長崎発ロックバンド・ALBRIGHT KNOTが初の全国流通盤『Wander lust』をリリースした。ストレートかつシンプルなロックサウンドで人々を魅了し、全国各地でエネルギッシュなライブ・パフォーマンスを展開してきた彼ら。JUNGLE LIFE初登場となる本インタビューでは、結成から今作をリリースするまでの経緯や、楽曲に込めた熱い想いをメンバー全員にたっぷりと訊いた。
●2014年から長崎で活動されているそうですが、まずは結成の経緯を教えてください。
山口:最初は、僕とBa./Cho.梅野と前任のドラムの3人で活動していたんです。そこにG./Cho.の鈴川が一昨年に加入して。その後に前のドラムがケガで脱退してしまったので、サポートをしてもらっていた前田を去年の11月から正式メンバーに迎え入れて今の4人で活動を始めました。
●最後に入った前田さんが一番年下ですけど、すぐに打ち解けられました?
前田:最初はいっぱいいっぱいでしたね(笑)。曲を覚えないといけないというのもありましたし、間違えて焦ってしまうこともありました。
山口:今では意見も言ってくれるようになって。むしろ怒られています(笑)。
●逆に怒られる(笑)。
山口:メンバーに同い年はいないんですけど、あまり年齢差は感じていないんですよね。梅野は僕より年下なのに、タメ口で話しかけてきたり(笑)。
●立場が逆転していますね(笑)。
山口:僕は底辺にいます(笑)。
●ハハハ(笑)。歳は違っても、メンバー間で音楽的なルーツは共通しているところもあるのでしょうか?
山口:みんなバラバラですね。“誰々みたいなミュージシャンになりたい!”というのがないんですよ。そもそも「誰々っぽい」と言われるのが好きじゃないので、そういうのはなくても良いと思っています。
●ALBRIGHT KNOTの音楽は“メロディックパンク”と紹介されることもありますが。
山口:自分たちでもメロディックパンクなのか、よくわかっていないんですよ。自分が歌いやすくて聴きやすい曲を作った結果、そうなった感じですね。そこにメンバー個々の想いやスキルが組み合わさって今の形になっていきました。だからもしメンバーの誰かが欠けていたら、今とは全く違うバンドになっていたと思います。そういう意味では可能性があるし、型にハマっていないバンドだと思いますね。
●あくまでもALBRIGHT KNOTとしてのオリジナリティを大切にしていると。そして、今年2月からは現体制になって初のツアー“CATCH AND RELEASE TOUR 2017”を開催されましたが、これはこの4人で新たに音を固めていくため?
山口:そういう意味合いもありますけど、去年大阪から東京に行く途中で僕らが乗った車が横転事故を起こしてしまって。鈴川が左手を骨折して、ライブを何本かキャンセルしてしまったんです。そこから1ヶ月で復帰できたので、その時行けなかった会場にもう一度行かせてもらおうと思ってまわったツアーでしたね。あと、前田が正式メンバーになったのもその時期と重なったので、復帰ライブと新メンバーのお披露目を兼ねて行いました。
●ある意味、リベンジ的なツアーだったんですね。そして11/1には初の全国流通盤『Wanderlust』がリリースされました。一聴してM-1「Starry Night」の壮大なオープニングに驚いたんですが、アルバムの1曲目はもっとテンポの速い曲で勢い良く始まると思っていたので意外だったというか。鈴川さんもTwitterで、「1曲目になるとは思わなかった」とつぶやいていましたよね。
鈴川:メンバーもこれが1曲目になるとは思っていなかったです。
山口:元々はM-2「Backpacker」を1曲目にするつもりだったんですよ。でもプロデューサーさんに相談した時に“「Starry Night」は1曲目が良い”というアドバイスをもらって。最初は違和感があったんですけど、1曲目にしてみたら意外としっくりハマりましたね。
●この曲を1曲目にすることで、より幅広い層まで届く作品になったのかなと。
山口:元々僕らの曲は全曲聴きやすいとは思うんですけど、その中でも「Starry Night」は普段ロックとかを聴かない人でも聴きやすいんじゃないかなと思います。もしかしたら最初からターゲットを絞って曲を作るのが賢いやり方なのかもしれないですけど、せっかく初めての全国流通盤なので“色んな人に聴いてもらえる入口になれば良いな”と思って作ったんです。あと、「Starry Night」が1曲目になったことで、2曲目の「Backpacker」が映えたと思うし、アルバム全体を通しても感情の波がより表れた曲順になりましたね。
●その感情の波は楽曲中にも表れているのでは?
山口:歌詞や曲調にも出ていると思います。曲を作る時はメロディを先に作って、そこに気持ち良く音が乗るように言葉を入れていて。“わかりやすい歌詞を書きたい”と思う反面、“簡単に理解されてたまるか”という想いもあるので、文字にすると簡単なように見えて、実は意味深な言葉にしたりしています。
●簡単な言葉は使うけど、単純な1つの意味だけではない。
山口:パッと見て“こういう歌詞なんだな”という印象と、僕の中での意味は違うこともあると思うんですけど、それは聴いている人の価値観に委ねていますね。解釈は人それぞれなので、お任せしています。
●その中でも“ありきたりなセリフ ありふれた予定調和”という歌詞から始まるM-5「アフターオール」は、特に強いメッセージ性を感じました。
山口:「アフターオール」は前田が正式加入して初めて作った曲なんですけど、こういう速い曲は今までやっていなくて。新しい挑戦として曲調はポップでありながら、歌詞は尖った感じにしたいと思って作りました。歌詞もその当時に思っていたことをそのまま書いたんですよ。
●当時はどんなことを考えていたんですか?
