2016年12月に公開したバンド初のMV「されど奇術師は賽を振る」がノンリリース/ノンプロモーションにもかかわらず半年足らずで再生回数140万回を突破し、音楽シーンの注目を一躍集める存在となった、嘘とカメレオン。今年3月には会場限定のデモCDが即日完売し、6月には無料ワンマンで会場に到底収まらない大量の観客を集めるなど、その勢いはまさに爆発的だ。異常なまでに期待感が高まる中で初の全国流通盤『「予想は嘘よ」』をハートリードレコーズの第2弾としてリリースすることが決定した彼らの実態に迫る、必読の1stインタビュー。
「地べたを這いずりまわってライブハウスで培ったものをそのまま映像化したものが自分たちにとってのMVという感覚なんです。“MVよりライブのほうが面白いね”って言われるのが一番だと思っているから。“どんなに面白いMVを作っても、俺らが目の前で演ったほうが面白いよ”というのは、俺たちの総意としてありますね」
●去年の12月にYouTube上で公開したM-1「されど奇術師は賽を振る」のMVが既に160万回以上再生(※2017年7月現在)されているわけですが、自分たちでも驚いたんじゃないですか?
チャム:初めはビックリしましたね。でもカッコ良いものを作ったとは思っていたから、再生回数が伸び続けることには驚きながらも見守っていました。他の何かが働いているわけじゃないので…。
●広告費を払ったわけでもないんですよね?
渡辺:もちろんですよ。色んな人に言われるんですけど、そこに払えるお金があったら他にもっと使いたいところがありますからね。MVも自分たちの実費で撮ったくらいで。最初に公開した時は、1万回も行けば御の字かなと思っていたんです。まだ誰にも知られていない状態で、1発目のMV公開だったから。
●無名の状態からのスタートだった。
渡辺:その1万回を1ヶ月くらいで達成して、喜んでいたんですよ。さらに伸びて2万回を超えたあたりから、YouTubeのオススメ欄に表示されるようになったらしくて。それも後々、コメント欄で知ったんですけどね。そこからTwitterとかSNSとの相乗効果でどんどん増えていって、知らない間にすごい数字になっていました。
●オススメ欄に表示されるようになったのも、そもそも最初に1万回を自力で達成できたからこそかなと。
渡辺:そうですね。最初の1万回は、純粋にMVや曲の内容だけで積み上げた数字なのかなと思っていて。“何回も再生したい”と思えるような映像が良いなというのは、自分の中にあったんです。たとえば150万回再生されたからといって150万人が見たわけじゃなくて、まだインディーズで活動している俺たちのことを知り得る範囲の人が何回も見てくれているんだと解釈しているんですよ。そこに対しての嬉しさが大きいというか、数字以上に“ちゃんと掴めた”ことがすごく嬉しいですね。
●MVでは渡辺くんの体型(※良い意味でデブ)を前面に押し出しているところも、目を引いたのかなと思うんですが…。
渡辺:そうですね。これは毎日、美味い飯を作ってくれた母ちゃんのおかげです。飯が美味すぎて、弟と一緒に太った感じだから。ちなみに「されど奇術師は賽を振る」のMVで旗を振っていた審判は、俺の弟なんですよ。
●あ、そうなんですね。体型を良い方向に利用したというか。
渡辺:利用できるものは利用したくて。この見た目に生まれた以上、選択肢は引きこもるか開き直るかの2種類しかないと思っているから。僕はその両方の側面を持っているんですけど、バンドマンとしては振り切っていきたいなと思うんです。それが扮装やプレイスタイルにも出ていると思います。
●結果的にボーカルよりも目立っているという(笑)。
渡辺:ボーカルにセンターで目立って欲しいという気持ちはあるんですけど、ライブ中は自分を抑えられないんですよ。どちらかと言うと、放し飼いにしてもらっている感じに近いのかなと思っていて。他のメンバーも目立ちたければ、自分の力で前に出てきて欲しいんです。
●だから「されど奇術師は賽を振る」のMVでも、メンバー同士がバトルしている?
