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月がさ

淀みをノゾイた先にある確かな光。確信犯的“問題作”が始まりの号砲を鳴らす。

千葉県佐倉市発のギターロックバンド、月がさが1stアルバムをリリースする。『淀ンダ水ヲノゾク』というタイトルからも窺えるとおり、人が目を背けてしまうようなことにも真っ直ぐ向き合い、汚い現実の事象も全て受け入れた上で等身大の音楽へと昇華して放つ彼ら。これまでもその圧倒的なサウンドとライブパフォーマンスを各所で評価されてきたが、現メンバーが揃ってバンドとして最も良い状態にあるという今、満を持して全国デビューを果たす。あえて“問題作”というコンセプトで作られたという今作について、4人が率直に語る1stインタビュー。

 

「過去を全部なくすことはできないかもしれないけれど、“新しく動き始めれば塗りつぶすことはできるんじゃないか”っていうことを歌いたいなと思ったんです」

 

●月がさが現メンバーになったのは、去年2月にDr.遠藤くんが正式加入してからなんですよね?

海野:そこで音楽性がやっと確立されたような感じがあって。それまでは“受け身”というか、探り探りやっているような感じだったんですよ。でも遠藤が入ってから“好き勝手やろうぜ!”みたいなスタンスになれたんです。元々そういう方向に行きたかったんですけど、自分たちで抑えてしまっていて…。

光:その鎖が切れたよね。

●それは遠藤くんの人間性が関係している?

光:ドラマーとしても、人としても…っていうところですね。

遠藤:“付いて来れないなら知らないよ”って思いながら、僕はドラムを叩いているんです。ドラムはバンドのボトムなので“それに合わせられないなら、月がさは大変かもね…”っていう気持ちでやっているから(笑)。

海野:前のドラマーとは真逆の性格なんですよ。その人は手堅いプレイで“付いていくよ”っていうタイプだったので、俺らも“えっ、どうしよう…?”っていう感じでお互いに窺い合っていたというか。でも今は逆に全員が“好き勝手やろうぜ!”っていう方向性になれていて、バンドとしてはこれまでで一番良い状態かもしれないです。

神䉤:初期衝動が戻ってきた感じがしますね。

●バンドとしての原点に戻ってきたような良い状態にある。

海野:初期衝動的な部分と、今やっている曲が合っている感じがするんですよ。曲と自分たちの感覚は、今が一番マッチしているなって思います。

●楽曲の中で歌っている内容も徐々に変わってきているんでしょうか?

光:昔はもう少し抽象的で曖昧な歌詞が多くて、どんな意味にも捉えられるようなものを意識して書いていたんです。そこから色々と経験を積んでいく中で、もっと具体的でも良いなと思うようになって。それまでは1つのことに対して10個くらいの言葉を使っていたのを、3個くらいに抑えられるようになったというか。それを最近は意識して作っていますね。

●余分なものを削ぎ落しているせいか、言葉として強いものが多いように感じます。

光:優しい言葉をあまり使わないようにしていて。ナイフで切りつけるような言葉というか、どちらかと言えば人を傷つけてしまうような言葉をあえてフックとして使っているんです。僕の好きなバンドは人間のどうしようもない部分を突き刺してくるような感じがあったので、そういうものを自分たちなりに新しく表現できたらなと考えながら作っています。

●独特な歌詞だと思いますが、メンバーから見た印象は?

神䉤:根底には“何か”があって、そこはずっとブレていない感じがします。

海野:光らしい言葉のチョイスをしているなっていうのは、昔から変わらずに感じますね。

光:根っこがヒネくれているんですよ…。

●自覚しているんだ…(笑)。

光:結構、歪んでいるという自覚はあります(笑)。

●ハハハ(笑)。根底にあるものはずっと変わっていない。

遠藤:加入する前に対バンをしたこともあったので外から見ていた印象としても、今話していたような世界観がずっと骨の部分にあるのは感じていて。その上に色んな肉がついてきただけであって、骨の部分は昔から変わらないと思いますね。
神䉤:ブレないよね。

海野:ある意味、純粋なのかもしれない。歪んでいるというか、逆に純粋すぎるがゆえの価値観があるという感じですね。

●2013年に1stシングルとして発表していたM-4「ジオラマ」を今作に入れられるのも、根底にあるものが変わっていないからでは?

