2014年に一旦休止していた、お笑いと音楽を融合したフェス“コヤブソニック”が、3年の充電期間を経て復活する。10周年で8回目となる今年はなんと3日間の開催。更に主催者である吉本新喜劇座長・小籔千豊がバンド・吉本新喜劇ィズを始めたということもあってラインナップの幅は更に広がり、1組1組との血の通った繋がりが見える、他のどこにもないフェスとなることは間違いない。開催まであと1ヶ月となった今月号のJUNGLE☆LIFEでは、主催者の小籔千豊にインタビューを敢行。彼がこだわり抜いたラインナップ、貫いてきたポリシー、“コヤブソニック”で大切にしてきたこと、そしてそれらの話から浮き彫りになってくる“小籔千豊の生き様”に迫る。
「すごいミュージシャンとすごい芸人と、いっぱいのお客さんとスポンサーさんとスタッフと、その全部を繋ぐケーブル役みたいになってきた」
●2014年に“コヤブソニック”が一旦終了になりましたが、そもそも“コヤブソニック”はビッグポルノ(小籔とレイザーラモンHG/RGによる下ネタラップユニット)を知ってもらうために始めたイベントで、そのビッグポルノが解散したから必然的に“コヤブソニック”も終わったわけですよね?
小籔:そうです。RGが「子供がいじめられるから下ネタはもうやりたくない」と言ってビッグポルノの活動を止めることになって、そうすると“コヤブソニック”も終わるのが筋やと思ったんですけど、みんなから「やめるな」と言っていただいて。だから2014年の“コヤブソニック”の打ち上げでは「1回やめるけど、2017年には復活します」と言うてたんです。
●あっ、そうなんですね。
小籔:“じゃあどうやって復活しようか?”と考えた時、僕はドラムレッスンに通っていたので、バンドを組んでそのバンドを広めるためにフェスをやろうじゃないかと。ビッグポルノの代わりになるんじゃないかと。だから2014年の打ち上げでアーティストのみなさんに「ヘタですけどバンドやります。それを理由に“コヤブソニック”をまたやろうと思いますので、また出ていただけますか?」と言っていたんです。
●2014年の時点で、そこまで明確にしていたと。
小籔:メンバー集めて、2015年の1年間は練習して、2016年にデビューして、そこから1年半活動して“コヤブソニック”を復活したらちょうどいいやろうと。
●そうだったんですね。
小籔:僕は2015年からInstagram始めてるんですけど、ビッグポルノをやっていたときにいちばん困ったのが「他所の人に知ってもらうこと」だったんです。ビッグポルノをやる、お客さんは来る、そこで下ネタラップを歌う、お客さんは笑う。でも、僕らに興味がない人は観に来ることはないんですね。
●なるほど。
小籔:だから広がらないんですよ。TVにも出れへん、フェスにも出れへん、だから広がらなかった。それがいちばん悩んでいたことやったので、次にバンドやるときにはなんとか打開したいなとおもった時に、ミュージシャンやオシャレさんがやっているInstagramというSNSがあることを知って。僕はSNSまったく好きじゃないけど、バンドやらしてもらうんやからこれくらいのことしようと。
●はい。
小籔:Twitterはもちろんやってるんですけど、2015年にInstagramを始めてフォロワーが増えたら、「バンドやります」「“コヤブソニック”やります」と告知したら、バンドのことに興味ない人にも伝えることが出来ると。だからInstagramもバンド、“コヤブソニック”、ひいては吉本新喜劇のため。モデル活動もそうですね。
●すべての活動が目的に対してダイレクトに繋がっているんですね。
小籔:そうですね。
●みんなに「“コヤブソニック”やめるな」と言っていただいたということですが、小籔さんご自身にとっても“コヤブソニック”は表現する場所としてかけがえのないものになっていたんですか?
