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ザ・スロットル

ジャンルも時代も超えて進化する5人が、 ロックン・ロールを新時代へ突入させる。

メンバーチェンジを経て新体制となったザ・スロットルが、2ndアルバム『A』を完成させた。ロックン・ロールやブルース、ジャズといった古き良き音楽を根底に持ちながらも、そこだけにはとどまらないのが彼らの真骨頂だ。音楽の歴史を辿るようにニューウェーブやヒップホップから最新のポップスまで独自のフィルターを通して昇華し、1つのジャンルや時代に囚われない全6曲を作り上げている。ここに至るまでの経緯と今後の野望に迫る、メンバー全員インタビュー。

 

「音楽で食っていくのは難しい時代ですけど、“ゆえに”なんです。俺らがシーンを変えて、マーケットを変えて、そして“ロックン・ロール、新次元へ突入”っていう感じですね」

●前作の1stアルバム『LET'S GO TO THE END』の頃に比べて、今回の2ndアルバム『A』ではヴィジュアル面のイメージがかなり変わりましたよね?

高岩:変えましたね。でも無理矢理変えたという感じではなくて、自然な流れではあって。俺らはずっと革ジャンを着て路上ライブをやっていたんですけど、基本的にロカビリー風というか、3コードのロックン・ロールしかやっていないんですよ。ああいうことをやると(見た目に)わかりやすいので、外国人とかも集まってきやすいじゃないですか。

●確かに人目は引きますよね。

高岩:そういう狙いでやっていたんですけど、僕らは本来“日本語のロック”っていうもっと大きなスターダムに向かって“ザ・スロットル”という旗を掲げていたわけなんです。でもそういうイメージが付きすぎてしまったために、“打破しないといけないな”というところで前々からみんなで頭を悩ませていたんですよね。ということがあって今回2枚目のアルバムを出すとなった時に、レーベルスタッフも含めて話し合って。そこで“もうジャンルとか関係なく、アンチが増えるくらい本当に意味がわからないものにしようぜ”っていう話になって、今回のアルバムが生まれました。

●イメージを変えたいという想いがあっての今作だったと。2016年末でストリートライブを卒業したのもそういった理由から?

高岩:それもありますね。自慢にはならないですけど、路上ライブに関しては本当にやり尽くしちゃったから。バンドセットでやった回数は、ここ10年くらいでナンバー1なんじゃないですかね。それでもう足を洗ったというところです。

熊田:そんなにしつこくやることでもないですからね。

成田:“もう次のステップへ行こう”っていう感じでした。

●自分たちの中でやり切った感覚もあったので、次のステップへと向かうことにした。

高岩:もう裏付けはできたかなっていう。“ロックバンド”っていうところで破天荒でブッ飛んだものというか、そういう存在にはストリートでなれたから。だから、こういうアルバムも出せるというところはあるかもしれないですね。

●YouTubeにあがっている“GOODBYE ON THE STREET”の動画を見ると、高岩さんが“抑圧”という言葉を何度も口にしているのが印象的で。社会的な規範や凝り固まった常識への反発もありつつ、音楽的にはジャンルに縛られがちなことへの“抑圧”からも今回は吹っ切れたのかなと感じました。

高岩:それはありますね。みんながみんな“良い”と言われているものを聴くようなところってあるじゃないですか。でももっと他にもイケているものはあるし、たとえばヒップホップとかレゲエもすごくイケているわけで。そんな中で俺らはロックの時代が来ると思って今は下積みを一生懸命やっているので、そういうものに反発する気持ちはすごくあります。ストリートでやっていると、日本人ってだいたいバカにされるんですよ。

●というのは?

高岩:やっぱりロックってファッションも含めて、アメリカの文化じゃないですか。日本に輸入されてきたそういうものを俺らがやるとなったら、“パクリ”になってしまうんですよね。外国人が狂言を演じても、サマにならないのと同じというか。だから、絶対にそれ(※元々のもの)を超えられないはずなんです。

●オリジナル以上にはなれないという固定観念がある。

高岩:そういうものからの抑圧を俺らはすごく感じていたんです。でもそれを超えていきたいというのが、俺らが元来持っていたイデオロギーだったから。そういう意味で、ストリートもやっていたんですよね。今回のアルバムはそこから吹っ切れた感じはあるかもしれないですね。

●“GOODBYE ON THE STREET”の動画では殺気すら感じさせる表情をしていたところから、M-1「Rock This Town」のMVでは真逆のハッピーな空気を漂わせていて。同じストリートを舞台にしながらも正反対の印象を残すところに、内面の変化が顕著に出ている気がしました。

