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キノコホテル

凶暴にして蠱惑的。女の多面性を映し出した革命的傑作が心を捉えて離さない

キノコホテル_アーティスト写真前作『マリアンヌの呪縛』のリリースから早2年、キノコホテル通算5枚目のオリジナル・フルアルバム『マリアンヌの革命』が遂に完成した。ニューウェイヴ色も垣間見えるスピード感溢れるMV曲「おねだりストレンジ・ラヴ」やゲーム『刺青の国』のために書き下ろした「流浪ギャンブル」など、多彩な全10曲を収録。新たな一面から自らの真骨頂まで表現の幅はあれど、どの曲にも支配人・マリアンヌ東雲の毒気と色気が濃厚に詰まっている。2017年には創業10周年を迎える、おんな4人のグルーヴはますます凶暴にして蠱惑的な魅力を増していく。

 

 

 

 

●前作のアルバム『マリアンヌの呪縛』から2年ぶりの新作が『マリアンヌの革命』というタイトルなわけですが、この2年間に何かあったんでしょうか?

マリアンヌ:いえ、何もなかったわ。何もなさ過ぎて…、もう退屈極まりなかった。

●退屈だったんですか?

マリアンヌ:キノコホテルって、結局は自分が曲を書いたり何かを発信したりしない限り全く動いていかないグループなんですよ。初めからそうだったんですけど、それに対するイラ立ちみたいなものがまず1つあって。今年で創業して9年になるというところで、何のためにやっているのかわからなくなってしまった瞬間があったんですよね。なかなか手応えが感じられなかったり、全く先に進めていない感覚があって…。

●停滞感があったんですね。

マリアンヌ:でも結局それもこれも全部自分のせいなんだと思って、内に籠ってしまっていた時期があって。そういう時に引っ張り上げてくれる人もいないし、自分1人で解決して自分1人でどこかのタイミングで前向きな力を取り戻さなくてはいけないんだっていうのがものすごく億劫に感じたんですよね。自分だけが頑張っているような錯覚に陥ってしまって、すごくイライラしていたんです。そういう体制を作ってしまった自分に対しての忌々しさみたいなものもありつつ、…外的要因と自分自身との歯車の問題なんでしょうね。

●その歯車が上手くまわっていなかったと。

マリアンヌ:“このままやっていてどうするんだろう?”っていう気持ちになってしまっていた時期もあったんだけど、ツアーは既に決まっていて。そんな気持ちで演奏はできないので、そこは気持ちを切り替えて頑張りました。そうするとお客さんからパワーを頂いたりもして、それで気持ちを立て直して…という繰り返しでしたね。

●ライブを通じて、気持ちの立て直しができていた。

マリアンヌ:でも“これでは長くやっていけないだろうな”というネガティブな気持ちが絶えずどんよりと胸の奥底にありました。それもこれも1つには作品のリリースがしばらく空いてしまっていることに理由があるんだろうと思いつつも、“でもリリースする気になれないのはどうしてなのかしら?”っていう、“にわとりと卵”みたいな状態がずっと続いていたんです。

●曲を作る気にもなれなかったんですか?

マリアンヌ:嫌でしたね。逆に“曲なんか書いてやるもんか”くらいだったわ(笑)。敵が見えないのが辛かったんです。“こいつがムカつく”とか具体的な何かに対して明確に怒っているわけではなくて、ただ漠然と常にイライラしているのが辛かった。だからバンドを継続させながらも私生活で旅行に行ったり人と遊んだりとか、プライベートにすごく重点を置いて暮していましたね。

●そこでガス抜きをしたというか。

マリアンヌ:2007年から活動を続けてきて、ずっとモチベーションを高く持ち続けることの難しさを感じていたんです。でもそこで辞めてしまったら、色々あって辞めていってしまうミュージシャンやバンドの方たちと同じになってしまうわけで…。それも悔しいという気持ちがあったんです。かといって、ジタバタもがいて苦しむのも自分の性に合わないし嫌だったので、そこは“プライベートを楽しむ”ということに頭を切り替えて、“バンドは生活のついで”というくらいにまで比重をあえて落としてみたりして。自分の中で気持ちの整理をつけるような時期だったんですよね。

●自分の内面にも向き合ったのでは?