小籔:ビッグポルノは、僕が吉本新喜劇の下っ端の時に組んだユニットやったんですよ。セリフもない、出番もない、仕事もない。それで“しゃべらな腹立つ”と思ってビッグポルノを始めたんです。
●はい。
小籔:その時に吉本のある社員に馬鹿にされたんですけど、その打ち合わせが終わった後にレイザーラモンHGとRGに「お前も売れろ。お前も売れろ。俺も絶対に売れる。今はせなあかんけどお前いつかバイト辞めろ。お前も辞めろ。俺もいつか辞める。絶対に俺ら3人で何千人の前でやったるからな」と誓ったんですよ。
●いい話。
小籔:それで始めたのが“コヤブソニック”で、1回目で僕の心は浄化されたんです。大阪城野外音楽堂で3000人の前でやって“良かった”と思ったんです。でもみんなが「やめるな」と言ってくださって、続けていくウチに、ビッグポルノを広めるという目的はもちろんあるんですけど、それだけじゃない…僕が好きなアーティストや芸人さんたちに来てもらって、音楽の趣味が僕とまったく一緒の嫁はんに観せる…嫁はん孝行でもある。要するに、小籔家がいちばん観たいソニックなんです。嫁はんとは19歳の時から付き合ってるし、渋谷系をずっと聴いてきているので趣味が一緒だから。
●小籔家がいちばん観たいソニック(笑)。
小籔:嫁はんが「家にあるCDのアーティスト全部出てきたな」と言っていたこともあるし。小林幸子さんに出てもらった時も、嫁はんのお義母さんが「ええもん観れたわ〜、ありがとう〜」ってすごい喜んでくれて。それと、楽しみにしてくれる方が少しずつ増えてきて、街を歩いてても「来年もやってくださいね」「小籔さんと音楽の趣味が一緒で嬉しいです」と言ってもらったり。だから僕は途中から、自分がやりたいというより、すごいミュージシャンとすごい芸人と、いっぱいのお客さんとスポンサーさんとスタッフと、その全部を繋ぐケーブル役みたいになってきたんですよ。
●ほう。ケーブル役。
小籔:“コヤブソニック”と謳っていますけど別に僕はメインじゃなくて。でもそのケーブル役が楽しくてやってきた感じですね。
●そこに喜びを感じるようになった?
小籔:そうなんですかね? 「やりたいんかい?」と訊かれたら「なんやろ?」というか。うーん…途中から意味合いがだいぶ変わってきましたね。2〜3年目くらいまでは、トリ前の小泉今日子さんとかTOKYO No.1 SOUL SETが終わったらみんな帰ってしまって、ビッグポルノは少ないお客さんの前でやっていたんです。でもラストの2〜3年は僕らの出番まで残ってくれて盛り上がってくれていたので…うーん、そうですね、でもやっぱり(“コヤブソニック”をやるモチベーションは)ビッグポルノでしたね。このままアーティストさんや芸人さんの力を借りて、お客さん増やして、いつかZeppとかでワンマン出来たらいいなと思っていましたね。
●そうだったんですね。
小籔:でもその目的は潰えたので、今の僕は“吉本新喜劇を広めなければならない”という通常業務に戻らないといけないんですけど、“コヤブソニック”で新喜劇のバンドをやらしてもらうことで、観たくない人に吉本新喜劇を観てもらうことが出来るんですよね。
●おお、なるほど。
小籔:今までも、シークレットで吉本新喜劇を出していたんです。最初からタイムテーブルに載せていたら、観たくない人は吉本新喜劇の時に休憩したりご飯食べに行ったりしてしまうけど、僕は観たくない人に観せたいんです。だからシークレットにして、急に新喜劇が始まって「私観たくない」と思っても会場出れないからしゃーなしに観るしかない。それがいちばん大きいと思います。だから、吉本新喜劇と吉本新喜劇ィズというバンドを広めるための“コヤブソニック”ですね。意味合いが色々変わってきて、もうわけわからん感じですね。
●ハハハ(笑)。吉本新喜劇ィズではドラムを担当されるということですが、ドラムはいつ頃から始めたんですか?
小籔:2012年の“コヤブソニック”の時、チャットモンチーで叩かせてもらったのがきっかけですね。チャットモンチーとスチャダラパーが僕の中ではキーパーソンなんですよ。
●と言いますと?
小籔:チャットモンチーが僕が一緒にドラムを演奏することを許してくれたし、吉本新喜劇ィズにあっこちゃんさん(福岡晃子)が入ってくれた、初めてフェスに呼んでくれたのもチャットモンチーで。しかも、チャットモンチーの2人が徳島の大学の文化祭で実行委員していたとき、僕らのコンビ(ビリジアン)を呼んでくれているんですよ。
●うわ!
