大阪の隠し玉“4(よん)”が率いるヒステリックポップバンド、gurumeが1stミニアルバム『tsumamigui』をリリースした。2017年2月のドラム脱退により、ボーカルだった4がへたうまドラムボーカルに転身。さらにゲストメンバーに19歳で初心者のさいとう姫を迎えて、3人だったり4人だったりの新体制で放つ最新の音がここに詰まっている。上手じゃないけどカッコ良い、コンビニで買える安くて美味しいお菓子のような中毒性のある楽曲は、やみつきになること間違いなし。一度その音と言葉に触れたなら、決して消えない衝撃を残すことだろう。
「個人的にはヒップホップだと思っています。韻を踏まない側のヒップホップです」
●いきなり名前の話で恐縮ですが、“ぐぅちゃん”ってどういう由来なんですか?
ぐぅちゃん:5〜6年前に4ちゃんと一緒にやっていたバンドがあって、その時は女装していたんですよ。そうしたら「ニックネームが“ぐぅちゃん”っぽいね」って、4ちゃんに直感で言われて。
●女装=ぐぅちゃんっぽい、というのが結びつかないんですが…。
4:パッと見て、すぐに自分流のアダ名をつけちゃうんですよ。その時に浮かんだのが“ぐぅちゃん”っていう。
ぐぅちゃん:それが今もなお続いている感じです。
●ちなみに“4”という名前は?
4:“4”は一番好きな数字だからです! …あっ、間違えた!
●えっ、間違えたってどういうこと?
ぐぅちゃん:自信満々に自分の名前の由来を言っておいて、「間違えた」って(笑)。
4:今、(ぐぅちゃんの前にある)サラダに気を取られて、間違えた!
いなぞう:そんなに食べたいんかい!?
●取材前にパンケーキを食べた上に今もたまごサンドを食べているわけですが、それでもまだ名前の由来を間違えるくらい食欲があるんですね…(笑)。で、本当の由来とは?
4:一番言いやすい数字だからです。好きではないですね。
いなぞう:言いやすい数字って…よくわからんな。
●4ちゃんねるというバンドもやっているようですが、それとは関係ない?
4:はい、関係ないです!
ぐぅちゃん:関係ないんや…(笑)。
●4ちゃんとぐぅちゃんはgurumeになる前から、一緒にバンドをやっている?
ぐぅちゃん:gurume以前から、いくつもバンドを一緒にやっていて。付き合いは長いですね。
4:5〜6年くらい、ずっと一緒にバンドをやっています。
●そんなに長いんですね。
ぐぅちゃん:gurumeの前にやっていたバンド(※4ちゃんねる)は、編成も今とは全然違っていて。当時、4ちゃんはギターボーカルで、僕もベースだったんですよ。gurumeでは何か新しいことを始めたいということで4ちゃんと一緒にメンバーを集めて、スタジオでセッションしたんです。そこで結構良い感じになったから、gurumeを結成したのかな。
いなぞう:僕は途中で入ったんですけど、そもそも他のメンバーもgurumeをガッツリやっていくというイメージはなかったらしくて。最初はヒマな人が集まって「何かやろう」みたいな感じだったのかなって…。
4:バンドをやる気はなかったんですけど、たまたま「セッションをしよう」という話になってスタジオに集まって。その時は私と男の子3人で、4人組だったんです。初対面の人もいたんですけど、スタジオ前から居酒屋で呑んで、スタジオ中も呑んで、その後にモツ鍋屋で呑んで、さらにその後でバーに行って呑んだんですよ。
●どれだけ呑み食いするんですか(笑)。
4:食べるのと呑むのがめっちゃ好きなので、「ウチらはグルメだね」みたいな話をしていて。
●あ、それがバンド名にもつながったと。ぐぅちゃんが結成当時にしたツイートには“僕の新しいサイケデリックバンド”とありましたが、音楽的にそういうイメージがあったんですか?
ぐぅちゃん:そうですね。当時のメンバーはアンダーグラウンド・シーンで活動している人が多かったので、雰囲気的にそういう表現が合うかなと思って。
●今は“ヒステリックポップ”を名乗っているわけですが、当時は音楽性も違った?
