比類なき言語感覚が紡ぎ出す物語性溢れる歌詞に、ガレージともロックンロールとも形容しがたいサウンド、さらには泥臭くも美しいライブパフォーマンスで熱狂的な支持者を着実に掴んできた4人組バンド、THE PINBALLS。2006年の結成から11年という七転八倒の歩みの中で独自すぎる進化を遂げてきた彼らが、遂にメジャーデビューを果たす。一撃必殺のリード曲「蝙蝠と聖レオンハルト」を筆頭にいずれも強烈なセンスとインパクトを放つ全7曲搭載の傑作『NUMBER SEVEN』は、未だ彼らを知らないリスナーを必ずや至極の興奮へと導くだろう。
「転んでいるその時こそが“祝福”というか。“のたうちまわっていることが最高じゃん”という感じですね」
●遂にメジャーデビューを果たしたわけですが、ここ数年バンドの状態も明白にどんどん良くなっていた中ですごく自然な流れだったのかなと。
森下:自分たちでも、違和感はないですね。“(メジャーに)行かなきゃ!”という感じでもなかったから。
古川:目の前の1年を頑張っていたら、たまたま今回メジャーデビューすることになったという感じでした。もちろん力は入っているし、“頑張ってやる!”っていう気持ちはありますけどね。
●ちょうど良いタイミングだったというか。
古川:ちょうど良くはないですね。遅かったです(笑)。10年前にこうなっていたら良かったなとは思います。昔は(メジャーにいる)色んなすごい人たちの姿を見てきて、どこかでビビっている部分があったと思うんですよ。でも今は“俺らのほうが良いな”と思えるくらい、自信もあって。“俺らってカッコ良いな”と思えているんですよね。
●自信が持てるようになった?
古川:自信は昔よりもありますね。(活動が)10年を超えて、メンバーみんなに対する信頼感も増したというか。数字が持っている重さって、すごいなと思って。
●というのは?
古川:“俺らって10年も一緒なんだな”と思った時に、ここまでやってこれたということが自信になったんです。10年の節目で“ここまでやってこれた俺たちって良いチームなんだな”と思えるようになったことで、さらにチームワークが良くなった気がして。最近はスタジオでもすごく良い感じなんですよ。よく笑っているし、しかも音楽の楽しさで笑えている感じがすごく良いなって思います。
●普段のスタジオから、みんなで一緒に音楽を楽しめている?
石原:もちろんぶつかることもありますけど、変な空気になることはないんです。
中屋:雰囲気は良いんじゃないですかね。メンバーみんなで考えることも増えたし、ライブについて考えることもその内容が良くなってきたというか。みんなで話し合ったことが、以前よりも実際の行動につながっている感じがします。
古川:スタジオの空気が良くなることで、ライブもどんどん良くなっていって。いつの間にか、こういうことになった感じがするんですよね。
●スタジオの空気が良いことが、さらに良い状況につながっていると。
古川:今は4人の感じがすごく良いと思うんですよ。それが音楽的にも出ているというか。みんなの鳴らしている音も良くなっている気がするし、全てが上手く回り始めている感じがします。
●今作を聴いた時に全曲良いなと感じたんですが、それはバンドの良い空気が出ているからなんでしょうね。
古川:気持ち悪いですけど、自分で作って泣いたりしますもん。“超良い!”と思って、涙が出てきちゃいます。昨日も良い曲ができたんですけど、ギターを弾きながらヨダレが垂れそうになっちゃって…(笑)。
●恍惚状態に…(笑)。
古川:最近は本当に音楽が楽しいというか。中学生くらいの時にバンドをやっていた気持ちに近くなってきたんですよね。
●初期衝動を取り戻せたというか。
中屋:やっぱり最初は楽しいから、バンドを始めたわけじゃないですか。楽しいから、ずっと続けてきたわけで。でもどんどんやっていく中で、色んなことを考えるようになってきて…。“ここはダメだな”とか思ったことを溜め込みつつやっていると、自分の中でも辛くなってくるんですよ。でも最近は、そういうことがあまりないんだと思います。
●悩むことも減ってきたんでしょうか?
