終わらない青春をメッセージとして歌う大阪発“ネバーエンディング思春期”バンド、ハンブレッダーズ。数多くのオーディションを席巻し、“SUMMER SONIC 2017”にも出演を果たすなど注目度急上昇中の彼らが、初の全国流通盤1stアルバムをリリースする。持ち味の純情に特化した今作は、『純異性交遊』と名付けられた。非リア充の共感を呼ぶ歌詞を鼓膜の奥にこびり付くメロディに乗せて表現する高純度なポップスは、必ずや冴えない青春時代を過ごした(もしくは真っ最中の)人々の光になるはずだ。
「ラブソングって、気持ち悪いほうが響くんじゃないかなと思っていて」
●ハンブレッダーズの歌詞を読んでいると、実話なのかフィクションなのかわからなくところがあって…。
ムツムロ:歌詞は実体験や現実のことも交えつつ、フィクションと捉えてもらえるようなものを作ろうと意識しています。聴いてくれる人たちがちょっと現実離れできるようなものにしたいんですよね。
●ファンタジー的な要素も意図的に入れている?
ムツムロ:そうですね。ロックバンドって、ファンタジーを歌うためのものかなと思っているから。
●現実離れしつつも、共感できる内容かなと。
ムツムロ:そこが一番狙っているところではありますね。共感してもらえる部分もありつつ、でも現実ばかり歌っていてもしょうがないと思うんですよ。
●根本にはどれも現実社会での実感があるように思うんですが。
ムツムロ:それが原動力というか。スクールカーストの低さだったり青春時代にイケていなかったことだったり、メンバー4人全員にそういう経験があって。自分たちのリアルな部分を描きつつ、アウトプットはすごくポップにするのが自分たちの使命なのかなと思っています。
●歌詞の言葉だけを見るとネガティブなものもありながら、音楽的にはポップな形に落とし込まれていますよね。
ムツムロ:聴きづらいものにはしたくなくて。そこは4人とも思っていることだと思います。でもメンバーのバックグラウンドはバラバラなんですよ。G./Cho.吉野(エクスプロージョン)はプログレが好きで、Dr.木島はポップな音楽が好きで、Ba./Cho.でらしは幅広く何でも聴くという感じで。僕はメロディと歌詞が良ければ何でも聴くんですけど、MineralやAmerican Footballみたいな洋楽も好きなんです。その4人の好みが重なる真ん中あたりを取るとしたら、ポップスに落とし込むのが一番良いのかなと思ったんですよね。
●メンバー全員の要素を入れた上で、ポップスとして表現していると。作曲はメンバー全員でやっているんですか?
ムツムロ:そうです。僕が持っていったメロディと歌詞を元に4人で作ることもあれば、持っていくのは1番だけでそこから先をみんなで考えたりもして。4人の役割分担がわりと決まっているんですよね。木島はすごく理系的で「この曲は何分にしよう」とか「こういう構成にしたらポップで聴きやすくなる」みたいなことを言ってくれるので、それに合わせて作っていったりもしています。
●構成や編曲的な部分では、木島くんの果たす役割が大きい。
ムツムロ:あと、吉野もそうですね。僕1人だと編曲の部分では自信があまりなくて、4人でやっている部分はすごく多いです。
●先ほど吉野くんがプログレ好きという話もありましたが、ギターフレーズは確かに変わっていますよね。
ムツムロ:そうなんですよ。ポップじゃないんです。「ギターロックっぽい感じで弾いて」と言っても、全然弾いてくれなくて。野放し状態です(笑)。
●ハハハ(笑)。そこもバンドの良さとして活かせているのでは?
ムツムロ:あんなにポップじゃないギターを弾くヤツは、ギターロック界隈にはなかなかいないから(笑)。そこは強みになっているのかなと思います。でもアウトプットがポップスになっているのは、やっぱり“聴きやすいものを作りたい”という想いをみんなが持っているからなんですよね。音楽って、悲しいことも楽しいことも全て思い出にするためのツールだと思うんです。そのために“聴きやすさ”っていう部分を、僕らは捨てられないなと思っています。
●そこは全員が共通して持っている想いなんですね。ベーシストが、でらしくんに代わって今の4人になったこともバンドにとって大きかったんでしょうか?
