2007年にソロデビューし、音楽活動以外にもラジオパーソナリティーとして活動してきたシンガーソングライター・LOVEが、聴き手の日常に寄り添うような温かみのある楽曲が詰まったアルバム『Pearl』を完成させた。同作は、たくましく、そして優しく成長した彼女の飾らない想いが溢れる作品。表情豊かな歌、強い想いと鋭い視点を感じさせる歌詞、類まれなるアレンジセンスを持つ彼女が、この10年間でどう変化してきたのか。アルバム『Pearl』が完成するまでの苦悩と、彼女の心の動き、10年間での心境の変化を訊いた。
「ただただ美しいことだけがあったわけではないし、傷ついたこともあったけど、10年経って綺麗なものが、丸なのかいびつなのかはまだわからないけど、このアルバムみたいだなって」
●今年はデビュー10周年ですが、音楽活動とは別に7年間ラジオのパーソナリティを毎週月~金に生放送でやっておられていて、想像するにパーソナリティの仕事はミュージシャンとしての“LOVE”に少なからず影響を与えていると思うんです。ミュージシャンとしての心の有り様やモチベーションは変わりましたか?
LOVE:私はデビュー当時から“このままじゃ世の中がヤバい”ということしか歌っていなくて。その視点で言いたいことがたくさんあって曲を作ってきたんです。
●闘ってきましたよね。
LOVE:はい。7年間ラジオでしゃべっていることによって、私1人の世界ではなくて、もっと毎日みんなが働いているシーンに寄り添ったり、国内から海外まで色んなことが起こる時事情報を紹介してラジオの中でみんなの不安をほぐしたり、違和感があることをはっきり言うことでみんなを安心させたりするようなトレーニングをしてきたので、「ミュージシャンとしてどう変わったか?」と問われれば、“自分の思いだけを発信する”というよりも、“みんなが上手に受けとめられる言葉で伝えよう”と思うようになったかな。
●LOVEさん本人の主張や表現欲はどうなったんですか?
LOVE:それが出るのは震災の日の前後や、終戦記念日、クリスマスというタイミングですね。音楽を特集しながら、自分の言葉であの日を大事に伝えたいし、みんなと一緒に考えたいことがあるからこそ、毎日の中で信頼関係を作る…それはとても気が遠くなりそうなことなんですけど…私のモチベーションはそこにありますね。
●曲作りはどう変化してきたと思いますか?
LOVE:今作をプロデューサーと一緒に作ったということもあって、頭ではわかっていても“自分が言いたいことを受け取れる形にする”というスキルがまだソングライターとして足りないなと思います。全部1人きりでやろうとしてみた時期もあって、エンジニアさんにミックスだけお願いして、演奏とレコーディングも家で1人でやる。そうやって追いかけてやってきて、“もうこれ以上は人の手を借りたい!”という気持ちが3年前くらいに出てきて、その延長線上での今作なんです。
●そうだったんですね。
LOVE:曲を作ること自体は、意識的に“これを言おう”ということだけではなく、“今私は何が言えるんだろう?”と探っていくような、決して簡単ではない作業。だから今回のアルバムも2年くらいずっと曲を作っていたし、悶々と書き続けていました。
●悶々としていたんですか?
LOVE:たぶん自分の持っているスキルを使い果たしたのが2年前だったんだとと思います。だから誰かの力を借りたりして、自分の世界を広げるということが重要でした。旅に行くだけでは足りなかったし、他の音楽を聴きまくるだけでも足りなくて。それに気づけずに1人で曲を書き続けている時間が辛かったですけど、そういう時間を経て、今作はそういうすり合わせを人と会話をすることで出来たんです。
●第三者の視点を入れるということが突破口になった。
LOVE:“意外とアレンジとかもやるんだ”ということをアピールしたかった時期があったんです。でも今作を作る過程で、いいプレーヤーと一緒に作ったり「そこのメロディが詰まっているからちょっと離そうよ」と言われるだけでも新しくなって言葉が伝わりやすくなったりして、今回の作業では発見しかなかったんですよね。一緒に作曲をしたアレンジャーの河野圭さんや、アレンジャーの野村陽一郎さんは、その場で一緒にセッションをする形で曲を作ったんです。M-7「はたちのころ」やM-8「Wonderlove」、M-1「Drive」はそうやってできた曲ですね。
●共作に近い感じですね。
LOVE:共作です。今回プロデューサーの熊谷昭さんに「LOVEちゃんは発想力と視点と人間性がとにかくいい」という嬉しい言葉を頂いたんだけど、「それを仕上げる能力はないと思った方がいいよ」と言ってもらえて。最後の盛りつけができないというか。
●性格が出ているんですかね(笑)。
LOVE:本当にそうですよね(笑)。
●以前からのLOVEさんのイメージは、音楽を武器にして世の中と闘っていたり、こぼれんばかりの過剰な愛を持っていて、とてもカロリーが高い人という印象だったんです。でも一方で、ラジオパーソナリティのLOVEさんからは、もう少し柔らかくて穏やかな印象を受けたんですよね。今作は後者に近いイメージ。