古川:今も悩んではいるんですけど、悩みの種類が違っていて。前は“これで良いのか?”とか、“俺たちってカッコ良いんだろうか?”みたいな悩みのほうが大きかった気がするんですよ。
●自分たちを信じきれていなかった。
森下:でもそんなに考え込んでやっても、しょうがないなと思って。この4人で好きなようにやって、それを「良い」と言ってくれる人がいるんだったら最高なことだなと考えるようになったというか。
古川:そこに必要なものって、“勇気”だった気がするんですよね。俺らって基本的にはずっと同じことをやっているので、変わっていないはずなんですよ。でも同じものを出しているのに、なぜか今のほうが自信を持って出せていて。それって、つまり自分たちみたいなバンドには11年という時間が必要だったということなんじゃないかなと思うんです。
●続けてきたことが自信にもつながったんですね。
古川:俺たちはめちゃくちゃ突出して、すごいミュージシャンではないから。同じカッコ良いものでも昔は少し遠慮がちに出していたのは、勇気がなかっただけだと思うんですよ。今は10年以上も同じメンバーでやってきたというプライドを手に入れて、それが俺たちを一番強くしている気がして。だから“カッコ良いだろ、これ!”と自信を持って出せるようになったのかなと思いますね。
●ずっと一緒にやってきた4人で作った曲だから、自信を持って出せるのでは?
古川:確かに今のほうが、“4人で作っている”感覚になれているんですよね。そういう感覚が、良いリズムを生んでいるのかなと。スタジオに曲を持ってきたら、絶対に良い感じになるんですよ。みんなのスキルも上がっているから、どんな状態で曲を持って行ってもカッコ良くなる。それによって“次もどんどん作ろう”という、良いリズムが生まれてきているのかなっていう。色んな壁を乗り越えてきたことで、曲を作るサイクルも良くなっているんじゃないかなと思います。
●メンバーとスタジオで合わせれば絶対にカッコ良くなるという実感があるので、どんどん新しい曲を作りたい気持ちになれているんですね。
古川:スタジオで合わせると、みんなの楽器がカッコ良いから楽しくて。だから、曲を作るペースもどんどん早くなってきています。今となっては“俺は昔、いったい何で悩んでいたんだろう?”と思うくらいで。“音楽って楽しいな”と今は思えています。
●メンバーがそういう良い空気や曲作りのサイクルを生み出してくれている?
古川:そうですね。俺がダメな時も、3人は絶対にいてくれるから。スタジオへ曲を持っていった時に、メンバーが“そこにいる”ということが本当に素晴らしいと思います。
●メンバー個々の能力も上がっているということですよね?
古川:どんどんカッコ良くなっていますね。モリ(※森下)は昔からライブでは上半身裸になったりしてすごかったんですけど、最近はもっと前に出るようになって。歌っている時にそういう動きを見ると、めちゃくちゃ勇気づけられるところがあるんですよ。メンバーが前に思いっきり出て弾いている姿を見ると、自分も不思議と燃えてくるんです。昔組んだ時にやって欲しかったイメージに今、近づいてきています。
●古川くんが昔から抱いていた、バンドとしての理想像に近づいている?
古川:昔は“もっと前に出て暴れてくれよ!”という気持ちが少しあったんです。でも今は、昔の俺がそうなって欲しかった人間にみんなが近づいてきているんですよね。中屋も昔はすごくクールなヤツだったんですけど、今はクールさの中にも一瞬燃え上がるようなところがライブでも見えたりして。“中屋って昔はどんな感じだったっけ?”と思うくらい、今は激しいんです。
中屋:お客さんが観ていて楽しいほうが、やっぱり良いじゃないですか。そういうことを考えていたら、自分たちもより楽しくなってきたという感じですね。ずっと続けてきた中で、もちろん楽しくない時期もあったから。
●楽しい時期だけではなく、苦しい時期も乗り越えてきたバンドだからM-2「七転八倒のブルース」みたいな曲が歌えるのかなと思います。
古川:僕らって数年前から、ずっとブッ倒れていたと思うんですよ。周りには“そろそろ退場しろよ”とか思われているんだろうなと感じつつも、“嫌だ! やりたい!”とのたうちまわっていたというか。そうやってジタバタしながら“やりたいんだ!”と言っている気持ちを出せたと思うし、そこは自分たちだから歌えることかなという気がします。
●転んだとしても誰かが抜けたりもせず、同じメンバーで続けてこられたことも大きいのでは?
古川:もしメンバーが変わっていたら、バンドも終わっていたと思います。もちろん周りにもメンバーチェンジしてきたバンドはいるし、それも良いことだとは思うんですよ。変化を恐れるのはダサいし、どんどん変わっていくのもカッコ良いことだと思うから。ただ結果論として、俺たちはそうじゃなかったなと。
●音楽性に関しても変えようとは思わなかった?