ムツムロ:大きかったですね。でらしが入る前は、ベースのフレーズを僕らが作っていたりもしたんです。でも、でらしは他のバンドでずっとやってきた経験があって、ベースも上手くてフレーズも作れるんですよ。それまでは僕らから「こういうふうに弾いて」とか指示を出す“足し算方式”だったんですけど、今はでらしが色んなフレーズを考えてきてくれるので「そこは減らそうか」みたいな“減算方式”でやれていて。その場で面白い化学反応があったり、「これ良いな!」と思う瞬間は現体制になってから多くなっています。
●バンドとしても良い状態になってきた?
ムツムロ:曲作りに関しても役割分担ができているし、すごく良い状態ですね。
●そんな中で今回は初の全国流通盤『純異性交遊』をリリースするわけですが、最初から何かイメージはあったんですか?
ムツムロ:M-2「スクールマジシャンガール」やM-5「フェイクファー」というシングルになっている2曲以外は新たに作ったものなんですけど、“良い曲がいっぱいできてきたからアルバムを出そうか”という感じで。“こういうアルバムを作ろう”というイメージはあまりなかったですね。タイトルも後付けなんですよ。
●曲が出揃ってから、アルバムタイトルを考えた?
ムツムロ:そうですね。結果的に恋愛の曲が多くなったので、『純異性交遊』っていうタイトルを付けました。昔から自分が書くのは恋愛の曲が多くて、それはやっぱり等身大の言葉じゃないと説得力がないと思うからなんです。僕たちはまだ23歳くらいだし、信条とか生き方みたいなものを歌うのは苦手なんですよね。“自分の力が出せるのはこういうジャンルなのかな”というところで書いてきたから、それが必然的に形になっているのかなと思います。
●恋愛経験が多いわけではない?
ムツムロ:多くはないですね。1つ1つにのめり込むタイプなので、熱しやすいとは思いますけど(笑)。
●歌詞の内容的には付き合った後のことよりも、告白する前に頭の中で考えていることを歌っている感じがします。
ムツムロ:全くその通りです。そう考えると、ソングライターってすごく便利な職業なのかなって思いますね。告白に成功しても失敗しても、糧にできるから。だからラブソングを書くのは、天職なのかもしれないです。
●好きな人になかなか告白できないという経験は誰しもあるから共感できるのかなと。
ムツムロ:そうだと思いますね。モヤモヤした気持ちというか。昔はそんな気持ちの時に音楽を聴いていたから、自分たちの曲もそういう時に聴いてもらえたら良いなと思っています。
●自分たちの音楽を聴いて、モヤモヤした気持ちを晴らして欲しい。
ムツムロ:それがロックンロールをやっている意味だと思うから。“もっと多くの人にそう思って欲しいな”という気持ちが原動力にもなっています。
●M-1「DAY DREAM BEAT」が、そういう想いを一番象徴している曲かなと思います。
ムツムロ:高校生に一番聴いて欲しい曲ですね。音楽のことについて歌っている曲は多いと思うんですけど、それを“ハンブレッダーズ節”というか、ちょっとヒネくれた視点で歌ってみたのが「DAY DREAM BEAT」なんです。
●この曲の“人目につかない程度のヘッドバンギング”という歌詞がすごく印象的でした。
ムツムロ:僕自身も目立たない側の人間だったから。そういう場所でもマナーやモラルを気にしちゃう人間なので、そこに共感してもらえたらなと思って書きました。
●“終業のベルで一目散 牢獄を抜け出した 一緒に帰る友達がいなくてよかったな”というのもちょっと寂しい感じはするけど、よくわかる表現だなと。
ムツムロ:そんなに仲良くない友達と下校の時に2人になったりすると、何か気まずいじゃないですか。その気持ちを正直に書いてやろうと思って(笑)。そういう時に音楽を聴きながら帰っていたなと思い出して書いた曲ですね。
●昔の気持ちを歌っているという意味では、「フェイクファー(純mix)」もそうかなと思ったんですが。
ムツムロ:これは今作で一番古い曲で、19歳の時にサビだけ作ってあったんです。その当時にもっと昔のことを思い出しながら書いた曲なので、歌詞的にはかなり幼い頃の気持ちを歌っています。
●そうですよね。“お別れ会で君にあげた粘土細工”という歌詞がもし高校時代のエピソードだとしたら、ちょっとヤバいなと…(笑)。
ムツムロ:それはヤバいですね(笑)。
●でも幼稚園や小学生の頃って、相手のことが好きな気持ちをどうやって表現したら良いのかまだわからない時期というか。
ムツムロ:そういう自分の中でモヤモヤしていたけど、今思えば“恋だったのかな?”みたいな気持ちを歌ってみました。やっぱり思い出に残っているのは思春期の恋愛が多いんですけど、ちょっと変わったことを歌いたいなと思って。だから“まだ青くもない春の匂いがした”という表現にしたんです。
●そういう意味だったんですね。ちなみに、好きな子に粘土細工をあげた経験は…?
