“メンタルまいってる系8bitロックバンド”と自ら称するプロキシオンが、ニューアルバム『▲:再生』をリリースした。3ピース編成によるギターロックサウンドを軸に、ピコピコしたシンセ音や打ち込みを取り入れた音楽性は、ありそうで他にはないものだ。ネガティヴな要素を満載した歌詞の中にも優しさや救いのある言葉を潜ませ、キャッチーなメロディに乗せて歌う彼らの楽曲は、聴く者の胸に不思議と響く。絶望と希望の間を揺らぎながら織りなす、美しくも不安定な世界観。ギターロックの突然変異(ミュータント)が提示する“ネガティヴな幸福論”は、巷のパーティーピーポーを尻目に、パーティーなんかに行きたくない人々の心を強く惹きつけることだろう。
●今作『▲:再生』リリースと同時にバンド名の表記をカタカナに変えたそうですが、心機一転的な部分があるんでしょうか?
ショウタロヲ:そうですね。元々はこだわって英語にしていたんですけど、色んな人から読みにくいと言われていて…。今回のアルバムは“もう一度やり直す”という気持ちで作ったので、今かなと思ってカタカナにしました。
●タイトルの『▲:再生』には、“Play”と“Reborn”の両方の意味がかかっているのかなと思ったんですが。
ショウタロヲ:はい、その通りです。ちゃんと伝わっていて良かった(笑)。
●今回はBeat Surfersに移籍したということも大きかったのでは?
ショウタロヲ:本当にそうです。レーベルオーナーの三浦(俊一)さんからリリースのお話をもらったときに、今回は「これがプロキシオンだね」って言えるような曲をいっぱい作りたいと思って。今までの作品を超えて、今の自分たちができる一番良いものを作ろうと考えていました。
●プロキシオンらしさは、これまでの活動の中で固まってきた感じでしょうか?
ショウタロヲ:これまでに3枚のアルバムを作ってくる中で、自分が本当に鳴らしたい音楽は何なのか何度も悩んで少しずつ見つけました。僕はナゴムレコードが好きなんですけど、1stアルバム(『WONDER GEARS』)を作っているときに有頂天を意識して作った曲を持っていったら、(その当時所属していた)レーベルの人から「何これ?」って言われて。そこで「どんなアルバムにしたいの?」って訊かれたので「ナゴムみたいなことをやりたい」と言ったら、メチャクチャ怒られたんです。
水野:それはもう既にレコーディングが進んでいたからで…。ナゴムのことを怒られたわけじゃなくて、「もっと早く言えよ」っていうことだと思うよ。
●急にそういう曲を持っていったのが原因だと(笑)。
ショウタロヲ:「だったら、ナゴムの人がやっているレーベルにでも行けよ!」って言われて…、結果的にそこへ辿り着いたんですけど(笑)。
●1stアルバムを作っている途中に、自分が本当にやりたいことに気付いたのでは?
ショウタロヲ:そうなんです。あの時、本気で言ってもらえたからこそ今の僕たちがあるので、本当に感謝しています。
水野:感謝しています!
●バンドとしての音楽性は、徐々に変化していった感じでしょうか?
水野:やっていること自体は、ずっと変わっていないと思います。でも(ショウタロヲの)内面がより出てきたんじゃないかな?
ショウタロヲ:2nd〜3rdアルバムは痛くてもいいから伝わりやすい暗い言葉を書いていたんですが、暗い部分だけが僕ではないので、最近はもっと赤裸々に言葉を書くようにしています。
●ホームページのプロフィールには“メンタルまいってる系8bitロックバンド”と書かれていますが…。
ショウタロヲ:今までの作品のほうが、そういう部分は強かったかな。今回に関しては不安定な毎日のことや、終わってしまうことへの悲しさを歌っているものが多いです。
●実はそんなに日々、鬱々としているわけではない?
水野:超ノンキですよ。
ショウタロヲ:(プロフィールで)“メンタルまいってる”の後に“\(^o^)/”の顔文字を入れているのも、そんなにまいっていない感を出したかったんです。もちろんメンタルまいってることもよくありますけど、そればかりじゃないし夢や希望もちゃんとあるからバンドをやっていますし。
ホソエ:自分で“メンタルまいってる”って、言えちゃうくらいですからね(笑)。
●同じくプロフィールに“死にたい! 生きたい! 大好き! 大嫌い!"と相反することを書いているのも、そういう両面性があるからかなと。
ショウタロヲ:その通りです。暗い気持ちはいっぱいあるけど、それは希望があるからなので、両方のことを最近は歌うようにしていますね。
●元々はもっとネガティヴだった?
