ジョージ吾妻率いる伝説のバンド・5Xのヴォーカルも務める斉田ミワと、森川之雄(ANTHEM)率いるTHE POWERNUDEのオリジナルメンバーとしてトータル17年間活動していた沢木優を中心としたブルースハードロックバンド、LINXが1stミニアルバムをリリース。世代や背景も異なるメンバー4人の個性が融合した今作『Shake It Now』は、ブルージーな曲だけではなくロックンロールからカントリーロック調まで幅広いサウンドを表現している。初の全国流通盤リリースを記念して、斉田ミワと沢木優の2人にじっくり話を訊いた。
「似通った感覚のメンバーが集まると、まとまりは早いんですけど、出てくるものもおおよそ決まってしまうから。新しい感覚を持っている色んな人間がいることは、自分らにとっては貴重なんですよね」
●LINXは元々、ミワさんを中心に始まったそうですね。
ミワ:私が元々BAD TRIPというバンドをやっていて、メンバーチェンジを機にバンド名を変えたんですけど、(LINXでの)初期メンバーは会社でバリバリ働いているような人たちだったから転勤や出張もあったりして活動が上手くまわらなくて。“もうちょっと本腰を入れてやってみようかな”っていうことでメンバーを集めていくうちに、今のメンバーに辿り着いたんです。
●2009年5月にバンド名をLINXに改めて、その翌年9月に沢木さんが正式加入したそうですが。
沢木:最初は「遊び感覚で良いから、手伝わない?」みたいな感じだったんですけど、しばらくしてバンド内で「本気でやってみたい」という話になって。だったら「戦えるメンバーを揃えましょう」ということで、僕がAkihiko(Ba./Cho.)を誘って、そのまま加入してもらったんです。
ミワ:やっぱりオリジナルをやるようになると、世の人にも聴いてもらいたくなってくるんですよね。だから、演奏力の部分もそれ相応でなければいけないかなと。
●初期はカバーが中心だったんですか?
ミワ:カバーが中心でした。私は英語が多少できるので、当時は70年代の洋楽カバーが多くて。やっていくうちにちょっとオリジナルを作ってみようとなって、その時にできた曲が思いのほか良い感じだったんですよね。
●そこからオリジナル曲メインで本格的に始動したと。沢木さんの加入で、バンド内に変化もあった?
ミワ:一気に体育会系になりましたね(笑)。
沢木:うん…。僕が入ってから、厳しさが変わりました(笑)。このバンドに関しては基本的には楽しくやるんだけど、“楽しくやるための準備はしっかりやろう!”というテーマがあって。あとは、作品を作るからにはある程度のクオリティでなければいけないので、それを形にできるメンバーじゃないと難しい。そこでメンバーを少し入れ替えたりもしましたね。
●ZIN(G./Cho.)さんが2013年12月に加わって、現メンバーが揃ったんですよね。
沢木:ZINは僕が前にいたTHE POWERNUDEっていう、パンキッシュなヘヴィロックンロールバンドのギタリストで。そのバンドとLINXでは音楽性は全く違うんですけど、彼のギタープレイやバックグラウンドを聴いていると、たぶんウチのバンドにもフィットするなという感覚があったんです。なので、前任のギターが脱退した際に、真っ先に声をかけました。
●ZINさんとAkihikoさんは、沢木さんよりもだいぶ若い世代だそうですが。
沢木:はい(笑)。もし同年代のメンバーだけだったら、たぶんもう少し曲の色も似通っていてサウンド的にも古めになっていたかなと思うんです。でも彼ら2人は世代が違うので聴いてきた音楽も当然違うし、僕らにはない感覚があるんですよ。そういう自分たちにはない部分を持っているというのがすごく良いなと思っていて。このバンドは、単に古いブルースをやるわけじゃなくて、新しい形を作るのに彼らならではの感性というのがすごく活きているんじゃないかなと思います。
●世代の違うメンバーが融合することで、音楽的な広がりも生まれている。
沢木:似通った感覚のメンバーが集まると、まとまりは早いんですけど、出てくるものもおおよそ決まってしまうから。新しい感覚を持っている色んな人間がいることは、自分らにとっては貴重なんですよね。
●今回のミニアルバム『Shake It Now』は初の全国流通盤になりますが、現メンバーになってバンドが固まってきたタイミングというのもあるんでしょうか?
