場に出たら秘密のことをこんなにも話せるんだ!”という、彼の妄想も入っている曲ですね。
●そういうイメージの曲なんですね。今作の初回限定盤にはストーリーブックレットが付属しますが、そこにはこういったエピソードやブログに書かれているストーリーが掲載されているんでしょうか?
KAMIJO:実は全く違うんです。この物語には“エミグレ制度”とかが関係してくるということがブログには書いてあるんですけれど、そういったところをニュース番組が報道しているような形でみなさんに理解して頂こうと考えていて。ストーリーブックレットはストーリーを読むというよりも、報道番組を見るような形で見てもらうイメージですね。
●1曲1曲についての詳細なストーリーが書かれているわけではない?
KAMIJO:そうではないです。このストーリーの中に入り込むために知っておいて欲しい要素を、メディアを通じてお伝えするという形のものですね。
●それを読むことで、また世界観が補完されていくというか。
KAMIJO:色んなパーツを僕は小出しにしていますので、“色々と知っておいて頂けると世界観の中へどんどん入り込めるよ”という。…伏線を敷きすぎなんですけどね(笑)。
●過去の作品やブログで書かれていることなど、様々なことがつながっているような感覚があります。
KAMIJO:そうなんです。伏線をばらまきすぎていたんですが、今回で全部回収しました(笑)。
●今作は今まで散りばめてきた伏線を回収するようなものになっているんですね。
KAMIJO:なっています。たとえばアルバム『Heart』の表題曲で、冒頭に“死んだ伯爵の首に”という歌詞があって。でも“死んだ伯爵”というのは、そのアルバムの中には出てこないんですよ。その時点でサンジェルマン伯爵のことは一度出してはいるんですけど、その“死んだ伯爵というのは誰だ?”という状態のまま、ファンの方は何年も待つことに…(笑)。他にも「Castrato」の中で“they sang in Castrato”と歌っているんですが、そこで“sang”という言葉を使ったのはこのアルバムを匂わせるためだったりします。
●“sang”にはフランス語と英語で異なる意味がありますよね。
KAMIJO:フランス語では“血”という意味で、英語では“歌った”という意味合いがありますね。
●両方の意味を重ねている?
KAMIJO:はい。だからジャケットに描かれている“Sang”のロゴは、逆さまにしても“Sang”に見えるようにデザインしてあるんですよ。実は今回のアルバムで一番最初にできたのは、このロゴなんです(笑)。
●ロゴが最初にあったんですね(笑)。あと、今回は初音ミクとのコラボレーション作『Sang-Another Story-』も同時リリースされるわけですが、こちらもアルバムと設定がつながっているんですよね。
KAMIJO:“Another Story”ですからね。前から彼女の存在は良いなと思っていて、今回の『Sang』のイメージとピッタリなので“ぜひ一緒にやりたい”ということでこちらからオファーしました。
●どういったところに惹かれたんでしょうか?
