KEMURIが通算13枚目のフルアルバム『【Ko-Ou-Doku-Mai】』をリリースする。タイトルの語源である“孤往独邁(コオウドクマイ)”とは、“周りや他人の動向に左右されず、自らの信じた生き方を突き進むこと”を意味する言葉だ。2017年はクラウドファンディングを利用して東名阪での入場無料ツアーを実現するなど数多くのファンと仲間たちの支持を受けながら、20周年を超えた今も未知なる領域へと進み続けている彼ら。現在の環境や周囲の人々への敬意と愛情を大切にした上で、心の声に従って踏み出した先に広がる未来はきっと明るい。
「“結局は自分なんだな”って思うから。色んなことを言う人もいるけど、本当に聞くべきものは(自分自身の)心の声なんじゃないかなと思いますね」
●昨年はクラウドファンディングを利用して東名阪での入場無料ツアーを実施されたりと、KEMURIは常に新しいことに挑戦し続けている印象があります。
伊藤:“誰もやったことのないことをやりたい”とか、“自分たちにしかできないことをやりたい”っていう気持ちは強いですね。
●ああいったことに取り組んだのは、新たな層に知ってもらいたいという気持ちもあったんでしょうか?
伊藤:そうですね。新しいところにも広げたいし、なるべく色んな年代の方に聴いてもらいたいという気持ちがありました。クラウドファンディングの特典でライブ前のリハーサルを観覧できる権利があったんですけど、中学2年生の娘さんと一緒にいらっしゃった方がいて。その子がベースをやっていて、KEMURIも大好きでコピーしてくれているということだったんですよ。そこでリハをやっている時に「1曲、一緒にやってみる?」って無茶ブリをしたら、上手に弾いていましたね。
●本人にとっては最高の経験でしょうね。
伊藤:すごく集中して、一生懸命弾いてくれました。「こういうのは長くやっていないと経験できないことだな」って、メンバーみんなで喜びましたね。
●他にもメンバーの私物の楽器がもらえたり、色んな特典を選べるのが面白いなと思いました。
伊藤:クラウドファンディングって、自分のお金を好きなように使えるっていうところがやっぱり面白いんじゃないかな。選択肢を自分で選べるというか。
●あとは東名阪での無料ツアーを実現したりと、メンバーと一緒に何かを作っている感覚が得られるのも魅力かなと。
伊藤:そこが一番やりたかったところだから。“我々がこういう提案をするので、そこでみんなに自分で楽しみ方を考えてもらえないかな?”っていうところから始まっているんです。“イチから何かをみんなで作る”っていうのは、大きなテーマでしたね。
●そういった活動も経て通算13枚目のフルアルバム『【Ko-Ou-Doku-Mai】』を今回リリースするわけですが、制作に入る前から何かイメージはあったんでしょうか?
伊藤:毎年アルバムを作り続けることで見えてきた、自分たちの中での“何か”を形にしたかったというか。自分の場合はその中で生まれてきた言葉であったり、曲を作る人たちはそれぞれが大切にしたいメロディであったり、作り続けるからこそ出てくる“何か”があると思うんですよね。それをあまりイジらないで、そのままアルバムにしようと思ったのが今回のアルバムなんです。結果的に、そういうものになったと思います。
●これまで制作を重ねてきた中で個々に生まれてきた“何か”を、できるだけ自然な形のままで出すというか。
伊藤:リハーサルをたくさんやって、みんなでどうのこうのして、制作にすごく時間をかけるという感じではなかったですね。すごくナチュラルに、ササッとできた感じです。
●あえて時間をかけすぎないようにした?
伊藤:かけようと思えば、いくらでも時間をかけられるから。それをせずに前作からの1年間だったり、今日の自分たちをどういうふうに詰めこんだアルバムにするか。そして、またその1年間で見えてきた未来に対する芽をどうやって音や言葉にしていくかということをテーマに作りました。毎年アルバムを作ってきたことの意義や意味が、そこにあるのかなって思います。
●1年1年を過ごしてきた中で見えてきたものが作品に活かされている。
伊藤:1年を過ごしていく中で音楽活動がもちろん真ん中にはあるんだけれど、人生の色んなワンシーンを経験する中で“こんなことがあるんだ!”というものがあって。そういうことが1つ1つ、新しい扉になっていくんだと思います。
●人生のワンシーンという意味では、今回のM-3「FATHER OF THE BRIDE」は娘を嫁に出す父の気持ちを描いていますが、実際にこういうシチュエーションを体験されたんでしょうか?