LOVE:今作ができあがったとき、今年のテーマは“ゴキゲンに朗らかに”って決めましたもん。
●朗らかに(笑)。
LOVE:シングル曲「過ちのサニー」(2007年3月リリース)で世の中がシビアになっていくのをなんとなく予感して、“人間の温かさってなんなの?”って突き刺すくらいの気分でスタートしたんですけど、私の想像していた以上に世の中がカオスになってきたと思っていて。それこそ原発の事故とか、自然災害っていうよりはSF以上にSFみたいな世界の出来事とか、イスラム過激派が出てきたことも含めて。
●はい。
LOVE:でもそれはなんとなくは予想もしていて。「沈黙のスコーピオ」(2009年1月リリースアルバム『Confetti Love Songs』収録)の歌詞で“マイノリティーがひっくり返し始める世の流れ”と歌ってはいたんですけど、現実はちょっと予想を超えちゃいました。受け止めきれないくらいのことがあるっていう時に、“朗らかにいこう”と思いました。
●シビアにいくだけじゃダメだと。
LOVE:いくらラジオで高カロリーで物を言ったところで、みんな目の前の生活があるじゃないですか。自分の家族を大事にしている人たちにいちばん考える機会を持ってもらいたいと思ったら、こっちの想いを熱く伝えるだけだと“しんどいな”とか“受け止めきれないな”と思ったんです。だからラジオを聴いて、“ちょっと朗らかに空を見上げるくらいの気持ちになってくれればいいな”と思っているんです。そういうことを音楽の中で、自分のこの性格でも以前よりは出来るようになったと思います。
●なるほど。そういう意味では、今作の曲は肩の力が抜けているというか、素のLOVEさんに近いですよね。
LOVE:私も自分のことをもっと盲目的に信じている部分があったし、それはアーティストとしては大事なことだと思うんですけど、自分もそこまでできた人間じゃないと思うようになって。
●それはどうしてですか?
LOVE:子育てをしている友達だったりとか、当たり前の生活の中で立派にやっている人たちのかっこよさを見たり、着実なものの美しさにすごく尊敬の念を覚えたんです。私はまだ子どもも生んでいないし、自分のことで精一杯。そういう気持ちの変化もあって、「自分のことだけが正しい」と言えるような気分では全くなくなりました。それがよかったです。
●そういう変化があったのか。
LOVE:周りの人たちはこの猪みたいな私と仕事していくのは大変だった部分もあると思いますよ(笑)。でも「そりゃあパーフェクトにいかないこともあるよね」って、ダメな時期を色んな人に支えてもらって落ち着きました。
●セッション的に作ったという「Drive」は、聴いている1人1人の世界を歌っていますよね。今おっしゃっていたような心境の変化が表れているのかなと。
LOVE:その大勢の中には私もいるんです。“私 対 全員”ではないんですよね。だから今はとても幸せな気持ちなんです。
●幸せな気持ちというと?
LOVE:特別な人だけが出来る何かじゃなくて、私も大勢のうちの1人で、その中でLOVEちゃんがこんなことやっているんだからみんなも出来るんじゃない? みたいなことが、私なりの発信の仕方なのかなと。カリスマ性がある人にしかできないリードの仕方もあると思うんですけど、私はたぶんそっちじゃないと思ったんです。生徒会長じゃなくて議長みたいな感じ。
●ああ〜、なるほど。
LOVE:そういえば学生時代からそうだったと思って。生徒会の副会長だったんです。当時は割と裏方で、表に立つことはあまり好きではなかったというか。
●ということは、音楽のモチベーションとしては自分を表現することだけど、大きい小さいに限らず自分の所属している社会が良くなることに対して、やりがいや幸せを感じると。
LOVE:そうなの。だから福島県相馬市の小学校に文房具を贈る活動をしている“今日ここにいるという事”というライブイベントを主催していることも、私が「こうしたい!」というのが最初にあったわけではなく、“みんなと同じように私も何かできないかな?”と思った時に、阪神淡路大震災を経験した人たちから「LOVEちゃんよく福島行ってるじゃん。よろしく伝えてね」っていうメッセージがたくさん届いたり、東京で揺れを経験した人たちもいっぱいメッセージを送ってくれたりして、だったら私は伝書鳩になろうと思ったんです。
●気持ちと気持ちを繋ぐ役割というか。
LOVE:“自分は何もできていない”という罪の意識は必要ないんじゃないかって。それをエネルギーに変えてみようって。
●LOVEさんにとっては、みんなと同じ視点というのが重要だったんですね。
LOVE:居心地がいいというか、合っていると思います。とはいえ、18歳でバンドデビューして10年前にソロデビューした時も、例えば自分のルックスもそうだし、背も高いし、英語も話せる。世の中にはスーパー綺麗な人たちが異常にいっぱいいるけど、自分がなんとなく“綺麗”っていうところに置かれるということに対して、逆コンプレックスがあって。
●えっ?