マリアンヌ:そもそもワタクシはすごく飽きっぽくて、物事が長続きしない人間なんです。そういう人がメンバーを入れ替えたりレーベルも変わったりしながらも、流動的な形でよくやってきたなと思う部分もあって。そもそも自分の許容量みたいなものを、どこかで超えてしまったような気もしていたんです。本来はこんなに色々できる人間じゃないし、そもそもリーダー格で仕切って人を動かせるようなパワーを持った人間でもないはずだから。自分の想い描いていた理想の形とは全然ほど遠いことに対してもイラ立ちがあるし、それなのに自分のキャパシティがこんなにもいっぱいになってしまっていることが本当に腹立たしい。“こんなところで息切れして、バカじゃないの?”っていう自分もいましたね。

●自分自身にもイラ立っていた。

マリアンヌ:そういう非常に内省的な時間があって。どこかでまたいつかやる気が出てくるだろうと楽観的に構えている部分もあったんですけど、それにはやはり何か大きな転機がないと難しいだろうなとも思っていたんです。“結局、その転機も自分で作らなきゃいけないんでしょ?”みたいなやさぐれ感というか…難しいわよね。自分以外の他者に期待することがどれだけ空しくて無意味なことか、大分わかってきたつもりではいるんです。かといって自分1人にすごい力があるとは思えないので、身に余る荷物を背負わされているような…。でもそれは自ら背負ったものなので、誰も責めることはできないし…本当に悩ましかったですね。

●実際に何か転機はあったんですか?

マリアンヌ:たとえば大御所や売れっ子の人たちはリリースが5年空こうとファンが待っていてくれるし、ツアーをすればアリーナやドームクラスが満員になりますけど、そういう意味では自分はやはり末端のミュージシャンに過ぎないわけで。自分から発信して、きちんとリリースもしてアピールしていかないといけない。当たり前のことなんですけど、それをようやく昨年の秋のツアーくらいで受け入れたというか。散々遊んだし、仕事をしたくないというモードをずっと続けるわけにもいかないだろうとなって。そこでアルバムをどうしようかと考えていたときに、キングレコードの方が東京キネマ倶楽部のライブ(2015/11/03 “サロン・ド・キノコ2015秋〜夜の禁猟区”)を観にいらしてくれたんです。そこからトントン拍子で、次のアルバムの話になりましたね。

●レコード会社移籍も大きかったんですね。

マリアンヌ:“まだキノコホテルを出してくれるレーベルがあるんだ…不思議”と思って。

●不思議なんだ(笑)。

マリアンヌ:でも、ありがたいわよね。そこで“まだやれるんだったら、やってやろうじゃない”となって。年明けから集中的に8曲くらい作ったんですけど、1人で作ったデモを他の3人に投げて、スタジオで詰めて…というのを2月から4月くらいまでやってから、5月に録って完成したという感じです。

●今年に入ってから一気に作ったと。

マリアンヌ:やはり目標というか、〆切とかを目の前にちらつかせてもらわないと本当に自分はダメなんだなというのがよくわかりました。昔から、漠然と期限もないままに根気よく楽曲を作れるようなタイプではないんです。そんな時間があったら、お酒を飲みに行ってしまう。だからアルバムを作るだとか、明確な目標を目の前にぶら下げてもらって初めて火がつくというか。今回はアルバムをリリースするというタイミングで、元々やっていた自分との禅問答のような後ろ向きなバトルではなくて、外に向けた“自分が本来すべきこと”というのがようやく見えてきて、目が覚めたんですよね。

●火がついてからは速かったんですね。

マリアンヌ:やる気があれば、それくらいのことはできるの。でも、やる気がないと何にもできないのよ(笑)。

●ハハハ(笑)。作り始めた段階でアルバム全体のイメージはあったんですか?

マリアンヌ:これはキノコホテルを始めた頃からあるポリシーみたいなものなんですけど、アルバムの中でキャラ被りさせないというのがあって。似たような曲の羅列になるのだけは嫌なので、そのためにはバラエティ豊かなものにしなくてはいけない。1曲ごとに全く違うタイプの楽曲が生まれていく中で、“こういうイメージの曲が足りないから作ってみよう”とか考えながら作っていきました。

●全体のバランスを考えながら作っていったと。

マリアンヌ:ワタクシ自身も雑食で色んな音楽を聴いてきたつもりなので、無意識のうちに自分の中に色々なものを貯め込んでいるんです。初期の頃は“キノコホテルらしくないから、これはよくないかも?”とか、つまらないことに囚われていたんですよね。でも近頃では“キノコホテルはワタクシが自由にやるためのグループじゃないか”ということで、今までなかったような楽曲にも臆することなく取り組んでいて。とはいえ、とっちらかった印象にはならないように、どんな曲もキノコホテルの楽曲として聴いて頂けるように工夫しながら作っています。