沢木:これまで自主でシングルを4枚出してきて、バンドもだいぶ固まってきたのでそろそろ“こういうのができるよ”っていうものを出しても良いんじゃないかと思ったんですよね。だから今回は全国リリースにもこだわって、きちんとみなさんに聴いてもらえるものを出したいなと思っていました。
●タイトル曲のM-1「Shake It Now」が、やはり今作の軸になっている?
沢木:そうですね。最初にZINがリフを持ってきた時は、レニー・クラヴィッツ的な感じだったんですよ。「これ良いね!」っていう話になって、そこを軸に作っていきました。ノリも良いし「音源を作るなら、これがメインかな」というものに仕上がりましたね。
●この曲はリフから作ったんですね。
沢木:この曲だけは従来の自分たちのやり方で、先にギターリフを持ってきてバックを大まかに作ってから歌を乗せたんですけど、実はその後に曲作りが煮詰まってしまって。やや曲作りが停滞していたので、これは良くないなと。そこでミワに「何かアイデアはない?」と訊いたら「いくつかある」って言うので、断片的なメロディのアイデアを出してもらったんです。その中に“おっ!”というものが結構あったんですよ。なので、そのメロディを元にバンドで構成を組み立ててアレンジをする…という流れで残りの3曲を作ったことで、結果的にはバババッと一気に進みましたね。
●メロディが先にあったことで、作業が早く進んだ。
沢木:アレンジには時間がかかりましたけど、メロディがあることで曲のイメージが見えて共有もしやすくて。最初に骨組みだけ作って、そこから僕が「ここにはこういう感じのリフが欲しい」とか自分の求めるイメージを伝えて、あとは彼ら(※ZINとAkihiko)に任せました。“こういうやり方もアリなんだな”と思いましたね。そこで自分たち的にも納得のいく4曲ができたので、「これを録りたいよね」っていうことで今作が始まった感じです。
●アレンジに時間がかかったということですが、M-3「Take Me Far Away」のカントリーロック調も新たな挑戦だったのかなと。
沢木:「そういう曲もあって良いよね」っていう話があって。この曲はわりとシンプルなんですよ。難しいことは何もやっていないんですけど、だからこそ構成でひと工夫したいという思いがあったんです。アイデアは出るんですけど、なかなかピタッとくるものがなくて、この曲に一番時間がかかりましたね。
●M-4「10 Years」のイントロもなかなか決まらなかったそうですが。
沢木:ロックバラードといえば泣きのギターフレーズを散りばめたリフから入るような形が安易に想像できるんですけど、それだとちょっとありきたりだなと思って。かと言って、ガッチリしたリフで攻める曲でもないのでどうしようかと思っていた時にAkihikoがベースでポロポロッと弾いていたラインが良くて、「それでいこう!」と。
●Akihikoさんのベースラインがキッカケになった。
沢木:発想を逆転してベースにメロディを弾かせて、ギターをバッキングにまわしてみてもバラードなので全然アリなんじゃないかなと思って。実際にやってみたら歌に入る流れも良かったので、「これでいこう!」ということになりました。そういうのも彼らの感覚あってこそですよね。近い感性の人間ばかりだと「ここはこうでなきゃいけない」みたいに、型にはまるケースが多い気がして。
●固定観念に囚われがちというか。
沢木:若いメンバーがいることで、色んな場面で新しい閃きが舞い降りることがよくありますね。そういう時に“2世代型のバンドで良かったな”って思います(笑)。
●「10 Years」は表情や息遣いが伝わるような歌も印象的でした。
ミワ:今までレコーディングしてきた中でも、何となく上手く歌おうという感じになってしまっていると注意されることが多くて。もうちょっと感情を出して歌ってみたいなという気持ちはどこかにあったんですよ。そこの殻がなかなか破れていなかったんですけど、今回はそういうのを払拭するまで徹底的にやってみようという感じで挑みました。
沢木:今までだと、無難にピッチもちゃんとハマっていて問題なければOKにしていたんですけど、今回は声が多少揺れたとしても表情や息遣いを感じられなければダメだと思っていて。もちろん正確な音程で歌うことは大事なんですが、そこに「感情的な部分が上乗せされないと、歌い手としてなかなか先に進まないよ」という話はしていたんです。
●結果的に、殻は破れたわけですよね?
