ベスト盤『GOLD ALBUM 1997-2012』のリリースから約4年、新しい体制となったVELTPUNCHが待望の新作を完成させた。メジャーレーベル返り咲きとなるアルバム『THE NEWEST JOKE』は、磨きぬかれた感性と衝動と遊び心と美学とプライドが詰まりまくっており、ファンならずともその高い作品性に驚かされるだろう。ベスト盤以来の取材となった今回は、Vo./G.長沼が内面に抱えている“失われた欠片”を探すインタビューを敢行。VELTPUNCHはなぜ素晴らしい音楽を生み出し続けるのか、長沼はなぜいつまでも色褪せぬ童貞感をまとっているのか…その深遠に迫る。
「共学に行きたかった欲求というのは誰にも負けないですね」
●ベスト盤『GOLD ALBUM 1997-2012』が2012年のリリースで、その後G.姫野さんが脱退され、荒川さんが加入されましたよね。まずはその辺の経緯を教えていただきたいんですが。
長沼:姫野さんはもともと自分のバンドと平行してVELTPUNCHをやっていて、「自分のバンドに本腰を入れてやってみたいんだ」という話があって。15周年でベスト盤も出せたし、「脱退する」と言っている人を引き止めるつもりはないので「わかりました」と。「その代わり自分のバンドがんばってくださいよ」って送り出したんです。
●はい。
長沼:それで後任のギターを探すんだったら、せっかくだから若い人を入れた方がいいと思って。それに荒川くんが聴いてきた音楽っていうのは僕らのルーツとすごく近いんですよ。
●あ、そうなんですか。
長沼:僕らがルーツにしている札幌のシーンとかZKレコーズとかにもすごく詳しくて。COWPERS、BP.、eastern youth、NAHTとか…荒川くんは10歳くらい年下なんですけどものすごく勉強しているし、スタジオでセッティングしているとかしているときにピロピロ弾き出すのがその辺の曲だったりするんです。
●すごいな。
長沼:だから加入もすんなり決まって。もともとは直紀の知り合いなんですけど、僕らが初めてワンマンをやったときに荒川くんは普通にお客さんとして来ていたらしいんです。好きな音楽の話も合うし、すごく真面目だし、なおかつ「音楽で絶対に食っていきます」って言うようなギラギラしたところがないんですよ。
●え?
長沼:話を聞くと「だいたい僕らの世代はみんなそうです」と。荒川くんは20代後半なんですけど、音楽で食えるなんてもともと思ってないし、キチッと仕事しながら音楽をやって、でも音楽をやる限りは成功したい。そこのスタンスも僕らと似てるといえば似ていたんです。逆にすごく目をギラギラさせて「音楽だけで食っていきたいです」とか言われても「いやいや、君を預かれるだけの状況はないよ」っていう説得に入ったと思うんですけど、あの辺の世代はしっかりと現実を見ていて。
●音楽的なルーツも、バンドに対するスタンスも近かったと。
長沼:うん、「じゃあ上手くいくね」っていう感じでスムーズでした。荒川くんが入ってすぐのライブもすごく盛り上がったし、本人もがんばっていたし。正直なところ全然大丈夫でしたね。
●前から思っていたんですけど、VELTPUNCHはバンドの姿勢としてガツガツしているわけでもなく、自分の中のエモーショナルなものを音楽に込めてガーッと吐き出すわけでもなく、音楽的なセンスや感性はもちろん大前提としてありますが、感情を出すというより、ニヒルな視点だとか自嘲だとか…あとエロと…をメッセージとして表現している感じがするんです。
長沼:はい。
●要するに、“どういう人間なのか?”とか“どういう想いでバンドをやっているのか?”という部分が掴みづらい存在で。しかも来年20周年だし…この人たちはどういうモチベーションで19年もやってきているんだろう? っていうのが率直な疑問なんですよね。
長沼:ハハハ(笑)。
●「趣味でやってます」という話では説明できない高いクオリティの音楽を作り続けているし。だから決して“ギラギラしたところがないバンド”というわけではないと思うんです。そういうところをストレートに表現することに抵抗があるのかな? とか、ギラギラさせる方向が違うのかな? と考えてしまう。
長沼:たぶん手っ取り早く評価されようと思ったら、上手い人たちを集めてものすごくわかりやすいことを、ギュッと焦点を絞って作ればいいというか、魚がいっぱい泳いでいる河においしい餌を落とせばいいっていうのはわかるんです。
●はい。方法論的に。