光:今の音楽性や方向性に寄ってきたのが、そこからなんですよね。月がさを始めてから、本当に初めて自分の中からバッと出てきたのが「ジオラマ」で。この曲ができたのはアコースティックのソロライブが入っていた日で、当日の朝に“曲が書ける!”と思って30分で書き上げたんです。その日のライブでもやったし、バンドに持って行った時もすぐ形になって。

神䉤:アレンジに1時間もかからなかったですね。

海野:歌詞を見た時にアウトロで爆発する感じも浮かんだので、アレンジはすぐできました。イメージしやすかったですね。

●そういう曲だから、今作にも入ったと。

光:今回のコンセプトは“問題作”ということで、最初のアルバムにしてはアングラな匂いのする暗い雰囲気の1枚にしたくて。普通は1枚目のアルバムには、リスナーが受け取りやすいような曲を入れるものだと思うんですよ。でも僕らの場合はそうじゃなくて、1枚目だからこそ自分たちらしさを出そうっていう。そうなった時に既存の曲でどれを今作に入れたいかというと、自分の中では「ジオラマ」が一番だったんです。

海野:メンバーも全く異議はなかったですね。“一番、月がさらしい曲だよな”と思ったので、再録することになりました。

●この曲ではどういうことを歌っているんですか?

光:これはほとんど自分への戒めですね。どうしようもない時期が結構あったんですよ。働いてもいない僕に対して優しく「頑張れよ」と言ってくれる人たちが周りにいて、でも何もできない自分がいて…。そういう過去を全部なくすことはできないかもしれないけれど、“新しく動き始めれば塗りつぶすことはできるんじゃないか”っていうことを歌いたいなと思ったんです。

●最後の“明日は雨だから家を出たくないなぁ”というのは、そういう時期の心境だったんですね。

神䉤:でもみんなが思うことですよね。やっぱり日常的なことを歌っているので、共感を得やすいんだと思います。

●M-5「イメージ」の冒頭で“電車の中で耳を塞いでる もういいか そんなことは みんなやっている”と歌っている部分も、まさに日常でよく見る光景だなと。

光:そうですね。激しい曲が多い中で、「イメージ」は僕なりの一番優しい曲なんですよ。

海野:今までの曲の中では歌詞が一番前向きで、わかりやすいかなと思います。

●誰かに言っているようで、自分自身にも向けられている言葉なのでは?

光:そうですね。自分がクソみたいなライブをやってしまったことがあって。終わった後に楽屋で1人で泣いていたら神䉤に「もっとしっかり考えろよ」と言われて、最終的になぜか2人で号泣する…という事件があったんです(笑)。この歌詞は、その日のことを考えながら書きましたね。

海野:この2人はすぐ泣くんですよ(笑)。でも確かに、死ぬほど悔しいライブだったとは思います。

●熱い気持ちが根底にあるから、こういう歌詞も書けるのでは?

光:やりたいことがありますからね。あと、ウチの兄弟はわりと厳しい言葉を投げかけてくる人たちで、そういう中でボコボコにされながら育ったというのも関係しているかもしれない。仲はすごく良いんですけど、“こいつらのことを見返してやる!”っていう悔しい気持ちを常に持っていて。そういうものに対する不屈の精神はありますね。

●「イメージ」も既発曲ですが、M-1「岸に花を渡す」も配信で去年2月にリリースされていますね。

光:これを出したのは、ちょうどドラムが遠藤に変わる時期だったんですよ。だから今までと違うことがしたかったし、“ここから変わるぞ!”っていうのがわかりやすく伝わるような曲を作りたくて。あと、“次は絶対にアルバムを作ろう”と考えていたので、その1曲目として聴いた時にハッとなる曲が欲しいと思って「岸に花を渡す」は作りました。

●最初からアルバムの1曲目になるような、フックの強い曲を作ろうと考えていた。

光:だからイメージとしては元々、シングル的な意味合いがあって。この曲はライブでも人気のある曲なので、1枚目のアルバムには絶対に入れたいなと思っていました。

●M-3「遅溜」もフックのある曲ですが、このタイトルはどういう意味なんですか?