小籔:たぶんあっこちゃんさんとは、前世で何かあったやろというくらい助けてもらっているんです。音楽のきっかけをくれているのは、特にチャットモンチーが大きいですね。
「ふざけたバンドではあるし、音楽的にも下手くそなんですけど、気持ち的には真面目にやらしてもらっています」
●“コヤブソニック”を復活させる1つのきっかけとなった吉本新喜劇ィズですが、11/1に4曲入りシングル『Luck book new joy play ?』をリリースされますよね。例えばM-1「アイ ラブ ジョージ!」は作詞/作曲がカジヒデキさんで、M-3「マドンナ」の作詞/作曲は尾崎世界観さんじゃないですか。これは、“コヤブソニック”を通して繋がった関係性の中でお願いされたんですか?
小籔:そうですね。カジさんは吉本新喜劇の東京公演の時に夫妻でいつも観に来てくださるんですけど、「バンドやります。また“コヤブソニック”やりますのでお願いします」みたいな話をしたら「全然いいですよ」と言ってくださったんですよ。それで「バンドではどんな曲をやってるんですか?」と訊かれたので「まだコピーバンドなんですよ。ゆくゆくはオリジナルをやろうと思っているんですが」と。“「僕が書きますよ」と言ってくれたらええな”と思いながら、そういう話をしたんです。
●はい(笑)。
小籔:そしたらカジさんの奥さんが「じゃあ書かせてもらったら?」と言ってくださったんです。めっちゃいい人です。カジさんの奥さんが恩人です。
●ハハハ(笑)。
小籔:僕の中でカジさんに書いてもらいたかった理由があったんです。吉本新喜劇ィズは吉本新喜劇の人をテーマに歌っていこうと思っていたんですけど、島木譲二さんの歌はカジヒデキさんやなと思っていたんです。島木さんの歌やのにスウェーデンポップ、みたいな。オシャレなことを歌っていて、最後に「島木譲二のこと歌ってたんかい!」というオチがいいなと。
●なるほど。
小籔:だからカジさんに「島木譲二さんの歌を作っていただきたいと思います」とお願いして、歌詞のイメージも伝えたんです。年下の男の子に恋をする女の人が主人公で、“あの男の子すごく可愛いわ”と言っている。カジさんの世界にありそうじゃないですか。
●そうですね(笑)。
小籔:音や楽器のイメージとか、「カジさんのあの曲っぽい感じで」とかを伝えたら、「わかりました」と言っていただいて、僕が思った通りの曲を作ってくださったんです。
●おお〜。
小籔:それが「アイ ラブ ジョージ!」で、最初はずっと1曲だけだったんですけど、“コヤブソニック”が近づいてきて“2曲目どうしよう”と思ってて、TOKYO No.1 SOUL SETの川辺さんとそういう話をしていたら「天才を紹介するわ」と。それで紹介してもらったのが上田禎さんなんです。
●上田禎さんは表題曲「Luck book new joy play ?」の作曲をされたんですよね。
小籔:簡単に言うと「Luck book new joy play ?」は「吉本新喜劇観てね」という、吉本新喜劇の広報ソングですね。
●タイトル“Luck book new joy play?”は、“吉本新喜劇”を英語に直訳した言葉ですよね。
小籔:そうなんです。で、次はどうしよう? と考えていたんですけど、尾崎世界観さんと知り合うことになりまして。今まで“コヤブソニック”はロックバンドっぽい人たちはあまり出ていないんですけど、この3年間ドラム演っていたから、ドラム勉強しようと思ってYoutubeでバンド調べたり、『NAVERまとめ』で関西の熱いバンドとかを調べたんです。
●ハハハ(笑)。NAVERまとめ(笑)。
小籔:僕は全然バンドのこと知らなかったんですけど、調べていくウチにだんだんゲスの極み乙女。さんやキュウソネコカミさん、クリープハイプさんが好きになっていって。そういう時に尾崎世界観さんと知り合うことになったんです。クリープハイプさんの世界観ってちょっと他のバンドと雰囲気が違うじゃないですか。いい意味でえぐいっていうか。だから最初は“断られたりしないかな?”と不安になりながらも、厚かましくお願いしたら「全然いいです」とご了承いただいて。
●おお!
