筋肉少女帯のベーシスト、内田雄一郎が初のソロアルバム『SWITCHED ON KING-SHOW』を完成させた。タイトルからも推察できるとおり、筋肉少女帯の楽曲をシンセサイザーでカバーしたという今作。これまでのイメージからするとハードロックやヘヴィメタル的なアプローチを想像するかもしれないが、それとは真逆のモンドかつキッチュなラウンジ調テクノポップなカバーアルバムとなっている。しかし、これもかつてインディーズ時代にはテクノ・ユニット、空手バカボン(※ケラ+大槻ケンヂ+内田雄一郎)のトラックメイカーであったことを考えれば、合点のいくことかもしれない。そんなナゴムの香りもほんのりと漂わせつつ、70年代ムーグ・ミュージックやL.A.F.M.S.などの西海岸アンダーグラウンドから、80年代のMUTEやAta Takの諸作品、さらにはクラウトロックやプログレの要素までを感じ取ることができる濃厚な一枚だ。記念すべき1stソロアルバムのリリースを記念して、JUNGLE☆LIFEでは表紙&巻頭インタビューで大特集を! …と気合いの入るところながら、取材当日は内田本人が大遅刻(笑)。作品の空気感そのままに肩の力が抜けた、ユル〜い約1万字インタビューをお楽しみあれ。
「ずっとバンドでやかましい音楽をやってきたので、いきなりこういうことをやると気が狂ったのかと思われそうですけど、そこのところもちゃんと説明していかないといけないなと」
●それでは予定よりも約1時間遅れでインタビュー開始ということで、本日はよろしくお願いいたします。
内田:よろしくお願いします…遅れて、すいません!
●ハハハ(笑)。別に寝ていたわけではないですよね?
内田:家でゆっくり、お風呂に入っておりました。ちょうど昨日レコーディングが終わって一段落したところで、“今週からは次のモードに…”とか思っていた時でして。すっかり(取材の件が)抜けていたなぁ…。
●ちなみに昨日までは、何のレコーディングだったんですか?
内田:水戸(華之介)さんのレコーディングですね。自分はバンドをいっぱいやりすぎている上に、今回さらにソロも…っていう。
●ソロで作品をリリースされるのは、今回が初めてなんですよね?
内田:そうですね。でも元々、ソロアルバムを作ろうと思っていたわけじゃなくて。打ち込みのテクノ〜電子音楽をやりたいと思って作ってみたら、(結果的に)1人だったという。そういうものをやりたいという衝動のほうが先だったから…、“ソロ(をやる)”という感覚ではないんですよね。
●テクノ〜電子音楽的なものをやりたいとは、以前から思っていた?
内田:それは前から思っていて。ここ2年くらいで何となく、やり方がわかってきた感じなんですよ。ずっとバンドでやかましい音楽をやってきたので、いきなりこういうことをやると気が狂ったのかと思われそうですけど、そこのところもちゃんと説明していかないといけないなと。バンドって、誰かと誰かが一緒にいることでそこにマジックが生じるわけで。メンバーが1人変わるだけでもまた違うものになったりして、そういうところが面白くてずっとやっていたわけです。
●それとは違うものがやりたくなった?
内田:それとは対極的に、全部1人の思惑で作っていくものっていうのも確かに面白いなと。バンドだと自分がちょっと疲れた時には、代わりに誰かが前に出てきてくれるという…。そういう押し引きがあるので、楽な部分もあるんですよ。でもソロだと全部1人でやらなくちゃいけない…と考えると、面倒くさいなって。
●面倒くさいんだ(笑)。
内田:でも全部1人でやれる面白さもあって。そういった中で、1人でも疲れずにやれる方法を発見したというところですかね。
●その方法がテクノ〜電子音楽の手法だった?
内田:そうですね。元々、水戸華之介氏が“100曲ライブ”と称して5日間で毎回パートナーを変えて、アコギやピアノを使ったライブをやっていて。「うっちー(※内田)とも何かやりたいんだけど、ベースじゃなぁ…」と言われたので「じゃあ、打ち込みのテクノでやろうよ」ということでやってみたら、できたんですよ。
●それまで打ち込みだけでライブをやることはなかった?
内田:やっていないですね…いや、やっているな。ウッチーズ(※内田雄一郎+三浦俊一+水戸華之介)で「あずさ2号」(狩人)のカバーをやったりしましたね。もっとさかのぼれば、30数年前には空手バカボン(※ケラ+大槻ケンヂ+内田雄一郎)というバンドをやっていて…。
●空手バカボンは、テクノ・ユニットだったわけですよね。
内田:当時使っていたのはカセットプレイヤーでしたけどね。あれもナメていたわけですよ。“エレクトーンをテレ〜ッと弾いたものをカセットプレイヤーで流して曲を作っちゃえば?”みたいないい加減なノリで始めて。でも当時エレクトーンで色々とやってみたり、アナログシンセをイジったりしたことが面白かったんです。
●当時の経験が元になっている?