LOVE:超チキンシットな面もあるし、闘うパンク精神もあったんだけど、人に会ったときに言われることは「LOVEちゃんはとてもしっかりしていて、色んなことができて恵まれた人だよね」とかだったりして。私がどんなに辛い経験をしていても「とはいえ恵まれてるんでしょ?」と思われたり。そういう逆コンプレックスが18歳から抜けていなかったんですよ。
●マジですか! ちょっと意外…。
LOVE:さっきも言ったみたいに、表に出たいわけでもなかったんですけど、それでも表に出ていく責任をどう昇華していいのかわからないままバンド時代が終わって、覚悟を持ってソロ活動をスタートした時に、“私はこんなに苦労してきたの!”なんて歌っても意味がないと思ったんです。だからある時期に“太陽になろう”と心に決めて。なれるまでに時間はかかったんですけど、もしかしたら太陽としては光が強い作品を作ってきたかもしれないです。
●言われてみると、ちょっと眩しかったかもしれないです。
LOVE:そうですよね。それで今、やっと穏やかな太陽も表現出来るようになったんじゃないかな。ずっとみんなの妹分だったのが後輩も出来て、でも後輩の前でもダメなLOVEちゃんを晒せたり、先輩にもかわいがってもらって追うべき背中も見えていて。世の中の20代、30代の人たちが上司とか後輩に挟まれながら、どういう風に振る舞えば部屋の空気が変わるのかとかがわかってきたんです。人によっては子育てもしている人もいるし。“大人の女性ってすごくいいな”と思いました。それに私、かわいさを出すことがすごく苦手だったんですよ。
●ハハハ(笑)。それはなんとなく感じてました(笑)。
LOVE:ですよね。でも、もうかわいさに照れていていい歳ではなくなったので(笑)、それも出たところで違和感がないかなと思って。やっと色んなことが自分の言葉にもなってきました。例えば男性とのお付き合いって本当に苦手で。
●え! 本当に?
LOVE:尋常じゃないくらい苦手です。
●そうだったんですか。まあ言われてみれば、話しててそういう影が見えてこない印象がある(笑)。
LOVE:いち女性としては死ぬほど不器用でしたね。ずっと片想いだけとか、2人でご飯も行けないし、誘うこともできない、みたいな。
●あら…。エネルギーの塊のようなLOVEさんが誘うこともできなかったんですか?
LOVE:無理ですね。
●えー! 恥ずかしくなっちゃうとか?
LOVE:なんでですかね? でも自分の中でそういうバランスを作るのが難しいから、“LOVEちゃん”っていうキャラクターの中で出来るミッションをひたすら遂行してきたというか。普段はチキンシットで告白もできない、本当の思いを素直に人に伝えるのが難しいからこそ、音楽の中でそれをやってきたのかも。
●ああ〜、そういうことですか。
LOVE:今客観的に振り返ってみたら、“なんてアーティストらしいアーティストなんだろう!”って思うんですけど(笑)、本当にいいことを伝えたいのなら、伝わる形で伝わる自分でやってみようかと思えてきたんですよね。
●LOVEさんなりに、自分に合う伝わり方を探してきたんですね。
LOVE:アルバムのタイトルも、熊谷さんに「小さい可愛らしいニュアンスでタイトルをつけたら?」と言われたことがきっかけだったんですけど、ミックスの間に2日空いたので、アルバムタイトルを考えながらフラッと伊勢神宮に行っていた時に、お土産屋さんですごくかわいいピアスを見つけて。そのピアスを買ってタイトルを『Pearl』にしたんです。10年目だし、真珠ってちょっとした違和感が入ったところに作り上げられる宝石っていうのもいいなと。
●確かに真珠は違和感の産物ですね。そういう視点はすごくLOVEさんらしい。
LOVE:私にも、ただただ美しいことだけがあったわけではないし、傷ついたこともあったけど、10年経って綺麗なものが、丸なのかいびつなのかはまだわからないけど、このアルバムみたいだなって。
●なるほど。今作は10年走ってきたLOVEさんの人間としての成長が詰まっているんですね。これからも自分を磨いて、もっともっと素敵なアーティストと、もっともっと素敵な女性になることを期待してます!
LOVE:ありがとうございます!
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:室井健吾
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