ムツムロ:ないです(笑)。自分で読んでも、“本当に気持ち悪いなあ…”って思いますからね。でもラブソングって、気持ち悪いほうが響くんじゃないかなと思っていて。
●確かに。みんな実は陰で気持ち悪いようなこともしているんだろうけど、それを歌わないだけですからね。
ムツムロ:そういう人に聴いてもらいたいですね。
●「スクールマジシャンガール(純mix)」でも、“塗り重ね続ける黒歴史”と歌っていますが。
ムツムロ:この曲は今まで作った中でも、特に自分で気に入っている曲で。ネタっぽさやオタクっぽさが前面に出つつも、歌いたいことはブレていないんです。よくある“恋に落ちる瞬間”みたいなものを歌っているんですけど、こんな書き方をするバンドはたぶん他にいないんじゃないかなと自分では思っていますね。
●M-7「ファイナルボーイフレンド」は歳を取っても聴けるような、普遍的な愛の歌だなと思います。
ムツムロ:そう言ってもらえると嬉しいですね。この曲は友達が結婚するとなった時に、ちょうど歌詞を書いていたんです。結婚式でも披露することになったので、“ずっと聴いてもらえる曲になれば良いな”と思って書きました。
●この曲と「DAY DREAM BEAT」は、スピッツのディレクターでもある竹内修さんをサウンドディレクターに迎えたんですよね。
ムツムロ:そうなんです。特に木島とでらしは家族ぐるみでスピッツのライブに行っていたくらい好きなので、すごく喜んでいました。外部のディレクターに入ってもらうのは、初めてだったんですよ。今まで4人だけで作ってきたところに客観的な視点でアドバイスをくれる人が1人増えるというのは良い経験になったし、すごく面白かったですね。
●今回の制作でそういった経験も経て、さらに進化することができたのでは?
ムツムロ:そうですね。特に視野が広がったことは大きいと思います。“もっと一緒にやりたいな”と思いました。
●自分たちでも良い作品ができたと感じている?
ムツムロ:すごく純度の高い良質なポップスができたなと思います。“バンドっぽさ”みたいなものは捨てて、純粋に良い曲を作ろうということで今回は作ったんです。それが色濃く出ているし、何十年も聴いてもらえるアルバムになったかなと自分たちでは思っていますね。
●今作をリリースして、2018年3月には初のワンマンライブも予定しているわけですが。
ムツムロ:ワンマンをやりたい気持ちはずっとあって、タイミングを待っていた部分もあったんです。この1年は新しいお客さんと出会う機会がすごく多かったので、一番良いタイミングになったなと思っています。日頃の感謝も込めて、普段のライブではできない曲もやろうかなと考えていたりして。お客さんが一番喜んでくれるものにしたいなっていう気持ちが強いですね。
Interview:IMAI
Assistant:平井駿也