内田:昔から楽器の最新技術は追っかけていて、ベーシストのくせに『キーボード・マガジン』をよく買っていたんです。打ち込みにも筋少(※筋肉少女帯)の初期から手を出しつつ、それをなかなかバンドには活かせずに早30年…。そういう中で昨今はアナログシンセがブームになっていて、昔より簡単に安価で買えるじゃないですか。今ポンッと買ってきたものでも、ちゃんとイジれるんですよ。中学生の時に買った『シンセサイザー入門』みたいな本を読んで得た知識が、今もそのまま活かせるという。
●そんな昔に得た知識が今ようやく活かされた。
内田:基本は変わっていないんですよね。だから「あれ? やっても良いのかな?」っていう感じで、ついシンセを買っちゃったりして。
●元々、テクノや電子音楽は内田さん自身のルーツにあったんですか?
内田:90年代以降の“テクノ”と呼ばれるものは知らなくて。なので勉強のつもりで聴いたことのないものと、昔聴いていたものを振り返ってみようと、色々と聴いてみたんですよ。Underworldからコスミック・インベンションまで(笑)。聴いてみたけど、その上で“別に何をやっても良いんだな”という結論に至ったんです。そういうところもあって、(自分でも)やろうと思いましたね。
●リアルタイムでそういう音楽を聴いてきたわけではない?
内田:デビューしちゃってからは、音楽を聴かない時期もあったりして。70年代の歌謡曲ばかり聴いていましたね(笑)。でもCanやNEU!とか、“クラウトロック”と呼ばれているようなものは元々よく聴いていたんですよ。彼らって本当は上手いくせに、「何でこんなに下手くそに演奏するの…?」っていうのが面白くて、よく聴いていました。
●そうやって蓄積してきた知識や技術を今回は出した感じなのかなと。今作にはベースをはじめ、生楽器の音は一切入っていないんですよね?
内田:全く入っていません。生楽器は一切入っていないので、本当にそれ(※シンセ/電子音)だけというか。最初からそうしてみようと思っていたんですよ。なるべく生楽器っぽくない音色でやってみました。
●ここ数年の内田さんの活動でいうと、NESS(※三浦俊一+戸田宏武+内田雄一郎+河塚篤史)をやる中で受けた刺激も大きいのでは?
内田:それはありますよ。特に戸田くんを見ていると、すごく自由にやっているなと感じて。
●戸田さんの自由さに影響を受けたと。
内田:戸田くんを近くで見ていると「あ、こんなこともやっちゃって良いんだ!」っていうのがあって(笑)。キャリアを積むということには良い面もあるんですけど、どこかしら束縛されるところもあるんですよね。そういうことに気付かされたのかもしれない。
「楽しい音楽はあんまり好きじゃなくて、楽しい歌詞を歌っているものも好きじゃなくて、楽しい“音色”が好きなのかなと。ピコポコ・ピコポコ鳴っているのって、聴いていて楽しいじゃないですか」
●そんな経験も経ての今作『SWITCHED ON KING-SHOW』ですが、筋少のカバーをするというアイデアはどこから?
内田:これはですね…三柴理さんがピアノソロで筋少のカバーアルバム(※『Pianism of King-Show』)を出したんですけど…それのパクリです!
●パクリなんですか(笑)。
内田:というかまぁ、いきなりテクノをやり始めたと言われてもお客さんは「何だろう?」ってなると思いますので、ヤングパーソン向けにまずは筋少のカバーでもやろうかなと。“カバーをやる”ということで、1つお題目を付けてみた感じですかね。結局、原曲とは全然違う形に変えちゃったんですけど…(笑)。
●どの曲をカバーするかというイメージはあったんでしょうか?
内田:M-1「イワンのばか」だけは何となくあったかな。この曲はわかりやすいんですよ。“メタル調の曲をいかにマヌケにしてやるか”っていうテーマがあって(笑)。元が極端な曲だから、極端な方向に持っていけるなっていう。実際にやってみて“ああ、イケそうだな”と思ったんですけど、そこから全然進まなくなって…。本格的にやり始めたのは、去年の秋頃からでしたね。
●進まなくなったということは、途中で煮詰まったりもした?
