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決して渡せぬ想いを胸に放たれた熱き音が新たな始まりの種を蒔く


2013年以降、毎年1枚のペースでアルバムをコンスタントに発表し続けているcinema staffが、今年も新たなフルアルバム『熱源』を作り上げた。プロデューサーに江口亮(Stereo Fabrication of Youth)を迎えて制作した前作『eve』では、ポピュラリティのある歌の魅力をさらに伸ばすことに成功した彼ら。“(記念日や特別な日の)前日”という意味を持つアルバムタイトルにも込められているような、何かが変わる前の不思議な高揚感に包まれた作品を経て生み出されたのが今回のアルバムだ。前作リリース後も相変わらず精力的なライブ活動を展開し、自主企画イベント“シネマのキネマ”をはじめとして自分たちより若い世代のバンドたちとも対バンを重ねる中で様々な刺激を受けてきた1年間。昨年11月に発売した初のトリプルA面シングル『Vektor E.P.』で打ち出したソリッドでエッジィなバンドサウンドが象徴するとおり、4人が放つ熱量は今も高まり続けている。30歳という節目を超えても落ち着いてしまうことなく、積み重ねてきた確かな経験値を昇華して、熱く活発なエナジーに満ちた最高傑作を新たに生み出したcinema staffに迫る巻頭10,000字インタビュー。

Cover & Interview:cinema staff #1

「『eve』では“歌モノとしてのcinema staff”を完成させられた感覚があったんです。そこで納得できるものが作れたからこそ、“次はもっと自由にできる”っていう感覚があったんじゃないかな」

●前作の5thアルバム『eve』のインタビューで久野くんが「ここ数年求めていたものがやっと作れたような感覚がある」という話をしていて。その上で「“次は好き勝手にやれば良いんだ”という気分になれている」と話していましたが、今回の『熱源』はそういうモードで作り始めたんでしょうか?

久野:『eve』ではちゃんと目指していたものが作れたというか、“歌モノとしてのcinema staff”を完成させられた感覚があったんです。そこで納得できるものが作れたからこそ、“次はもっと自由にできる”っていう感覚があったんじゃないかなと思います。

●歌モノとしての完成度が高い作品を作れたことで、次はそこに囚われないものを作ろうと思えた。

久野:江口(亮※プロデューサー/Stereo Fabrication of Youth)さんと一緒にやったことも大きかったと思います。ちゃんと自分たちでも納得しながらポップなものが作れたという点で、信頼できるプロデューサーと一緒にやれたことがすごく良い経験になって。“やれないから、やらない”と“やれるけど、やらない”では、意味が全然違うと思うんですよ。

●江口さんと一緒に前作を作ったことが、今作にもつながっている?

辻:そうだと思います。今までやっていないことをやってみたことで、色んなことがわかったりもしたから。『eve』の時は江口さんと相談しながら、自分にあまりないところを引き出してもらったという感覚があって。あの時はバッキングギターとリードギターを分けて作った曲が多かったんですけど、今回はそういうことは決めずに“2本のギターで面白く表現する”ということを意識しました。

●バッキングとリードという明確な分け方をせずに、アレンジを考えたんですね。

辻:でもそれは元々やっていたことではあるんですよ。

飯田:『eve』との聴き心地の違いは、そこなんじゃないかなと思います。今回のほうが辻らしくて、しっくりくるところはありますね。

●辻くんらしいプレイが自然とできている。

辻:だから、制作中はすごく楽しかったですね。三島の中でイメージができている曲もあったので「ここはこういう感じで弾いて欲しい」というのはちゃんと汲み取りつつ、あとは“どう面白くするか?”っていう感じでした。

●三島くんはどういうイメージで今回の曲を作っていったんでしょうか?

三島:前作のツアーが終わって“次はどうしよう?”という話になった時に「何も考えずに1回作ってみても良いんじゃないかな?」と言ったら、スタッフやメンバーも「そうだよね」となって。最初は、本当に何も考えずにデモを作るところからスタートしました。

●アルバム全体のイメージがある上で、作り始めたわけではない?

