People In The Boxがデビュー10周年イヤーを締めくくる、ニューアルバム『Kodomo Rengou』をリリースする。2007年6月の1stミニアルバム『Rabbit Hole』発表から10年を迎え、この1年間をアニバーサリーイヤーと位置付けて精力的な活動を展開してきた彼ら。2017年1月に2枚組アルバム『Things Discovered』をリリースしたのを皮切りに、ホールワンマン“空から降ってくる vol.9 〜劇場編〜”や1本ずつが異なる趣旨を持ったイベントツアー“Tour N A Z O”、さらに“10th Anniversary TOUR 「Z E R O」”など、例年以上に多くのライブを行ってきた。そんな中で制作が進められた今回の新作はフルアルバムとしては『Wall, Window』(2014年8月)以来3年半ぶりとなる、まさに待望の1枚だ。節目の年に自分たちの活動の意味を1つ1つ真摯に考え抜き、濃密な時間を共に過ごしてきた3人の成果がここには確かに結実している。創作活動において常に実験的で革新的なアプローチを追求し続けるPeople In The Boxにしか生み出し得ない、2018年における“新しい”音楽をぜひ体感して欲しい。間違いなく最高傑作と呼べる名作の誕生を祝する、巻頭10,000字インタビュー。
「今まで10年間でやってきたことを、より分厚くしたいなという感覚はありますね。中身を濃くしていくというか。何が起きても“あっ、そう”という感じで、グラグラしない感じだと良いなと思っていて」
●まずは10周年を迎えた今年1年を振り返ってみて、どんな年でしたか?
波多野:アルバムを作っていたというのもあって、まだ“振り返る”というよりも”現在進行形”感があります。
山口:一昨年よりは忙しかった感じですね。
福井:ライブも去年より、いっぱいやったんです。本数だけじゃなくて、今年は1本1本のライブをちゃんとやったという印象があります。
山口:今年は、自分たち発信で動くライブが多かったんです。これまでのワンマンツアーは1つのテーマだけでまわっていたけど、あえて3本だけのツアーを毎回テーマを変えてやったりもして(※10月に東名阪で開催した“Tour N A Z O”)。そういうことは、今年だからできたのかもしれない。“10周年だから何かやろうか”という部分は大きかったんじゃないかな。
波多野:1本1本のライブの意味について、話をするようになりましたね。だからスケジュール上ではまばらな点のように見えていても、実際には各々で考えることが多かったり、準備にすごく時間をかけたりしていたので、自分たちの体感的には濃い1年だったという気がします。
●表面的に見えている部分以上に、自分たちとしては濃い時間が過ごせた。
山口:実際に今年は、良いボリューム感で稼働できたと思います。ちゃんと休む期間もあったし、その期間でツアー中にインプットしたものや今まで考えていたようなことをアウトプットに充てられたりもしたんです。ライブでも、もう新作(『Kodomo Rengou』)の曲をやっていたりして。今までもそういうことがなかったわけじゃないけど、新曲をレコーディングする前にライブでやるということがいつの間にか普通ではなくなってきていたというか。
●バンドとして活動が長くなるほどに、そうなったりはしますよね。
山口:そういった意味でも“初心に帰る”感じは、活動の中であったんです。アルバムを制作する期間もちゃんとあったし、ツアー中に新曲をやって身体の中に叩き込む感じもあって。そういう時間に充てられたので、良い10周年だったと思いますね。
●“初心に帰る”感じもあったと。
波多野:色んな行為の1つ1つを洗い直さないと、自分たちの中で腑に落ちないことが出てくるなと思って。“順序”がすごく大事というか。”アルバムを発売するから曲を作る”という順番じゃなくて、“作ったものが集まってアルバムになる”ということをやってみたいという話はしましたね。
●アルバムに向けて曲を作るのではなく、曲が貯まったからアルバムを作るというのが本来の在り方というか。
波多野:僕らの場合そこはどちらでも良いんですけど、結果としてそうなっていることが腑に落ちなくて。自分たちの中で“意味”を咀嚼した上でやることと、そうじゃない場合とではだいぶ違ってくるなと思うんです。たとえばツアーで1本1本のライブの中に、“自分たちにとっての意味”というものをしっかり含めることもそうで。ツアーって自分たちの音楽を携えて全国をまわるという意味で“外向き”の行動ではあるんですけど、それと同時に自分たちの“内的”な行動でもあって欲しいんですよ。
●何がキッカケで、そういう想いを抱くようになったんですか?