内田:いや、逆に作業が進みすぎて、あれもこれも入れたくなっちゃうっていう。そういう前向きな原因でした。
●今作で最初に手がけたのは「イワンのばか」?
内田:そうですね。そこから何をやろうか考えながら作っていった感じかな。
●「イワンのばか」はオープニングからすごく壮大な感じになるのかと思っていたら、急にチープな打ち込みの音が出てきて拍子抜けするというか…(笑)。
内田:まずアルバムの冒頭で“こういうものだよ”という説明をしてみた感じですね。今回はアレンジ作業が面白かったんですよ。ほぼ作曲みたいになっちゃっているものもありますけど…。
●原曲と聴き比べるとかなり変わっていますが、最初からそういうつもりだった?
内田:そうですね。水戸さんと一緒にやっているユニット(※水戸華之介&3-10chain)はメロディありきで。メロディは変えずに、アンジーの曲とかに電子音をいかに混ぜていくかというものなんですけど、今回は筋少だからもう何をやっても良いだろうっていう(笑)。
●自分もメンバーの1人なので、気兼ねなくやれる。
内田:とはいえ、客観的にバンドを見た上でやりましたけどね。自分の曲も入っているけれど、一応は作家を分けて(収録曲を)選んでみました。
●クレジットを見ると内田さんの曲はM-3「星の夜のボート」だけで、他の曲は別のメンバーによるものですよね。そこはバランスを考えたんでしょうか?
内田:筋少では作家によって曲の方向性に違いがあるので、自ずとこうなったというところはあって。M-2「星座の名前は言えるかい」は筋少のライブでは今あまりやらない曲なんですけど、個人的に好きな曲なので軽めのテクノポップでやったら面白いかなと。コロ助の歌みたいになったら良いなっていう(笑)。
●確かに「はじめてのチュウ」(※アニメ『キテレツ大百科』オープニングテーマ)みたいですね(笑)。今作ではこの曲が一番ポップかなと思いました。
内田:そうですね。わりとメロディもそのままだし…コロ助か「帰って来たヨッパライ」(ザ・フォーク・クルセダーズ)かっていう(笑)。
●歌は内田さん自身が歌ったものを加工しているんでしょうか?
内田:自分で歌っています。ただ“普通に歌っても何だな…”と思って、ほぼ全部加工しちゃっていますけどね。後からピッチを色々といじっている感じです。
●なるほど。楽曲のセレクト的にも、色んな時代の作品から選ばれているのが面白いなと思いました。
内田:オールタイムのほうが面白いかなと。でも筋少のライブでよくやっているような曲ばかりではなくて。M-4「サンフランシスコ」やM-5「カーネーション・リインカネーション」はわりとやっていますけど、「星座の名前は言えるかい」や「星の夜のボート」はライブであまりやっていないんです。
●「星の夜のボート」はご自身の曲ですが、どんなテーマでアレンジしたんですか?
内田:「星の夜のボート」は大昔に作った曲なんですけど、今聴いてみると“もしかしたらこれはドアーズみたいなもったりしたリズムに影響を受けていたのではないか?”と思って。だったら、“ドアーズ・ギャグにしちゃえ”というテーマでやってみました(笑)。
●“ドアーズ・ギャグ”って(笑)。
内田:ドアーズ・マニアだったらわかるであろうギャグを随所に散りばめているんですけど、誰もわからないだろうなっていう(笑)。
●色んなドアーズの曲へのオマージュが入っている?
内田:良く言えば、そういうことですね(笑)。
●「サンフランシスコ」はかなり昔からある曲ですが、これを選んだ理由とは?
内田:この曲は筋少のライブでは定番になっていて。エディ(※三柴)の曲なんですけど、これも“作曲者を笑わせてやろう”というところからでしたね。わりとモチベーションは、そういうところにあったりもします(笑)。
●作曲者それぞれのツボをつくようなこともやっている?
内田:エディが「禿山の一夜」とかも好きなので、そういう要素を入れたりもして。エディだったらもっとブッ壊す方向のほうが喜ぶだろうと思って、自由にやりましたね。
●作り始める段階で、どういうアレンジにしようというイメージは見えているんですか?
内田:作業していると、ポンポンポンと浮かんでくるんです。それが楽しいし、今は自分が調子に乗っているなって思うんですよ(笑)。その調子の乗り方がわかったんですよね。
●制作している中でどんどん調子が良くなっていった?
内田:いや、2016年はずっと調子が良かったんです。だからシンセサイザーをいっぱい買ってしまったりして…そんな五十路でした(笑)。
●制作にはアナログシンセを使用しているんですか?
