2015/12/2にリリースした1stミニアルバム『PROLOGUE』で鮮烈な復活を遂げたTHE MUSMUS。同作ツアーを満員の渋谷O-Crestで締め括った彼らが、1stフルアルバムを完成させた。『THE MUSMUS TALE Ⅰ』と名付けられた今作は、これからも続いていくTHE MUSMUSの物語の第一話。他の誰にも描けない音像と、唯一無二のCHIOのヴォーカルは、聴く者の心と感情を時に優しく、特に強く包み込む。今月号では、心境的に大きく変わったと言うTHE MUSMUSの中心人物CHIOに焦点を当て、その“想い”と“歌”について訊いた。
「すごくプラス思考な人間に憧れてた部分もあるんですけど、たぶん少しずつプラス思考に変わってきているのかもしれない」
●昨年12/2にリリースした1stミニアルバム『PROLOGUE』のツアーはどうでしたか?
CHIO:楽しかった! むっちゃ楽しくてびっくりした。
●なんで?
CHIO:わからん(笑)。
●わからんのか(笑)。
CHIO:わからんけど、プレッシャーとかはあまりなかったから。いいのか悪いのかわからないけど、プレッシャーは前の方があった気がする。UPLIFT SPICEのときは、CDを出す度に不安やったけど、THE MUSMUSは一旦失ったもんが始まったというか…「UPLIFT SPICEが好きでした」って言う人ももちろん来てくれていたけど、まったく別物な…。
●ファイナルのライブを観て思ったのは、今おっしゃっていたように、UPLIFT SPICEのときの方がめっちゃ力が入っていたような気がして。ダラッとしているわけじゃなくて、いい意味でラフというか。
CHIO:言ってみればUPLIFT SPICEは“破壊”で、壊して壊して「君らの人生もいったん壊してみろ」たいな提示の方法だったんですよ。でもTHE MUSMUSは何より“私が歌いたい”になったんです。
●前は“歌いたい”じゃなかった?
CHIO:うん。“ライブしたい”だった。ハカイダーです。
●この人、なに言ってるんだろう…。
CHIO:今おる世界とかも壊したかったんです。でも壊れた。自分もバンドも壊れて、一旦区切りがついたんですよ。“自分のやっていたことはこういうことだった”というのをラストのライブで感じて。でも、もう何も壊したいものもなかったし、“次は何や?”と思ったときに、“新たな世界を作りたい”と思ったの。で、何より“歌いたい”と思った。YOOKEYが「また一緒にやろう」と言って持ってきた曲を聴いて、“私がこの曲を歌いたい”と。曲がね、めっちゃ綺麗に感じたんですよ。前までは綺麗というよりも、人間の根本の怒りとかを感じていたんですけど。YOOKEYも変わったんかもしれないです。
●ほう。どういうところが?
CHIO:昔より素直になっていると思うし、それが曲に出ているのかもしれないですけど、綺麗なんですよね。
●THE MUSMUSはCHIOちゃんがサウザー(※『北斗の拳』に登場するキャラクター / THE MUSMUSはCHIOがリーダーとしてすべてをジャッジしていこうとしている意)じゃないですか。「ツアーが楽しかった」と言っていましたけど、バンドを引っ張っていく立場としてプレッシャーはなかったんですか?
CHIO:ありましたけど、でも自分が誰よりも動いて行動するしかないと思うし、やっぱり“私のバンド”という意識が強いですね。前はそんな感じじゃなかったんですけど。
●そういう意識でツアーをまわったら楽しかった?
CHIO:それが想像以上に楽しかったんですよね。よかった。
●4月までツアーをやっていたわけですけど、アルバムはいつ作っていたんですか?
CHIO:実は『PROLOGUE』に入らなかった曲もあるんですよ。曲が少ないからライブでは昔の曲もやる必要があって、THE MUSMUSの曲を増やしたいという想いがあって。がっつりとスタジオに入ったのは12月〜1月あたりですね。
●『PROLOGUE』をリリースした直後ですね。サウザー的には、1stフルアルバムはどのようなものにしようと考えていたんですか?
