2017年で結成20周年、怒髪天・増子直純主宰の“Northern Blossom Records”に所属して10年という節目を迎えるBUGY CRAXONEが、再びメジャーレーベルへと移籍してベストアルバムをリリースする。2008年発売の『Good morning, Punk Lovers』以降のここ10年で発表した作品から過去の代表曲をセレクトしたのに加えて、再録曲と新曲も収録した今作『ミラクル』。バンドとしての変遷を感じられると同時に、紛れもなく“今”が最高なのだと確信できる1枚となった。Vo./G.すずき ゆきこに、20周年の軌跡と“これから”を訊く。
「夢があるほうが絶対に面白いと思うんですよね。目標を明るく設定したら、そっちへ動くように自然と行動に移すんですよ。“夢みたいなふわふわしたことばっかりじゃないけど、何とかできるもんだよ”っていうことを、20周年で色々と経験できたらなと思っています」
●今年で結成20周年ということですが、ご本人的には“あっという間”な感じでしょうか?
すずき:本当にあっという間でした。“20年って…!”と思うくらい、駆け抜けた感じですね。日々やるべきことをやっていたらあっという間に過ぎたという感じで、特に変わったことをしたわけじゃないんですけどね。
●とはいえ、紆余曲折もあったわけですよね?
すずき:バンドメンバーが変わったりとか、最初のメジャー契約がなくなったりとか、活動拠点が変わったりとか…色々と変化はあったと思うんですけど、それをあまり“紆余曲折”というふうには捉えていない人たちで構成されているバンドなんですよ。当人たちは、のん気というか(笑)。その時できるベストの対応をしてきた結果が、“続く”ということにつながっていたので良かったなと。
●その時々でベストの対応をしてきた結果が、この20年につながった。
すずき:昔は自分の力で色んなことを“何とかできる”と思っていたんです。でも“ならぬものはならぬ”ということがこの世にはあるというか、無理にコントロールしようとすることで良い結果が出ない時もあって。それは自分1人じゃなくて、みんなで生きているからなんですよね。
●そういうことがわかるようになったのが大きい。
すずき:何でも自分でできると過信しているような、良い意味での愚かさがあったと思うんです。でもそれがなかったら、そもそもバンドを始めたりもできなかったと思うから。ただ年齢に伴って、“それだけじゃできないこともあるんだよ”っていうのを勉強している感じです。
●それはバンド活動を続ける中で学んでいった感じでしょうか?
すずき:やっぱりメンバーが抜けるというのは、パワーを使うんですよ。すぐに新しい人が見つかれば良いけど、前のドラムが抜けた時は自分たちの年齢も年齢だったから。新たにバンドに入ってもらうにしても、入ってもらう側にもそれなりの決意が要ったんですよね。でもそこでパワーを使うと同時に、一気に色んなことが勉強できたなと思います。
●M-13「なんとなく Be happy」でも“ピンチはチャンスなんだし”と歌っていることを、本当に実践したというか。
すずき:最初にそれを書いた時は(その言葉を)ちょっと小馬鹿にするくらいの気持ちもあったんですけど、実際そういうところは自分次第だなと思うんですよね。自分の力だけで簡単に物事は動かないかもしれないけど、捉え方次第で対応できるというか。
●その捉え方のコツみたいなものがわかってきたのでは?
すずき:若い頃だと、“向き合う”ということを一辺倒に捉えていたというか。気分転換も苦手だったし、そもそも“気分転換って、逃げているっていうことでしょ?”と思っていたから。でもそうじゃなくて、自分自身が前に進んでいかなきゃいけないっていう時に本当に取らなきゃいけない行動は、物事を突き詰めて考えることじゃないんだなっていう。そういう術を身につけた感じですね。
●大事なのは前に進むことですからね。
すずき:“このまま突き詰めて考えたところで、何になるんだ?”って思っちゃったんですよね。目標としているところに辿りつくことが大事なわけで、そのプロセスに囚われ過ぎていても意味がないというか。もちろんプロセスが大事なところもあるけど、何事もバランスなんですよね。音楽を作るという面でも自分の好きなバランスがあるし、それが大事かなと思いました。
●バランスの取り方も上手くなってきたのでは?