内田:ほぼソフトシンセで作って、最終的にアナログをちょっと足す感じです。Logic(※音楽制作ソフト)だけあれば、これくらいのことはできちゃうんですよ。
●実際の作業はソフトシンセ中心でやっている。
内田:基本的にソフトシンセで何でもできちゃうから、最初は下書きくらいのつもりで作っていたものが“このまま本チャンにしちゃっても良いんじゃないか”となっていって。そのせいで途中でキーを変えたくなってもできなくて、もう「しょうがねぇや」っていう(笑)。だから今回の収録曲は全部、原曲キーなんです。
●そういえば以前からソロで、野口五郎さんの曲を歌ったりしていましたよね?
内田:うん。もう30年くらい前から、そういうことをやっています(笑)。やっぱり基本は、そこなのかな。1人でライブをやったことがないと思っていたけど、よく考えたら18〜19歳くらいの時にやっていますね。新宿JAMあたりでやった“ナゴムナイト”で、自分で作ったカラオケを流しながら「失恋レストラン」(清水健太郎)を歌ったりしていましたよ。
●実は大昔からやっていたことともリンクしていたりする。
内田:その頃から、全然変わっていないですね(笑)。
●その当時はまだ若くてキャリアも積む前だったので、自由さも今以上にあったのかなと。
内田:何もわかっていなかったですから(笑)。でもそういう“ちゃんとやらない”感じというか、“ナメてんのか、こいつら?”と思われる感じというのがナゴム魂だったわけで。そういう気持ちのままずっとやってきたと自分では思っていたところに、戸田くんを見て“さらに自由だな”と感じたのかな。
●戸田さんが、かつての気持ちを思い起こさせてくれたというか。
内田:やっぱり経験を積むと、“これはやっちゃいけない”とか“これは恥ずかしいからできないな”みたいなところが出てきちゃって。それが凝り固まると良くないんだけれども、ちょっとずつ積もってしまっていたんでしょうね。そんな時に戸田くんが本当に“いくつになっても、何をやっても良いんだな”と気付かせてくれたんです。
「笑ってくれたら、シメたものですよね。本当にそれだけのことがモチベーションになったりして。だから原曲の作曲者には完成までなるべく聴かせないようにして、ちゃんと完成してから聴いて欲しかったんです」
●「カーネーション・リインカネーション」は筋少のライブでもわりとやっている曲ということですが、そういう曲だとイメージが固まっているので逆にアレンジが難しかったりするのでは?
内田:この曲って筋少のオリジナルバージョンでは、ループを使っているんですよ。作った当時は“ループを流しながらヘヴィな音をやってみる”っていう試みだったんですけど、今回はそれを“どうやってテクノにしていくか”というテーマでしたね。これに関しても“マヌケな方向にしていきたいな”と考えていて。さっき話したクラウトロックって、マヌケが1つ大きなテーマだと思うんです。人をナメた感じというか。
●それをこの曲で表現しようとした?
内田:自分なりに研究したところ、ベルリン系のアーティストは暗いんですよ。逆に西ドイツのアーティストは(間が)抜けているというか。ベルリンの人たちはやはり生活が切迫しているからなのか、たとえばタンジェリン・ドリームやクラウス・シュルツェの音楽って怖いじゃないですか。
●内田さんがやろうとしているのはそちらではなく、間が抜けたほうなわけですね。
内田:そうですね。僕は“音楽が楽しい”というか。楽しい音楽はあんまり好きじゃなくて、楽しい歌詞を歌っているものも好きじゃなくて、楽しい“音色”が好きなのかなと。ピコポコ・ピコポコ鳴っているのって、聴いていて楽しいじゃないですか。だから、“楽しい要素は音色に込めている”という感じなんです。
●そういう感覚が音に出ているのは感じます。今作に漂うプログレ感も狙って出しているというよりも、根っこにあるものが自然に出ているだけなのかなと。
内田:確かにそこはあんまり意識していなかったですね。作曲となると方向性なりで悩んだりするんですけど、今回は基本的にアレンジなので気が楽というか。本当に調子が良くて、アイデアがポンポン出てきたんですよ。そこは筋少をカバーするということでの楽さもあるかもしれない。
●筋少のメンバーなら、何をやっても笑ってくれそうというのもあるのでは?
内田:笑ってくれたら、シメたものですよね。本当にそれだけのことがモチベーションになったりして。だから原曲の作曲者には完成までなるべく聴かせないようにして、ちゃんと完成してから聴いて欲しかったんです。
●今作のラストを飾るM-6「戦え!何を!?人生を!」は、どんな理由で選んだんですか?
