2016年2月のライブを最後に活動休止を宣言していたヤーチャイカが突如、ニューアルバムを自身のレーベル・Harbor Lightよりリリースした。公式サイトでも“人目を避けてあたらしい音源を作りたいと思います”とは発表されていたが、まさか休止から1年も経たずして新作が聴けるというのは喜ぶべきことだろう。サイケデリックかつプログレッシブなサウンドの上に、摩訶不思議な歌詞と強烈な中毒性を秘めたメロディと特徴的な歌声が重なりあって生まれる唯一無二のヤーチャイカ・ワールド。その魅力がこれまで以上に炸裂する今作『さいあく』は、タイトルとは真逆の“最高“と言うほかない作品だ。1つの時代に区切りをつけて、次なる旅へと向かう優しいひねくれ者たちに迫るスペシャル・インタビュー(※Key.イワタハルナは欠席)。
「本当に“ながい休み”になるとは思うんですけど、こういうスタイルでやっていけそうだなと思いました。休みながら、こっそりアルバムだけ出すっていうのは良いかもしれないですね(笑)」
●今年2月のライブを以って活動休止するという発表がなされていたわけですが、その後でこうしてニューアルバムが出るというのはいったい…?
ニシハラ:そう思われますよね…(笑)。今年に入ってから活動休止が決まったんですけど、まだ世に出していない曲もあって。だから「活動休止に合わせて、アルバムを作ろうか」という話になっていたところからどんどんスケジュールが押していき…遂に年末になってしまったという。
●元々は活動休止するタイミングに合わせて出す予定だったものが、結果的に今になったと。
キク値:どんどん後ろ倒しになっていくので「もう今年中には絶対に出そう!」ということで先に発売日を決めて、作った感じです。
ナカムラ:オシリに火をつけてから(笑)。
●オシリに火がつかないとできないんだ(笑)。
ニシハラ:元々“作る”って決めて〆切が生じないと、作り始めないんです。だから今回はすごく良いタイミングだったというか。活動休止に合わせてCDを作るという理由があるので、そこに向けてガーッと作業できたかな。
●活動休止と言っても、全ての動きが止まっていたわけではないんですね。
キク値:ライブをするのが難しくなったので、“活動休止”という言い方にしただけなんです。別にメンバー間で、いざこざがあったというわけでもなくて(笑)。
●メンバー同士の関係が悪くなったわけでもないし、制作活動はずっと続いていた。
キク値:今回はCDを作る作業も自分たちで全部やったので、余計に活動休止している感覚がないんですよね。定期的にメンバーとも会って、何をしなくちゃいけないかもずっと考えていたから。自主制作に戻ったことで、レコーディングを誰に頼むかというところからスタジオのブッキングだったり、流通をどうするかといったところまで自分たちで考えないといけないことが多かったんです。
ニシハラ:バンドのことについて頭を使う時間が、1日の中に必ずありましたね。
●要はライブ活動を休止していただけで、バンドとしては動き続けていたというか。
キク値:元々、作品を出したりするようになる前は“バンド活動=ライブ活動”みたいな感覚だったので、“ライブをしなくなるということは活動休止だな”と思ってアナウンスしたんですよ。でもレコーディングしていることを知った人からは「活動しているんじゃん」と言われたりして、世間はそういうふうに捉えるんだなと意外に感じたくらいですね。
●自分たちの感覚と、周りの受け取り方にギャップがあったと。
キク値:それはアナウンスをした後で、すごく感じました。
ニシハラ:今回は色々と学びましたね。そういうことも理解したし、CDを作る上で何をしないといけないかとか、どうやったらみんなに届くんだろうかとか色々と考えたことで、また次を考えたくなるような良い経験をしたなと思います。
●物理的にライブはできなくとも決してネガティブな状況ではないし、解散という話にはならなかったわけですよね?