KAMIJO:初音ミクちゃんはヴァーチャルシンガーといえども、僕のようなリアルなシンガーと結局思っていることや感じていることは一緒なんじゃないかなと思うところがあって。あと、ヴァンパイアが永遠の命を持っているように、彼女は永遠の歌声を持っているから。そこも彼女に惹かれた理由ですね。
●“Live Tour 2018 -Sang-”にも、スペシャルゲストとして参加されるそうですね。
KAMIJO:そうなんですよ。「Sang-Another Story-」をステージでやるのは本編が終わってからになるので、特別にそういうブロックを作ろうと思っていて。数曲なんですけど、初音ミクちゃんのファンの方にも楽しんで頂けるライブになると思います。なかなか小さなライブハウスで初音ミクちゃんの歌を聴く機会もないと思うので、楽しみにして頂きたいですね。
●今回のツアーでは、ステージに“過去と繋がれた額縁”が設置されるそうですが。
KAMIJO:特別な額縁を作っていまして、それを設置します。その額縁は過去にも未来にも繁がっているという設定なんですよ。
●そういったところも含めて、特別な演出を体感できるライブになるのかなと。
KAMIJO:2014年からソロでのライブ活動をスタートして、ちょうど4年くらいになるんです。今までの形態でのライブももちろん良い形を作れてきたんですが、もっとストーリーを伝えられるような、そしてもっと皆さんに感動してもらえるライブができないかなと模索して今回の形に至りました。2年前のツアーでは自分でセリフを言ったり、色々なことにチャレンジしてきたんですよ。でも今回は語りとかではなくて、プロの声優さんに入って頂いて本格的にストーリーを演じて頂くので、より楽しんで頂けると思います。
●声優さんを入れるのも、よりライブを充実させていくためというか。
KAMIJO:そうです。たとえばTVドラマだったら、ものすごく良いシーンでエンディングテーマが流れるじゃないですか。僕は全曲でそれをやりたいんですよ。そのために今回は声優さんに声の演技をして頂いて、良いところで次の曲に行くという形にしました。
●映画やドラマでエンディングテーマが流れることで生まれる盛り上がりや興奮を、全ての曲で作り出そうとしている?
KAMIJO:そういう感じです。たとえば僕のMCや曲に入る前の空気が違えば、全然変わると思うんですよね。それこそラジオで曲をかけて頂く場合も、やっぱりDJの方が何と言ってから曲に入るかで印象が全然違うじゃないですか。もしかしたら今回のライブをすることで、曲に対する重みというものが全く変わるんじゃないかなと思っているんです。
●今回のツアーによって、また新しい謎が生まれたりもするのでは?
KAMIJO:そういったところも散りばめながらやっていきたいですね。ただ、皆さんに対して“わかりにくさをなくす”というのも今回のテーマとしてあって。いかにわかりやすく感動して頂くかが大事だと思っています。僕の世界は、すごくわかりにくいので…(笑)。
●自覚しているんですね(笑)。
KAMIJO:はい(笑)。それもあって、今回はブログにストーリーを出していくことにしたんです。誰にでも伝わらないと、意味がないと思うから。
●本当に普遍的なものを作ろうとされているのかなと感じました。
KAMIJO:普遍的なものを作りたいんですよね。自分が目をつけてしまうものって、ルイ17世の存在自体もそうなんですが、非常にマイナーな歴史上のお話だったりするんですよ。でもそこに陽の目を当ててあげたいというか。女の子だったらシンデレラストーリーと同じで、そういう(不遇な)少年が這い上がっていく物語をマイナーなお話じゃなくて、メジャーなお話にしてあげたいんです。
●NHKの大河ドラマや朝ドラで取り上げられたことがキッカケで、それまでマイナーだった歴史上の人物が一気に認知度を上げたりするのに近いのかなと思います。
KAMIJO:はい。結局、大河ドラマを観ている時って、“何年何月に誰が何をしたか”なんて関係なく感動できるじゃないですか。そういう感覚で“歴史物”とは思わず、まずは味見して頂けたら嬉しいですね。
●もっと広い人たちに触れて欲しいという想いがある。
KAMIJO:そのためにも今作のM-7「Mystery」という曲は、すごく客観的な目線で描いていて。ヴァンパイアやサンジェルマン伯爵のように色々な謎がこの世の中にはたくさんあるけれども、そういったものが“謎”だとわかった時点で人はそれを知りたくなるし、そこに可能性が生まれるんだよと。それがなくならないようにしていこうというメッセージをこの曲には込めているんです。“世の中には謎や秘密がいっぱいあるけれど、それが楽しいんだよね”という視点で歌詞を書いてみました。
●逆に謎が全くない世の中というのは、楽しくない気がします。
KAMIJO:そうですよね。これからもやっぱりどこか包み隠しつつ、“また隠しすぎたから出すね”っていうような形でやっていきたいと思っています。常に驚きを用意しながら進んでいきたいし、謎を明かす時には驚かせたいですね。
Interview:IMAI