心の琴線に触れる良質なメロディと轟音ノイズギターが絶妙に融合したサウンドを北国・岩手から鳴らしてきた、PLASTIC GIRL IN CLOSET。これまでシューゲイザーに根ざした5枚のアルバムを作ってきた彼らが、石田ショーキチ率いるSAT recordsに移籍して3年ぶりの全国流通盤をリリースするに至った。石田のプロデュースによって、レコーディングはもちろんのこと音楽の基礎教育から受け直した上で制作されたという今作『Lesson 1』。初期3作から代表曲をセレクトしてリテイクしたセルフカバーベストアルバムという形ではあるが、そのいずれもが生まれ変わったかのような輝きを放っている。ここから飛躍的な成長を遂げていく3人の新たな一歩となる傑作の誕生だ。
「“初期ベスト”みたいな形にはなっているんですけど、あくまでも“新作”という感覚で僕たちは作ったんです。“Re-Recording BEST”といっても後ろを向いているわけじゃなくて、“前しか見てねえぞ!”っていう意気込みでいます」
●今回の新作『Lesson 1』はレーベルを移籍して3年ぶりの流通盤リリースになるわけですが、ここに至った経緯とは?
高橋:これまでに出してきた5枚のアルバムでは、僕らはずっと“シューゲイザー”というジャンルにこだわってやってきたんです。でもリスナー目線で考えた時に自分たちは色んなジャンルの音楽が好きなのに、その中であえて1つのジャンルだけに絞ってやっていることに少しずつ違和感が生まれてきて。前に所属していたOnly Feedback Recordはシューゲイザー専門のレーベルだったので、自分たちもどこかそれに寄せようとしてしまっていたというか。そこが“移籍したい”と思うキッカケでした。
●違和感を感じ始めたのは、前作の5thアルバム『eye cue rew see』を出した後?
高橋:いえ、『eye cue rew see』を作っている時から、既に「歪みはいらないな」と思い始めていて。必要のない曲にまで、歪みを重ねちゃっていたから。それによって悪くなっていたわけではないんですけど、無理に入れることもないなと。“リバーヴや歪みを楽器の音にかけて、歌のボリュームはちょっと小さめにして…”みたいなやり方にちょっと疑問を感じつつも、前作は作っていたんです。
●前作では疑問を感じつつも、シューゲイザーのマナーに則った方法を取っていた。
高橋:そうやって出来上がったものを客観的に聴いた時にやっぱり表現として適切なものもあれば、逆にそうじゃない曲もあるなと思って。だから別に“脱・シューゲイザー”っていうわけじゃなくて、もっと視野を広げて音楽をやっていきたいなっていう想いがあっただけなんです。レーベルを移籍したのも、自分たちが“先に進むために”という判断でした。
●他のメンバーも同じようなことを感じていたんでしょうか?
須貝:感じていましたね。やっぱり私も色んな音楽を聴くから。シューゲイザーというものを意識して5枚もアルバムを作ってきたけれど、これからもっとたくさんの作品を作っていくと考えたら“このままじゃダメだな”っていう想いはありました。
津久井:今でもすごくシューゲイザーは好きなんですけどね。やっぱり自分たちも歳を取ってきた中で聴く音楽も広がったし、考え方も変わってきたという部分はあると思います。
●そういった経緯を経て今回は石田ショーキチさん主宰のSAT recordsに移籍したわけですが、元から知り合いではあったんですか?
高橋:ショーキチさんには10年くらい前から音源をリリースした時にコメントを頂いたり、ずっと気にかけて頂いていて。この3年の間も、僕らから“どうしたら良いんでしょうか?”という相談をさせてもらったりしていたんです。ライブ後にアドバイスを頂いたり、新曲を聴いてもらったりもしていたんですよね。
●交流はかなり前からあったと。
高橋:そうこうしているうちにショーキチさんが新しく事務所を構えて、レーベルとしての業務も始めることになったんです。そこで僕らも出させてもらおうという話になって、上手くタイミングが合った感じですね。
●それはいつ頃の話?
高橋:去年くらいですね。
●リリースがない間も、曲はずっと作っていたんでしょうか?