三島:アルバムを意識するというより、“とりあえず曲を作ろう”という感覚でした。心のどこかでは“アルバムになるだろう”とは思っていましたけど、最初はコンセプトを決めずに曲を出していった感じですね。

飯田:でも次のアルバムをどういうものにしようかとなった時に、自分の中では“原点に立ち返ってみようか”という気持ちがあったんです。インディーズの頃の“あの感じ”で三島が歌詞を今書いたら、どうなるのかなと思っていて。そういうものが見たいし歌いたいなと思っていたら、ディレクターが先に同じことを言ってくれたんですよ。

●スタッフも同じことを考えていた。

飯田:“全く同じことを思っていたんだ!”となって。自然と同じ方向を向けていたんでしょう
ね。

●インディーズの頃の“あの感じ”というのは?

飯田:歌詞の雰囲気ですね。これまでは抽象的な表現をもう少し色んな人に伝わるように変えていたんですけど、今回は(リスナーに)もっと“想像”させたり“勘違い”させたりもできるようなフィクションを歌ってみたいなと思って。

●それについて、三島くん自身はどう思ったんでしょうか?

三島:ある意味では「今まで積み上げてきたものを壊せ」と言われているようなものなので、色々と思うところはありましたね。歌詞については“どういうものが良いんだろう?”と毎回考えながら書いていて、自分なりにテーマを決めたりもしているんです。たとえば具体的な歌詞を書いた『blueprint』(4thアルバム/2015年)があって、その次にファンタジックだけど具体的な歌詞にもなっている『eve』と経てきた中で、成長してきたところはあると思うんですよ。でもそれは自分の中でのことであって、表現の世界では何が正解か決めるのは難しくて…。そこの折り合いは大変でした。

●最初は抵抗感もあったんですね。

三島:もちろんそんなつもりで言ってはいないと思うんですけど、「昔のほうが良かった」って言われているような気もしたので、瞬間的には落ち込んだりもして。でも1週間くらいしたら、忘れてしまうんですよ(笑)。だから“まぁ、それも良いかもな”と思って書き始めました。

●とはいえ、M-1「熱源」はわりと具体的な歌詞だと思いましたが…。

三島:これは“塊(かたまり)”で出てきたんですよ。歌詞も最初から“この雰囲気以外はないな”と思っていたくらいで。できた時に“これをアルバムの1曲目にしたい!”と頭に浮かんだので、その時の瞬発力や気持ちを大切にしようと思いました。この曲だけはちょっとイレギュラーな作り方なんですけど、他の曲は抽象的に書きましたね。

●そういう曲だから、アルバムタイトルにもつながった?

三島:“熱源”っていう言葉自体は、アルバムタイトルにする前から単語として頭の中で引っ掛かっていて。それと曲が今回結びついたので、タイトルにしました。30歳になって初めて出すアルバムというところで、自分たちの気持ちとバンドの状況ともリンクしているなと思ってピンときたんですよね。

●“それでも種は蒔ける そして熱は産まれる”という歌詞は、“30歳という節目を超えても新しい
種を蒔いていけるし、熱を産み出せる”という気持ちの現れなのかなと。

三島:そういう希望を込めて書きました。“実る”時期ではないですけど、“耕す”ことはできると思うから。そういう具体的なメッセージとして、この曲の歌詞は書いていますね。

●誰かに向けて言っているようで、自分自身にも向けられているような歌詞ですよね。

三島:「シャドウ」(『blueprint』収録)とかでも、そういう歌詞を書いていて。「熱源」は、言葉としてはそういうものの“決算”かもしれないですね。

●“種を蒔く”という言葉に関して言えば、昨年11月に第1回を開催した自主企画“シネマのキネマ”で自分たちよりも若い世代のバンドたちと積極的に対バンしたりしていることも、そういう意味合いがあるのかなと思いました。

飯田:去年は本当にたくさんライブをしたんですよ。自分たちの企画だけじゃなくて、先輩・後輩問わず色んな人のツアーにどんどん参加していくっていう活動を1年間やってきたので、そういう意味もあると思います。今まで自主企画では先輩バンドを誘うことが多かったんですけど、後輩の中にもカッコ良いバンドはたくさんいて。一緒にやってみると刺激がもらえるし、すごく楽しいんですよね。

●世代が違う若いバンドを見ていると、自分の価値観からは想像できない発見もあったりするのでは?