CHIO:『PROLOGUE』が結構好きなミニアルバムになった分、“序章”という意味のタイトルをつけちゃったから“これを超えないかんな”みたいなプレッシャーがあったんですよね。でも作っていくうちに“絶対にかっこいいものになる”という手応えがどんどん出てきて。
●なるほど。今作を聴いて思ったのは、CHIOちゃんの歌がすごく映えるというか。ポップというか、歌にすごく惹かれる。
CHIO:今まで散々レコーディングをやってきて今回がいちばん楽しかったんですよ。プレッシャーとかも一切なかったです。それが歌にも影響していると思います。
●歌うことが楽しかった?
CHIO:うん。歌っていて気持ちいいし、理由はわかんないけどレコーディングも楽しかった。やっぱりプレッシャーがなかったからかもしれないですね。
●UPLIFT SPICEは“儚さ”や“刹那的”というものが音楽の重要な要素になっていたと思うんです。でもTHE MUSMUSからはそういうニュアンスをあまり感じないんですよね。
CHIO:破壊的な“刹那”ではなくて、前に進んでいる感じがあるんです。たとえ刹那的であったとしても踏み出そうとする感じというか。今までだったら“もうええやん、いったん休憩しいや”と思う場面でも踏み出している。
●それはすごくわかります。UPLIFT SPICEは“破滅に向かう哀愁感”があったんですけど、今作はいい意味でそれがないんですよね。
CHIO:でしょ?
●「歌に惹かれる」と言いましたけど、歌う意識が変わったんですかね?
CHIO:内面も変わっていると思うんです。例えば友達に「あいつにボコられた」と相談されたとするじゃないですか。今までだったら「一緒にボコりに行こか」みたいだったのが、「じゃあいったん手当しよか」になった。
●CHIOちゃん自身の考え方が変わったのか。
CHIO:昔は“骨1本くらい折れてもどうってことないわ”と思っていたけど、今は“やっぱり骨が折れたら痛いし、治っても雨の日とかうずくんや”というのを勉強した。
●ハハハ(笑)。普段の生活でも考え方や心の面持ちが変わったという意識はあるんですか?
CHIO:生きるのが楽になりましたね。物心がついたときから高校生くらいまで、“何で生きなあかんねやろ?”って本気で思っていたんです。かなりひねくれていたんですよね。それでUPLIFT SPICEのときは、何かに虐げられるとか、例えば気持ち的に追いやられるなら“それを壊していったらいいやん”という発想で。
●だから“破壊”だったのか。
CHIO:逆に今は何もないんですよ。諦めがついたのかも。
●諦めがついた?
CHIO:結局自分がどうなりたいんかと考えたら、やっぱりかっこいい人になりたいもん。すごくプラス思考な人間に憧れてた部分もあるんですけど、たぶん少しずつプラス思考に変わってきているのかもしれない。
●自分なりのプラス思考というか。
CHIO:うん。結局は自分がいいか悪いかを決めているんですよね。例えば周りの100人「それが正解だ」と言っても、自分が“違う”と思ったら自分にとっては間違いじゃないですか。そういう意味で、自分が思うままでいいと。嫌な人にも興味が出るようになったし。
●ほう。
CHIO:“何でこんなに嫌な人間なんやろ? どこで拗らせたんやろ?”みたいな。でも実は、素直で純粋であるが故にそうならざるを得なかったとか。そう考えると、好きな人間も昔より増えたんですよね。“こいつのこういう所は嫌いやけど、こういうところはいいし”と認められるようになった。かといって自分が認められたいかというと、わからんならわからんでいいと思うし。
●成長したんですかね。
CHIO:“私にケンカを売るんやったら全力で買うで”いう姿勢は変わっていないんですけど。
●きっと以前よりも心持ちは穏やかなんでしょうね。
CHIO:めっちゃ穏やかです。それに我慢しない。しんどいと思ったら「もうしんど〜い!」って言うし。メンバー3人がそれを受け入れてくれるから。
●バンドとしてまとまったのかもしれないですね。
CHIO:この3人はね、バンドマンではないですよ。
●どういうこと?
