東京立川発4人組バンド・FINE MOTIONが1stミニアルバム『僕らは大人になっていく』を、下北沢ReGが立ち上げた新レーベル・ハートリードレコーズから記念すべき第1弾としてリリースする。ストレートで伝わりやすい言葉で書いた日本語詞を、覚えやすいメロディーに乗せて何度も繰り返し歌う彼らの楽曲は、まさに究極の“みんなのうた”だ。誰しもが抱いたことのある感情を真っ向から共に受け止め、ステージで必死にもがき続けるその姿は、観る者の心を掛け値なく揺さぶり、拳を突き上げずにはいれらない衝動を呼び起こす。閉塞感に満ちた今の時代に求められているのは、もしかしたらこういうバンドなのかもしれない。
「なぜバンドをやりたいかと言ったら、“叫びたい! 伝えたい! 感動したい!”みたいなところがずっとあって。色んな音楽に触れてきたんですけど、そこだけはブレなかったんです。だから“どういう曲調のものを作りたいか”というのが出発点ではなくて、“どういうことを今思っていて伝えたいか”というところからどの曲も始まっているというか」
●今回の1stミニアルバム『僕らは大人になっていく』を聴いて、最近では珍しいくらいメッセージ性の強いバンドだなと思いました。
中:僕はGOING STEADYや175Rとか青春パンクが盛り上がってきた頃にバンドを始めているので、ルーツとしてはそのあたりがあって。その後でELLEGARDENが好きになって英詞で歌っていた時期もあるんですけど、再び日本語詞に切り替えてからここ2〜3年くらいで“メッセージというものに特化していこう”ということを考え始めたんです。
●サウンド的には青春パンクだけではなく、色んなものを昇華している感じがします。
野村:僕は19をキッカケにギターを始めたんですけど、そこから青春パンクを好きになって。その後で洋楽のポップパンクとか明るくてキャッチーなものも好きになって、どちらの要素もあるELLEGARDENにハマったんです。そういうルーツがあるので、青春パンクの持つ日本語詞の強さと洋楽から影響を受けたキャッチーなメロディーが混ざった感じになっているんだと思います。
中:やっぱり青春パンクを聴いてバンドを始めたくらいなので、なぜバンドをやりたいかと言ったら、“叫びたい! 伝えたい! 感動したい!”みたいなところがずっとあって。色んな音楽に触れてきたんですけど、そこだけはブレなかったんです。だから“どういう曲調のものを作りたいか”というのが出発点ではなくて、“どういうことを今思っていて伝えたいか”というところからどの曲も始まっているというか。自分の中での曲作りの方式はずっと一緒ですね。
●伝えたいことがまず先にあって、それに合った曲を作っていくというやり方はずっと変わっていないと。ちなみにメンバーも結成からずっと同じなんですか?
助川:僕はオリジナルメンバーではないんですけど、入ったのは本当に初期の頃ですね。
中:去年の3月までは結成からずっと同じドラマーと一緒にやってきたんですけど、彼が病気や家庭の事情で辞めることになって。そこから1年くらい色んなサポートドラマーに手伝ってもらって行く中で、和田と出会ったんです。
和田:僕もFINE MOTIONというバンドを知っていて“良いバンドだな”と思っていたので、サポートの話をもらった時もすぐに「やります!」と答えて。実際に一緒にやってみた感覚も良かったので、自分の中では正式メンバーに誘われるのを待っていました(笑)。
●今年の6月に晴れて正式加入したんですよね。バンドとして“東京立川発”と打ち出していますが、活動拠点は立川?
中:活動拠点はずっと立川です。初めてライブをしたのも立川だし、HeartBeatというライブハウスのマスターにバンドのいろはを学んできて。人間的な部分ではそこで育んできたんですけど、そろそろ自分たちの音楽を全国のシーンに向けて発信していきたいというところで都心に出てきたんですよね。仲間から下北沢ReGを紹介してもらって自主企画をやるようになったりして、そこからバンドの第2章が始まった感じです。
●そして今回、ReGが立ち上げた新レーベル・ハートリードレコーズから第1弾としてリリースすることになったと。
中:2016年末にReGのカウントダウンイベントに出させてもらった時に、日付が新年に変わった途端にスタッフから「今年リリース決定です!」というお話を頂いて。そこから話が急展開していきました。
●初の全国リリースということで、思い入れの強い楽曲を集めている?
中:まさにそうですね。結成して10年以上になるんですけど、“俺らの10年ってこういう10年でした”と言えるような良いラインナップが揃ったと思います。中でもM-2「会いたくて」という曲が、僕らの起点になっていて。一昨年にやったツアーの時に、ファイナルのワンマンライブ直前で僕が急性の心臓病を患って出られなくなったんです。
●そんな大変なことがあったんですね。
中:キャンセルも考えたんですけど、仲の良いバンドマンが集まってトリビュートという形で僕らの曲を1曲ずつライブで歌ってくれて。その時に自分が入院している中で書いたのが、「会いたくて」なんですよ。周りからの評判も良くて、自分たちとしても“この曲でまた次のステップに進めそうだな”と思えたんです。
●自分たちでも自信が持てる曲だった。
中:色んな人たちから「やっぱりお前らにはこういうスタイルが合っているんじゃないか」と言ってもらえたし、何か運命的なものを感じて。そこで“こういう路線で行こう”というのが決まったので、自分が復帰してバンドを再起動してからはこの曲を中心に活動してきたんです。だから、今回の作品にも「会いたくて」を入れさせてもらいました。
●この曲を軸にしつつも、MVはM-1「星を観ていた」で撮っているんですよね?