波多野:今の現状をしっかりと把握したいという気持ちからですね。自分たちの人生もそうだし、今の時代観も含めての話ですけど、それって当たり前のことだと思うんですよ。震災後(※2011年の東日本大震災)くらいから“地に足がついた活動をしたい”というのが自分たちのキーワードになっていて、ここ2年くらいはそういうことが本当の意味でできるようになってきている感じがしますね。静かで力強い活動ができているなと思います。
山口:この1年は、今後の活動のモデルにもなりましたね。
●そういった部分も、10周年という機会だからこそ固められたのでは?
波多野:そもそも僕らにとっては今回の“アニバーサリー”というのは、無理矢理探してきたみたいな感じなんですよ。47都道府県ツアー(※2015年3月〜11月のワンマンツアー“空から降ってくる vol.8 〜正真正銘の全国ツアー!これ以上の全国ツアーってある?ねぇー?ねぇぇぇーーー? 編 〜”)をやると決めた時に数え間違って、そこが10周年だと勘違いしていたほどですから(笑)。
●47都道府県ツアーをやった2015年が、元々は10周年のつもりだったと。
福井:最近のライブ活動で言えば、この前まわった“Tour N A Z O”は1本1本違うコンセプトでやったことで新しい曲への理解を深められたり、新しい方法も発見できたなと思っていて。今まわっている“10th Anniversary TOUR 「Z E R O」”は、個人的にはしっかり演奏してグルーヴを高めて盛り上げたいと思っているんです。10周年だから振り返るというだけじゃなくて、そういうことが今年は多かった気がしますね。
●ただ過去を振り返っただけの10周年ではない。
波多野:実際にライブをやるまで、自分たちのモードって案外わからないところがあって。テーマを決めて実践した時の感覚が予想していたものとはちょっとズレがあったりするんですけど、そういうのがすごく良いというのは今までの経験からも体感的に知っているんですよね。今回のツアーも始まってみて、“現在進行形じゃん”と気付いたというか。自分たちの原点を辿るツアーなんですけど、原点を意識するからこそ“自分たちがどれだけ前に進んでいるのか”を体感として理解できるという。そういうところも含めて、“生きているんだ”と実感しました。
●昔に比べて、個々の進化も実感できている?
山口:進化していなかったら、ここにいないですから。進化しないと、置いていかれるんですよ。たとえば4人組バンドの出す音が“服を着ている”感じだとしたら、3ピースの音は“一応服は着ているけど、ほとんど裸”みたいな感じなのですごくシビアなんです。
●ほう…。
山口:それは音楽的な部分もあれば、人間関係的な部分もすごくあって。4人組とかもっと人数の多いバンドと比べると、すごくシビアなところがあるんです。バンドの状態として3ピースバンドは、色んな意味でギリギリだと思いますね。
波多野:全然、気を抜けないんですよ。最悪ですよ!
●最悪なんだ(笑)。
波多野:自分でも“よくPeople In The Boxでギターヴォーカルをやっているな”と思います。“弾けねぇよ!”みたいな。
山口:でもそれは自分が当時のセンスで作ったものですからね。
波多野:そうなんです。残念ながら自分で作っているということは、そういうものが相当好きなんですよね。たまにどこかで音楽が聴こえてきて“何この和声!? めちゃくちゃ好みなんだけど!”と思って、よく聴いてみたらPeople In The Boxの曲だったりするっていう(笑)。
●ハハハ(笑)。客観的に聴いて、自分でも本当に好きだと思えるものを作れている。
波多野:そうです。だから、People In The Boxのギターヴォーカルは僕にしかできないですね。
●決め台詞が出ましたね(笑)。
山口:自分では言いづらいけど、リアルにそうなんですよね。だから切磋琢磨している人がメンバー3人中の2人とか1人だったりすると、絶対にバランスが取れないんです。でも僕の経験上では、それが4人とかになってくると(そういう状況でも)何となくいけちゃうんですよ。3人だと音楽的に丸裸の状態でみんな演奏しているから良いアプローチも目立つぶん、逆に悪いアプローチも目立っちゃったりして。
●人数が少ないぶん、良いところも悪いところも見えやすくなってしまう。
山口:難しいポイントは色々ありますけど、ここまでやれているというのは良いバランスでやれているということなんですよ。今まで10年間でやってきたことを、より分厚くしたいなという感覚はありますね。中身を濃くしていくというか。何が起きても“あっ、そう”という感じで、グラグラしない感じだと良いなと思っていて。ただ俺が思うに、まだそこまで行けていない。だから、まだ伸びしろはあります。
●自分たちの伸びしろを感じられている。
山口:僕はそうですね。
波多野:僕も今回の新譜を作って、“まだ成長曲線があるんだ”という喜びと絶望みたいなものを感じたんですよ。
●絶望…?
