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サイケ奉行

ヘヴィでハードかつ壮絶なスピード感の中に 超絶ユーモアを織り込んだ怪奇骨董音楽集。

G./Vo.津山篤(想い出波止場/ex. Acid Mothers Temple)がギターを弾きまくるためだけに結成したバンド、サイケ奉行が活動8年目にして4枚目となるフルアルバムを完成させた。Ba.須原敬三とDr.砂十島NANIという濃厚なメンバー2人と共に生み出す音は、1967〜74年までのサイケ、プログレ、ブルース、ハードロックなどのエッセンスを独自消化した“混じりっけたっぷりのロック”。ヘヴィでハードかつ壮絶なスピード感の中に、超絶ユーモアを織り込んだ怪作はこの3人にしか生み出し得ないであろう。奇跡的に実現したメガレアなインタビューをぜひ堪能して欲しい。

 

「1960〜70年代に20歳そこそこのヤツらが作っていた音楽を、もう60歳になるジジイが喜んでやっとるわけで…アホやな(笑)!」

●サイケ奉行として今回で4作目のアルバムとなるわけですが、2年に1枚のペースでリリースしているんですね。

津山:本当は毎月出したいと思っているくらいやけどね。セーブしてます。

須原:何をセーブしてるのかわからないですよ(笑)。

●どんどん曲が生まれてくる感じでしょうか?

津山:曲はできるし、いっぱいあるから。でも別に“作ろう”と思って作ることはあんまりないですね。パッと思いついたものを録音しておいて、後でまた考えるみたいな感じかな。そのままできあがってしまうものもあって。

●曲は基本的に津山さんが作ってくるんですか?

津山:俺が1人で全部作ってます。自分の中で曲を作った時にイメージができているのでそれを練習の時に伝えて、後から詰めていく感じですね。(他のメンバー)2人は完成形を知らないまま、録音に入るという。

●完成形のイメージは津山さんの頭にしかないと。

津山:できあがるまで、2人にはわからない。フレーズとかコード進行だけは最初に決めているけど、完成した時は全然違うものになっていますね。

●メンバー2人は大変なのでは…?

NANI:全容が見えないまま、やってるから…。ギターのガイドだけを頼りに、“こんな感じかな?”みたいな。

須原:とりあえず「こんな感じ」と言われたものを、自分なりにまとめて。最終的に完成した時に、全貌を知るという。でも最近はあえて訊かないようにして、できあがりを楽しみにしています。

●全貌を伝えずにやったほうが面白いものになりそうだから、そうしているところもある?

津山:いや、面倒くさいからっていうだけで、手っ取り早い方法がそれやから。俺は譜面とかも書かれへんから口頭で伝えたり、その場でギターを弾いてフレーズを決めたりして、あとはお任せでやったりしてるんです。ただ、ライブでやってる曲は形が大体決まってるから、それをそのまま録音する感じで。

●作品化する前に、ライブでやっている曲もあると。

津山:もちろん全くライブでやっていない曲もあるけど、大体はライブでやっているものを録音していて。新曲ができたらライブでやって、慣れたら録音して、そこで完成したものをまたライブでちゃんとやるみたいな感じですね。

●ライブでやっていく中で、曲が固まっていくところもあるんでしょうか?

津山:そうなんでしょうね。ライブは練習をやっているようなもんやから。今日(2017/11/10@秋葉原CLUB GOODMAN)に向けて、広島と大分と福岡と山口で4回も練習してきた。

須原:練習と違いますよ!

●ハハハ(笑)。ツアーで各地をまわる中で、アレンジが変わってきたりもするんですか?

津山:いや、変わらないですよ。基本的には一緒やから。

●音源での演奏をライブでも再現している?

津山:再現しているつもり。もちろんギターソロの長さが違ったりはするけど、曲自体の構成は決まっているから。俺はインプロヴィゼーションとかはできないんですよ。

●いやいや(笑)。曲の構成的には途中で大きく展開していって、最終的にはまた元の形に戻ってくるようなものが多いですよね?

津山:それはわざとやってます。昔の曲って、そういう構成のものが多いじゃないですか。リフがあって歌があってギターソロがあって、展開してまた元に戻ってきて、“グッシャーン!”となって終わりっていう。Deep Purpleなんて、みんなそうや。

●昔のロックバンドがよくやっていた曲構成をなぞっている。

津山:自分もそれをやりたいっていうだけで。あと、リフがないと嫌なんですよ。ロックはリフがないとアカン。ロックバンドだとか言いながらコードだけ弾いて歌ってるヤツは、俺に言わせたら“フォーク”やから。フォークをエレキでやってるだけで。やっぱり何らかのリフはあるのが、俺が思うところの“ロック”ですね。

●津山さんの中で、サイケ奉行は“ロック”をやっているという感覚なんでしょうか?