高岩:(「Rock This Town」のMVでは)みんな、笑っていますもんね。確かに自分で見ても、人が違うくらいの感じがします。

成田:路上ライブをやっていた時って、常にムカついていたんですよね。それも絶対にあると思います。

熊田:現状打破がしたくて、常にイライラしていました。

●苛立っている感じは漂っていますよね。

高岩:それが良いヴァイヴスやニトロになっていたというところもあったんですけどね。でも路上ライブって、そこまでなんですよ。

熊田:YouTubeで路上ライブの様子を見ても、ロックン・ロールをやっているヤツらが謎にキレて“ウォーーーーー!”ってやっている感じの見え方なんですよ。“ロックン・ロール+狂気”みたいなイメージがあって(笑)。

成田:マジでそれだよね(笑)。でも実際は違うっていう。

●そういうイメージに惹かれる人もいれば、逆に引いてしまう人もいるわけで。「Rock This Town」のMVで見せている明るいイメージの方が間口は広いし、そこから新しい音楽に出会う可能性も広がるというか。

高岩:それは間違いないですね。

菊池:ジャンルに関係なく“好きな音楽は好きだ”っていう気持ちになりたいから。自分自身もジャズの勉強を始めてからは、“俺はジャズだけでやっていく”という気持ちになっていた時期もあったんです。でも彼らの音楽に路上で出会って“こういう音楽も好きだったじゃん”と気付いてから、色んな音楽を聴くようになったりもして。僕にとっても、そういうキッカケをくれたバンドなんですよね。

●「Rock This Town」でも“細かなジャンル分け 気にしない”と歌っていますが、本当に今回はバラエティ豊かなものになっているなと。

高岩:そうですね。メンバー全員が作曲しているんですけど、勝手にそうなっちゃったというか。“〜年代っぽく”とか僕らの中でミーティングしたわけじゃなくて、“とりあえず各々が曲を作ってみようよ”という話になったんです。それで出来上がったものが、こんなにバラバラになっちゃったというだけで。

飯笹:成り行きですね。“やっていたら、こうなった”みたいな。

成田:“各々がやりたいことをやってみよう”ということで作ってきたら、こうなったという感じです。

●それぞれが今やりたい曲を持ち寄った感じでしょうか?

成田:というよりは、1曲ずつできていった感じです。それをみんなで聴いている中で「だったら、こういう曲もあったほうが面白いんじゃないか」という感じで誰かがまた次の曲を持ってきたりして。

高岩:あと、“歌える曲”というか“耳に残る曲”みたいなテーマはあったと思います。

●歌やメロディに重点を置いて作った?

成田:歌やメロディに重きを置くというのはあったと思います。

熊田:まず路上ライブのイメージがあって、そこから前作を作ったんですけど、元々はみんなメロディや歌が好きだから。でも路上ライブをやっているうちに、いつの間にか“ウォーーーーー!”みたいな感じになっていって(笑)。それに対して“ちょっと待って! ちょっと待って!”っていう感じだったんです。前作も勢いがあってカッコ良いんですけど、遼の歌が持っている良い部分を全ては出せていない気がしたんですよね。もっと違う見せ方があるというか。遼はそういうポテンシャルを持っている人間だと思っていたので、曲作りをする上で“歌を活かす”という大きな括りでのコンセプトはあった気がしますね。

●実際、今作の歌は高岩さんの声が持つ色んな表情や魅力を発揮したものになっているなと思いました。

高岩:俺のキャラクターが6人いますからね。曲に合わせて歌い方を変えたし、主人公になりきってナルシストになって歌いました。前作はどの曲もハイトーンで“イェェェーーー!”っていう感じだったんですよ(笑)。でも今回は違いますね。

●そういう歌い方との違いが最も顕著なのが、M-6「It’s Alright」でしょうか。

成田:本当に新境地だよね。

高岩:これは辞めた向後さん(※向後寛隆/2017年10月脱退)が作ったんですけど、仮タイトルが「ジャスティン」だったんですよ。“ジャスティン・ビーバーっぽい曲”で、かつ“ビルボードのトップ100に入るような、スタジアムバンドっぽい感じ”で作ると彼が言っていて。そういうTOTOとかU2みたいなものと、ジャスティン・ビーバーっぽいコード進行を組み合わせて作ったらしいので、本当に新境地的な曲ですね。

●ちょうど向後さんの話になりましたが、メンバーチェンジがあったことも次のステップに行こうとするキッカケになったのでは?

