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Predawn

音の深淵へと挑み続ける先に望むのは世界と融け合う未来

ph_predawn_a_main普遍的な魅力を放つ名作1stアルバム『A Golden Wheel』から早3年半…、まさしく待望と呼ぶべきPredawnの2ndアルバムが遂に完成した。過去2作品ではG./Vo.清水美和子が1人で全ての音を作り上げてきたが、今回は初のゲストミュージシャンを起用。バンドセットのライブ時にもサポートを務める神谷洵平(Dr.)とガリバー鈴木(Ba.)という盤石の2人に加えて武嶋聡(Fl.)を迎えたことで、今まで以上に奥行きのある作品に仕上がっている。正式な形で音源に収録されるのは初めての日本語曲「霞草」の他にも、「Universal Mind」をはじめとしたライブでも人気の楽曲の数々を収めた今作。長い時間をかけて練りに練られた名曲たちは、この時を待っていた人々の期待を決して裏切らないだろう。聴く者の心を癒しつつ夢見心地へと誘う至福の音と、天性の歌声はその比類なき魅力をさらに増しているようだ。音楽の深淵に挑み続ける一方で自らの内面とも向き合ってきたであろう3年半の実態に迫るべく、ビールで舌を滑らかにしてもらいながら(笑)、清水美和子にじっくり話を訊いた。

 

「世界と“対峙”するんじゃなくて、“融け合いたい”という想いがあるんです」

●今回の2ndアルバム『Absence』は初めて自分1人だけではなく、ゲストミュージシャンも加えてレコーディングしたんですよね。特に神谷洵平(Dr.)さんとガリバー鈴木(Ba.)さんに関しては、これまで一緒にライブを重ねてきた経験も大きかったのでは?

清水:そうですね。一緒に飲んだり(笑)、ライブのリハーサルを重ねたりするうちに、自分のやりたいことをすごく理解してくれるようになって。だから、ぜひ今回は一緒にやって欲しいなと思いました。

●自分のやりたいことを理解してくれていることが大きかった。

清水:“こういう曲には、こういう音”というのをちゃんと共有してくれているのが、すごく嬉しかったですね。音色の好みが、わりと近いんですよ。神谷くんは楽器選びがすごくて、スネアにしても何にしても色々とチョイスして持ってきてくれるんですけど、そういう音が1曲1曲にドンピシャなのがすごく良かったです。

●求めている音を出してくれるのが良いと。

清水:あと、ちょっと肩の力が抜けているところがあるのもすごく良いなって思います。2人とも上手いんですけど、すごい技術で聴かせるという感じではなくて。抜くところは上手く抜けているのがカッコ良いっていう、そこの方向性が合っているのかもしれない。

●そういう感覚も、一緒にライブを重ねる中で深まっていったんでしょうか?

清水:最初はリハーサルの時に、色々と細かく注文したこともあって。音数を多くしたり少なくしたりして欲しいとか、「このベースのフレーズを入れて欲しい」とか「ちょっと歌って欲しい」みたいなことは言っていました。

●フレーズを指示したりもしている?

清水:今回も私から最初にデモを渡したんですけど、もちろん「このとおりやって下さい」というわけじゃなくて、それぞれの良いところを出して欲しいという気持ちはあって。だからそのまま(デモのとおりに)弾いてくれている部分もあれば、自分が弾きやすいように上手くアレンジしてくれた部分もあると思います。

●今作の収録曲は既にライブでやっているものも多いですが、その中でアレンジも変わってきたんでしょうか?

清水:アレンジはライブの中でだんだん変わっているところもあれば、音源にする過程で「ここは進行を変えよう」とか「アウトロを長くしてみよう」みたいな感じでちょこちょこ変えたりもしています。

●リリースとしては3年半ぶりとはいえ、曲自体はずっと書き貯めていた?

清水:そうですね。リリースしていなくても、できた曲はどんどんライブでやっていて前作(『A Golden Wheel』/2013年)が出る頃には、たぶん半分くらいはできていたかな。

●あ、前作の時点でもう曲は半分くらいできていたんですね。

清水:レコーディングに1年半〜2年くらいかかっているんです。

●全曲をまとめて同じ時期に録ったわけではない?

清水:もちろんベースとドラムを録る日はちゃんと決めてスタジオで録ったんですけど、自分のパートに関しては基本的に家でやっているので…。のんびり家で録っていました(笑)。

●バンドのメンバーと一緒にスタジオで録る以外にも、自分だけでの宅録もしている。

清水:M-4「Don't Break My Heart」とM-5「Sigh」とM-7「Autumn Moon」は、1人で録りました。でも「Sigh」のフルートは、武嶋(聡)さんに吹いて頂いていますね。この曲はトロンボーンとフルートの掛け合いがアンサンブルになっているんですけど、管楽器同士が話しているようなイメージがあって。トロンボーンは自分で吹いています。

●武嶋さんに参加してもらったのは、何かイメージがあった?