長沼:でもそれでアルバムを2〜3枚作ったとしても、“ウケを狙う”というところでやっちゃうと、絶対にその先はないと思っていて。じゃあ“自分たちが本当に好きな音楽で”というところで考えたとき、1つのジャンルしか聴かない人って居ないと思うんです。絶対にいろんな音楽を聴いていて、いろんな気持ちがあって、いろんなことをやりたい。それを長く続けていくとなると、入学したばかりの大学生みたいに普段の自分のテンション以上のハイテンションでバーっと表に出てみんなにウケることをやって人気者になったとしても、それは絶対に疲れますよね。
●疲れます。
長沼:もともと自分に無いものだったら燃料も枯れてくるし、それをやっている自分にも飽きてきちゃうだろうし。でも僕が仕事をキチッとやって生活を送っていると、音楽をやることに救いを求めたり、エンターテインメントとしての音楽をやりたいという気持ち…そこは絶対に枯れないんですよね。
●ほう〜。
長沼:でも毎日メンバーと顔を合わせて、1年間ずっとツアーやって100回ライブやって、ガッツリと照準を当ててやってたら、2〜3年で嫌になっちゃうと思うんです。お笑い芸人で言うところのラッスンホニャララとか、最初は自分たちがおもしろくてやり始めたとしても、あんなのを毎日半年間やり続けていたら、きっと自分たちも飽きちゃうと思うんですね。そうなるとやっぱり嘘になっちゃうし、続けられないと思うんです。
●なるほど。わかってきた。
長沼:僕は音楽に対して本当に真剣に向き合って、自分たちが作りたいものを作って、決して背伸びもしないし、「ちゃんと好きなものを作っていますよ」と言い続けられる状態で19年やってきたんです。これはアーティストによって違うと思うんですけど、僕は自分たちが作ったCDをずーっと聴き続けられるんです。
●おお。なるほど。
長沼:「聴きたくない」と言う人ももちろん居ると思いますけど、僕は“こんなのがあったらいいな”、“こういう音楽を聴きたいな”と思ったものをカタチにしているので、聴き続けられるんですよね。それはずーっと変わってないですし、他のメンバーも結構聴いてるみたいです。
●すごいな。というか、当たり前といえば当たり前の話か…。
長沼:ですよね。だから音楽とすごくいい距離感で、自分たちが作っている作品を愛し続けながら19年来れたかなって思います。自分たちが作ったものがつまんなくなったら辞めるけど、今のところそれがないんですよね。例えば海外のすごく大好きだったバンドが、復活とかして「新譜出します」みたいなニュースを知るとものすごく期待するじゃないですか。“聴きたい! 聴きたい! どれだけ感動出来るんだろう!”って期待して聴いて、良くないケースがあるんですよ。
●よくある話ですし、僕もそういう経験あります(笑)。
長沼:自分の感性がズレたとか、アプローチに飽きたとかではなくて、“あれだけのものを作れた才能や熱量があった人間が、なんでこんなもので納得して世の中に出してんだ?”っていう怒りを覚えることがあるんです。
●お、熱くなってきた。
長沼:本人に「趣味が変わった」とか「価値観が変わった」と言われればそれまでなんですけど、“だとしてもあんなにすごいものを作っていた人が、なんでこんなもの世の中に出したんだ?”っていう。そこには妥協や打算を感じて、納得できないというか。僕は自分では作れないものを作っている人に対するリスペクトが本当に強いので、1人のリスナーとしてものすごく大好きになって毎日聴いて、“次の作品が楽しみだ!”って何年も待っているんです。だからこそ聴いたときの“なんじゃこれ?”という怒りが強くて。
●すごく熱くなってきた。
長沼:それが許せないので、自分たちだけは絶対にリスナーをがっかりさせない裏切らないアーティストで居ようと思っているんです。最低限相手の期待はクリアするし、そこを飛び越えていくっていう。自分たちが世の中にものすごく求められているとは感じないですけど、でも「VELTPUNCH楽しみだ」と思って聴いている人たちをがっかりさせていないと思っているし、今回のアルバムも待たせただけの自信は持っています。VELTPUNCHのような音楽が好きな人は、VELTPUNCHの新譜を買っとけば何年かに1回は絶対にいい音楽と出会えるっていう。
●長沼さんの熱くてガツガツしているところ出てきた(笑)。
長沼:そこはものすごく強く意識していますね。
●そういう話を聞きたいと思ったのは、M-1「THE NEWEST ROCK」の歌詞から珍しくミュージシャンとしての本音を感じたからなんです。この歌詞、長沼さんにしてはかなり吐露していますよね。
長沼:もともと僕はカルチャーとして、歌詞っていうのは自分が思ったことを一人称で日記のように書くもんじゃないって思っていたんです。だからそこを出そうと思っても出ないんですよね。
●でも「THE NEWEST ROCK」の歌詞には出ていますよね?