ニシハラ:そうですね。…解散する時って、どういう状況なのかがよくわからなくて(笑)。あと“活動休止”という形にしたのは、屋号を残しておこうと思ったからなんです。この4人が集まった時が“ヤーチャイカ”で、それ以外は別の名前を作ろうかっていう。
キク値:活動休止という形にするにあたっては“このメンバーでやっている時だけ、この名前かな”という気持ちはありました。
●この4人で“ヤーチャイカ”という意識が強い?
ニシハラ:…そこまで仲が良いわけではないです。
一同:ハハハ(笑)。
●M-4「(ながすぎた)祭りのあと」で歌っているような“笑いあった日々”があったわけではない?
ニシハラ:いや…、そこまで美しくはないです(笑)。青春らしい青春ではないんですけど、他人から見れば(バンド活動が自分たちにとって)20代を一番費やした時間だと思うので、それが一区切り付くんだなという思いはあって。1つめの青春が終わるのかなとは思います。
●バンドの活動休止に加えて、自分自身も20代の終わりを迎えるというところも1つの区切りというか。
ニシハラ:それもちょうど重なったし、周りの人に子どもが生まれたりしている状況も考えると、自分が拒否してもそうなってしまうのかなと思って。だから“1つめの青春が終わって、新しい青春が始まる”みたいなことを、今回は自分の中でのテーマにしていたんです。
●今作の歌詞を見てみると、止まらずに前に進もうとするポジティブな意志が見えるかなと。
ニシハラ:そうですね。活動休止が決まってから作った曲もあるから。活動休止を決めた上で、ちゃんと意味のある曲にしたいなとは思っていて。でもあんまりポジティブなのも恥ずかしいので、ネガポジを反転させて作っていった感じです。アルバムタイトルも含めて、今回はそういう感じですね。
●活動休止が決まってから作った曲というのは?
キク値:M-1「コハク」と「(ながすぎた)祭りのあと」は、活動休止が決まってから作りました。
ニシハラ:あと、僕の中ではM-5「いちじく」とM-6「はるかなるはるはあるか」も今作に向けて作っていった感覚があります。M-2「FABULOUS」は、かなり前からある曲ですね。
●M-7「屋根裏の月」は過去作品からの再録ですが、この曲で“ただしくはばたけ、鳥たちよ”と歌っていて、「コハク」でも“旅を続けよう 鳥どもと共に”と歌っているのは、今と昔をつなげるような感じでしょうか?
ニシハラ:「コハク」は一番最後に作ったし、リードトラックにしようと思っていたので内容もちょっと考えて。あと、みんなに言う前から「屋根裏の月」は入れようと思っていたので、そこと内容がリンクするようには意識しましたね。
●最初から「屋根裏の月」を今作に入れようと思っていた理由とは?
ニシハラ:どの曲にもあんまりメッセージ性みたいなものはないんですけど、「屋根裏の月」だけはちょっと目線が外に向いている感じもあって。1区切りにする目印にしたいなと思って、入れました。
●ラストの“かなしみは置いていけ ここへ 思いは強く 心は軽く 目を覚ませ いま”という歌詞も活動休止から復活する時の思いを暗示しているのかなと思いました。
ニシハラ:そうですね。活動休止というのも、すごく有り体に言えば、戻ってくる場所を残しておくわけじゃないですか。活動休止ということは、(その場所自体は)開いたままだから。今回はそういう始まり方と終わり方かなと思いました。
●結果的に、すごくポジティブな空気感は漂っている作品になりましたよね。
キク値:“(活動休止する前に)最後に1枚作ろうよ”という感じで、前向きに動いていたからというのはあるのかもしれないですね。自分たちで一番積極的にレコーディング向けて動いたし、前向きなテンションで臨んでいたというところはあると思います。
●3年ぶりのアルバムリリースというところでの新鮮さもあったのでは?
ニシハラ:そうですね。レコーディングエンジニアの方が最高なので、本当に楽しく録れました。
キク値:レコーディングの環境は直近の2枚と同じだったんです。同じエンジニアの方なので、僕らが口下手で上手く注文できないところも勝手を覚えてくれていて。ミックスに関しても最初に聴かせてもらった段階で、自分たちのイメージにかなり近いものにはなっていましたね。
●バンド内でもイメージの共有は上手くできていたんでしょうか?