●ゲーム『刺青の国』のために書き下ろしたM-9「流浪ギャンブル(メカ仕様)」は、新しい一面かなと。

マリアンヌ:この曲は自分の中ではパロディめいたおフザけ感があるというか。ゲームの“主題歌”ということで、自分の中でそれっぽいものをあえて作ってみたんですよね。“キノコホテルでこれはやらないよね”と思われるようなタイプのものをあえてやってみて。聴いた方がどう感じるかはわからないですけど、自分の中からこんなにポップなものが出てくるとは思わなかったわ。

●すごくポップですよね。

マリアンヌ:こういう曲って書こうと思えばいくらでも書けるんですけど、キノコホテルの中ではあくまで特殊な存在にしておきたいんです。「流浪ギャンブル」のような曲が、キノコホテルのスタンダードになるということはまずないですね。

●歌い出しの声もすごく可愛い感じで、ちょっと“萌え”感があるというか…。

マリアンヌ:ワタクシ史上、最大の萌えですね(笑)。

●M-2「おねだりストレンジ・ラヴ」のMVで見せているウェディングドレス姿も、1つの萌え要素かなと(笑)。

マリアンヌ:あれは(MVの)監督のアイデアなんですよ。これまで何本も撮って頂いている方なんですけど、打ち合わせで開口一番に「支配人、ウェディングドレスとか着てみる気ないかな?」って訊かれて。「いいんじゃないの」と答えて、すぐに決まったんです。

●躊躇はなかったと。

マリアンヌ:そこからすぐにブライダル施設へ衣装のフィッティングに行って。本物の花嫁さんがお召しになるものを着て新宿のオフィス街を疾走したり、人を蹴ったりしたわ(笑)。

●この曲が今回のリード曲なわけですが。

マリアンヌ:まだ全曲が出揃う前から、自分の中では何となく決めていて。他の3人もビデオを撮るならこれじゃないかという話をしていたし、アルバムの中でそれなりに力を持つ楽曲になる予感がしていたんです。あとはこういった曲をアルバムの主軸に置くことで、後半のアダルトエリアとのコントラスト的にもいいのではないかと思ったんですよね。推し曲ではあるんですけど、正直アルバムのメインディッシュではないのかもしれない。

●メインディッシュはどのあたりなんですか?

マリアンヌ:どの曲が一番重要かという意味ではなくて、キノコホテルの真骨頂というか他のガールズバンドとは全く違うんだというところを見せられるのは中盤あたりではないかと思っていて。推し曲はちゃんとありつつ、準“推し曲”のような変化球的な曲が後半に入っていて、それも決してメインではないっていう。そういう意味では聴きどころが非常に多い、まるで1人の人間のような作品だと思います。

●萌え要素からウェディングドレス姿まで見せたりと、支配人の色んな側面が見える作品になりましたね。

マリアンヌ:“乙女”支配人が炸裂っていう(笑)。やっぱり1枚を通して、ただ強い女の物語というだけでは面白くないんですよね。それなりに長く女をやってきているので、自分なりの“女性”性を表現したというか。若い子みたく強い女をただ演じ続けるとか、ひたすら恋愛体質みたいなものではなくて、もっと多面体でいたいというのはあります。それが当たり前だし、女性ってそういう生き物だと思うから。

●そんな作品のタイトルに“革命”と付けた理由とは?

マリアンヌ:それは自分に向けた言葉ですね。自分と散々向き合った結果を上手く作品に昇華させられたっていう。ある意味、自分にとっては毎回アルバムを出すこと自体が1つの“革命”だったりするんです。ただ今回はやる気を完全に失いかけていたところから再び気持ちを揺り戻せたというのは、自分の行動のパターンとしてはかなり奇跡的なことだったんです。大体はそのままやめてしまうことのほうが多いから。

●来年は10周年になりますが、自分の中でモチベーションも高まっている?

マリアンヌ:秋のツアーもありますし、少しはそういうところもありますね。自分が意識を高く持ってやっていかないことには、どうにもならないから。せっかくアルバムも無事に出せたことですし、もうしばらくは自分の中でテンションを保てたらなと思っています。

●10周年に何が起きるのか楽しみです。

マリアンヌ:色々と計画はありますよ。来年は色々出したいですね。お金も稼ぎたいし…(笑)。

●ハハハ(笑)

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子
 

 
 
 
 

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