光:気付いているのに目を逸らしているようなことがあって、それへの対応が遅くなってしまった結果、どんどん溜まっていく様を描きたかったんです。たとえばニュースで流れている殺人や戦争の話について、僕たちは「こういうことがあったんだ。悲しいなぁ」としか言わないし、それに対して何かしようとは思わないじゃないですか。でも自分は、それにどう向き合うかということを書きたくて。そういう“すぐに忘れてしまうんだけど、頭のどこかに残っているもの”を、“遅溜(ちだまり)”という造語で表現しました。

●“一生分の淀みをノゾイて生きている”という歌詞は、アルバムタイトルにもつながっている?

光:“淀み”というのは世間に溢れている“汚いもの”のことで。“街に消えた売り少女”や“人身事故に苛立つ中年”とかはその例なんですけど、見ているのに見なかったことにしているものや「自分には関係ない」で終わってしまっていることについて、“一生分の淀みをノゾイて生きている”と表現しているんです。

海野:先にアルバムタイトルのほうが決まっていて。M-2「not equal」や「遅溜」の歌詞は本当にギリギリの時期にできたので、自然とそこに結びついたんだと思います。

●「not equal」は一番、怒りが出ている曲かなと思ったんですが。

海野:一番、吐き散らしていますね(笑)。

遠藤:サビの“うるせぇ”を聴いた時はビックリしましたもん。

光:ちょうどその時期に納得いかないことがあって…。

●納得いかないこと?

神䉤:ちゃんと話し合っても、どうしても相容れない時というのがあるじゃないですか。そういう出来事があったのを受けて、それを歌詞にした感じはありますね。

光:その出来事があった翌日に、サビの歌い出しが“うるせぇ”に変わりました(笑)。

●ハハハ(笑)。M-6「確かに底に存るもの」でも“人と人は分かり合えない”と歌っていますが、そういう考えも根底にある?

光:僕個人の考えなんですけど、人と人は絶対にわかりあえないじゃないですか。同じ言葉を口にしていても意味合いが変わって伝わることもあるし、咬み合わないことがたくさんあって。それでも僕は人が好きなので、どんなに自分にはわからないことを言っていてもその人をわかりたいと思うし、100%“わからない”では終わらせたくない。“わからない…けど、わかりたい”っていうのをずっと続けていきたいなという想いを込めて書きましたね。

●「確かに底に存るもの」という曲名も独特な表現だなと。

海野:元々は“そこ”だったんですけど、歌詞を読んでいると人の根底に入り込むような曲だなと感じたので、“底”のほうが良いんじゃないかなと思って変えました。アルバムタイトルの『淀ンダ水ヲノゾク』も、“ノゾク”には淀みを“覗きこむ”という意味と“取り除く”という意味を両方かけているんです。最終的には前向きな曲が多いので、“淀みを覗きこんだ先にそれを取り除く”という意味を込めて、こういうタイトルにしました。

●全てがつながっているような感じがします。

光:曲もタイトルも全体を通して1枚の作品として見えるように、ということは意識しましたね。今回は“どれだけヒネくれた作品が出せるか”というテーマがまずあって。その中で高みを目指していった結果として今作ができあがったので、今のベストは出せたかなと思います。

海野:やりたいこともできたし、自分たちの見せたいところが自然と出てきた結果、自然と“ベストアルバム”になったという感覚ですね。

●自分たちでも納得のいくものができた。

光:実はもう次に出す作品のことも考えていて。次はもう少し受け取りやすい曲を出そうと思っているんです。“こういう曲もできるんだよ”っていうのをそこで見せた上で、その次はもっとヒネくれたものを出したいんですよ(笑)。そこに向けた第1弾として、今回はしっかりした作品ができたと思います。

遠藤:僕は後から入ったというのもあって、今作のリリースをキッカケにして3人をより深く知れるというか。こうやって取材の場を通じて今まで知らなかったことを知る機会も増えているので、ツアーファイナルまでにはもっとバンドとしてのイメージを掴めていると思うんですよ。きっとそういう濃い時間になるはずなので、ツアーも頑張ってきます!

Interview:IMAI

 

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