ぐぅちゃん:全然違いましたね。最初は今の“ヒステリックポップ”っていう言葉もまだ浮かんでいなかったし、とりあえずどういうバンドなのか説明したいなと思って。言うなればサイケ〜ニューウェーヴっぽいかなという感じでした。
いなぞう:4ちゃんねる時代にライブを初めて観た時は、Gang of Fourみたいだなと思ったんです。ギターの音とかもめちゃくちゃカッコ良くて。
●そういう音楽がルーツになっている?
ぐぅちゃん:いや、どうかな…。
4:嘘つきなんですよ。何も考えず、勝手に「サイケ」とか言いたがるんです。それでいざ理由を訊かれると「いや、何となくイメージが…」とか言って。「サイケ」とか言っとけばカッコ良いと思うな!
一同:ハハハハハ(笑)。
●今回のミニアルバム『tsumamigui』をiTunesに取り込むと、ジャンルがヒップホップと表示されるんですが…。
4:そうなんですよ。個人的にはヒップホップだと思っています。韻を踏まない側のヒップホップです。
●“韻を踏まない側のヒップホップ”って何なんですか?
ぐぅちゃん:何か深そうだけど、めっちゃ浅い感じがする(笑)。
4:珍しいほうのヒップホップです。…まぁ、gurumeとotoriだけですけどね(笑)。
●gurume以外では、レーベルメイトのotoriしかいないジャンルだと(笑)。
ぐぅちゃん:僕が感じるだけかもしれないけど、4ちゃんはotoriに影響されているところが結構あると思います。
4:私がバンドをやっていて影響を受けた女の子は2人しかいないんですけど、そのうちの1人がotoriのVo.コバラ(サエ)ちゃんなんです。もう1人は、今は絵描きになった子なんですよ。昔はバンドをやっていて、その子のバンドにもめちゃくちゃ影響を受けました。ライブを観て泣いたのは、その2人だけですね。
●わりと身近な人から影響を受けているんですね。
いなぞう:あと、パクり癖があるんですよ。
●パクっちゃうんだ(笑)。
4:4ちゃんねるの時に、今は絵描きをしている女の子がやっていたバンドの真似をしようと思ったんですけど、そのバンドの映像をメンバーに見せたら「全然違う」って言われて。
いなぞう:1つもパクれていなかったんですよ。
●結果的に違うものになっている。
ぐぅちゃん:4ちゃんねるの最初のほうにやっていた曲は似ていましたけどね。
4:最初は似ていたんだけど、だんだん変わっていったんです。
●曲は4ちゃんが中心になって作っているんでしょうか?
いなぞう:4ちゃんの頭の中で、大体は決まっているみたいなんですよ。でも本人はそれを具現化することができないので、僕らが音を出していく感じですね。
●4ちゃんの頭の中にあるイメージをメンバーが具現化していく。
ぐぅちゃん:すごくぼんやりとしたイメージを伝えられるんですよ。
いなぞう:ぐぅちゃんに対するギターの指示なんて、めっちゃ雑ですからね。ぼんやりしたイメージを投げておきながら、出した音に対して「全然違うし!」みたいな。“それはヒドいだろ…”と僕は毎回思っています。
4:「へたくそ! やめろ!」とか、めちゃくちゃ言うもんね(笑)。
●ヒドいですね(笑)。
いなぞう:でも最高な時は「最高!」って言うからね。
●汲み取るのが上手くなってきた?
ぐぅちゃん:いや、そんなことないですよ。4ちゃんが最近聴いている音楽によって、めっちゃ変わるから。それって、僕らにはリアルタイムでわからないじゃないですか。だから“こんな感じかな?”と思って音を出しても、「全然違う!」と言われたりして。最近ハマっている音楽を先に言ってもらって、それを聴いてからスタジオに入ったほうが近づけるのかなとは思います。
●そこは事前に話し合ったりする?
いなぞう:そういう話は本当にしないんですよ。
●音楽的に合うというより、人として相性の良い人を集めている感じでしょうか?