清水:武嶋さんには2年前の品川教会グローリア・チャペルでのライブ(2014年11月6日“Nectarian Night #01”)に参加してもらって、その時にすごく良いなと思ったんです。「Sigh」は武嶋さんにフルートを吹いてもらうことで曲が締まるかなと思ったので頼んでみたら、やっぱり良い感じになってすごく気に入っています。

●トロンボーンとフルートの掛け合いは最初からイメージがあったんですか?

清水:最初はファゴットとフルートの掛け合いにしようと考えていたんですけど、案外ファゴットを吹ける人がいないということを知って(笑)。とりあえず自分で吹けるものを…ということで、中学校の時に吹いていたトロンボーンになりました。

●頭の中で具体的な楽器の音が浮かんでいたりするんですね。

清水:音域や音の感じとかについてのアイデアは自分の中に結構あるので、とりあえず入れてみようと思って。入れてみて、もし良かったら使うしダメだったら考え直したり(笑)…っていうことをやっています。

●バンドで録り終えた後に、そういう音を自分で重ねていったと。

清水:バンドで録ったのは今年の1月くらいで、そこから1人で色々やっていきましたね。編集したり、歌やギターを録り直したりもして。自分でミックスしていく中で「あれがあったら良いな」と思ったものを追加していったりしました。

●作業を進める中で思い付いたアイデアを加えていったんですね。ちなみに今作の中で一番古い曲というと、どれなんでしょう?

清水:一番古いのは、M-3「Universal Mind」ですね。ライブでもずっとやっているし、前作を作った頃にはもうあったかな。

●「Universal Mind」はコーラスで、自分の歪ませた声を重ねていますよね?

清水:今回は“何でもコーラスを歪ませちゃう病”が発症したんですけど(笑)、そのキッカケはここからでしたね。この曲のコーラスを歪ませたいとまず思って、そしたらいつの間にか全部歪ませていたっていう…(笑)。

●最近のライブでは「Breakwaters」の終盤でノイジーなセッションが展開されていますが、そういう影響もあるのかなと…。

清水:いや、あれは3人でリハに入っているうちに…暴れだした気がします(笑)。たまに見失うんですよね。

●見失う?

清水:お互いを見失うというか…、誰が正しいのかわからなくなるんです(笑)。

●あ、あれは即興で演奏しているんですね。

清水:どこで止めるのかというところまで含めて、即興です。どのへんにしておくかというのが、毎回違うんですよ。

●そういうことができるのも、メンバーとの呼吸が合ってきたからこそでは?

清水:そうですね。“思う存分やっちまえ”っていう(笑)。

●ああいった荒々しさは、今作には取り入れていないですよね。

清水:今回はそんなに荒々しくないですね。もしかしたら、次くらいで花開くんじゃないかなって思います。次の作品では全曲「Breakwaters」みたいになっている可能性もなきにしもあらず…っていう(笑)。

●楽しみにしておきます(笑)。今回の作品に関して、全体的な音のイメージはあったんでしょうか?

清水:全体を通したイメージは特になかったんですけど、テーマも共通しているのでこの9曲を入れようとは思っていました。

●この9曲を入れるのは決めていたと。

清水:それは結構早い段階で決めていたんですけど…、なぜこんなに(リリースが)遅くなっちゃったのかわからない(笑)。

●やりこみすぎたんでしょうね(笑)。その9曲に共通するテーマとは?

清水:タイトルの『Absence』は“不在”という意味なんですけど、人間が自分の中に足りないものをどこかに求める姿というか。求めるのを諦めた人のやるせなさや絶望とか、そういうものがテーマになっているなと自分で思ったのでこういうタイトルにして、この9曲で作ろうって思いました。

●そういう曲が自然と生まれてきた?

清水:そうですね。きっと自分がそういう時期だったんじゃないかな。だから書いた時期はちょっとずつ違うんですけど、そういうテーマでまとまるかなと思って。

●9曲が出揃ったのは、いつ頃?

清水:たぶん2年前くらいにはできていたと思います。この中だと、「Sigh」が一番新しいかな。

●「Sigh」には“皮肉と循環論法が抱き合う”(和訳)という歌詞が出てきますが、これはどういう意味?

清水:“循環論法”というのは哲学でよく出てくる言葉なんですけど、普通に暮らしている中でもよくあることだと思うんですよ。“こうだから、こう”というものがいくつもつながって、ぐるぐるまわっちゃって答えがいつまでも出てこないっていう。その輪っかと抱き合うというイメージがあったりして…、ちょっと今酔っ払ってきたので上手く言えそうにないんですけど(笑)。

●何となく言いたいことはわかります(笑)。あと、“私たちには油絵にするか水彩にするか 悩んだりしている時間がなくて”(和訳)という表現も面白いなと思いました。

清水:“油絵にするか水彩にするか”って、“何を描くか”じゃなくて“何で描くか”っていうことじゃないですか。そういうことって、(絵を描く上で)最初のほうに決めないといけなかったりして。それを人生に置き換えてみると「あぁ、油絵じゃなかったのにな…」と思うことって、いっぱいある気がするんですよ。そういう悲しさとか後悔みたいなものをよく目にするなっていう歌詞ですね。

●自分の中でも、普段から後悔をする瞬間があったりするんですか?