波多野:“まだ頑張り終えてないな”っていう。
山口:新作ができてすぐくらいの時に、2人で「まだ制作意欲があるよね」と話していたんですよ。
波多野:あれはお互いにゾッとしたよね。“こいつもか!?”みたいな(笑)。
●新作を作り終えたばかりなのに、まだまだ新しいものが作れる感覚があったと。
山口:そういう感覚はあります。今作は全員で1から10まで作ったというよりも、5くらいまでのラインを誰かが作ってきてから3人でバンドの形にすることが多かったんです。そこで出来上がったものを聴いた時に、自分の中で“まだネタはあるな”という感じで。(波多野に)訊いてみたら「俺もある」と言っていたので、“すぐ次のアルバムもできるわ”と思いましたね(笑)。
●制作意欲が尽きないんですね。
山口:曲を作っていると、色々と見えてくるんですよ。今までとは音楽の捉え方が違うから。それはPeople In The Boxの制作でも他の現場でもそうだし、全てにおいてプラスになっているのが自分自身でもわかるんです。だから制作意欲も上がっているのかもしれないし、パッと浮かんでくるフレーズも多くて。その都度ボイスメモに録音したりはしているんですけど、それを音として具現化していくのは不慣れなところがあるのでまだ時間はかかってしまいますね。
波多野:今まではバンド3人で曲を作っているとは言っても、方向性を決めるのは僕だったりしたんですよ。でも大吾が作ってくる曲は今までは断片だったものが、今回はしっかりした時間の推移があって。僕はその推移が“曲作り”だと思っていたから、今回は本当の意味で“メンバー全員で作った”という感じがしますね。
「このアルバムを聴いてもらったらわかると思うんですけど、僕らは“2018年のバンド”然としている。作品も現代をすごく象徴する内容になっていると思っていて、そういう次元でやれているというのが相当嬉しいんですよね」
●今までとは曲を持ってくる形が変わったんでしょうか?
山口:今まではリズムパターンだけを投げることが多くて、それを元にして作ったものがほとんどだったんですよ。
波多野:今回はもう曲ができていましたね。
●持ってきた時点で既に曲の形を成しているものが多かったんですね。
山口:そういう感じで投げていくんですけど、自分ではどうしたら良いのかわからないところもあるんですよ。“コードがこうきたら、次はこうだろう”という音の感じとかに関する知識や経験がまだ足りないので、そこは波多野ちゃんに書いてもらっているんです。
波多野:それって、めちゃくちゃロマンのある行為で。僕は映画の1シーンをもらったような気持ちなんです。その1シーンを元に僕が最初から最後まで作るという…、こんなに楽しいことはないですよ。
●そういう楽しさが今まで以上に増した?
波多野:でも案外リズムパターンだけをもらっていた時もそうで、映画の中のセリフを1つもらうような感じだったというか。“そのセリフが映画の中でどういう感じで使われるんだろう?”というところからどんどん前後ができて(物語の)ヤマができていくということをやっていたので、今回はそれよりもさらにやり甲斐のある問いかけをもらったという感じですね。
●健太くん発信の曲もそういう感じでしょうか?
波多野:健太もそういう感じですね。M-4「世界陸上」は、健太の持ってきたリフから作ったんです。元々は『Things Discovered』のメンバープロデュース曲用に作ってきたものなんですけど、その時点ではまだグダグダだったんですよ。
●その時点ではまだ使えない状態だったと。
波多野:でも断片としては可能性があるなと感じていて。People In The Boxの楽曲としてだったら、良い形に昇華できるなと思っていました。だから今回はやり甲斐もすごくあったし、実際にやるとなったら僕は完全に“自分の曲”にできちゃうんですよ。自分が持ってきた曲じゃないから距離感があるとかいうことは全くなくて、むしろ誰かにもらったほうが入り込めるというか。そっちのほうが、良い意味で客観的に“映画監督”になれるんです。歌は任せてくれるので、言葉でも遊べますからね。
●歌詞やメロディは波多野くんが考えている?