津山:そう。普通の“ロック”をやってる。色んな形があるけど、自分の中では今まで聴いてきて好きだった“ロック”をそのままやってるつもりです。

●“サイケ”をやっているわけではない?

津山:“サイケ奉行”とは言ってるけど、“サイケ”ではないと思う。サイケの要素もありつつ、どちらかと言えばブリティッシュのハードロックとかプログレに近いんじゃないかな。

●バンド名にはサイケと入っているけれども、別にサイケバンドをやっている意識はないと。

津山:たまたま響きが良かったのでそういう名前にしただけで、自分の好きなフレーズだったり“カッコええな”と思うものをやっているだけですからね。そういう要素もあるけど解釈の仕方は自由で、別にどう思ってもらっても良い。

須原:津山さんから電話でこのバンドに誘われた時に「何をやるんですか?」と訊いたら、「サイケ奉行や」と言われて。“サイケ奉行って何やろう…?”と思いながらも「はい、大丈夫です。(スケジュールは)空いてます」と言って電話を切ったんですけど、そこからもう8年…。だから、“これがサイケ奉行”なんやろうな”と思うんですよ。それは別に“サイケデリック”というものじゃなくて、“サイケ”やから。

●“サイケデリック”というジャンルをやっているわけではなく、“サイケ奉行”をやっている。

津山:実際、世の中には“サイケデリック”とか言われてるけど、違うものもいっぱいあって。それと同じで、要は外面的な部分を言ってるだけやから。ロックについても精神性がどうのこうのとか言うヤツもおるけど、俺はそんなこと全然思わへん。「ジャズはこういう精神で…」とか「ロックの魂が…」とか、俺にはそんな意識は皆目ないんです。ロックなんて、ただの形式ですからね。自分の中で“形式”というものがあって、それが世間の人とズレていたりする。でも何が“正しい”とか“間違い”じゃなくて、単に好き嫌いや思い込みだけなんですよ。

●メンバーともそういう感覚を共有している?

NANI:いや、していないです。

須原:“こんなんかな?”と思いながら、ベースを弾いているだけやから。

津山:共有する必要がない。別に俺の好きなものをNANIくんにも好きになってもらう必要は、全くないわけで。須原くんは俺と聴いている音楽が似てるから大体はパッとわかるかもしれへんけど、NANIくんはよくわからないままやっていたりもするやろうからね。でも“あっ、それ良い!”となることがよくあるんです。

●ルーツが同じかどうかは重要ではない。

津山:だから(同じような音楽を)聴いている聴いてへんは、あまり関係ない。聴いていたほうがやりやすいのは確かやけど、才能のあるヤツと一緒にやっていたらそこはあまり関係ないから。

NANI:僕は僕の好きな音楽があって、“ちょっとそういう要素を出したらどうなるかな?”と思ってやってみることもあるんですよ。それが自分の中での楽しみ方でもありますね。

●異なるルーツを持っている人と一緒にやることで、予想外のものが生まれる楽しさもあるのでは?

津山:別に誰とやっても良いんやけど、実力がないと無理やから。特に俺は練習をきっちりやる感じではないから、そういういい加減なやり方に従って録音まで一緒にやってくれる人はなかなかいない。ベーシストにしてもドラマーにしても、上手い人はいくらでもいると思うんですよ。でも上手い下手じゃなくて、やっぱり俺と一緒にできる人じゃないとね。

●そういう意味では、かなり希少なメンバーが集まっている?

津山:なかなかいないですよ。俺のいい加減なやり方にも文句を言わずにやってくれるし、首をかしげずにやってくれるから。あと、NANIくんの場合は、芝居が上手いというのもあって。

●今作のM-3「武蔵と小次郎」にも、冒頭から芝居が入っていますね。

津山:俺の芝居の相手をしてくれないと困るし、それをやってくれるドラマーはなかなかいない。俺のしょうもない小芝居に、真剣に付き合ってくれるのはNANIくんだけやから。彼は相当な名優ですよ。

NANI:入り込むのは得意ですから。

●「武蔵と小次郎」の歌詞は、独自のストーリーになっていますが…。

津山:もちろん全部自分の中でストーリーがある上で勝手にやっているんですけど、別にそんなことはどうでも良いんですよ。聴く人が勝手に何か思ってくれれば、それで全部OKやから。ジャケットにしろ曲にしろ歌詞にしろ、意味とか“何かを伝えよう”なんて皆目思っていない。この世から歌詞なんかなくなれば良いと思っているくらいやし、歌詞が大嫌いです!