高岩:めちゃくちゃなっていると思いますね。まず飯笹が“Machine”担当で入ってPCを置いてライブをやっているというのが、今までの俺らからしたら考えられなかったことなんです。電子音を入れたりはしたいと元々思っていたんですけど、なかなか簡単にできるようなものじゃないというのもあって。

飯笹:前から路上ライブを見てきた僕も意外だったというか。“入れて良いんだ?”という感じでしたね。

●外から見てきた人間としても意外な気がした。

高岩:(新たに入った飯笹と菊池の)2人はストリートライブを見に来ていたんですよ。

飯笹:よく新宿や渋谷でのストリートライブを観客として見ていました。その時はこうやって加入するなんて、思ってもいなかったですけどね。

菊池:僕も本当に予想していなくて。僕はジャズミュージシャンで、彼(※高岩)も普段はジャズを歌っている人だったのに路上ライブでロックン・ロールをやっていると聞いて、最初は“何をやってるんだ?”っていう冷やかしのつもりで見に行ったんです。そしたらすごくカッコ良くて、そこからライブに通うようになりました。

成田:一番の決め手としては、最初からザ・スロットルへの愛がすごかったというところでしたね。

●ザ・スロットル愛が強かったんですね。

高岩:自分のコントラバスのケースにザ・スロットルのエンブレムを縫い付けているくらいですからね。ジャズの現場で一緒になった時にそれを見て、「おまえ、何してんの?」って言いました(笑)。そういう話をメンバーにもしていたんですよ。

成田:才能もあって、愛情もあるので藍が良いんじゃないかなって。あとはみんなと気が合いそうっていうのも大きかったです。ザ・スロットルって“ファミリー感”みたいなものがあるので、そういうところも含めて私の中では“藍しかいない!”という感じでした。

●プレイだけではなく、人間性も含めて良かったと。

高岩:ジャズマンがメンバーにいるというのも、ミクスチャーな感じがして良いなと。もしリーゼントでバリバリのロックンローラーが入ってきても、今作みたいなものはたぶん生まれなかったと思うんですよ。だから、2人には感謝しています。

●飯笹さんの電子音もすごく良いアクセントになっているというか。

飯笹:基本的にMachineの出す電子音が、どの曲にもバランス良く入っていますね。特にM-5「Horror」ではサンプリングした遼の声をちょっとトーンを下げて使ったり、“ギロみたいな音が欲しいよね”ということで扇風機の音を使ったりしていて。色んな音をサンプリングして混ぜたものを曲の中でバンバン使っているので、かなり盛りだくさんな感じではあります。

●そういう曲もありつつ、M-3「You Can Make It!」は今作の中でも特に疾走感があって、キャッチーな曲かなと。

成田:これが一番、ロックン・ロール寄りなのかな。

高岩:今までのイメージを一番残しつつ、“でも面白いことをやりたいな”っていうのがあって。何より歌詞がダサい! “北と南 別れた あの日の僕らは”なんて、どこのどいつの口が歌うんだっていう…いや、自分が作ったんですけどね。

一同:ハハハハハ(笑)。

●意図的にそういうものにしたわけですよね?

高岩:この曲の仮タイトルは「ワンピース」だったんですよ。アニメの『ワンピース』の中で流れたら良いなっていうイメージがあって。俺らはどうしてもちょっとマニアックな方向になっちゃうので、“大衆的ってこういうことなのかな?”っていう感じで作ってみました。

●アニメの主題歌に選ばれたりして、ヒットしたい気持ちがある?

高岩:ヒットしたいです! お金が欲しいです! こんな生活はもう嫌です!

●こんな生活って(笑)。

高岩:高級車に乗ったりしたいんですよ。特にザ・スロットルに関しては“とりあえず富と名声を掴みに行こうよ”っていう手段の1つとして、その始まりがロックン・ロールだったというだけで。だから本当に、高級車を転がさないと死ねないですね。“父ちゃん母ちゃんに家を建ててあげないとね”っていう。

●今は音楽でそういうサクセスがイメージしにくい時代だと思いますが、そんな時だからこそ大きな夢を目指すことに意味があるというか。

高岩:確かに音楽で食っていくのは難しい時代ですけど、“ゆえに”なんです。俺らがシーンを変えて、マーケットを変えて、そして“ロックン・ロール、新次元へ突入”っていう感じですね。

Interview:IMAI

 

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