ミワ:そうですね。過去の作品もベストは尽くしてきていますが、今回が今までで一番良いかなと思っています。歌詞も良い流れで書けたので、上乗せの部分も出せたんじゃないかなと。
●歌詞は感情が表れているものが多いですよね。
ミワ:そうなんです。シンプルなので日本語で書くとちょっと恥ずかしい部分もあるんですけど、英語だったらそこをストレートに言えるというのもあって。なるべくみんなが共感できるような感じで書いていますね。特に「10 Years」は恋人だけじゃなく家族だったり友だちだったり…大切な人に対して“10年後も笑っていられると良いね”ということを書いた曲なので、そういう感情を込めて歌おうと思っていました。
●そういう内容だったんですね。M-2「Victim」の“あなたの夢の犠牲者”(※和訳)というフレーズが印象的だったんですが、この歌詞はどういう内容なんですか?
ミワ:それは自分がもっと若い頃のことを考えて書きましたね。ミュージシャンになりたいっていうことばかり考えていて、周りが見えない時期があったな…と。そこから夢を追いかけて、他のことをおろそかにしちゃっている人のことを想像して書いてみました。
●実体験に基づきつつ、誰もが共感できるような歌詞になっている。
ミワ:あまり真剣に考えてしまうと逆に何も浮かばなくなっちゃうので、自然に生活している中でパッと思ったことを、なるべくありのままに書いたほうが良いのかなと。変に考え出すと、全然書けなくなるんですよ(笑)。
●今回の歌詞はスムーズに出てきたんですか?
ミワ:この4曲は、意外とノっていました。でも制作が終わると、また出てこなくなるんですが…(笑)。
沢木:実は、もう次に向けて曲を作り始めているんです。とりあえず今作をある程度売らないと次も作れないんですけど、やはり曲があってのレコーディングだから。今はハッパをかけて、ひたすらアイデアを出してもらっていますね。
●初の全国流通盤を出したことで、次への意欲も湧いてきている?
沢木:そうですね。やっぱり今までの4枚でも、もちろんその時々のベストで作ってはいるんですけど、バンドとしての力量や作品のクオリティなど、まだまだ準備期間だったというか。このメンバーで一緒に曲を作って、レコーディングを経験することでバンドって成長するものだと思うんですよ。そこで必ず反省点が出てくるので、次の作品でそれをまた活かして…という繰り返しですね。年齢的にも“やるんだったら、きちんとしたものを出していかないとな”という気持ちは常にあるので、それに耐えうる作品ができるまで、まずは自主盤で経験を積んでいたという感じです。
●経験がある程度のレベルに達した今だからこそ、今作をリリースできたわけですよね。ある意味、時が満ちたというか。
ミワ:人生“ここでやってみよう!”っていう時がないと、ダメだと思うんですよね。歳を重ねてくると、だんだん何かを成し遂げて感動する機会が減って、ついつい守りに入っちゃったりして。何か刺激や確かな目標がないとバンドって上手く盛り上がらないというか、なかなか続かない。そういう感動をしてみたいなと思っていたので、今回それを味わえたのがすごく嬉しかったです。もちろん、ここから結果も出さなければいけませんが…。
沢木:今って、僕らが若い頃に見ていたような先輩たちが、現役で頑張ってくれているおかげで、昔みたいに年齢的な限界という空気があまりないですよね。僕はもうすぐ50歳なんですけど、やり方によってはまだ世の中にアピールするチャンスはいくらでも転がっていて、自分でそれを掴みに行くか行かないかだけだと思うんです。もちろん簡単に掴めるわけではなく、とても厳しい部分もありますが、昔よりは音楽をやれる環境は確かにあるので、そういう部分で僕らも感動を覚えたいしチャンスを掴みたい。あと、若いメンバーにもきちんとした作品を出して世の中に知ってもらって、評価を受けた時は“こんなに嬉しいんだ!”っていう充実感を味わってもらいたいというのもありました。今回、全国流通にこだわった大きな理由の1つでもありますね。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子