●ハハハ(笑)。歌詞は嫌いと言いつつ、インストをやろうとは思わないんですね?

津山:インストだと、ジャズとかフュージョンをやってるみたいに思われるのが嫌で。やっぱりロックをやりたいから、仕方なく歌詞を乗せてるんです。歌うのは好きやけど、歌詞にメッセージとかテーマはなくて。行き当たりばったりで、その時に思いついたことをそのまま歌ってます。

●歌詞に関しては、思い付きを形にしている。

津山:語呂合わせとかもあるけど、基本的には思いついたものをメロディに合わせてるだけで。自分を笑かすためにやってるから。自分で歌いながら、自分で笑えるのが一番楽しい。

●ある意味、悪フザけというか。

NANI:でも今話しているようなギャグとか面白い部分って、サイケ奉行の表層的な一面でしかなくて。俺にとってサイケ奉行の楽しさというのは、津山さんが作ってくるデタラメなフレーズとか譜面では表しきれないリフに合わせていく中で“奇妙な音楽ができていっているな”と感じられるところなんです。

須原:確かにその場でどんどん“何かが生まれている”みたいな印象は、めっちゃ受けますね。2人とも天才肌な人なので、話を聞いてゲラゲラ笑っている内に曲ができていたりもして。津山さんに「こうやって」と言われたものを弾くためにどうするか考えながら家で練習したり、“NANIくんがそうするなら、自分はこうしよう”とか演奏中に考えたりする中で今の形になっているんです。

●そういう流れも楽しめているのでは?

須原:もちろん。基本的に楽しくないとやらないし、練習したぶんだけ上手くなりますからね。

●歳を重ねる中でもどんどん上手くなっている感覚があるからこそ、楽しいと思えるのかなと。

須原:中学生の時にはできなかったことが今やれているので、やっぱり面白いですね、確認というか。

津山:中学〜高校くらいの時は全然できへんかったけど、その時の衝動を今やりたいんですよ。あの時やりたかったけどできへんかったことも、今ようやく60歳を前にしてできるようになったから。1960〜70年代に20歳そこそこのヤツらが作っていた音楽を、もう60歳になるジジイが喜んでやっとるわけで…アホやな(笑)!

●ハハハ(笑)。

津山:Led Zeppelinとか70年代のロック全盛期のバンドとかも当時は20代とか、下手したら10代でああいう曲を作ってるんですよ。それを聴いて“カッコ良い”と、自分が中学生の時に思って。そういうものを今ようやくできるようになったから、やっているだけなんですよね。

●中高生の頃に60〜70年代のロックを聴いて自分でも“こういうことがやりたい!”と思った初期衝動を今、形にしているんですね。

津山:当時からこのまんまやから、精神的には成長していないんですよ。だから「君らの音楽は古い音楽の焼き直しや」と言われたとしても「はい、そうですよ」って言うだけで、別に新しいことをやろうなんて思ってもいない。他でやっている時はまた別やけど、サイケ奉行に関しては単に67年〜74年くらいまでの音楽を自分なりに再現したいだけやから、それ以上でも以下でもないんです。

●意識的に67年〜74年頃のロックを今やっている。

津山:それを“新しい”と思って若い人が聴くのも良いし、懐古的に聴いてもらっても良くて。こういう音楽って好きな人は好きだけど、嫌いな人は嫌いやろうから。そもそも音楽とか芸術は、どれも“好き”か“普通”か“嫌い”しかないんですよね。他には何もない。

●自分たちの好きな音楽の良さを無理矢理わからせようとも思っていない。

津山:俺の好きなジャンルって世界中のほんのちょっと…5%くらいで、あとは全部嫌いなんですよ。色々聴いてきた中でどんどん排除していって、残った5%のところだけをやってる。だからほとんどの人にはわからへんと思うし、勝手にやってるだけやからね。チンコをイジってるのと同じで、それを人前でやってるだけです。

NANI:僕らはそれを手伝っています!

●やっぱり自分の手だけでやっていると飽きてきますからね(笑)。

NANI:津山さんが気持ち良さそうなのを見てると、僕も気持ち良いから。

津山:3人でやったら、もっと楽しいもんな。…って、何の話や(笑)。

須原:載せられへん!

一同:ハハハハハ(笑)。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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