渡辺:そうです。ライブは個性のぶつかり合いみたいな現場になっていて、それを映像で伝わりやすくしたのがあのMVなのかなと思います。
●メンバー全員、個性が強い?
渡辺:逆にこの中で無個性でいるのも武器だと思うんですよ。俺はめちゃくちゃ趣味が多いんですけど、菅野は全くの無趣味で。同じ楽器といえど180度離れたキャラクターなので、調和が取れているのかなと思います。俺たちは100の強さと0の強さを持ち合わせているバンドなのかなと。
●菅野くんは無趣味なんですか?
菅野:(消え入りそうな小声で)…そうですね。
●えっ…?
渡辺:俺が代わりに言います。無趣味です!
チャム:声と筆圧がものすごく弱いんです(笑)。
●ハハハ(笑)。メンバーのルーツやバックボーンもバラバラだったりする?
渡辺:自分のバックボーンとして一番大きいのが、the band apartで。そのキッカケになったのが小学校の時に聴き始めたジャパン・フュージョンで、カシオペアとか高中正義さんが好きだったんです。
チャム:私はすごく偏っていて、中3くらいまでマイケル・ジャクソンとジャクソン5くらいしか聴いていなかったんですよ。あとは映画が好きで週に何本も観るので、映画音楽も好きですね。
渋江:僕は全然違う畑に元々いた人で、ラウドとかメタルが好きでバンドをやっていたんです。嘘とカメレオンの初期はもっとポップス寄りだったので、そこに自分が毒やトゲを良い感じに入れられたらなと思っていて。トガらせていった結果、今みたいな衣装やパフォーマンスになりました。
●青山くんは?
青山:僕は狭く浅いので…。
渡辺:“狭く浅い”って最低だな(笑)。でもある意味、彼が一番ニュートラルなのかもしれない。
青山:一番、ミーハーなんですよ。
●その要素もバランスとして、重要なのでは?
渡辺:大衆的な要素を取り入れるには、こういう人の意見が後から効いてきたりするんですよね。それはそれで重要な立ち位置だと思います。
●元々公開していたアーティスト写真の右端にスペースが空いていたのは、青山くんの加入を想定していたから?
チャム:それは全然、関係ないです。
渡辺:偶然、右側が空いた写真を撮ったんですよ。
●普通は画像をトリミングして、調整しますよね…?
渋江:“トリミングせずに出したら面白いんじゃない?”みたいな感じで、あえて空けておいたんです。
渡辺:それで後から加入するとなった時に、その部分に入れただけで。全く狙っていなかったです。
チャム:加入が決まったのは今年の4月頃なので、本当に偶然ですね。
●色んな偶然が重なっているんですね…。その前の3/15に下北沢ReGで開催した会場限定Demo『予想は嘘よ』レコ発主催イベントでは、用意していた100枚のCDが30分足らずで完売したそうですが。
渡辺:そこで一番バシッと頭を叩かれたというか。“今までどおりの活動をしていたら、ついていけないぞ”と思ったんです。そこから色々と作戦を練るようになりましたね。本当は全国流通盤を出すのはもっと先の予定だったんですけど、こんなことになってしまった以上はあまり待たせていられないなと。その100枚をゲットできなかった人のほうが多かったので、供給者としての義務は最低限果たしたいなということで、リリースの時期を早めて無料ワンマンの日(6/24@下北沢ReG)に発表したという経緯があります。
●今回の全国流通盤は、その会場限定Demoに何曲かプラスしたものなんですよね?