山口:メロディラインとかは入れていないですからね。メロディラインに関しては、歌詞の譜割りと最終的にはリンクするポイントがあると思うんですよ。でもパッと浮かんで、“ここはこういうメロディを入れて欲しい”と思うものは自分で入れるようにしています。たとえばM-2「無限会社」のサビは、メロディが元々あって。ここは全メロディとサビをメンバー全員でユニゾンしているというイメージで作りたかったんです。
波多野:それがヒントになったりもするし、そういうやり取りが一番楽しいんだなとは思いました。“橋本絵莉子波多野裕文”も、そういうやり取りが多かったんですよ。People In The Boxに戻ってきてからもまたこういうやり取りができて、“俺はどれだけラッキーな星の下に生まれたのか”と思いましたね(笑)。
●共同制作者に恵まれたと(笑)。ちなみに「無限会社」以外にも、大吾くん発信の曲はあるんでしょうか?
波多野:M-5「デヴィルズ&モンキーズ」もそうですね。他にも、リズムパターンとかはめちゃくちゃもらっています。特に「デヴィルズ&モンキーズ」は前半のヤマ場にするというのは、最初に聴いた時から決めていて。
●この曲ができた時点で、アルバム全体のイメージも見えていた?
波多野:「デヴィルズ&モンキーズ」は、制作の中盤くらいにできたんです。曲が出揃ってきたところで、僕の頭の中でおぼろげながら全体像が見え始めた頃に出てきた曲ですね。“これを核にしよう”と思いました。
●核にしようと思った理由とは?
波多野:今までにない感じがしたから。今の音楽って“新しい”の意味合いが変わってきていて。みんな、“形式”の組み合わせで新しいものを作ろうとしているんですよね。何かと何かを組み合わせて、今までになかったものを作るというか。でも僕にとって現代の“新しさ”というのはもっと人間の根本的な欲求だったり、“わけわからないけど、良くない?”の積み重ねであって欲しいんです。
●言葉では説明できないけど、根源的に良いと感じるものというか。
波多野:大ちゃんの曲には、それが強くあったんですよね。何かの真似をしているわけではなく、単純に“生活の中でこういうものが出てきたんだろうな”っていう。そこが自分の最近の感じともリンクしていたんです。あとは、その中で僕も“自分にしかないもの”を探している感じもありました。“自分らしくありたい”という次元は、もうとっくに超えちゃっていて。
●“自分にないもの=新しい”というわけではない?
波多野:それって、自分にとってはでしょ? 僕にとっての“新しさ”とはもっと広い意味で、“2018年の音楽”という意味での新しさというか。僕らは“形式”としては、新しいことは何1つやっていないんですよ。ただ、このアルバムを聴いてもらったらわかると思うんですけど、僕らは“2018年のバンド”然としている。作品も現代をすごく象徴する内容になっていると思っていて、そういう次元でやれているというのが相当嬉しいんですよね。
山口:あと、このアルバムは今後のPeople In The Boxにつながってくる感じなんですよ。今回は“新しい船に乗り換えて航海に出る”ようなイメージがあって。
●最初からそういうイメージで作り始めたんですか?
山口:10周年という企画自体もあって、アルバムを作るということは元々決まっていたんです。10周年の活動内容ともリンクしてくるところがあるので、つながっていないわけではないと思いますね。
波多野:バンドを運営していく上で何かテーマがある中で作ったわけなんですけど、出来上がったアルバム自体はものすごく“作品然としている”というか。曲が出揃った状態で一気に作ったものよりも、結果的にまとまりとしてはめちゃくちゃコンセプチュアルにできているというのが自分としてもすごく意外でしたね。
●別にコンセプチュアルなアルバムにしようと思って作ったわけではない?
波多野:そうです。ただ自分で歌詞の並びとかを見ると、ものすごくコンセプチュアルなんですよ。何か決めて作ったわけじゃないから、“それを要約したらどういうことなのか?”と訊かれても話せないんですけどね。でもこういうタイミング(※10周年)で自分たちの活動を洗い直した時期に、作品然としたものができるというのはすごく嬉しかったです。
●結果的にコンセプチュアルな歌詞になっている?