いなぞう:そもそも4ちゃんは、そういう人を集めているんですよ。音楽的なこともよくわかっていないし、気の合う人を集めているだけだと思いますね。僕も元々はただの呑み友だちだったから…。
4:仲良くなった当初は、週3くらいのペースで一緒に呑んでいました(笑)。それで「ヒマそうだから、ベース弾いて」と誘ったんです。
●「ヒマそうだから」って(笑)。
いなぞう:“まぁヒマですけど、ベースか〜”と思って。僕は元々、別のバンドでギターボーカルをやっていたんです。でも最初は遊び半分くらいの気持ちで入ったので、まぁいいかと。実際、こんなにちゃんとやるとは思っていなかったんですよ(笑)。
●あっ…今は自分たち的には、ちゃんとやっているつもりなんですね?
一同:ハハハハハ(爆笑)。
4:めちゃめちゃ、ちゃんとやっているつもりですよ! 今もたまごサンドを食べながら、取材を受けていますけど(笑)。
●失礼しました(笑)。ちゃんとやるようになったキッカケは?
4:ドラム脱退です。それがまさに“事件”という感じで。今年の2月末に脱退したんですけど、5月中旬にレコ発が決まっていたんですよ。
ぐぅちゃん:もう今回のリリースとレコ発の予定が決まっていたんです。
●突然の脱退だったんですね。
4:レコーディングも終わっていた中でドラムが抜けてしまったので“どうしようか?”となって、かなり悩みました。そこでもう1回ドラムを自分でやると決心して、ほぼ毎日のようにスタジオで練習して。脱退の2週間後には、ライブが決まっていたんですよ。
●今作で4年ぶりのドラムボーカルに転身したのは、そういう事情があったと。
ぐぅちゃん:2つ前にやっていたバンド(※ニセモノカメラ)以来ですね。
4:元々は楽器があまり得意ではないのもあって、責任感があまりないパートをやりたくてボーカルを選んだんです。でもドラムボーカルになって責任感がめっちゃ重大になったから、気が抜けないというか。本気でやらないと他のメンバーに追いつけないので、そこからちゃんと音楽に向き合うようになりましたね。
●前メンバーで一度、音源を録り終わっていた?
4:その音源をおじゃんにして、今の4人で録り直したんです。だから、レコ発の1ヶ月くらい前にレコーディングして。ドラムを再開して2週間後にライブをして、その2週間後にもう1回ライブがあって、そこからすぐレコーディングとなって…すごかったですね。
ぐぅちゃん:音楽性や雰囲気があまりにも変わりすぎたのでレーベルオーナーの須原(敬三)さんに頭を下げて、録り直させてもらいました。
●そういう意味では、今作には今の姿に近いものが入っている?
4:本当に“今のウチら”っていう感じですね。最近、自分を見つめ直したんですよ。私はお笑いが好きなんですけど、ギャグバンドをしたいわけではないんです。周りからはもっと“イェーイ!”みたいなバンドだと思われているんでしょうけど、本当はそういうバンドじゃないから。自分でもずっと“何なんだろうな?”と考えていて。
●バンドに笑いを求めているわけではない。
4:映画も、コメディとかは全然観ないんですよ。園子温監督が好きなので、そういう映画ばかり観るんです。何回も観たくなるようなものじゃなくても、ずっと忘れられないものになりたい。そういうものを作りたいと思っていて。めちゃくちゃ売れたいというよりも、“あのバンドのライブはずっと覚えている”とか、“ずっとあの曲が忘れられない”みたいなバンドになりたいですね。
●消えない記憶を残すバンドになりたい。
4:私もそういうバンドに出会ってきたから。そのバンドが今はもうやっていなくても、ずっと忘れないんですよね。そういう“人にトラウマを植えつけるような”バンドになれたら良いなと思っています。
●…最後はすごく真面目な感じになりましたね(笑)。
4:でもライブでは、めっちゃフザけていますよ。ライブはナマモノなので、何かしらのユーモアを絶対に取り込みたい! 大阪でやったレコ発では、みんなで“童貞!”のコール&レスポンスが始まったりして。他にも“今までで一番エロかった女の名前は?”と訊いて、その名前でコール&レスポンスをやったりしています。普通にやっても面白くないと思っているから。
●他人のトラウマをエグっていく感じというか…。
4:エグり返していきますね。忘れられないように。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