すずき:自然に身についてきたというか。たぶん若い時はバランスを取るのが嫌だったと思うんですけど、今はそれが嫌ではなくて。やっぱり世代世代の役割があるから。そういうトガり方というのは、それが得意な世代の人に頑張ってもらうのが良いと思うし。私は私の今の年齢でやらなきゃいけないことがあると思うので、それがすごくナチュラルな形なんじゃないかなと思います。
●M-3「いいじゃん」でも“ナチュラルがいいじゃん”と歌っていますが、まさにそのとおりにやれている。
すずき:バンドを始めた時はロックバンドが好きで、好きになるのも基本的に男の人がボーカルをやっているバンドだったんです。自分は自分だと思っていたし、別に男勝りな音楽をやりたいと思っていたわけじゃないけど、無意識にそこに寄せようとしていたところはあったと思うんですよね。自分が作る音楽に性別は関係ないと思っていたし、ずっと「人間として書いている」と言ってきていたけど、それはとても不自然なことで。私という人間で考えたら当然、“女”なわけですよね。だから物事の発想とか対処にしても、どう差し引いても女の人ならではの考え方が根づいているはずなんです。
●そこは消し去れない。
すずき:そこを“性別は関係ない”ということにしちゃうとやっぱり不自然になるから、最近はそこも受け入れていて。自分が女性として生まれて、今この年齢でバンドをやっているということが全てというか。別にロックバンドをやろうと思って、今は音楽をやっていないんです。そこがナチュラルということに結びついているんじゃないのかなと思います。
●振り返ってみると『Hello, Punk Lovers』(2008年)から『Joyful Joyful』(2012年)までの間で、すずきさん自身もバンドとしても雰囲気が変わった気がします。
すずき:ちょうどドラムが抜けてサポートメンバーに助けてもらいながら活動を維持していた時に、ゆっくりと自分たちを見つめ直す時間ができたんですよね。そこで変わるということを受け入れる準備をしていたような感じがします。『Joyful Joyful』を作った時は、“これからはっきり変わっていくから、お客さんの反応もガラッと変わって聴いてもらえなくなる人もいるだろうな”と思ったし、何より自分自身にもそういう部分があったから。
●自分たちでも明確な変化を感じていた。
すずき:色々と考える時間や機会があった中で、やっぱり何かのジャンルに頼る弱さがあったんだなと思って。最終的にはカッコ良ければ何でもいいわけで、自分が信じてカッコ良いと思えることをやれたらいいわけだから、そこに臆病になるのはもう止めたっていうか。これまで応援してくれた人や、やってきた自分に対して、おかしな義理立てはいらないんじゃないかなって思ったんですよね。
●『Joyful Joyful』に収録のM-9「ハレルヤ」はすごく開けた感覚があります。
すずき:この曲は歌詞を書くのがすごく大変だったんです。ああいう明るい曲に歌詞を乗せたことがなかったから。でもG.笈川くんはどうしてもこの曲を入れたいので「頼むから歌詞を乗せて」と言われて。半強制的に書いたんですけど、ここで一気に矯正したというか。あとは少しずつ慣れていったような感じです。
●冒頭の新曲を除いたM-4「Come on」以降は時系列に並んでいるので、徐々に開かれていく過程が見えるのかなと。
すずき:本当に1人の人間がちょっとずつ歩き方を覚える感じというか。私が少しずつ色んなことを学んで経験して、1人の人として立っていく様が描けているんだなというのは、並べてみて改めて感じました。
●最初に新曲を3曲並べた意図とは…?