長沼:ああ〜、多少は出ていますよね。
●“どうかこの声が君に届きますように”というフレーズとか、リスナーに対する強いメッセージと受け取ったんです。いつも斜に構えている長沼さんが、久々に出すアルバムの1曲目に想いを込めていると。
長沼:そうですね。あの歌詞は確かにそうかもしれない。
●だからグッときたんですよね。普段本音を言わずに斜に構えたりふざけてばかりいる人が、ポロッと想いを吐露したような感じというか。
長沼:「THE NEWEST ROCK」のギターリフは、ちょっと変わった弾き方をしているんですよね。弦を右手でバシバシ叩くような感じで。それ以外にもドラミングだったり、クソ長いイントロだったり、VELTPUNCHらしい編曲ができている分だけサビでは素直になりやすいというか。
●心境的に?
長沼:はい。それは楽曲をキャッチーにするための方法論なのかもしれないですけど、でもちゃんと伝えたいことややりたいことを楽器で表現できている分だけ、サビに関してはキャッチーで伝わりやすいメロディを乗せてもVELTPUNCHとして成立するというバランスがあったからだと思います。
●なるほど〜。でも一方で、他の曲の歌詞は相変わらずというか…10代多くないですか? 長沼さんの10代はそこまで輝かしかったんですか?
長沼:違いますよ。10代がダメだったんです。
●でも10代を歌った歌詞があまりにも多いから、10代を慈しんでいるとすら思えるんですけど…。
長沼:僕は中学と高校が男子校だったんですけど、音楽のアイデンティの9割はそこの経験が占めているんです。“女の子と話したかった”とかやっぱり未だに思いますし、TV番組とかで共学の高校生が文化祭の準備とかしているシーンが映ったりしたら、いたたまれなくなるんです。
●いたたまれなくなる?
長沼:自分の人生に欠けていたピースというか。男女共学で“付き合う/付き合わない”とかじゃなくて、友達としてみんなで日常的な生活を送っていることに対する憧れがすごく強くて。高校のときも付き合っていた人は居たんですよ。でもそれもなんか、出会ってすぐに付き合うかどうかっていう前提で人を選ぶなんて、やっぱり違うじゃないですか。お見合いじゃないんだから。
●はい。
長沼:なんでもない日常生活の中で気が合う子とか話が合う子とか、始めは嫌いだったけど見直したりとか…それが欲しかったんです。人生ってそうだと思うんですよ。子供の頃にすごく貧しかった人が大人になって成功して、子供の頃に買ってもらえなかったぬいぐるみを大人買いすることとかよくある話じゃないですか。でも大人になって買ったからといって満たされるものじゃなくて、結局はそのときに欲しかったっていう。僕の音楽のアイデンティで言えば、中学に入ってすぐにバンドを始めて、やっぱりそこで満たされない…思春期に欠けたピースというものを埋めるために、本当に鬼のように音楽を聴いていたし、鬼のようにギターを弾いていたんですよ。学校帰ってから寝るまでずっとギターを持ってたり、トイレでうんこしながらギター弾いていたんです。
●それは女の子が居なかったから?
長沼:そうです。共学に行きたかった欲求というのは誰にも負けないですね。
●今いくつでしたっけ?
長沼:もうすぐ40歳です。
interview:Takeshi.Yamanaka