CHIO:犬、猿、キジみたいな。
●桃太郎だ!
CHIO:こんなこと言ったら怒られるかも知れへんけど、私を癒してくれるペットみたいな(笑)
●めちゃくちゃだ!
CHIO:でも私が鬼が島にいくまでめっちゃ応援してくれるし、ついてきてくれるけど、「もう無理!」となったら癒してくれる(笑)。
●でもヴォーカルってそういうことでいいような気がするんですよね。チームだし。
CHIO:だから私を鬼ヶ島に連れて行ってくれるのは、たぶんこの3人じゃないとダメなんだと思う。
●「歌に惹かれた」と言いましたけど、歌のバリエーションも増えましたよね。例えばM-5「SHAH MAT」とか。クラシックオペラ?
CHIO:なんていうのかな? ゴシック? …この曲は実は、私がもう1回バンドをやろうと思ったうちの1曲なんです。
●お!
CHIO:これと「バイナリ」と「BAPTISMA」(2曲とも『PROLOGUE』収録)の3曲。
●もう1回バンドをやる条件として、YOOKEYに「まず曲を作ってきて」と言った3曲ですね。
CHIO:これは大きかったです。聴いた瞬間に“かっこいい!”と思ったんですよ。歌詞の想像が膨らむから、すぐに書けたんですよね。延々に書ける。
●不思議な新しさというか、どこにもないというか。そこに手応えを感じたんですね。
CHIO:うん。“こんな曲ができるのはウチらしかおらん”と思った。
●なるほど。ちなみに歌詞については、相変わらずのCHIO節ですよね。
CHIO:え、あります?
●めっちゃありますよ。少年っぽいというか、ファンタジーの世界とか、そういう単語が多い。
CHIO:そうなの! どうしよう!
●今回は宇宙に関することはないかな。
CHIO:実は「砂の星」が、宇宙じゃないけどちょっと星関連。
●タイトルでいうとM-7「アカシックレコード」とか。
CHIO:言われてみれば、確かにそういう言葉は相変わらず出てきてる。
●「アカシックレコード」はいちばん好きな曲なんですよね。
CHIO:あ、ホンマに?
●「アカシックレコード」は歌に焦点が当たっていると感じたんですが、今作はCHIOちゃんがサウザーになって初めてのアルバムじゃないですか。ということは、CHIOちゃんの個性や気持ちが全面に出ていいと勝手に思っていたんです。
CHIO:うん。
●この曲はTHE MUSMUSの歌の在り方そのものを歌っていて、リスナーに向けた気持ちを売っている曲と受け取ったんですよね。だから今のTHE MUSMUSを象徴している曲だなと。
CHIO:ああ〜。もしアカシックレコードが実在するとしたら、例えば昔すごく大好きだったけど別れた人とかも、そこに記録として刻まれているかもしれないですよね(※アカシックレコードは元始からのすべての事象・想念・感情が記録されているという世界記憶の概念)。
●はい。
CHIO:そう考えたら無駄じゃなかったんかなと思ったり。悲しいことが起こっても、辛いことが起こっても、楽しいことが過ぎ去っていったとしても、例えば自分が忘れてしまったとしても、記録されているとするなら全部が無駄じゃないと思えて。
●その気持ちわかります。
CHIO:あとは音楽の“レコード”と、記録という意味での“レコード”のダブルミーニングになればいいなと。
●歌詞に“歌と永遠に響け”というフレーズがありますけど、CHIOちゃんの音楽に対する気持ちと重なっている気がするんです。
CHIO:前から言っていますけど、私は死ぬことに対してマイナスなイメージがないんです。でも私の友達に「死んだらきっとみんな私のことを忘れていく」みたいなことを言う子がいて。
●はい。
CHIO:でもアカシックレコードみたいなものが仮にあったとしたら、もうちょっと前向きというか、“そんなに怖いことじゃない”と思えるというか。それに、普段はなんでもない日常だと思っていたとしても、それが失われたとき、急に愛おしく思えたりすることってあるじゃないですか。それで普段からもっと大事にしようとも思うし。そういうのも含めて歌詞にしたかったんです。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子