内田:これは1グルーヴでずっと進んでいく曲だから、やりやすそうかなっていう。変化が一番少ないというか、ミニマルな音なんだけど、今までそういうものをやった経験がないので“どこまでも繰り返して良いのかな?”っていう心配はありました。
●どこで終えれば良いのかわからない(笑)。
内田:普段聴いている曲は平気で10分くらい同じことを繰り返していたりするんですけど、それを自分でやる勇気がなかなか持てなくて(笑)。歌モノをやっていると、どうしても変化を作りたくなるんですよ。特に筋少のメンバーはせっかちばかりだから、曲は短く、どんどん変化していくっていうものになっちゃいがちで。
●そういう意味では、筋少ではできないことをやっている。
内田:そうですね。個人的には、“ヌーヴェルヴァーグ”にしたかったんですよ。意味わからなくてすいません(笑)。(ジャン=リュック・)ゴダールの映画なんかを観ていると、“これってケラさんが高校の時に作った映画と同じようなものなんじゃないか?”(笑)と思ったりもして。わりと行き当たりばったりで撮っちゃっている感じなんだけど、そこに文学の引用とかをいっぱい入れるからお客さんはよくわからなくなっちゃう(笑)。でもすごく破滅感があるというか…そんなニュアンスが何となくあって、歌詞をフランス語にしてみたんです。
●あ、これってフランス語だったんですね。歌詞の内容自体を変えているわけではない?
内田:基本的には変えていないですね。でも前半の歌詞は、端折っちゃっていて。原曲は、色んな人生における葛藤があって最後は神々しく昇天するみたいな流れでして。原曲の前半部分は葛藤の部分を描いているわけですけど、今回やってみた中でその葛藤部分はいらねぇなと(笑)。
●昇天部分だけを使った(笑)。
内田:その昇天部分に、葛藤を持ち込めば良いのかなと思ったんです。
●これがラストになるわけですが、全体の曲順としては序盤にまだとっつきやすいものが入っていて、後半に進むにつれてだんだんディープになっていくという流れになっているのかなと。
内田:そうなっていますね。「嫌だったら、最後まで聴かなくても良いよ」っていう(笑)。
●でもこの6曲で1枚のアルバムになっているわけですよね?
内田:それはそうですね。今の音楽の聴き方はそうじゃないんでしょうけど、自分はどうしてもアルバム単位で考えちゃうんですよね。ザッピングで聴く面白さもあるとは思いますが、作り手側としては曲順もすごく気にしています。
●今作を作ったことで、今後に活かせるものもあるのでは?
内田:それはありますよね。やっぱり作品を1枚作ると気付きが色々と出てくるし、つい買ってしまった新しい機材も使いこなさないといけないから(笑)。
●ちなみにタイトルの『SWITCHED ON KING-SHOW』は、どういう意図で付けたんですか?
内田:これはWendy Carlosが1968年に発表した『Switched on Bach』というアルバムからですね。まだシンセサイザーがタンスくらい巨大な時代に、多重録音してバッハの曲をやったというシンセ史上重要なアルバムなんですが、あまりにもシンセが楽器の音っぽく聞こえるので今ではわりと普通に聞こえてしまうという…。そのジャケットが、バッハの立っている後ろにムーグがあるっていうデザインで。それをパクろうとしたんですけど、上手くいかなくてこうなりました(笑)。
●ジャケットやアーティスト写真での、内田さんの格好にも何か意図があるんですか?
内田:「マイケル・ジャクソンか!?」っていう(笑)。ギャグのつもりでやったので、これをジャケットにするのはいかがなものかと個人的には思うんですが、周りが「良い」と言うもので…。やはり他人が「良い」と言うもののほうが良いんだろうなと。
●客観的な意見を尊重したと。
内田:自分としては「マジかよ!?」っていう感じですけどね(笑)。
●ハハハ(笑)。ライブはこの格好でやるんですか?
内田:そのつもりです。ライブは既に1回やったんですけど(※取材は2017年1月初頭)、ステージ上に自分1人なのでみんなが僕のほうを見るんですよ。
●それはそうでしょうね(笑)。
内田:「そうだよね」と隣に話しかけても誰もいない。…なかなかに1人は大変です。ライブのやり方はまだよくわかっていません。とにかくリリースをしたかったので、あんまりライブはやりたくないんです!
●断言した…。
内田:クラフトワークはやっぱり偉い! ロボットに演奏させるということは、下手したら誰もステージにいなくても音は流れるんだ…と。そういうアイロニーも込められていたんだなということに気が付きました!
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI
Still Photo:Rina Kihara
Live Photo:Yoshifumi oogushi
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