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INKYMAP

磨き続けてきた想いは結実する

2016年10月に1stフルアルバム『BLISTER ON MY FOOT』をリリースし、半年に渡るツアーを成功させたINKYMAP。ライブを重ねる毎、作品を重ねる毎に目覚ましい成長を遂げてきた彼らが、待望の2ndフルアルバムを完成させた。諦めることを選ばずに描いた想いを追い続けている4人が紡ぐのは、生々しくて深遠なる音像と、言葉に込めたリアルな気持ち。たくさんの経験と研鑽を積み、更に強度と深度と鋭さを増した音と想いが鳴り響く。

 

「思い描く何かを実現させるのは、自分次第じゃないですか。俺が何かを言ってみんなに実現させてあげられるわけではない」

●前作『BLISTER ON MY FOOT』(2016年10月リリース)のツアーは3/18の渋谷TSUTAYA O-Crestワンマンで締め括りましたが、どのようなツアーでしたか?

Kazuma:色んな壁に当たりました。

●それ、1stミニアルバム『MAKE BELIEVER?』(2015年4月リリース)のツアーのときにも言ってませんでしたっけ?

Kazuma:ハハハ(笑)。でも『MAKE BELIEVER?』のツアーの実感とは少し違うんです。今回のツアーは、新しいことに挑戦して「よし! うまくいった!」と思ったら、次のライブで「あれ?」みたいなことの繰り返しが多くて。そこが難しかったですね。

●新しいことに挑戦したというのは?

Kazuma:『BLISTER ON MY FOOT』はそれまでとは違ってロック色が強いというか、気持ちや衝動を込めた曲を多く作ったんですけど、俺はそういうものを強く表現することが今まであまりなかったんです。だからライブで「バーン!」とやっていく中で、いい選択が見つからないときがあったり。

●それまでポジティブな感情を曲に込めることが多かったけど、『BLISTER ON MY FOOT』はそうじゃないもの…怒りや負の感情…を込めた作品だと以前のインタビューでおっしゃっていましたけど、それをライブで表現するときに躊躇した?

Kazuma:うーん、躊躇したというより、やっぱりそういう感情は勢いよく出て行くので、観ているみんなからしたら圧倒されるというか。そういう衝撃は伝わっていたと思うんですけど、そこからもう1つライブを盛り上げようとしたときに悩んだんです。「俺の武器って何だったっけ?」みたいな。

●あら。

Kazuma:自分がヴォーカリストとしてどういうものを伝えたいのか? と考えたときに、新しいことに挑戦していて「あれ? なんだっけ?」となってしまったことがあって。それは単にライブだけの話ではなくて「あれ? これでいいのかな?」と考えることがすごくあった。ツアー中はそこをしっかり固めていくことも同時にしていたので、ただ楽しいだけではなかったんです。闘っていたというか。

●自分の中で葛藤があった。

Kazuma:はい。特に何も言わなくてもそれがメンバーにも伝わって、メンバーも「どうしようか?」みたいな感じになったり。逆に俺から「どういうヴォーカリストであって欲しい?」とメンバーにも訊きましたし。そういうこともあって、だんだん見えてきたんです。

●なるほど。

Kazuma:ツアー中にそういう迷いを正していきながら、でも結局は衝撃や衝動で「バーン!」とやるライブと、「一緒にいこうぜ!」みたいなライブ…それはどっちもやりたかったことなんです。いろんなものを出していく中で「これが俺だ」と確固としたものを見つけることがなかなかできなかったというか。ひとつにしていく作業がなかなか上手くできなくて、ライブを重ねる毎にわかってきた感じですね。

●“自分がどうなりたいか”ということを見つめ直した。

Kazuma:思い描く像というか。最初は憧れの人がいて、その人を追いかけるわけじゃないですか。でも自分が作った音楽で活動を続けていくと、“自分らしさ”みたいなものが求められてくる気がして。「お前の武器って何だ?」と。

●はい。

Kazuma:だから『BLISTER ON MY FOOT』の制作とツアーは、ちょうどそういう時期だったのかなと思います。遅いかもしれないですけど(笑)。

●生まれたときからヴォーカリストみたいな人も中にはいますけど、バンド活動を続けていくと誰もがその壁に当たりますよね。そういう話はよく聞きます。

Kazuma:俺はみんなに「Kazumaは真面目過ぎる」と言われるんですけど、でもそれはしょうがないですよね。“だからどうしよう?”というところは自分で考えないといけないわけで。それで誰かの真似してただバカをやっても、きっとそれは俺自身じゃないだろうし。でもそういうものが見えてきたときに、メンバーと「俺たちはこういうバンドになりたい」とか「今日はこういうライブをしよう」みたいな話が今まで以上にできるようになったんです。今回のツアーはいい経験になりました。

●ツアーが終わって、今作の制作に入ったんですか?

