Octaviagraceが前作の1stフルアルバム『Outward Resonance』より約1年ぶりに、新作EP『Polyhedra』を完成させた。ヘヴィメタルやハードロックを軸にしたテクニカルな演奏とプログレッシヴな構成に加えて、J-POPやアニソンにも通じる中毒性のあるメロディはいずれも前作以上に研ぎ澄まされている。マイナー調の楽曲を取り入れ、ライヴ感も意識して作られたという今作は、かつてないほどにキャッチーで多彩だ。“多面体”という意味のタイトルどおり、多様な側面を持つ5人の進化はまだまだ止まらない。
「曲にしろヴィジュアルにしろ、今後の作品に向けて“まだまだ広がる先はあるんだよ”と提示できるようなものを常に意識して作っていきたいですね」
●前作の1stフルアルバム『Outward Resonance』以来、約1年ぶりの新作となりますが。
Youske:今回の『Polyhedra』という作品を作る上でのテーマとして、今までとはちょっと違ったものにしようと思っていて。前作でも色んな手の内を見せられたとは思っているんですけど、そことはまた違う部分を見せたいなという気持ちがあったんです。
●新しいことに取り組みたいという気持ちがあった?
Youske:それが『Polyhedra(=多面体)』というタイトルの意味にも込められている感じですね。たとえば今までのOctaviagraceがメインとしてはやってこなかったマイナー調の曲を意識的に作ってみようというテーマもあって。その上で、みんなが作った曲を持ち寄ったという形でした。
●作品タイトルが先に決まっていたんですか?
Youske:基本的には、曲のタイトルよりも先に『Polyhedra』というアルバムタイトルが決まっていました。収録する5曲が固まった後に「今回はどういう意味を込めた作品名にしようか?」と話し合った中で、「色んなものが見せられているよね」という話になって。そこから“多様性”みたいな意味を持つ言葉を探していく中で、このタイトルになったんです。
●前作もヴァラエティ豊かだったと思いますが、今作はそこから幅をさらに広げられているというか。
Reanne:『Outward Resonance』でも色んなヴァリエーションを見せられたところはあったんですけど、今回はライブ映えするような曲に焦点を絞りつつ、今までの自分たちになかった要素を新たに取り入れところがあって。
Youske:今回は“ライブ感”というテーマもあったんですよ。20〜30分くらいの短いライブなら、この5曲をそのままセットリストにしてもおかしくないような展開が5曲の中でも付けられていて。勢いがある曲で始まって、次にフックのある曲が来て、ちょっと変わった曲を挟んで、バラードがあって、最後にまた勢いを付ける曲が来る…という流れになっています。
●異なる特徴の5曲なので、それだけで1本のライブのセットリストになり得る起伏がある。
Youske:そこも今作の良いところかなと思います。
Reanne:それぞれが曲を書いて持ち寄ったんですけど、どの曲にもどこか新しいところや変わったところが入っているんですよね。
●M-3「Dear diablo」のメロディからは、オリエンタルな匂いを感じました。
Reanne:この曲はまず最初に、サビの歌メロがあったんです。そこからハープシコードやオーケストラっぽい管弦の音が鳴っているイメージが湧いて。普通はこういう曲だと、いわゆるヘヴィメタル的な2バスの疾走曲にしがちなところがあるんですけど、あえて別のリズムパターンを突っ込みたいなという構想が最初からあったんですよ。Ko-ichi(Dr.)は単純に2バスで疾走するより、細かい手数を入れていくプレイのほうが得意なので、そういう感じの曲で合わせてみたら今までにないような曲ができるんじゃないかと思ってやってみた感じですね。
●今作の中でも特に新しい印象のある曲かなと。
Reanne:たぶん、自分たちの中では今までで一番暗い曲調かもしれない。曲自体にパワーはあるんですけど、メロディは典型的なマイナー調なんですよね。
●マイナー調の曲は今まであまりなかった?