ショウタロヲ:2ndアルバム(『dear your room』)の頃が、特にネガティヴだったと思います。レーベルを離れてすぐで自分のやりたい音楽って何なのかを四六時中考えていて。悩みすぎて曲ができない状態でした。“でも歳を取りすぎちゃったら、もう売れないんじゃないか”とか。それで悩みまくって“バンドができないなら生きていてもなぁ…”みたいなことをそのまま歌詞に書いていたので、かなり暗かったと思いますね。でもそういう部分を表に出せば出すほど、“それをやらなきゃいけない”みたいな気になってきちゃって…。そこで1回リセットしたので、今回はそういうのがなくなったんだと思います。
●リセットするキッカケは何だったんですか?
ショウタロヲ:そもそもこのアルバムを最初に作ろうと思ったキッカケが、M-4「キラキラ」で。これはすごく仲の良かったバンドの解散ライブを観て、その翌日に書いた曲なんです。キラキラしているものがいつまでもキラキラとそこにあってくれたらいいのに、っていう寂しい気持ちで書きました。この曲ができあがってから“アルバムを作りたい”という話も出てきたし、これがなかったら今回のアルバムは作っていなかったかもしれない。
●歌詞中の“願うのは 枯れぬ花”というのは、自分たちはずっと咲き続けていきたいという意志を表している?
ショウタロヲ:その解散ライブがすごく良くて、本当にキラキラして見えたんですよ。それを今でも思い出すし、“僕たちも自分の中でいつまでも思い出せるものを残したい”という想いがすごく出ていますね。
●この曲ができた時点で、アルバム全体のビジョンも浮かんでいた?
ショウタロヲ:改めて流通盤をリリースするということで、わかりやすいものにしようとは思っていました。そこから曲を作っていったので、今回は自分の好きなテンポを使った曲が多くて。わりと偏っちゃったかなとも思いつつ、それが“らしいな”とも感じています。
水野:というか、元々偏っているんじゃないかと思います。“らしさ”とは、偏りではないかなと。
ホソエ:でも曲のバランスもすごく良くて、色んな色があるというか。今までショウタロヲくんが作ってきた色んな曲の良いとこ取りをしたようなアルバムになったんじゃないかと思います。
●サウンド面で、これまでと変わった部分もある?
ショウタロヲ:前作までは4つ打ちが多かったんですけど、最近は色んなバンドが打ち込みを入れた4つ打ちの曲をやっているじゃないですか。「打ち込み+バンド」っていう形態だけを謳うことはもうこの時代、バンドの武器にならないって気付いて。そこで“自分たちが謳えるもの、勝てるものは何だろう?”って考えたら、プロキシオンというバンドの持つ独特の空気感と歌詞の世界観だなと。なので今回はバンド感を強くしたいと思って、サウンドに勢いが出るように意識して。そこもすごく出ていると思います。
●バンド感を今まで以上に強めたと。
ショウタロヲ:特に今回は原点に戻ってギターロック感やバンド感を出したかったので、3人ともアレンジではすごく悩みましたね。M-2「続・ルル」という曲がこのアルバムの中で一番古いんですけど、その頃からバンド感を強めたいと思うようになってアレンジもそういう方向に寄せていったところはあります。
●この曲は「ルル」の続編ということ?
ショウタロヲ:続編ですね。「ルル」は5年くらい前に、自分の高校時代を思い出しながら作った曲で。バンドを始めたてくらいのときの“曲が全然作れない!”っていう歌なんですよ(笑)。たとえば“大切な人を救えるくらいの歌を歌いたい!”って思っても、そんなの簡単に作れないじゃないですか。それならいっそのこと、その悩んでいる気持ちをそのまま歌ったらいいんだって気付いて作った曲でした。もし今の自分そのままを「ルル」みたいに歌ったらどんなふうになるかなって思って、書いたのが「続・ルル」です。一番、僕っぽい歌詞だと思います。
●象徴するような1曲というか。M-1「テーマパーク」の歌詞も、バンドのテーマ的なところがあるのかなと。
ショウタロヲ:今回のアルバムを『▲:再生』というタイトルにしたのは、この曲の歌詞からかなという気がしていて。いつまでバンドが続くかわからないし、せっかくならキラキラしたものを残したいと思ったんですよ。だから自分たちが誇りに思えるものというか、聴いてくれる人が何かを思い出してくれる曲をいっぱい作りたいなと思って書いた歌詞ですね。
●サビの“いつか消える僕だから 今は最愛のメロディーを”というところに、そういう想いが出ていますよね。
ショウタロヲ:一番言いたかったのは、そこだと思います。サビはいつもそのとき思っていることをそのまま書くことが多いんですよ。
●ちなみに「テーマパーク」を題材にしたのは、どんな理由で?