ニシハラ:いや、それは…。今もそうですけど、毎週毎週のように(自分の)言うことが変わるので…。
キク値:前よりもモメるようになったかもしれない。
●それはお互いに言い合えるようになったということ?
ニシハラ:言い合うというよりは、「ちょっとな〜」と言うようになったというか。
キク値:前まではみんな黙って俯いていただけのところから、「ちょっと良くないね」とか言うようにはなったかな。
ナカムラ:前は無言でイライラしていたところを、ちょっと口に出すようになったくらいです(笑)。
●ちゃんと不満を口にするようにはなった。
キク値:前よりは丸くなったので「そう言われたらそうかもな」となることもあれば、怒ったりもして(笑)。前よりは、キャッチボールが上手くなったかもしれないですね。
●元々はニシハラくんのワンマンバンドという感覚が強い?
キク値:ワンマンバンドというほど、他のパートを把握していないと思います(笑)。それぞれに任せるんだけど、納得のいかないところは「納得いかない」と言うから(自分たちは)そこを色々と試すっていう作り方でしたね。
●具体的な指示があるわけではないんですね。
キク値:指示はあるけど抽象的すぎて、みんな受け取れないっていう(笑)。
ナカムラ:ドラムについても基本的にはそうですね。抽象的なイメージがたくさん飛んでくるので、大変困ったところもあります(笑)。「こういう気持ち」とは言うけど、具体的にどうやれば良いかはあんまり教えてくれない。
●そこも長い付き合いの中で、だんだん上手く汲み取れるようになったりはしない…?
キク値:それがしないんですよね…。同じことしか弾いていないのに、(ニシハラが)急に「それ良いじゃん!」と言ったりするんですよ。こっちは「えっ?」みたいな(笑)。逆に前回と同じことをやっていてもピンと来ない時もあるし、そういう中で全員に上手く納得感が生まれた時に曲ができるんです。
●その積み重ねで今回の作品も完成したわけですよね?
ニシハラ:…そうなんじゃないでしょうか。今回の作品を聴き返してみたら…すごく良いんですよね(笑)。
キク値:いつもは完成したら全然聴かないんですけど、今回は録り終えてしばらく経ってから聴いてもすごく新鮮に聴けて。録りたての時よりも、すごく良いなと思いました。
●いつもは全然聴かないんですね。
ナカムラ:私も今までの音源は基本的に録り終わってからは聴いてこなかったんです。ライブでやっていく中で曲はちょっとずつ変わっていくものだから、録音したその瞬間からもう古く感じてしまうんですよ。でも今回はライブ活動を休止しているというのもあって、このレコーディングが最後に収録曲のドラムを叩く機会で。その時点が今の私の中でも最新になっているので、今回は結構聴けたんですよ(笑)。自分でも聴いていて「メッチャ良いな」と初めて思えるアルバムになりましたね。
●タイトルは『さいあく』だけれども、実際の出来は“最高”だと。
ニシハラ:今までの中では一番良いと思います。でも今は良いなと思っているけれど、“ここは良くないな”と思うところもいっぱいあるので…次は頑張ります。
キク値:今までもずっとそういう感じだったかもしれないですね。できあがった作品を「これはすごい!」と愛でるようなことはあまりなくて。できた瞬間から、もう先を向いているような気がします。
●おっ! ということは、いずれ近いうちに次の作品も聴けたりするんでしょうか?
ニシハラ:とりあえず何かやろうとは思っているけど、ここで発表しちゃうともうやらなきゃいけなくなっちゃうから…(笑)。でも今も曲を作っていて。それがちゃんと形になるかはわからないですけど、わりとポジティブな気持ちではいます。
●だから“ながいながい休みに入ります”と発表したのに、その年の内にこうやってニューアルバムが出るという…。
ニシハラ:本当に“ながい休み”になるとは思うんですけど、こういうスタイルでやっていけそうだなと思いました。休みながら、こっそりアルバムだけ出すっていうのは良いかもしれないですね(笑)。
Interview:IMAI