高橋:これまでも1年に1枚のペースでアルバムを出していたので、曲作りは絶えずやっていたんです。だから、新曲も結構な数があるんですよね。前のレーベルを離れてから作ったものが多いのもあって、色とりどりな曲があります。
●シューゲイザーという枠に囚われずに曲を作るようになったことで、バラエティも広がったのでは?
高橋:そこは大きかったですね。もしそのままの方向性でやっていたら、きっとボツになっていた曲もあるんだろうなと思います。
●そんなに新曲がたくさんある中で、今回の『Lesson 1』は過去の楽曲をリテイクしたセルフカバーアルバムという形になったのはなぜ?
高橋:実は半年くらい前まで、僕は自分の弾いているコードの名前すらもわからないほど音楽についての知識がなかったんです。本当に感覚だけで音楽をやっていたというか。そういったところから今作に至るまでの間に、ショーキチさんには五線譜の読み書きだったり基礎的なことを色々と教えてもらったんですよね。
●音楽的な基礎知識を学んだと。
高橋:そもそも今まで出した5枚のアルバムはどれもスタジオレコーディングじゃなくて、宅録だったんです。しかも曲によっては打ち込みのドラムだったり、ベースを僕が弾いている曲もあったりして。この3人でもう長くやってきたわけだし、今回は外部のアドバイスも取り入れた上で今まで作ってきた曲をちゃんと全員でやるところから始めようと思ったんですよね。それによって、今まで出してきた曲も生まれ変われるというか。
●過去の曲を生まれ変わらせるところから、再出発しようと考えた。
高橋:“Re-born”みたいな感じですね。まずはそれをやってから、新しい曲を出していきたいなと思ったんですよ。だから今回は特に大きくアレンジを変えたりはしていないんですけど、とにかく良い音でちゃんと録音して、ちゃんと演奏して作ったアルバムだと思います。
●ちゃんとした知識や技術に基いて、過去の楽曲を甦らせたわけですね。『Lesson 1』というタイトルは、石田さんから色んなレッスンを受けた上で完成した作品ということを表している?
高橋:本当に“これしかないな”っていうタイトルですね。録音をする前から受けてきたショーキチさんのレッスンを踏まえて作ったので、すごく力強い作品になったと思います。今までの自分たちに欠けていたものを補った上で、ちゃんとした形で出せたというか。そういうものを“第2期PLASTIC GIRL IN CLOSET”の、初めの一歩として出したかったんです。
●自分たちでも大きな進化を感じられているんでしょうか?
津久井:今作を自分で聴いても、本当に今までと全然違う感じがするんですよね。“ベースが少し変わるだけでこんなに違うんだな”ということを特に実感していて。
須貝:ベースに関しては今まで淡々と弾いていたところから、音程は変えないままで「リズムをこういうふうにしたら良いんじゃないか?」といったアドバイスをもらったんです。そのおかげで、グルーヴ感を感じられるようになったんですよね。
高橋:一般のリスナーの方にはそこまで変わっていないように思われるかもしれないんですけど、全体としてのグルーヴにつながるような直し方をしているので、結果として力強さが増しているんです。
●グルーヴ感が出たことで、力強さが増したと。
須貝:あと、歌もすごく変わりました。
高橋:リスナーの方が一番変わったなと感じるのは、そこじゃないかなと。僕はずっとウィスパーボイスで歌っていたんですけど、今回はすごく力を込めて歌っているんですよ。
●確かにそれは感じました。
須貝:ボイストレーニングのやり方から、ちゃんと教えてもらって。前作までは演奏の中に埋もれる感じだった声が今回は前面に出ているので、すごく良い感じになったなと思います。
高橋:それによって、歌詞も聴き取りやすくなりましたね。
●ボイストレーニングを受けたことも大きかった?
高橋:日常的に練習できる楽譜みたいなものをもらって、スタジオに入った時にみんなでやったりもして。もちろん身体的なところも関係あるんですけど、“意識を変えるだけでも相当違うんだな”と思いましたね。歌に自信がついたと思います。
●それまでは自信が持てない部分もあったんですか?