波多野:歌詞に関しては意識していなくても、やっぱり自分たちの人生や現実と向き合う気持ちというのが反映されるわけで。要するに“コンセプチュアル”というのは自然発生的なものではあるけれど、People In The Boxの一番カギとなる部分でもあると思うんですよ。総意として“作品然とした作品をバンドとして作っている”というふうに自ずとなったことがすごく嬉しいんです。
●狙ったわけではなくて、自ずとそうなった。
波多野:自分たちでも、そういうことを大切にしているんです。1曲だけを切り取って楽しむこともできるけど、総体として掛け算みたいに楽しい作品を作れるバンドの強みもあるというか。そういうものが自ずとできたというところで、今の時点では後の10年を考えた中での代表作になったと僕は思いますね。
●そのくらい納得のいく作品ができたと。先ほど歌詞に関して“自分たちの人生や現実と向き合う気持ちが反映される”という話もありましたが、今作の歌詞にもそういう部分はあるんでしょうか?
波多野:今回の作品は、歌詞がフィクショナルなんです。“自分がこう思っている”というものではなくて、“音楽が何かを言っている”というか。“自分の気持ちを音楽で伝える”という意識は、僕にはないんですよね。音楽というのは勝手に自分たちの物語を語っているものなので、それを僕が翻訳するという考え方なんですよ。ただ、翻訳するのは僕だから、結局は自分の考えていることも反映されるんですけどね。
●その音楽が語りたい物語を歌詞として翻訳している。
山口:今回の歌詞がフィクショナルというのは、今言われて腑に落ちた気がします。表現はちょっと違うかもしれないけど、“演技”みたいというか。
波多野:要するに“映画的”だと思うんです。曲によって、それぞれ歌っている人は違うんですよ。主人公が違うというか。でも総意としては僕が音楽に対して描きたいものはしっかりあって、それが確実に反映されていると思いますね。そこが僕の1つのチャレンジでもあって。
●チャレンジした結果として、成功しているわけですね。
波多野:『Talky Organs』(5thミニアルバム)以降でやっていることなんですけど、それ以前は自分が思っていることを歌詞に潜ませるという順番だったんです。でもその順序でやると、音楽自体を制限しないといけない場合が増えるんですよね。だから逆に音楽そのものに対して、“この音楽は何を言おうとしているのか?”というのを純粋に探っていくことがすごく大事になるんですよ。
山口:表現がレベルアップしてますなぁ…。
波多野:それが楽しいの。
●自分でも歌詞について、表現の進化を感じられている。
波多野:たとえば「デヴィルズ&モンキーズ」も今までは、こういう歌詞は書けなかったと思うんです。もしかしたらこれに似た感じにはできたかもしれないけど、意味合いが全然違うんですよ。今までなら“こういうイメージの歌詞”というふうになっていたと思うんですけど、これは確実にこれで完成しているというか。音楽に対して(歌詞が)補い合っているんですよね。
●そうやって音楽と歌詞が互いに補い合える関係性を目指していた?
波多野:あるべき姿に持っていく感じというか。これは自分なりの“達成”でもあるんです。あと、今回は字面自体が音楽的というか、美術的でありたいというのはすごく思っていたんですよね。
山口:それは昔から感じていたし、今回もそういう感覚はあって。最初は何となく自分の中で違和感があったんですよ。良い意味で、今までの感じとはちょっと違うというか。でもさっき“フィクションな感じで作っている”というのを聞いて、“なるほどね”と腑に落ちました。
●大吾くんの中でも、腑に落ちる部分があったと。
波多野:“歌詞を作る”ってすごくデリケートな行為で、それが自分にとってどういう意味合いなのかということを作る人自身がわかっていないと、めちゃくちゃ危険というか。SNSで誰でも言葉を発信できるようになった今の時代に、そこはさらに気を遣わないといけないところだと思っています。“何を歌わないか”というのが逆に大事になってくると思うんですよ。
●というのは?
波多野:(歌詞は)“自分がこう思っている”とか、思想を押しつけるものであって欲しくないんですよね。映画や小説といった芸術作品がそうであるように、“フィクションの中に人が何を見出すか?”というところに期待したいから。そこの部分で“面白いものを作りたい”という気持ちがすごく強いんです。だから歌詞に関しては“1つ達成した”と思っているんですよね。良くも悪くも、1つの形ができたなと思っています。
山口:アプローチとしては新しいと思いますね。そういった意味でも、“船を乗り換えて出港した”感じがあるんです。
●船を乗り換えて、ここから新しい旅へと出港していく。
山口:今後のPeople In The Boxの制作の仕方みたいなところも含めて、この1年でしっかりわかった感じがあったんですよ。その結果としてこういう作品ができたというところで、すごく良い年だったと思います。来年はリリースツアーもあるし、ライブにはまたライブの良さがあるから、そこで今のモードとは違うアプローチで今作の曲をやれるのが楽しみですね。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