清水:ありますね。「あんなこと言わなければ良かった…」とか「ちょっと調子に乗り過ぎたな…」とか(笑)。「そもそもあんなところに行かなければ良かった…」みたいなことがよくあって。私はすごく出不精なんですけど、いざ頑張って出かけてみたらすごく疲れて「あぁ、行かなければ良かった…」っていう後悔が一番多いんです。

●人生を振り返って後悔することもある?

清水:もはや後悔はあまりしていないんですけど、みんなと違う道を行き過ぎて、気付いたら友だちが全然いなくなっていたっていう(笑)。たまに「あ〜、いなくなっちゃったな…」って寂しく思います。

●それって、本当に後悔しています?

清水:いや、別にしていないですね。そういう性(しょう)だと思うので。でもたまに同窓会に呼ばれなかったりして、寂しくなる時はあるっていう(笑)。

●でも同窓会に出たとして、浮いちゃいそうな気もしますけどね(笑)。

清水:おそらくそうだと思います。たまに昔の友だちに会うと、上手いこと生きている感じがして「すごい!」って思うんですよね。

●自分自身はそんなに上手いこと生きられていない?

清水:上手く立ちまわれていないなって思います。でもどこかで「捨てるぞ」っていう覚悟をしてきているので、「仕方ないよな」とも思っていて。

●M-1「Skipping Ticks」の冒頭で“彼女は地下室にいる すべての昼と夜、陸と海から隠れて 毛糸玉に向かって話している”(和訳)という描写は、まさに世捨て人的な感じというか…。

清水:ヒドいですよね(笑)。でもこれが今作の中では、“自分”というものを一番端的に表現している曲かなと思います。…家に地下室はないですけど(笑)。

●歌詞では自分のことを歌っていることも多い?

清水:今回は特にそうですね。一行一行について「本当かな?」って自分に問いかけるように作ったので、そうなっているんだと思います。

●“今でも彼女は立ち直りたいとは思わない”(和訳)というのも、自らの想いというか…。

清水:ひねくれちまっているんです(笑)。

●ハハハ(笑)。「Universal Mind」の“反抗の長い年月ずっと夢を見ていたの”という歌詞にも、ひねくれ感が出ていますよね。

清水:この曲は、ずっと権力に逆らっているようなイメージが何となくあって。“universalとindividual”(普遍と個)というのも哲学でよく出てくる話なんですけど、そこでは互いに違うものだという文脈で出てくるんですよ。でも“実は同じなんじゃないか?”という見地に立って作ってみたのがこの曲で、個が拡大されて“universal”になっていくっていうイメージがあったんです。

●そのイメージを元に曲にしたと。

清水:こういうことっていうのは、この先もずっと考えるだろうなと思っていて。世界と“対峙”するんじゃなくて、“融け合いたい”という想いがあるんです。

●世界と融け合いたい?

清水:そのほうが生きやすいから。“長いものには巻かれろ”じゃなくて、むしろ融け合ってしまおうというところを目指していますね。“長いものも巻き込んでしまえ”っていう感じです。…いつか融け合って、グチャグチャになっているアルバムができるんじゃないかなと思っています(笑)。

●最終的にグチャグチャになるんだ(笑)。M-9「Hope & Peace」では“求めていたものではなかったけれど 人生は思い込みだらけの 信じられないほど素晴らしい物語”と締め括られていて、まさにラストらしい曲になっていますね。

清水:自分の中では、今までで一番長い歌詞ですね。書いているうちに長くなっちゃったんですけど、書き終えた時にすごく「良かったな」と思ったんです。これを書くことによって、自分自身がすごく癒やされたなと。自然とメッセージ性が一番強い曲になったので、最後かなって思いました。

●この曲に込めたメッセージ性とは?

清水:この曲で表現したかったのは、絶望して全部諦めてからやっと見えてくる希望の光みたいなものだったんです。一度全てを手放さないと手に入らないものや、見えてこないものというか。

●何もかも失くした後の希望という意味では、タイトルの『Absence』にもつながってくるのかなと。

清水:そうですね。“私の中に足りないものがある”とか“私はからっぽだ”と認めることでやっとわかるというのは、すごく大きいと思うんです。そういう意味では、“それも悪くないよ”っていうか。

●自分自身もそういうことを認められるようになった?

清水:私も歳を取ったので…生意気にも(笑)。自分自身も絶望したことが幾度もあるんですけど、絶望したところからまた這い上がって来られた人はいいんですよ。でもまだ底に着いていないというか、“まだ行ける! まだ行ける!”とやっているうちが一番苦しいと思うから。そういう人にも届くと良いなって思いますね。

Interview:IMAI

 

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