高橋:“なんか上手く歌えないな…”とは思っていました。納得していなかったというか。そういうところが今は少なくなりましたね。あとは自分がミスした時に「あっ、これはズレている!」というのもわかるようになったんです(笑)。
●以前は知識がないので、それすらもわかっていなかったんですね。
高橋:そうなんですよね。今までは何もわからないまま、霧の中を突き進んでいたような感じだったんです。でも今は霧が晴れて、快適なドライブっていう感じで(笑)。歌に関してはたとえば“ここが弱かったから、次はもっと強くしないとな”みたいなことも今は意識できるようになりました。
須貝:今までのライブでは“大きい声を出して楽器の音に埋もれないように歌おう”と意識していたところから、“その次に進めた”という感覚があって。ショーキチさんに習ったことを考えながら、ちゃんと集中して歌えるようになったと思います。
●そういったことが重なった結果、今回の収録曲はそれぞれが本来持っていたポテンシャルを発揮できたのかなと思います。
高橋:まさにそうです! 今回は“シューゲイザーバンド”じゃなくて、“ロックバンド”としての良さが出せていると思いますね。
●ちなみに、選曲はどういう基準だったんですか?
高橋:基本的にはシングルやMVになっているような代表曲的なものだったり、あとは今でもライブで良くやる曲という感じですね。その他にもM-4「Halfway」やM-8「Swimmer」、M-12「Stand By Me」はどれも当時収録されていたアルバムの中では“陰”の曲だったんですけど、“今ちゃんと録音したら良い曲になるだろうな”っていう基準で選びました。前の状態では本来の良さが十分に出せていなかった曲も盛り込んだ感じです。
●当時は出せていなかった魅力を今回は発揮できている?
高橋:そうですね。この前のライブで「Stand By Me」をやった時は、自分でも“これは良い曲だな!”と思いました。
須貝:当時から一度もライブで演奏していなかった曲なんですよ。それを今になってライブで披露できるのは、すごく嬉しいですね。
●リリースした当時も、ライブではやっていなかったんですね。
高橋:そうなんですよ。当時はギターが2人いたんですけど、音源では4人分のギターが入っていたりして(笑)。
●ライブで再現不可能なアレンジをしてしまっていたと。
高橋:あと、M-10「Kiss」はショーキチさんがサビの最初の部分を歌って、僕がそれを追いかけて歌うような形で再録したんです。1人の声だけで掛け合いをやるのは変だと自分でも思っていたので、今回はそこにショーキチさんが声を入れてくれました。
●石田さんと一緒にやることもそうですし、ちゃんとした環境で録り直したということも今回は大きかったんでしょうね。
高橋:そういう経験がなかったので、そこも含めて今回はまず新曲じゃないものをやりたかったんです。やり慣れた楽曲をさらに良くするというテーマの下で、レコーディングも1つのレッスンだったというか。
●今回のレッスンを活かした上で、次に新曲を良い形で出すことを見据えている?
高橋:次のことは見据えています。もう既に、良い曲がたくさんありますからね。コードに関してもシューゲイザーを意識するとどうしても限られてしまうので、以前の曲では4つのコードだけで回したりもしていたんですよ。でも最近の新曲ではこれまでの3〜4曲分のコードが1曲の中に入っていたりもして、本当に色とりどりになっていますね。
須貝:今までとは、全然違いますね。
津久井:一番最近聴かせてもらったデモが、本当にヤバくて。“ネクストステージ”を感じさせるようなものだったんですよ。
●今後がさらに楽しみですね。
須貝:そうですね。やりたいこともいっぱいあるし、課題も増えたし、意識することも増えたから。音楽理論もきちんと勉強していきたいですし、ベースももっとちゃんとやっていきたいなって思うようになりました。
津久井:まだまだなところもあるんですけど、意識は今までより高くなっていると思います。
高橋:これからさらに音楽的な意識の高い集団になれるのではないかなと。もっともっと自分たちが良くなっていくと思えているんですよ。そういう意味でも、今回は本当に成長できた1枚だなと感じていますね。“初期ベスト”みたいな形にはなっているんですけど、あくまでも“新作”という感覚で僕たちは作ったんです。“Re-Recording BEST”といっても後ろを向いているわけじゃなくて、“前しか見てねえぞ!”っていう意気込みでいます。
Interview:IMAI
Assistant:平井駿也