三島:それも今は“面白いな”って思うようになりました。売れている人を見て“悔しい!”って思うこともなくなってきたし、今は“開き直りを恥じずに行こう”という気持ちでいますね。(若いバンドが)面白いことをやっているなと思ったら、「参考にしてもいい?」と言えるくらいの気持ちでやれている感じはあって。“自分たちは30歳でこんな感じだけど、まだまだここからだよ”みたいな希望的観測は抱いています。

●20代には20代にしか歌えないことがあるように、30代には30代にしか歌えないことがあると思うんですよね。

三島:そこを無理に若くしようとするのは違うなと思っています。

飯田:元々(三島の歌詞は)歌っている内容が大人っぽいと感じていたので、この歳になってやっと整合性が取れてきた感じがするんです。

●歌っている内容に自分たちが追いついてきた。

飯田:ちょうど良くなってきた感じですね。だから去年、(インディーズ時代の曲のみを演奏する)“前衛懐古主義”っていうライブをやったりもして。昔の曲を今でもやれるのは、そういうことなんじゃないかなと思うんですよ。

辻:30歳も超えるし、バンドを長くやってきた中で“これだけやってきた”という自信も付いたからかなと思います。

●活動を続けてきた中で得られた自信も大きい。

久野:“前衛懐古主義”をやった時に、(作品をリリースした)当時は難しかったことが今はすごく簡単に感じられたんですよ。今では特に意識せずにできるようになったことも、当時は我ながら“頑張っていたんだな”と。そこで自分が成長したんだなと思いました。

●当時はちょっと背伸びしてやっていたことが、今の進化につながっているのでは?

久野:そうですね。僕らは少なくとも年間50本以上はライブをしているんですけど、ただやってきたわけじゃなくて、ちゃんと1本1本で何かを得ながらやれているんだなと思いました。

●そうやって積み重ねてきたことが、今作の楽曲にもライブ感として出ているのかなと。

三島:そこは裏切らない感じがします。未だにソングライターとしてはあまり自信がなくて“これで良いのかな?”と思いながらやっているんですけど、“積み重ねてきたものは絶対に裏切らない”っていう自信だけはあるんですよ。そこはすごく誇りに思うし、曲にも出ていますね。

Cover & Interview:cinema staff #2

「作っている時から“この方向性で今後もやりたいな”と思っていたんです。“この感じが合っているな。こういうものを4人でやっていきたいな”と思っていたので、今の気分はすごく明るいですね」

●昨年11月に『Vektor E.P.』をリリースしていますが、そこにも収録されていたM-2「返して」とM-9「エゴ」は今作の中でも最初のほうにできていたんでしょうか?

三島:そうですね。「返して」「エゴ」やM-5「メーヴェの帰還」あたりが、まず最初にできていました。本格的にアルバムを作るとなってからM-4「souvenir」ができて、その後にM-6「波動」、M-3「pulse」、M-7「el golazo」みたいな順番でしたね。

●『Vektor E.P.』をトリプルA面という形で発表したのは、良い曲がたくさん生まれていることの象徴なのかなと思ったのですが。

久野:まず僕らは“作品を絶えず出していきたい”という想いがあって。そこで“どういうものが作りたいか?”となった時に出てきた曲の中から、最終的に特に激しい3曲が選ばれた感じですね。M-8「diggin’」も候補には挙がったんですけど、色んなバランスを考えてあの3曲にしました。そもそも最初にリリースを発表した段階では、まだ収録曲が決まっていなかったんですよ。

●えっ、そうなんですか?

久野:僕らを信頼してくれているポニーキャニオンのスタッフチームから「次はトリプルA面で」と、先に決められていたんです。だから、そこで設けられたハードルを超えなきゃいけないっていう状況で。普通とは順番が逆だと思うんですけど、そうやってケツを叩かれながらやっている感じでしたね。

三島:でも僕はケツを叩かれたほうができるタイプだと思うので、不満はなかったです。むしろ毎回、〆切を設けて欲しいくらいなんですよ。〆切がないと考えすぎちゃって、たぶん迷走してしまうから…。そこは作家タイプなんだと思いますね。

●結果的に“トリプルA面”というハードルを超えられた実感はあるんですよね?