渡辺:2曲プラスしていて、そのうちの1曲は新たに書き下ろしました。それがMVにもなったM-2「N氏について」で。全国流通盤を出すことになったので、俺が急ピッチで書き下ろしたんです。でも今までの曲も、ゆったりと書いたことなんてなくて。作・編曲は自分が全部やっているんですけど、1人で作っているとその時のメンタル状況によっても曲のできるスピードが変わってきちゃうんですよ。
●作曲から編曲まで渡辺くんが1人でやっている。
渡辺:最終決定は、みんなでしていますけどね。これまでは曲ができるまでにすごく時間がかかっていたんですけど、今回は一番速かった感じがします。今までの経験の中で、自分が書きたい曲の“像”みたいなものがようやくはっきりしてきたというか。イントロのリフとかはいつも適当にギターを弾いた中から抽出するんですけど、今回は頭で鳴っていたものをそのまま音にして。それを基盤に曲を構築していったので、作曲の行程としてはすごく楽でしたね。
●元々は曲作りに苦労していた?
渡辺:自分のバックボーンがヒネくれているのもあって、かなり苦労していましたね。個人レベルで表現したいものはずっと前から変わっていないんですけど、“どうやったら5人でバンドが楽しくやれるか?”というところが自分にとって一番の課題だったんです。そこの技術を習得するために、今までの時間があったんじゃないかなと思います。
●メンバーも実際、楽しく演奏できている?
菅野:(消え入りそうな小声で)…楽しいです。
渋江:自分の引き出しにはないフレーズが来るので、すごく楽しいですね。あと、自分からも“こういうのが欲しい”と先に伝えているから、大きく外れることはあまりなくて。
●みんなの希望もちゃんと汲み取っているんですね。
渋江:「こんなのが欲しい」と言ったら「これはどう?」と返ってきたものに「それ良いね!」っていう感じで、やり取りしながら広げていくんです。
渡辺:みんなにダメだと言われたら、俺は“キュ〜ン…”って小さくなっちゃうから。みんなが笑顔で送り出してくれるような曲じゃないと、ドーンとは出せないですね。
●和メロも特徴の1つだと思いますが、これも渡辺くんが考えている?
渡辺:メロディーも自分が考えているんですけど、和も取り入れて欲しいというのは渋江の意見で。彼はそこの面白さを、ずっと俺に説き続けてきたんです。
渋江:俺は日本人の琴線に触れるようなメロディーがずっと好きなんですけど、このバンドには元々ないものだったんですよ。だから、そういうものがやりたいと言い続けて、今の感じになりました。
●歌詞の言葉選びも独特なので、それがメロディーにもつながっているのかと思ったんですが。
チャム:私は本を読むことが好きなので、独特な単語はそういう引き出しから出ていると思います。メロディーが先にできて、そこから音と合う言葉を組み合わせていって。さらにそれが自分の中でイメージする物語や風景にピッタリ合うように、言葉を当てはめながら構築していくのが私の仕事なんです。
●歌詞ではメロディーからイメージした物語や風景を描いている?
チャム:“ストーリー”として歌っているというよりは、物語や風景の一部を切り取ったようなものを歌いたいなと思っています。想像の余白を持たせたものをこちらから受け取り手に送って、それを好きなように解釈してもらえたら良いなという感じです。
●MVも歌詞の内容とつながっているのか、一見しただけではわからないですよね。
渡辺:そこは意図的にズラしています。歌詞に沿った内容を切り取って映像にしても特に意味合いが生まれるものでもないと思うし、それなら“みんなが目立つ映像のほうが絶対に面白い”という自信があったから。MVだけで完結しているわけじゃなくて、やっぱり地べたを這いずりまわってライブハウスで培ったものをそのまま映像化したものが自分たちにとってのMVという感覚なんです。ライブでの俺たちの生き様や立ち居振る舞いを見せたいというのが、MVの一番のコンセプトですね。
●MVを観て終わりじゃなくて、そこからライブにも来て欲しい。
渡辺:「MVよりライブのほうが面白いね」って言われるのが一番だと思っているから。“どんなに面白いMVを作っても、俺らが目の前で演ったほうが面白いよ”というのは、俺たちの総意としてありますね。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