Kazuma:そうですね。『BLISTER ON MY FOOT』はロック色が強い作品だったと言いましたけど、今作は『BLISTER ON MY FOOT』以前の俺たちが持っていた部分と、『BLISTER ON MY FOOT』で得たロック色が強い部分が混ざり合うといいなと思っていて。

●それが自分たちらしさだと。

Kazuma:はい。“いい音楽だな〜”と思って聴いていたら“うわ! こいつらなんかクセがあるな!”みたいな。そういう作品にしようというところから制作がスタートしたんです。

●今作は10曲収録されていますが、候補曲はどれくらい作ったんですか?

Kazuma:結構作りましたよ。ネタも含めて数えたら何十曲かはあったと思います。その中から「これいいね」と選んでいって、ギリギリでこの10曲になった感じです。

●ギリギリとはどういうことですか?

Kazuma:今回の制作はいろいろあったんです。先にツアーを決めていたんですけど、逆算していくと「このままだと間に合わない」ということになって。

●スケジュール的にギリギリまで悩み、ギリギリまで作っていたと。

Kazuma:今回は曲の作り方もいろいろと変えてみたというか、方法を増やしたんです。

●前は「歌詞とメロディを一緒に作る」と言ってましたよね。

Kazuma:そうなんです。でも今回からは、メロディを先に作って後で歌詞をしっかり考えたりとか。逆に、先に歌詞のイメージを作った上で曲にしてみたり。リフから作ったこともありましたし、いろんな方法に挑戦したんです。

●その話に関連するのかもしれないですけど、今作はサビのインパクトが強いですよね。アレンジも、サビのメロディを際立たせるアプローチが多いというか。

Kazuma:メロディを大切にするという意識は強かったですね。先にサビのメロディを作って、1音のズレとかも「こっちの方がいいかな?」「いや、こっちの方がいいかな?」と何個かパターンを作って、みんなに聴かせたり。

●自分の中だけで判断するのではなく、客観性を入れた。

Kazuma:1人で作っているとだんだんわからなくなってくるんですよね。だから聴いてもらって率直な意見を聞いて、基準を確かめるというか。そこからまたメロディを練り直して、もう1度みんなに聴かせたり。

●なるほど。それと、今まで何度かインタビューさせてもらっていて、ライブなどで会ったときに話もさせてもらっていますけど、今作でKazumaくんの人となりがはっきりと見えてきた印象があって。

Kazuma:ああ〜。

●作品全体の歌詞の印象として、“ケセラセラ”という言葉を使ってもいるように、結論を出すとかゴールがあるというタイプの曲というより、日常のちょっとした感情とかを切り取っている描写が多いですよね。

Kazuma:はい。

●はっきりとした結論は出していないけれど、気持ちはわかるというか、感情がダイレクトに伝わってくる度合いが強いアルバム。

Kazuma:例えばM-9「Saying」は、湧き出てくるような想いをありのまま込めた曲を作りたいなと思って作った曲なんです。

●「Saying」は弾き語りの曲ですが、聴いたときにびっくりしました。生々しい。

Kazuma:今まで作った曲はわかりづらいというか、敢えて表現をぼかして書いていたりすることも多くて。本当は意味があるんだけど、いろんな解釈をしてもらえれば、と考えていて。

●明確に描写しすぎるのは美学ではないというか。

Kazuma:はい。今まではそういう表現が多かったんですけど、そういうものを直接リアルに出したかった。そういうことを考えていたときに「Saying」ができたんです。おっしゃっていたようにこの曲で答えは出していないですけど、わかりやすくないですか?

●わかりやすいですね。

Kazuma:未だこの曲をライブで演ることは想定していないんですけど、いつかできるようになったらいいなと思っていて。

●ライブでは演らないんですか?