三島:“もうやるしかない!”っていう感じで、そのハードルに疑問を抱くこともなく作っていきました。今のcinema staffの見せ方としてそういう作品が必要だし、面白いと思ってスタッフが提案してくれているわけなので、そこは信頼して一緒に“船”に乗ろうという気持ちでしたね。

●実際に『Vektor E.P.』を作れたことで、制作に勢いもついたのでは?

三島:個人的には“できたな”という安心感と共に、“アルバムもこの流れで行けるな”っていう気持ちはありましたね。僕がわりとナチュラルに出した曲に対してみんなが「良いね!」と言ってくれたので、“間違っていないんだな”っていう気持ちになれたんです。もしそこで“何かが違う…”となっていたらインプットを変える必要があったかもしれないですけど、そういうストレスは感じることなく作れました。

●歌詞の面では「返して」と「エゴ」も、先ほど話に出たインディーズ時代に通じる感覚で書かれている?

三島:「エゴ」は自分の中ではまたちょっと違うんですけど、「返して」はそういう感じですね。

飯田:「返して」は昔の雰囲気も残しつつ、言葉の埋め方には新しさを感じていて。“ただ昔に戻るだけじゃない”っていうのが、この曲にはわかりやすく出ていますね。三島らしい世界観はちゃんとありつつ、メロディとかは今までと違う感じになっていると思います。

●“らしさ”も守りつつ、新しさも見えるものになっている。

三島:別に意識しているわけではないんですけど、そうなっちゃうんですよね。『blueprint』や『eve』を経たことでもちろん江口さんからの影響もあるし、自分の中での流行りとかもあって、そういうものが入り交じっている感じです。やっぱり完全に昔のようには戻れないから。

●単に昔の表現方法に戻すというよりは、その頃の感じも取り入れつつ進化した今の形で見せるということなのかなと。

三島:そうなっていると良いなと思いますね。

●「エゴ」は自分の中でちょっと違うというのは、どういうところが?

三島:「エゴ」は打ち込みっぽい感じのする曲なんですけど、昔の曲のほうがもっと有機的だったんですよ。作っている時から、「エゴ」は冷たくてカチカチした印象があったんです。それならそういうテイストで一度完結させてみようと思ってやってみたら周りの評判も良かったので、そのまま完成させました。

●そういう曲のテイストに、歌詞も合わせている?

三島:そうですね。テーマは他と共通したところもあるんですけど、言葉のチョイスが違うという感じです。

●共通するテーマというのは?

三島:そこは後付けなところもあるんですけど、“群像劇”というか。“狭いエリアの中で起きている出来事やそこにいる人たちの姿を描く”っていうのが今回のテーマでした。ほとんどの歌詞はフィクションなんですけど、どれも共通する世界の物語ということにしたかったんです。基本的には同じ世界の話で、その中には戦争が起きている地域もあったりして。それらをどの角度から見るかによって(曲ごとに)描き分けるというアイデアは『Vektor E.P.』の時に思いついたことで、その流れのままアルバムまで来た感じですね。

●「メーヴェの帰還」は、特に物語感が強いかなと思いました。

三島:これは完全に“物語”な感じですね。戦闘機が飛んでいる雰囲気もあって。

●“巡回する黒い飛行物体”というのがそう?

三島:これはオスプレイをイメージしています。

●オスプレイのことだったんですね。“メーヴェ”というのは『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)に出てくる架空の飛行用装置の名前でもあるみたいですが…。

三島:これはドイツ語で“カモメ”という意味ですね。最近は名詞を使うのにハマっていて、「souvenir」に出てくる“バージニア”というのも人の名前として使っているんです。“メーヴェ”も人の名前なんですけど、カモメが港のほとりに帰ってくるっていうイメージと重ねていて。もちろん『風の谷のナウシカ』のイメージもあって、そういう深読みできる単語を使っています。

●色んな意味に取れるような言葉を使っている。メンバーは言葉の意味を、三島くんに訊いたりしないんですか?