山口:その当時は色んなバンドのライブを観たり、色んな人と会うことも多い時期で、“みんな同じに見えるな”と感じていて。それと同時に“自分たちも他者からはそういうふうに見られているんだろうな”とも思っていたので、自分らしさを出したかったんですよ。
●他のバンドと差別化をはかるために、個性が出るような歌詞にした。
山口:そうですね。でも予定調和を避けること自体が予定調和になるんじゃないかと思っていて。そういういたちごっこを打破したくても、なかなかできないもどかしさはありましたね。
●「アフターオール」は前田さんが正式加入して初めて作った曲ということですが、制作で印象に残っていることはありますか?
前田:この曲は一番アレンジに苦戦しましたね。ビートが速いので、ノリを出すのに苦労しました。サポート時代を含めたら一番最初にやったのはM-6「クロト」なんですけど、この曲も印象に残っています。
●「クロト」は鈴川さんが一番苦戦した曲だったそうですが。
鈴川:イントロも今とは全然フレーズが違いますし、コーラスも今とは音程が違いましたね。ライブで元々やっていたんですけど、レコーディング段階でかなり変えました。
●それはライブでやっているアレンジでは物足りなかったから?
鈴川:作った時から“イントロのフレーズがちょっと違うのかな”と薄々思っていたんですけど、実際にレコーディングで録ってみたら“やっぱり違うな”と思って。
山口:あれはあれで良かったんだけどね。
鈴川:この曲は間奏にも苦戦しましたけど、結果的には僕の好みが出ている感じの曲になったと思います。
●最終的には満足できる仕上がりになった。
鈴川:これからライブでやっていく中で変わる可能性もありますけどね。お客さんの中にはライブでは音源と同じものを聴きたいと思う人もいるかもしれないんですけど、曲は変わっていくものだと僕は思っているから。フレーズが変わっても、楽しんで欲しいですね。
●曲を作る時は、歌詞とメロディができてからメンバーでアレンジしていく感じですか?
鈴川:工程としては、曲全体の構成ができてから大ちゃんがメロディと歌詞をつける感じですね。
山口:M-7「青い春の謳」だけは、梅野が作詞に初挑戦しています。
●新たな挑戦をしたんですね。
梅野:「みんなでシンガロングする曲をやりたい」と言ったら曲を作ってきてくれて、「歌詞を書いてみない?」と言われたので、頑張って書きました。
鈴川:アルバムの中では今までとは毛色の違う曲だったので、音楽性の幅も広げられたかなとは思います。
山口:俺らっぽくないと言われればそうなんですけど、実際にやってみたらALBRIGHT KNOTっぽさは出たと思います。
●梅野さん的には、この曲が一番思い入れがあるんじゃないですか?
梅野:演奏していても一番楽しいです。ただ、歌うことが得意ではないので、ライブでやる時は緊張しますね。
鈴川:「シンガロングしたい」と言って作ったのに、自分で自分の首を締めている(笑)。
●ハハハ(笑)。この曲はコーラスが印象的ですが、元々全員でやっていたわけではない?
山口:他の曲は、基本的に鈴川がコーラスをやっています。でもこの曲にはコーラスのアンサンブルが欲しいと思ったので、メンバーにも頑張ってもらいました。
●メンバーの努力が垣間見える曲にもなっていると。ところでMVはM-3「いつか未来の話を」とM-8「ワンダーラスト」が公開されていますが、この2曲をチョイスした理由は?
山口:「Starry Night」も候補には挙がったんですけど、聴いた時に僕らっぽいのがこの2曲だと思って。特に「いつか未来の話を」はバンドを始めて一番最初にできた曲なので、思い入れがあったというのもありますね。ライブでもほぼ欠かさずにやっている僕らの代表曲ですね。
梅野:この曲は何百回とやってきているんですけど、未だに飽きずに楽しくやれている曲なんですよ。純粋に良い曲だなと思いますね。
●今作のタイトル『Wanderlust』は“放浪癖”という意味がありますが、今作を作る上で“旅”のイメージはあったんですか?
山口:ありますね。今作が僕らにとって初めての全国流通盤なので、それを旅にたとえて“ここから始まる”という意味でこのタイトルにしました。
●そのイメージはジャケット写真にも繋がっている?
山口:ジャケットに使われている写真は、僕が地元の長崎の風景を撮ってきたんです。せっかくなら僕らが見てきた地元のきれいな風景を、長崎以外の人にも見て欲しかったんですよね。
●地元の長崎への想いを込めたジャケットになっているんですね。そして今作を引っ提げたツアー“Wanderlust Tours 2017-18”が始まりますが、どんなライブをやっていきたいですか?
山口:良くも悪くも“初期衝動”でライブをやっているので、歌を活かしつつもみんなの印象に残るライブがしたいですね。
●スケジュールもかなりタイトですよね。
山口:地元が長崎なので、1回出発するとなかなか戻ってこれないんですよ。3ヶ月で30本くらいあるんですけど、毎月2週間くらい家に帰れない状態が続きます。
●そうやって細かく各地をツアーでまわるのも、多くの人に音楽を届けたい想いがあるから?
山口:そうですね。直接行って音楽を届けないと、入口は開けないから。その扉を開くきっかけは僕らが作っていくものだと思っているので、今回のツアーで色んなところに届けてきます。
鈴川:僕は個人的にもこれだけの数のツアーをまわるのが初めてなので、純粋に楽しみですね。早く色んなところに行って、色んな人に会いたいですね。
Interview:室井健吾