Kazuma:未だ演らないつもりです。いつか時期がきたら、というか。

●ライブで聴くのが楽しみな1曲ですね。あと、サビのメロディが際立っているということも関連しているんでしょうけど、作品全体を通してKazumaくんの歌に意識がいくんですよね。

Kazuma:メロディから作るようになって、1つ1つの作業に対する集中力が今までと比べて変わったんです。俺自身の意識もそうだし、俺がみんなに要求することも。

●はい。

Kazuma:そういう意識が作品に出たんだと思います。慎重になった。「本当にこれでいいのかな?」と考える時間を設けたというか、1回自分を疑うというか。メロディを作る段階も、全体のアレンジを作る段階も、歌詞を付ける段階でも、そういうことが増えて。

●今まで以上に、俯瞰的に見たり、客観的に聴いたと。

Kazuma:今まで俺は「これじゃないとダメだ」というタイプだったんですよ。もちろん今も「こうしたい」という強い気持ちがあるときはそっちを優先しますけど、でも基本的にはみんなに聴いてもらって、いいものにしたいという意識だったんです。歌録りも、今回は何度も録り直して。自分の歌い方を見直して、納得がいくテイクが録れるまで何度も歌ったんです。

●そう言われてみると、M-5「Never Knows Best」やM-6「Steam」は他の曲と歌い方が全然違いますよね。声自体も違う。

Kazuma:ニュアンスを決めて歌っていくんですけど、何度も歌うウチにだんだん変わってきちゃうんですよね。だから難しかったんですけど、曲の世界観に合った歌にしたくて。今回の制作で、歌に対する意識もかなり変わりました。

●歌に対する意識とは?

Kazuma:もともと“気持ちよく歌っていればいいや”という考えだったんですけど、ちゃんと勉強して、ちゃんと伝えたいという気持ちが強くなったというか。もともと歌うことはすごく好きなんですけど、バンドマン的な「楽しくやりたい」だけではなくて、ヴォーカリストとしてちゃんと歌いたいなと。

●今作を聴いて思いました。INKYMAPの武器のひとつは歌だなと。

Kazuma:マジですか? それは嬉しいですね。人から「声が独特だ」と言われることもあるんですけど、シンプルにもっと上手くなりたい。歌うことはもともと好きで、歌っているとすごく楽しいんですよ。上手く歌えないことも楽しいくらい。

●上手く歌えないことも楽しいんですか?

Kazuma:今は楽しく思えます。上手く歌えないと当然苦しいんですけど、そういう好きなことに対しての苦難というか壁を超えたときの達成感は大きくて。MCとかもありますけど、結局は歌でみんなが心を動かしてくれるのがいちばん嬉しいじゃないですか。だからもっと上手くなりたいです。

●それと、歌詞に天体に関連する言葉が出てきたり、空の情景描写が多いことと結びついているのかなと思ったんですけど、アルバムタイトルを『ASTEROID』にしたのはどういう理由だったんですか?

Kazuma:“ASTEROID”は“小惑星”という意味なんですけど、膨大な数のものをタイトルにしたかったんです。小惑星って悪く言うと星屑ですけど、それは俺たち1人1人と同じだなと。「そんなちっぽけな存在だけど…」っていう。タイトルにはいろんな意味を込めたんですけどね。

●先ほど言いましたけど、今作の歌詞は明確なゴールがなくて、言ってみればケセラセラ…“なるようになる”という心境が表れているじゃないですか。それは決してネガティブなものでもなくて、Kazumaくんの今の心境だと思うんです。『ASTEROID』というタイトルも、その心境につながっているんでしょうか?

Kazuma:そうですね。「Never Knows Best」で歌っていることでもあるんですけど、最善策を見つけることって無理だと思うんです。でもその中でも、自分の信念をギュッと凝縮していくことでできることってあると思うんですよね。

●最善策を見つけることは無理だけど、だからといって…。

Kazuma:諦めたくない。せっかく考える力があるんだから、「これは違う」「これは違う」と選んでいくことはできるじゃないですか。作品全体のテーマとして、そういう気持ちがありました。

●なるほど。結論付けていない歌詞が多いなと思ったんですが、そういう話を聞いてから今作を聴くとまた味わい深くなりますね。

Kazuma:結局、思い描く何かを実現させるのは、自分次第じゃないですか。俺が何かを言ってみんなに実現させてあげられるわけではないし。

●はい。

Kazuma:でも「こうしたい」「ああしたい」と思うことを実現させるのは、可能性がゼロではない限りできると思うんですよ。“がんばったのにできなかったな”と思うことがあって、自分でそのことを振り返ったとき、「がんばったのに」ではなくて「やらなかったから」できなかったことも絶対にあるんですよ。

●ありますね。

Kazuma:結局、そういうことなんじゃないかなと俺はずっと思ってて。だから可能性がゼロじゃないものは、気持ち次第だなと。

●それはINKYMAPを始めた当初から抱いていた芯にある想い?

Kazuma:そうですね。やっぱり活動していくとちょっとブレたりとかもありましたけど、今思い返してもずっとそれを信じていたい。これからもそう言い張っていきたいですね(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

 
 
 
 

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