飯田:“メーヴェ”に関しては、“それぞれにとっての大切な人”という意味は聞いていました。本当にわからない時は訊くこともありますけど、解釈は人それぞれで良いと思っています。何が正しいとかじゃなくて、歌詞を見て“俺はこう思う”っていうことだけで良いんじゃないかなと。

三島:特に今回は共感を呼ぼうとしている歌詞ではないので、そういう形を選んでいます。さすがに「メーヴェの帰還」を聴いて“ハッピーな歌だな”と感じる人はいないと思うんですよ。“それくらいで良いな”という感じです。

●先ほど話に出た「souvenir」の“種火はいつもここにある”という歌詞は、『熱源』というタイトルにもつながっている気がしました。

三島:そういえば、つながりますね。でも意識はしていなかったので、偶然だと思います。歌詞の世界観としてはフランスをイメージしていて、そこで少女が成長していく姿を描いたお話なんです。

●歌詞に出てくる“7月14日”にも意味がある?

三島:これはフランス革命が起きた日(※1789年7月14日。革命の契機とされるバスティーユ襲撃が起きた日)ですね。

●“この国の王様は誰が決めたんだろう”という歌詞も、フランス革命にかかっていたんですね。国家や権力に対するシニカルな意味合いもあるのかなと思っていました。

三島:シニカルさも多少はありますけど、単純に主人公はまだ子どもなので王様の顔も知らなくて。自分の知らないところで勝手に色々なことが進んでいく中でも、少女は少女で自分の人生を生きていくっていう話ですね。そこも、色んな側面から物事を見ているという意味合いがあります。

飯田:でもそうやって思ってくれていることが、抽象的にしたことの意味だと思うので、(狙いとしては)完璧じゃないですかね。僕は“二十歳になったバージニア”って、タバコのことかと思っていたんですよ(※タバコの銘柄)。それくらい解釈は自由で良いと思います。

三島:あと、言葉のハマり具合が重要なんですよね。

●言葉のハマり具合という意味では、「pulse」の“愛したい 介したい 誓い ない 死体 廃したい 違い”の部分は言葉遊びでしょうか?

三島:そうです。瞬間的には意味のないフレーズもたくさんありますね。「pulse」は、あまり歌詞全部に意味合いを込める雰囲気ではないかなと思ったんです。これはかなり抽象度合いが高い曲ですね。

●箇所によっては、深い意味を込めていないものもある。
三島:言葉のハマり具合と雰囲気を大事にしています。曲としては“cold”な雰囲気なんですけど、“pulse”には“脈”や“内在するエネルギー”という意味があって。それが“熱源”という言葉にもつながってくるので、そこのリンクは持たせようと思いました。

●ちなみに今作の中で「el golazo」は特に、歌詞も曲も“遊び”の要素が強いですよね。これはサッカーのことを歌っている?

三島:これは、ただのサッカー好きな人の歌です(笑)。歌詞に関して今回はわりと濃いテーマのものが多かったから、この曲は“ラフにやらせてもらおう”と思って書きました。

飯田:“重要なのはオフ・ザ・ボールだよ”っていう一文がたまらなくて、めちゃくちゃ笑いましたね(笑)。

●曲調的にも軽やかというか。

三島:“こういう曲調が足りないから書こう”ということで作ったものなので、メッセージ的なことは意識せずに趣味全開の歌詞にしました。他の曲でメッセージを感じ取ってくれる人はいるだろうなと思ったし、自分として息抜きもしたかったから。

●曲順的にも終盤に向かう前に、一息抜ける感じになっているなと思います。M-10「僕たち」はラストというのもあって自分たちバンドのことを歌っているのかと思いましたが、歌詞の内容的には男女のことですよね?

飯田:お客さんもタイトルを発表した時点では、そう思っていたかもしれないですね。

三島:でも基本的には、男女の別れを歌っているんです。ただ僕はあまり恋愛のことを上手に書けないので、そういうことではなく“2人の男女のあり方”というものを書いてみました。この曲の歌詞は元々決まっていなくて、フリースタイルな感じだったんですよ。

●フリースタイル?