すずき:そこは“今を見てくれ!”っていう欲求ですよね(笑)。20周年に向けて、まず新曲を出すということは決めていたんです。そこにメジャーという機会を用意して頂いて、さらにベスト盤をリリースするというお話まで頂けて。そうなった時に変に落ち着くよりは、20周年ということを良いステップアップにして“もう一飛びしようよ”っていう感じになったというか。そのために今の我々がちゃんと表現できるものを作ろうと思って。だから新曲と再録も加えて、すごく我々らしいものができたなと思います。
●再録した5曲はどういう基準から?
すずき:音源として残っているし、アレンジも大幅に変えていないので再録する必要がないと言えばないんですけど、ドラマーが変わって、今もライブでどんどん曲が成長しているんですよね。この4人でやった音源を残しておきたいという気持ちからでした。
●新曲はこの作品に向けて作ったんですか?
すずき:M-1「ブルーでイージー、そんでつよいよ」はそうですね。残りの2曲もここ最近のすごくたくさん曲を書いていた時期に作ったもので、今このタイミングで聴いてもらったほうが良いなというものを入れました。その時期に20周年の良いテーマソングになるような曲を書こうと思って、色んなタイプの曲を書いていたんですよ。
●20周年のテーマソングということも考えて作ったんですね。
すずき:20周年のテーマソングということを考えた時に、単に“良かったね”っていうよりも、“もういっちょ暴れようぜ”とか“みんなでもっと面白いことをしようよ”っていう気持ちがすごく強かったんです。バンドだけじゃなくて、お客さんたちにも伝わるような…“みんなも一緒になんだよ”って思える曲を書きたいなと思って。ちなみに、バンド名の“ブージー”というのは、“ブルー”と“イージー”を足した造語なんですけど、このタイミングで曲にできて良かったです。
●歌いだしの“なめんなよ!”も単にヒネくれた感じではなくて、すごくポジティブに聞こえました。
すずき:負け惜しみじゃないというか、この“なめんなよ!”は“元気出していこう!”と言うのとあまり変わらないんですよね。かなり前に思いついていたけれど、言うのはもうちょっと後にしようと思ってずっと取っておいたんです。それをまさか20周年で言うとは思わなかったんですけど(笑)、すごく良いタイミングだったかなと思います。
●同じ言葉を発するにしても、今だからこういう響き方をするのかなと。
すずき:そういったものが端々に出てきていて。“同じ曲でも今歌うとこんなにも違うんだ!”とか素直にそういう楽しみ方ができているという点でも、続けてきて良かったなと思いますね。その時にしか歌えない曲っていうのもあるけど、意外にそうでもないんだなと。曲の良さがあれば色んな解釈で、いくらでも歌い方はあるんだと思いました。
●ちゃんと今歌うことの意味があるというか。ずっと変わらないままじゃなくて、今の心境でベストのものを歌えている感じがします。
すずき:それが“生きている”ということだと思うし、単に良い曲を書きたくてやっているわけじゃないから。いかに自分の生活や人生の中で生きる曲を書くかというのが、私には大事なことなので。この曲たちを見て、それを積み重ねてこられたんだなと思いました。
●今作は“あの頃は良かった”じゃなくて、“今が一番良い”という想いを感じるものになっていると思いました。
すずき:そこは昔から変わっていなくて。昔に戻りたいと思ったことはないんですよね。それは過去に対してもそうだし、未来に対しても同じで。“未来がもっと良くなるのは、今の私のおかげ”って思うから。おめでたい人なんでしょうね(笑)。
●ハハハ(笑)。そこもバンドの状態が良くなっているからこそかなと。11/19には渋谷CLUB QUATTROでの20周年ワンマンも決まっていたりと、どんどん前へと進んでいく意志を感じます。
すずき:夢みたいなことばかりじゃないと思うけど、夢を見ないと始まらないから。夢があるほうが絶対に面白いと思うんですよね。目標を明るく設定したら、そっちへ動くように自然と行動に移すんですよ。何でも自分の手足を使ってやることが大事というか。“夢みたいなふわふわしたことばっかりじゃないけど、何とかできるもんだよ”っていうことを、20周年で色々と経験できたらなと思っています。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子
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