Youske:マイナーコードを多用している曲はありますけどね。たとえば僕が作る曲はマイナーのコード進行を使っていても、メロディがどうしてもメジャー寄りになるんですよ。その相乗効果で、明るすぎないメジャー調になるということが僕の曲ではよくあるんです。そういう意味では、Octaviagraceには完全なマイナー調の曲というのは少なくて。
●そこもOctaviagraceらしさの1つかなと思いますが。
Youske:実稀(Vo.)の声自体も、どちらかといえば元気が出るような声だと思うから。本人は明るい曲よりも暗い曲のほうが得意だと言うんですけど、僕からすると明るい曲を歌っている時のほうが可愛く聞こえるなと。今作も含めて、今のところOctaviagraceではヴォーカルの声に合った曲を常に出せているんじゃないかなと思っています。
●最初から実稀さんの声をイメージして、それを活かすような曲を作っている?
Youske:それはありますね。実稀にも歌いやすいキーがあって、自分たちもそこをある程度は把握した上で曲を作っているんです。それでも、どうしても外れてしまう時はあって。そういう時も彼女自ら“こういうふうにしたほうが良い”と意見をちゃんと言ってきたりして、メロディの高さや歌のアレンジについても発案してくれるんですよ。だから最近は、特に良い声域で歌えるようになっているんじゃないかな。
Reanne:僕も曲を書く段階で、彼女が歌っている姿を頭の中に思い浮かべながらやっています。一緒に2〜3年やってきた中で、彼女の得意な歌い方というのがわかってきているから。それを想定した上で“こういう歌い方をしてもらったら、もっと面白いものが出てくるんじゃないかな?”と考えたりもしますね。
●実稀さんの個性を活かすことで、想像以上のものになるわけですね。
Reanne:「Dear diablo」に関してはメロディはマイナー調なんですけど、彼女がドライヴを付けて歌うことでコミカルさも少し入っている感じがして。そこは上手くハマったところがありますね。
Youske:この曲の歌詞は、1番と2番で視点が違うものになっているらしくて。1番が男性の視点で、2番が女性の視点で書かれているんです。だから歌い方も1番はカッコ良くて、2番は可愛かったりして、明らかに違うんですよね。そういうところも注目して聴いてもらえると面白いと思います。
●M-4「eternity」は実稀さんの作詞・作曲によるものですが、これはどうやって作ったんですか?
Youske:実稀がmidiの鍵盤で原曲を作ってきて、そこからKo-ichiと打ち合わせしてリズムパターンをまず付けるんです。その上に僕がベースを乗せて、骨組みができていった感じですね。
●鍵盤のパートは実稀さんの原曲を元に、Reanneくんが広げている?
Reanne:そうですね。元々入っているピアノは、コードの和音をパーッと弾いているだけのものだったりするから。本人から“特にこういうフレーズを入れて欲しい”という要望があったものは取り入れつつ、自分なりに広げていきます。彼女の曲ではピアノやバイオリンに焦点を絞ったアレンジが好まれるので、そういったところも打ち合わせしながら完成させていく感じです。
●メンバーとのやり取りの中で作っていくという意味では、共作に近い気もします。
Youske:クレジット上で明確になっていないだけで、僕の曲でも展開の一部をReanneくんが足してくれたケースもあれば、実稀が「ここの小節を増やそう」という提案をしてくれることもあって。そういうちょっとしたところは今までもあるんですけど、ガッツリとした共作の曲は今のところないんですよね。
●今後は共作の曲が出てくる可能性も?
Youske:本来なら、一番多く曲を作っている僕とReanneくんが率先して共作をするべきなんでしょうけどね(笑)。実稀やhanakoとも共作するべきだと思うし、やりようはきっとあると思うんですよ。もっと面白い曲を作りたいので、みんなで力を合わせてやっていきたいですね。
●M-5「Ready for a moments」はYouskeくんの作曲ですが、これはどんなイメージで作ったんですか?