小籔:それで最初、僕は吉本新喜劇のベテラン3人の名前を提示したんですよ。「このウチの1人の歌を作っていただきたいです」と。本当はそのウチの1人の曲を作ってもらいたかったんですけど、押し付けるのは違うと思ったので。
●はい。
小籔:尾崎世界観さんは吉本新喜劇のことあまり知らないんですけど、僕が思っていた通りの人を指名したんです。それが美保姉さん(中山美保)だったんです。尾崎世界観さんに「美保姉さんってどんな人ですか?」と訊かれたんですけど、吉本新喜劇ィズのVo./G.宇都宮まきは美保姉さんに特にかわいがってもらっていたので、宇都宮に作文を書かせて尾崎世界観さんに渡したんです。めっちゃ長い作文だったんですけど、それを元に「マドンナ」が出来たんです。
●どの曲も気持ちがすごく込められているんですね。
小籔:それで3曲出来たからCD出そうと思っていたんですけど、島木譲二さんと美保姉さん、たまたま2人とも亡くなっているんですよ。で、竜じい(井上竜夫)もお亡くなりになっているので、竜じいの歌を作らんままCD出すのは違うと思ったから、あっこちゃんさんに「今から作ってもいいですか?」と相談したら「私も手伝います」と言ってくださって。「こんな感じのドラムで、こんなイメージの曲なんですよ」と伝えて、みんなで「ピアノこうしよう」「ギターこうしよう」と手探りで作った変な歌なんですけど、竜じいの歌「TATSU-G」が出来たんです。僕が大好きで、吉本新喜劇になくてはならなかったお三方の歌を綺麗に漏れることなくCDに入れることが出来て良かったなと思います。ご遺族にもちゃんと確認して、快諾いただいて。
●そうだったんですね。
小籔:だから、みんな忙しいからなかなかメンバーのスケジュールが合わないんですけど、もし可能だったら“コヤブソニック2017”の前の日は休みにして、吉本新喜劇ィズのみんなで3人のお墓参りに行こうと思っているんです。もし無理だったら、僕1人でも行こうと思っていて。ふざけたバンドではあるし、音楽的にも下手くそなんですけど、気持ち的には真面目にやらしてもらっています。真心だけは込めさせていただいています。
●「TATSU-G」はみなさんで一緒に作ったということですが、それまで作曲した経験は?
小籔:ないです。「TATSU-G」は基本的に僕がアイディアを出したんですけど、あっこちゃんさんのマネージャーさんはもともとドラムをやっていた方で、「これ変じゃないですか?」とあっこちゃんさんとマネージャーさんに聞きながら作っていった感じですね。「変じゃないです」「やりたいようにやればいいんです。それが曲です」と言っていただいて。あの2人が居なかったら出来ていなかったでしょうし、スレイヤーやメガデスとか僕があまり聴いたことがない人のCDまで聴きましたし、Youtubeで「〜を叩いてみた」みたいなやつを調べて勉強したり。だから今年の7〜8月は新幹線の移動中はずっとYoutube見てました。SoftBankの通信制限は1つ上のやつを契約しているんですけど、それでも通信制限がかかるくらい。
●すごいですね。
小籔:お笑いは適当にやってるんですけど、自分の専門外のことは、プロに対してリスペクトを込めて一生懸命やらせていただいているつもりではあります。
「僕は、“コヤブソニック”に出てくれる芸人がいちばんおもしろいと思います。“コヤブソニック”に出ているミュージシャンがいちばんええ人やと思います」
●今年の“コヤブソニック”は、先ほどおっしゃっていましたように今までと比べてロックバンドの色が濃く出ていますよね。
小籔:そうですね。2014年までに僕が知らなかったジャンルの人…キュウソネコカミさん、クリープハイプさん、ゲスの極み乙女。さん、BRADIOさんとかですよね。僕はこんな顔面してますけどオシャレ音楽が好きなんですけど、きのこ帝国さんとかオシャレですごくいいですよね。SCANDALさんはラジオの繋がりで、大阪で活動されていた方たちだし。ドラムのRINAさんに「あのドラムどうやって叩いてます?」と訊いたことがあるんですけど、「スネアを手前に傾けてください」と言われて。それでやってみたらほんまにやりやすくなったんです。
●ものすごく的確なアドバイスをもらったんですね(笑)。
小籔:そうなんです(笑)。空きっ腹に酒さんは吉本新喜劇ィズの初ライブの時に対バンしていただいた関係で。初めてのライブの時はあと2組居たんですけど、それは追々お声をかけようと思っていて。「あの時対バンしていただいて、あんなに下手くそでしたけど、これだけ上達しました」というお礼を込めて。LEARNERSさんは『BAZOOKA!!!』という番組でSaraちゃんにお世話になっていましたし、tricotさんも今一緒にレギュラーさせてもらっていますし。リンダ&マーヤさんは、2014年の“コヤブソニック”の時にステージ上で「おい小籔、復活する時はいちばん最初に呼んでくれよ」と言ってくれていたんです。
●うわ!