三島:これは昔の曲なんです。僕と久野が大学時代に一緒にやっていたバンドの曲なんですけど、その頃は僕がギターボーカルで歌っていたんですよ。曲はほとんど当時のままで、歌詞は書き直しました。

●歌詞のテーマも元々違っていた?

三島:サビはこういうことを言っていたし、雰囲気的には近かったんですけど、それをちゃんと書き直したっていう感じですね。

●飯田くんと辻くんも、この曲を知っていたんでしょうか?

飯田:知っています。辻の音が入ったことで印象は変わったんですけど、当時からこの曲は好きでしたね。

辻:僕も当時のライブで観ていた時のイメージが強かったので、“これにどうやって1本ギターを足すんだろう”っていうところが難しくて。そのイメージをあまり崩したくないなと思ったので、上手くバランスをとってギターを入れました。

●昔作った曲を今、引っ張り出してきた理由とは?

久野:僕がやりたかったからですね。ある意味でcinema staffの曲を作るのとそんなに変わらないテンションで作った曲なのですごく気に入っていて、“いつか出したい”と思っていたんです。原点回帰というか、“あえて何も考えないところは考えない”というところが今作に合っていたし、“最後の曲としてなら、やっても良いんじゃないかな”と思って。

●今回のテーマに合うし、ラストにもハマる曲だから選ばれた。

久野:僕はそう思いました。

三島:個人的には思い入れがあるからこそ、最初はやりたくなくて。自分が歌っていた曲だし、僕の中では別枠のものだったんですよ。でも久野からそう言われた時に“確かにそうだな”と思ったし、結果としてラストにハマったので良かったです。“お蔵入りにしておくのはもったいない”っていう気持ちが最後は勝りましたね。

●大事な曲だから、どこかでは形にしたいと思っていたんですよね?

三島:そういう気持ちもありながらも、ズルズルと墓に眠っていたんです。結果的に陽の目を見られて良かったと思うし、大事な曲ではありますね。アルバムの最後にこれを入れられて良かったなと思います。

●今作を作り終えてみて、達成感も感じているんでしょうか?

三島:今作についてメンバーやスタッフが「良いね」と言ってくれているので、“この感じで良いんだな”っていう手応えはあります。“この方法論だったらやれるな”っていう気持ちにはなれていて。そこを研ぎ澄ましていけば、さらにすごいものができていくのかなと感じていますね。

飯田:三島の話につながるんですけど、僕も今回のアルバムを作っている時から“この方向性で今後もやりたいな”と思っていたんです。“この感じが合っているな。こういうものを4人でやっていきたいな”と思っていたので、今の気分はすごく明るいですね。

●作り終えて、前向きな気持ちになれている。

久野:とりあえず『Vektor E.P.』の段階で“こうなるだろうな”と思い描いていたものはできたというか。“アルバムとしてここに行きたい”っていうところで、納得できるものに今回もなったと思います。この次は1本道じゃなくて、“何本も道があるな”って思えているんですよ。

●今作を経たことで、次へとつながる色んな道筋が見えているんでしょうか?

久野:以前は選択肢がわりと限られている中で、リリースまで辿り着いていた感覚があったんです。『eve』の後も1本道だったんですけど、この次は何本も道があるような気がしますね。そういうアルバムになったと思います。

●そのアルバムを持って、“高機動熱源体”と題したツアーに出るわけですが。

辻:今回は久しぶりに自分たち主体のツーマンツアーになっていて。先輩から後輩バンドまでいっぱい呼んだんですけど、今までの自分たちの活動を総括するようなメンツが集まっていると思います。“ウチらにしかできないだろうな”っていうメンツと一緒にやれるというのもあって楽しみです。

●そういう相手とツーマンでぶつかることで、得られるものも大きいのでは?

久野:対バンをやることで刺激をもらえるだろうし、僕らも刺激を与えられたら良いなと思います。今回は“どこで誰とやるか”っていう意味や流れをすごく考えて決めたんですよ。“ここであのバンドとやれたら、テンションが上がるよね”という基準で選んだというか。“そこで何が起こるかわからない”っていう外的要因もあるから、ツアーはすごく楽しみですね。

Interview:IMAI
Assistant:室井 健吾

 

 

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