Youske:前作にも収録していた「Dramatic Quiet」は僕が最初にこのバンドで作った曲なんですけど、ライブやSNSでも評判が良くて人気もあるんです。その次に作った「アザーブルー」(シングル『Recollect Storia』収録)も似たようなタイプで人気があって。でも自分の中では、そういうリズムやテンポ感の曲から脱却したいところがあったというか。それで前作では「Emerging oath」という速い8ビートの曲を試しに作ってみて、自分的にも好きな曲になったので今作もその路線でちょっと攻めてみようと思ったんですよね。
●「Emerging oath」の路線をさらに攻めた曲というか。
Youske:テンポが速い8ビートで、キメがすごく多かったり、キーがずっと変わらないという潔さもあって。テクニカルさとストレートさを併せ持つ、そこの良いラインを汲んで作ろうと思ったのが「Ready for a moments」なんです。でもそれだけだと何か面白みに欠けたので、サビでコーラスがカウンターでメロディを取るパートを入れたりして、かなり工夫して作った曲ですね。
●色々と自分なりに工夫してみたと。
Youske:それでもみんなからは「やっぱりYouskeの曲っぽいね」と言われるんですけど、自分の中では意識的に変えたつもりなんです。今までとは違う方法で曲を作っていったというイメージがありますね。
●hanakoさんの作曲によるM-2「unblown bud」も、今までにないものになっている?
Youske:そうですね。彼女は最近、色んな趣味を持っていて。アニメを見たりゲームをやってみたりとか、色んなものから感化される中でアイデアが湧いたらしいです。元々、hanakoが作るメロディって哀愁があるんですよ。そういう90年代の歌謡曲的なメロディを踏襲しつつも、バックのサウンドは現代的だったりするというところが、これまでよりも進化した部分だと思います。
●オープニングを飾るM-1「Glorious world」は、どんなイメージで?
Reanne:『Recollect Storia』に収録していた「albescence」という曲は僕が書いたんですけど、音の構成やアレンジ面で「Glorious world」はそれに近いところがあって。その曲を明るい雰囲気に変えたようなものを今作には入れたいなと思っていたんです。僕の曲は暗いメロディのものが多いと周りからも言われていたので、“底抜けに明るい曲を書いてみよう”というところで作ってみたのがこの曲ですね。
●この曲の“さあ、行こう 誰もまだ知らない世界へ!”という歌詞や「Ready for a moments」の“そう 此処からが良いところ”という歌詞を見ると、“ここから先”を見据えている感じがします。
Youske:「Ready for a moments」の歌詞が、僕はすごく気に入っていて。サビが英詞で始まるというのも実稀にしてはすごく珍しいし、歌詞の中で韻を踏んでいたり言葉遊びが巧みで面白い歌詞になっていると思います。今までのOctaviagraceの歌詞とは、ちょっと違った視点があるんですよ。曲調的にもチャレンジしたところがあるし、“ここから先でもっと色んなものを見せていきますよ”っていう想いが込められているという意味で今作のラスト曲になりましたね。
●『Outward Resonance』は“外側へ”という意識がタイトルにも表れていましたが、今作ではさらに開けている感じがしました。
Youske:ジャケットのイラストも、外側に行ったその先にある1つの世界みたいな感じになっていますよね。「Glorious world」の世界観にも近いというか、“ワールド”感は出ているなと思います。
Reanne:前作で初めてのフルアルバムを出したことで、“Octaviagraceってこういう感じなんだ”というイメージがある程度できたと思うんですよ。でもそこで次に同じようなものを出してしまっては、“このパターンしかないんだね”という認識をされてしまうから。曲にしろヴィジュアルにしろ、今後の作品に向けて“まだまだ広がる先はあるんだよ”と提示できるようなものを常に意識して作っていきたいですね。
Interview:IMAI