小籔:だから絶対次にやるときはN'夙川BOYSさんをお誘いしようと思っていたんですけど活動休止されたので、リンダ&マーヤさんにお願いしたんです。フジファブリックさんも番組にゲストで来ていただいて、ZOMBIE-CHANGはモデル友達で、ちゃんみなは『BAZOOKA!!!』のラップ選手権に出てくれた僕が好きな女の子で。後はいつものお馴染みの方々というか。
●全出演者、具体的な繋がりがあるんですね。ちなみに、小籔さんが思う“バンドの魅力”というのはどういう部分でしょうか?
小籔:うーん、なんでしょうね。オリジナリティというか。はっきり言って芸人も、誰かによく似た芸人とそうでない芸人が居るんですよ。更に、どこかで見たようなネタだったとしても、ツッコミがめっちゃクセあるとか、ボケが独特だとか、2人の間が絶妙だったり。だからバンドで言うところの歌詞や曲、演奏力、声やキャラクター、見た目も含めて総合して漫才がおもしろくなると思うんです。めっちゃ変わったコントをやっているからおもしろい人も居れば、変わったことしかやってないから狭いところでしか評価されない人も居るし。
●はい。
小籔:僕の中ではバンドも芸人も一緒というか。ゲスの極み乙女。は千鳥であって、キュウソネコカミは中川家であって、クリープハイプはジャルジャルであって。僕の中でイケてる芸人とイケてるミュージシャンは一緒なんですよね。極端に言えば、僕が好きっていうだけの話かもしれないですけど。
●なるほど。JUNGLE☆LIFEは音楽ファンが読んでいると思いますので、そういう読者たちに向けて芸人さんたちの魅力も教えていただきたいんですが。
小籔:僕の中で、“コヤブソニック”で大切にしないといけないことがいくつかあると思っているんですけど、集客だけを考えてキャスティングすると、その結果“色”が無くなるんですよ。「こいつは何が好きやねん?」となるんです。
●そうですよね。
小籔:センスがむちゃくちゃというか、セレクトショップでもある程度の統一感ってあるじゃないですか。「ここの店長こういう服好きなんかな」ってわかるじゃないですか。それが例えばSTUSSYもあるわ、TSUMORI CHISATOもあるわメゾン・マルジェラもあるわエルメスもあるわっていうセレクトショップは、僕は絶対に流行らないと思うんです。
●はい。
小籔:ジャンルが違えど「あ、こいつこういうの好きなんやな」っていうのがあったら、そこにハマる人が何回もそこのセレクトショップに行くと思うんです。それと同じで、僕の中ではある程度は太い筋が1本あるんです。芸人も同じで、統一感はあるんですよね。
●統一感。
小籔:うーん。出てない人でもすごい人はいっぱい居るんですけど、僕の好み。僕はお笑いオタクだったので、芸人を見る目だけはその辺の人には負けないと思います。僕、やるより見る方が好きなんです、お笑いは。
●ハハハハ(笑)。
小籔:ですので、ほんまにおもろいと思っている人しか呼んでないんです。僕が見たい人しか並べてない。だからお笑い芸人としての目利きに関しては任せてほしいです。えげつない。
●確かに芸人のラインナップを見ると、えげつないですよね。
小籔:ですよね。おもしろい人しか出ていないです。
●水谷千重子さんみたいな、お笑いと音楽の接点になるような人たちも多く出演されるじゃないですか。それもおもしろいなと思いました。
小籔:他所のフェスには、資金力や外タレブッキング能力、会場の大きさでは負けるし。あとオシャレさですよね。やっぱりみなさん“FUJI ROCK FESTIVAL”や“ROCK IN JAPAN FESTIVAL”、“SUMMER SONIC”、“RISING SUN ROCK FESTIVAL”とかだと、秋頃に居酒屋でイキれるんですよ。
●イキれる?