伊藤:自分自身にそういうことがあったわけではないですね。その曲を作ったのはDr.(平谷)庄至くんで、彼の娘は今年就職するんですよ。もう立派な大人なんですけど、KEMURIに庄至くんが入ってきた当時はまだ赤ちゃんで。「随分長い時間が経ったもんだね」という話はしていたんです。そんな想いもあったので、“FATHER OF THE BRIDE”っていう言葉が彼の作った曲にはしっくりくるんじゃないかなと思いました。
●バンドとしても人としても長い時間を経てきたことで生まれる想いが、今作の歌詞には表れている気がして。M-1「I BEGIN」で「死に直面したとき微笑んでいたいから… 成し遂げたいことがあるんだ!(※和訳)」という言葉も、死を意識するような年齢になったからこそ出てくるものなのかなと思ったんです。
伊藤:今回のアルバムには“死”とか“戦争”といった言葉も出てくるんですけど、自分の中では“生きていること”や“命”を賛美したいという気持ちで全部書いたんです。だから“死に直面した時に満足していたい”という表現はしているんだけれども、それくらい“生を満喫したい”ということだし、それくらい“命を大切にしながら今を生きていきたい”っていう気持ちの表れなんですよね。
●“命”や“生きること”へのポジティブな想いを表現している。
伊藤:“寿命”というものも当然あるんだけど、気持ちとしては“必ず死ぬんだけど、そこまでどういう生き方をするか?”ということや“命をどう扱うか?”ということのほうが大きいかなと思います。やっぱり“生きている”っていうこと以上に素晴らしいことはないなと、強く感じていたから。何が理由かはわからないんですけど、このアルバムはそういうことをテーマに置いていました。
●そういうテーマがあったんですね。
伊藤:納得の“いく/いかない”は当然あるんだけど、ちゃんと生きるためにはちゃんとした環境が必要じゃないですか。自分だけでちゃんと生きようと思っても、そのための環境がなければ生きられないわけで。そういうことを、この1年で強く感じるようになったのかな。
●明確な1つの出来事がキッカケになっているというよりは、ここ1年間で感じたことがそういう形になっているというか。
伊藤:生きていく中で色んな景色を見て…ということですね。アメリカへ前作(『FREEDOMOSH』/2017年)を作りに行った時は、ちょうど大統領選のすぐ後だったんですよ。そこで(トランプ政権に)反対していた人々が絶望的な気持ちになっている姿を見て“なぜなんだろう?”と思って、当時はいまいち理解できなかったんです。でもそれから1年ちょっと経ってみて、“こういうことなのかな”と感じられるようになったということも1つの要因にはなっていると思います。
●時が経つことで、わかるようになる感覚もある。
伊藤:そうですね。これまで13枚のアルバムを作ってきたわけですけど、基本的には“PMA(Positive Mental Attitude)”というものを大切にして、言葉を詰めていったり、バンド活動をしていこうと考えているんです。それをより歳相応の、どこか味わいがあって、深みのあるものにしていきたいという想いはすごく強くて。
●芯にあるものは変わらないままで、味わいや深みを増していきたい。
伊藤:それは一朝一夕にポロっと出せるものじゃなくて、ひたすらやっていく中でしか出てこないものなんです。そういうものもあって、今回のアルバムには自分たちの中でより楽しくて、より深みのあるものを込められたんじゃないかなと思っています。
●ちなみに今回はM-4「MIRAI」と表題曲のM-10「Ko-Ou-Doku-Mai」が日本語詞ですが、どちらも最初からそういうイメージがあったんでしょうか?
伊藤:いや、特にはなかったかな。「MIRAI」は、“未来は明るい”っていう言葉をメロディに乗せて歌ったらどうなるんだろうかという発想からできた曲なんです。「Ko-Ou-Doku-Mai」の歌詞は、何度か書き直したんですよね。英語で書いたりもしたんだけど、どこか上っ面な感じがして。日本語のほうがより良いんじゃないかと思って書き始めたら、“孤往独邁”っていう言葉がピタッとハマったんですよ。
●“孤往独邁”は、伊藤さんの中でどういう意味で使われているんですか?
伊藤:簡単に言うと、“自分の道を進むぞ”っていうことですね。でもそれは今ある環境や周りにいる人に対する敬意や愛があった上で、“自分の人生を進ませてもらいます”というニュアンスで付けたんです。
●ただ我が道を行くということではなく、周りへの敬意や愛を持った上でそうすることが大事なんだと。
伊藤:そうですね。やっぱり応援してくれるファンの人たちや支えてくれる家族がいて、我々メンバー1人1人は音楽をできているわけで。そういうことを考えると、もし20年前の自分が今の自分を見たとしたら“未来は明るいんだな”って思うはずなんですよ。今後もそうしていくためには独りよがりにならないで、“孤往独邁”っていう言葉を大切にする必要がすごくあるなと感じたんです。やっぱり親が2人いないと、人は生まれないわけで。それと同じようにメンバーがいないと音楽もできないし、家族やファンがいないと味も素っ気もないものになってしまう。
●そういう人たちがいたから、ここまで来ることもできたわけですよね。
伊藤:そこで“さぁ、ここから50歳”っていう自分の中でも未知なる領域に進んで、音楽をしていくわけですよ。そういうポイントに立った時に強く思ったことが、“孤往独邁”っていう言葉に体現されたんじゃないかなと思っています。
●50歳になられてもなお、年齢を重ねることを“未知の領域に進んでいく”とポジティブに捉えられるのが素晴らしいなと思います。
伊藤:“加齢”っていうのは良いものですよ。そう思うためには自分が何を一番愛しているかを考えて、本当に愛しているものを突き進めていかないと、どんどん厳しくなってきちゃう。“隣の芝は青いな”と見ているばかりでフラフラしていたら、どこかで破綻するんですよ。そういう意味で…警鐘も含めて、今回はこういう歌を歌いました。
●20年前の自分が見た時に“未来は明るい”と思えるような“今”を生きないといけない。
伊藤:まぁ、その時はそうは思わなかっただろうけどね。今も20年後にどうなっているのか、不安のほうが大きいですよ。でも“結局は自分なんだな”って思うから。色んなことを言う人もいるけど、本当に聞くべきものは(自分自身の)心の声なんじゃないかなと思いますね。
●心の声に耳を傾けつつ、本当に自分が愛せることや好きなことをやり続けることが大事なんですね。
伊藤:そう思いますね。KEMURIが大好きだし、メンバーも大好きだし、音楽も大好きだから。やっぱり“好きなことじゃないと続けられない”って、本当にそのとおりだと思うんですよ。今回13枚目のアルバムを作れて、本当に良かったなと感じていて。毎日聴いているけど、すごく良いアルバムができたなって思いますね。
Interview:IMAI
Assistant:平井駿也