中:そうなんですよ。「会いたくて」をキッカケに周りからの目も変わってきて、それに頼ってきた1年くらいがあって。でも今回のリリースが決まった時に、タイミング的にも新しいリード曲になるものがもう1つ必要だなと思ったんです。そこから「星を観ていた」を作りました。
●新たな代表曲を作る必要性を感じていた。
中:「会いたくて」に関しては自分たちでも素晴らしい曲ができたと思っていたので、その完全な延長線上では超えられない気がしていて。だから“少し斜め上に飛んでみよう”という感覚の下で、今回の制作に入っていったんです。その結果として「会いたくて」でFINE MOTIONを好きになってくれた人たちにも、ずっと見続けてきてくれた人たちにも、すごく自分たちらしさが残った形で確実に成長できたと言える作品ができたなと思っています。
●自分たちらしさを残しつつ、新しいものが作れたんですね。
助川:音楽的に新しいところは、今まで聴いてくれていた人には感じてもらえると思うんです。そこに“やっぱりFINE MOTIONだな”と思ってもらえるような歌詞が乗せられているのが大きくて。自分たちで読んでいても“あの時こういうことがあったよな”とか“こういうヤツがいたな”とか、今までのことが思い出せるというか。そういうものがギュッと詰まっている歌詞なんですよね。
●これまでの歩みを凝縮した歌詞になっている。
助川:それが音楽ともすごく合っているんです。新しくもあり、今までのFINE MOTIONが好きな人も気持ちが揺れるような、グッとくるものがすごく詰まっているから。自分たちの曲なんだけど、“ありがとう”という気持ちになりました。
野村:俺は昔から結(※中)の書く歌詞が好きなんですけど、“ここから広げていくためにはどうしたら良いんだろう?”という部分では葛藤があって。でもこの曲は、知らない人が聴いたとしても昔のことを思い出したりできる歌詞だと思うんですよ。特にMVを見ながら聴いていると、学校の制服姿や社会人の姿と自分自身の記憶がリンクするというか。
●MVで女子高生の格好をしているのにも、ちゃんと意味があるんですか…?
中:ストーリーとしては、少年時代や青春時代から大人になっていくという流れを描いた作品なんですよ。どちらも空を見上げているんですけど、少年たちは“これから俺たちは大人になっていくんだな”という感じで将来の姿を想像していて、逆に大人たちは“あの頃はこうだったな”と過去を振り返っていて。その両方の目線に、今の自分を重ねられるものになっているんです。女子高生の格好をしているのは、そこに違和感を入れたかったからなんですよね。
●違和感?
中:そこから何か新しいものが生まれる可能性を入れておきたかったんです。たとえば「そういえば女装してたじゃん、もう1回やってみなよ」と誰かに言われたところから、何か面白いことが生まれるキッカケになるかもしれない。単に“よくできました”というだけの作品では終わりたくなかったし、どこかに違和感を残したいという自分なりのアイデアからああいうことをやってみました。
●楽曲がストレートなだけに、ああいう変化球を混ぜることで面白さが生まれるのかなと。
中:良い意味で、裏切りたかったんですよね。すごく青春感のある良い作品に仕上がっていたので、真面目なのかフザけているのかわからないような要素も少しは入れておきたくて。あと、女性目線も加わることで、“女性も入ってきやすいように”という想いもありました。
●異性にも聴いてもらいたいという気持ちがあった。
中:それもキッカケだったんですけど、最初に話した時にメンバーから“えっ!? マジでやるの?”っていう反応があったから“これは絶対にやろう!”と思ったんです。
●メンバーは微妙な反応だったんですね。
中:メンバーの“えっ!? マジでやるの?”を、“やってやったぜ!”に変えたかったんです。そういうところで1つの作品を作ったという達成感が生まれるんじゃないかなと思ったから。
●実際にやってみて、どうだったんですか?
和田:スカートって、足がすごくスースーするんだなと思いました。
助川:初めてすね毛を剃ったんですけど、“きれいにするのって良いな”と思いました(笑)。でも当初、俺はすごく反対していたんですよ。初めてのMVで“女装って画的にどうなの?”って普通に考えちゃって。
●それが普通の反応ですよね(笑)。
助川:でもすごく悔しいんですけど、言われた通り確かに達成感があって。作品として“必要だったな”というのは感じていますね。
和田:面白いものに仕上がったなと。2種類くらいの衣装だけでやっているよりは、観ている側も面白いかなと思います。
野村:最初はどうなるかわからなかったんですけど、結局やっていることは変わらないというか。本気で演奏するというところは何も変わらなくて、服装が変わっているだけなんです。完成された作品を見ると、ちゃんと大人に成長していく様が表現できていて。女子高生の制服を着たこともプラスになっているなと思ったので、“やったな”と思いました。
●ちゃんと意味のあるものにできている。
野村:そうなりましたね。友だちに見せても最初は“えっ、何で?”ってなるんですけど、後半になると“そういうことか”と気付いてもらえるから。“最後まで観ろよ”っていう感じで、ドヤ顔になっちゃいます(笑)。
中:これからFINE MOTIONを知ってくれる人たちへの大きな一歩となるMVを作るということは意識していて。そして逆に、今までFINE MOTIONを応援してくれた人たちへの1つの答えだとも思っているんです。お客さんの顔を思い浮かべた時に“男だけじゃなかったな”というのはあったので、そういう人たちも全部含めて“どうしても大人になっていく上で悩みは出てくるよね”というところで一緒に親近感を覚えられるような作品にしたかった。そういう意味で「星を観ていた」をリード曲にも選んだし、本当に“みんなのうた”ができたなと思います。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