古川:それも素晴らしいことだとは思うんですけど、俺たちはやらないですね。転んでも同じことをやるかな。これから先も転ぶと思いますけど、必ず立ち上がるっていう気持ちはあって。
●この曲の最後に“祝福になるまで”と歌っているのは、そうやって進んだ先に“祝福”が待っているというイメージ?
古川:いや、そこはちょっとイメージが違って。祝福のイメージって普通は“みんなで祝って楽しむ”みたいなものだと思うんですけど、俺たちの中では“七転八倒している最中”のことなんです。転んでいるその時こそが“祝福”というか。“結果”じゃなくて“過程”というか、“のたうちまわっていることが最高じゃん”という感じですね。
●七転八倒している状況こそが最高だと捉えている。
古川:そういう意味での“祝福”です。“これからものたうちまわっていたほうが嬉しい”みたいな(笑)。そこから脱したいわけではないですね。11年もやっていると、それすらも“楽しいじゃん”と思えるから。
●M-4「ひとりぼっちのジョージ」で“名前もない夜の中 言葉を探していた”と歌っている部分は曲作りのことかなと思ったんですが、そこで悩むことも今は楽しめているのでは?
古川:未だに悩むことは悩むんですけど、どんどん応援してくれる人が増えてきたことで楽しくなってきて。それに伴って、悩むことも前よりはそんなに辛くないんですよね。曲を持っていったらメンバーが良い楽器のフレーズをつけてくれると思うと、悩んでいても楽しくなってくるんです。
●だから、ひとりぼっちで曲を作っていても平気なわけですね。
古川:それが俺の役割ですし、そういう気持ちになれていますね。俺に孤独を楽しませるほど、みんなのつけてくれる楽器の音がカッコ良いんです。昔はみんなで作っている途中で「やっぱり、これは違う」と言って、捨ててしまうこともあったんですよ。
森下:よくありましたね。メンバー的にはそれによって不完全燃焼に感じるところもあったんですけど、今作ではそういうことは全くなかったです。
●何が今までと違っていたんでしょう?
古川:前はメンバーのつけてきた楽器の音を聴いて、“これだと自分のやりたいものができないな”と思うことがあって。“だったら、違う曲にしよう”という感じだったんです。でも今はメンバーのつけてくれる音の温度が高くなってきているので、僕も色んな方向から試さなくて済むというか。答えが見つかったのかもしれないです。
●そういう意味で、今回はボツになった曲も少なかった?
古川:むしろ今作に入っていない曲の中にも、良いものはめっちゃありましたね。
●その曲を今作に入れなかった理由とは?
古川:アルバム全体を通して、テーマに沿っているものに絞った感じです。今回は“7”というのがキーワードになっていて。7作目の作品で7曲入りだし、「ひとりぼっちのジョージ」とM-3「that girl」以外の曲には自分の中で裏テーマを込めているんですよ。
●裏テーマ?
古川:そこは謎にしておきたいんですよね。自分の中で“こういう気持ちで作っている”というものがあったとしても、そこは(リスナーには)別に伝わらなくても良いところだから。”謎”は愛情というか、みんなに対してプレゼントする気持ちなんですよ。
●リスナーそれぞれに自由に想像する余地をプレゼントしている。
古川:それぞれの人が勝手に考えて欲しいし、僕とは違うイメージもして欲しいんです。SNSとかで“こういう解釈をしました”と書いてくれたものが、僕が思っているものとは違う時もあったりして。なんだったら聴き間違えていたりすることもあるんですけど、僕はそういうものが大好きなんですよ。その間違いが良いと思っているから。
●間違っていたとしても、そこから新しい解釈が広がっていくことが嬉しい?
古川:そうなったら最高です。謎があるということが、1つの愛情になって届いてくれると嬉しいなと思っていて。“この作品には秘密があるんだ”と思ってくれると嬉しいですね。
●リスナーと一緒に作品のイメージを作っていくというか。そこからの反応で自分たち自身が気づかされることもあるのでは?
石原:メジャーデビューに関しても僕はファンの人が喜んでくれているのを見て、“あっ、頑張ろう”と思ったんですよ。
森下:遅いよ(笑)。
●そこで自覚が生まれたと。
石原:“ファンの人あってのTHE PINBALLSだな”とその時に思いました。その人たちがいたから続けてこられたという気持ちもあって。
●今回のリリースツアーが、そういう人たちへの恩返しにもなるのでは?
石原:そうですね。ライブでは楽しんで欲しいし、ファンの人たちが笑っている顔を見ると僕らも力をもらえるから。“もっと笑顔にしてあげたい”ということは常々考えています。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