小籔:「今年どこいった? 俺ライジング行ってきた」って、絶対にイキってると思うんですよ。その中で“コヤブソニック”はイキれないですよね。フジロック行ったやつ、ライジング行ったやつの中で、“コヤブソニック”行ったやつ多分黙ると思います。「お前どっか行った?」「いや、行ってない」と言うと思います。
●ハハハ(笑)。
小籔:そういうオシャレさでは勝てないですけど、僕が他所に勝てると思う部分は、ええ人が集まっている、そしてお笑い芸人の質・量は日本でいちばんだと思います。それにミュージシャンの人たちは、はっきり言って“コヤブソニック”に出演したら経歴に傷が付くと思うんですよ。
●いやいやいや(笑)。
小籔:そやのに出てくれるっていうのは、損得勘定じゃなくて「小籔が言うんやったら行ったろうか」っていう、本当に気のええ人たちやと思うんです。
●なるほど。
小籔:僕は、“コヤブソニック”に出てくれる芸人がいちばんおもしろいと思います。“コヤブソニック”に出ているミュージシャンがいちばんええ人やと思います。
「全員同じように扱って「頼むな。ありがとう」って言うバッファロー吾郎さんの姿を見て、なるほどなって思ったんです。演者を立てるということが如何に大切か」
●話の節々から感じるんですが、小籔さんは血の通った関係性や、気持ちと気持ちの繋がりをすごく大切にされているんですね。すべての行動の動機は、そういうところが起点になっているような気がするんです。
小籔:それはね、本当にええ先生に恵まれたんです。
●と言いますと?
小籔:バッファロー吾郎さんって、僕がまだNSCに通っている頃、僕と土肥ポン太を単独ライブに呼んでくれたんです。僕はバッファロー吾郎が好きでこの世界に入ったようなもんなんですけど、普通やったら「今日はお願いします」と挨拶したら「おう、頼むな」じゃないですか。
●それが普通ですよね。
小籔:でもNSC在学中やのに「ありがとうな。今日はほんまに頼むな。ごめんな、ありがとう」って。「え?」と思って。客はパンパンで、天然素材の人気者のイベントに出るときになんで「ありがとう」って言うんやろうって。僕は19〜20歳くらいだったんですけど、不思議やったんです。バッファロー吾郎さんのイベントってみんな出たいんです。でも、僕さえ知らんような若手の芸人を劇場に観に行って「出て」って言って呼んでくるんですけど、その子らも並列。全員同じように扱って「頼むな。ありがとう」って言うバッファロー吾郎さんの姿を見て、なるほどなって思ったんです。
●ほう。
小籔:演者を立てるということが如何に大切か。だからバッファロー吾郎さんのイベントはみんなめっちゃがんばるんです。それでおもろいイベントになって、お客さんも喜んで、プレミアチケットになるんです。
●バッファロー吾郎の姿を見て学んだと。
小籔:“演者を立てるとこんなにええことあるんや”と僕はどこかで思っていたんですね。“コヤブソニック”の3年目くらい、吉本興業がガーンと急に入ってきた時があったんですよ。1年目2年目はそんなに手伝わなかったのに。
●はい。
小籔:取締役が来て、20人くらい半沢直樹みたいなおっさんがガーッと並んでて。そこで「今まで手伝ってもらってなかったし、手伝ってもらいたいという気持ちはないですけど、参加したいというのであれば、演者を100%立ててください」と。「今までの吉本のやり方やったらスポンサーやお客さん、金勘定を優先すると思うけど、演者を優先してください。更に芸人は身内やけどミュージシャンは他所の人やから、ミュージシャンをいちばん立ててください」と言ったんです。
●あ、マジですか。
小籔:「もし吉本の社員に対して誰か1人からでもクレーム入ったら、例えイベントの前日でも全員に電話して会場に行かへん。そもそも俺が会場に行かへん」と、今から考えたらめちゃくちゃ偉そうなことを言ったんです。
●すごいな。
小籔:「でも僕も大人やから、吉本を赤字にさせるつもりはない。少ししかプラスにならなくても7年目までは我慢してくれ。7年目以降は軌道に乗せるから」と言っていて。それで7年目(2014年)に終わったんですよ。だから今年は10年目、またイチからのスタートではあるんですが、なんとかみんなが嫌な顔をしないようなイベントに出来たらいいと思いますね。
interview:Takeshi.Yamanaka
2017/11/3(金)、11/4(土)、11/5(日)
インテックス大阪 5号館&2号館
http://www.koyabusonic.com/