ショウタロヲ:僕は廃遊園地とかが好きで。止まっちゃったものというか…、ブルーシートをかけられている遊園地ってすごく良いんですよね(笑)。昼間は家族連れで楽しく盛り上がっているような場所の、夜になって閉まった後みたいな感じが好きなんです。
●昼間は楽しい場所が、夜になると一転して寂しげな空気になっている感じというか。
ショウタロヲ:その寂しげなほうのバンドになりたいと思っているんですよ。たとえばメリーゴーランドの馬って、顔がちょっと怖いじゃないですか。子どもたちは楽しそうに乗っているけど、自分から見たら馬の顔が怖かったりするっていうところに面白さを感じちゃうんですよね。“でも小さいときはそんなこと思わなかったよな…”っていうことに寂しさを感じたりもして、そういう気持ちを歌詞に書いたつもりです。
●でも曲調自体は、そこまで物悲しいわけでもないですよね。
ショウタロヲ:ちょっとユニークにしたかったんですよ。ピエロって愉快だけど、ちょっと怖いじゃないですか。そういう表裏一体の感じを出したいなとは、常に思っています。
水野:本気で狂気を感じるというよりは、「狂気の沙汰ですよぉ〜!」みたいな感じが好きなんですよね。
●というのは?
ショウタロヲ:ホラー映画を観ているときの楽しさに近いというか。“この後どうなるの!?”みたいな非現実感がすごく楽しいんですよね。『悪魔のいけにえ』っていう映画がすごく好きなんですけど、レザーフェイスを被った大男がチェーンソーで人を切りまくるんですよ。それがM-5「バラバラ」っていう曲なんですけど(笑)。
●そういうことだったんだ(笑)。
ショウタロヲ:歌詞の内容自体は全然違うんですけど、本当にその映画が好きなのでところどころにそういう要素を入れています。この曲はB級ホラー風にしたいなと思って作ったんですよ。好きなものを詰め込んでいる感じはありますね。
●「バラバラ」の“校庭 放課後 見下ろした 屋上 死にたい”という歌詞は実体験から?
ショウタロヲ:高校時代のことを思い出したら、鬱々とした毎日だったなぁと。みんな目が死んでいたような。
●高校時代は鬱々としていたんですか?
ショウタロヲ:わりと暗かったと思います。その気持ちが今も残っているところはありますね。たとえば“バンドをやりたい”と思っていたけれど親に反対されたときに、“自分は音楽ができないんじゃないか…?”って考えたり、“何のために生きているんだろう…?”とか、思春期ならではの悩みもありました。
●ホソエさんの高校時代は?
ホソエ:僕は当時、わりと“パーティーピーポー”みたいな感じでした(笑)。
●真逆だ(笑)。
ホソエ:大人数で遊んだり笑ったりしていたんですけど、ふとした瞬間に“今、自分は何が面白くて笑っていたんだろう?”みたいなことを考えるようになって。そこからどんどん鬱々としていった感じですね(笑)。表向きの顔と裏の顔…みたいなところはあったかもしれない。
水野:でも2人とも普段は全然、鬱々としていなくて。それがすごいと思うんですよね。
●最近はあまり鬱々としていない。
ショウタロヲ:今はそんなに鬱々としていないのは、たぶんバンドでやりたいことの答えが見つかったからですね。それが見つかるまではずっと鬱々というか、悶々としていて。だから今回はできあがった音源を聴いたとき、すごく垢抜けたなと思いました。
●今後につながる作品にもなったのでは?
ショウタロヲ:次に“これをやりたい”みたいなのはどんどん出てくるんですよね。自分たちもそうだし、応援してくれているファンの方とも一緒にもっと大きな風景を見たいので、そのために超えなきゃいけない壁というか、目の前の目標を1つずつ超えていけたらなと思っています。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子