2016年12月と2017年2月に過去最大規模での東阪ワンマンライブを発表した大阪出身の“1人エンターテイナー”、大野賢治(オノケン)。そして、2016年8月に自身最大の挑戦である赤坂BLITZでのワンマンライブを控えている神奈川県横浜生まれの女性シンガーソングライター、木下直子。共にこれから大きな舞台に挑む両者だが、ここ数年で不思議なくらいの急接近を見せている。男女の違いや活動する界隈の差異もありつつ、2人がシンクロするその理由とは…? 2ヶ月連続で敢行する特別対談第1回では、まず出会いからこれまでの経緯に迫った。
●お2人のSNSを見ているとすごく頻繁に会っている印象があるんですが、もしかして付き合っている…?
大野:「付き合ってる?」って、よく言われますね(笑)。でも付き合ってもいいんじゃないかっていうくらい、お互いのことを知ってはいて。
木下:逆に知りすぎていて、付き合いたくない(笑)。
●男女の隔てなく付き合える感じでしょうか?
大野:俺はお姉ちゃんとすごく仲が良いので、女子に対する抵抗が元々ないんですよ。あんまり恋愛対象にも見られないので(笑)、女子会にも参加できるタイプで。
木下:「女子会やろう。オノケン呼ぼう」みたいな感じですね。女子トークにもついてこれるタイプだから。
●女性の中に自然と溶け込めるんですね。
大野:でも最初は俺のことが嫌いやったんでしょ?
木下:大嫌いだった!
●即答した(笑)。
木下:最初に会った時はすごく嫌なヤツという印象でした。20〜30組くらいアーティストが出る大阪のイベントで一緒になったんですけど、私がラジオ番組に出演する都合で少し遅れて会場に入ったら、長時間のイベントだから既にオノケンはお酒を呑んでいて。ワインを手に持ってソファに寄りかかりながら「木下直子って言うんでしょ? 知ってるよ」とか言ってきたので、「何、こいつ!?」と思ったんです。その態度が年上の大御所っぽい感じに見えたから、最初は「絶対にこの人とは絡まないようにしよう」と思っていましたね(笑)。
●それが初対面だったと。
木下:初対面でした。「よろしく」と言って握手を求めてきたんですけど、心の中では握手もしたくないなと思っていて。
大野:俺はその時まだ大阪に住んでいたから、東京の人に対するコンプレックスみたいなのがあって。色んなところから木下直子の名前も聞いていたし、“負けたくない”という気持ちがあって強気に出たんでしょうね。自分では全然覚えてないんですけど…。
木下:ベロンベロンに酔っ払っていたからね。それが5年前くらいだと思うんですけど、そこから2年くらいは仲良くなかったです。
●そこから仲良くなったキッカケとは?
大野:共通のミュージシャン仲間のライブに行ったら同じイベントに直ちゃんも出ていて、打ち上げで喋ったりとかしているうちに…やっと俺が素晴らしい人だっていうことに気付いたみたいです。
木下:えっとね…まだ気付いてない。
大野:ええっ、おかしいな〜(笑)。
木下:素晴らしい人だとは気付いてないけど、わりと良い人なんだっていうことには気付いたかな(笑)。
大野:“わりと良い人”って、一番モテへんヤツやんか〜(笑)。
●実は良い人だと気付いたところからだと(笑)。
木下:オノケンは人見知りじゃないように見せているんですけど、心の中は全然見せない感じがすごく嘘くさいと思ったんです。それで最初は嫌なヤツなんだと思っていたけど、実はただの人見知りなんだとわかって。意外と涙もろかったり、感情が揺れやすいタイプなんだと気付いてから、“わりと良い人なのかもしれない…”と思うようになりましたね。
大野:ビックリするくらい、人間くさいですからね。人間大好きですから!
木下:「人間大好き!」とか言ってるのに、心にフィルタがあるから「嘘つけ!」と思って嫌いだったんです(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
●でも今ではプライベートでもよく会うくらい、仲良くなったわけですよね。
木下:1〜2週間会っていないだけで「久しぶり」みたいな感じになっちゃうから。ちょっと感覚がおかしいかもしれない。
大野:それこそ付き合っているわけでもないのに、「何してる?」っていうLINEが急に来たりしますからね(笑)。あと、LINEで「オノケン」とだけメッセージが来ることがよくあって。そういう時はたいてい寂しい時か悩んでいる時かめっちゃ良いことがあった時なんですよ。そのうちのどれなのかは「オノケン」の後に入っているスタンプの種類でわかるっていう(笑)。“ワ〜!”ってなっている感じのスタンプやったら、楽しかったんやなと。
木下:ただそれを伝えたいだけっていう(笑)。
●お互いに相談したりもする?
木下:相談しますね。何でも話せちゃう相手だから、何かあると黙っていられない(笑)。
大野:もし75歳くらいになって、お互いにまだ独身やったら結婚しようかなとは思いますね(笑)。
木下:いや、80歳にしようよ。
大野:その5年間でまだ恋愛する気なんや(笑)! …というおフザケができるくらい、今は公私ともに信頼し合っている感じですね。
●そこまで仲良くなったのはなぜなんでしょうね?
大野:同い年というのもあるし、悩むタイミングが近かったりするんですよ。
木下:ワンマンをやる時期や規模とか、CDのリリース時期も含めて一番近しいところにいるのかなと。
大野:“類は友を呼ぶ”的な感じですね。色んな温度の波が一緒やったというのは大きいと思います。
●“温度の波”というのは?
大野:「こんなことで悩んでいるんだよね」という部分だったり、生きている流れの中で“共感”や“共有”するところが近かったのかなと。あと、お互いに“ムチャしい”(※ムチャをする人)やからかな。
木下:お互い“ムチャしい”だし、“面白がり”だから(笑)。
大野:そんな“ムチャしい”の俺が、直ちゃんのムチャを聞いて「マジで!?」って言っちゃうくらいやから(笑)。今回の赤坂BLITZワンマンにしても、規模感が「マジで!?」っていう感じで。
木下:理由も「ただやりたかった」っていうだけですからね(笑)。
大野:理由が潔くて良いですよね。バカか天才の紙一重でどっちかって言うと、たぶんバカ寄りなんですよ(笑)。
●ハハハ(笑)。
木下:でも、バカのほうが幸せだよ。
大野:名言やなぁ(笑)。
木下:小さい時から自分はよくムチャをしていたなって思います。
大野:俺は子どもの頃はそんなにムチャしてなかったんやけどなぁ…。
●何か変わるキッカケがあった?
大野:東京に来るというタイミングだったかもしれない。それまではムチャをすることもなく、大阪でのワンマンもいつも200〜300人くらいのところでやっていて。絶対に成功するという確信がないと、なかなか前に進めないタイプだったんです。だから東京に出てきてすぐ渋谷duo MUSIC EXCHANGEでのワンマンを決めたのも、自分の中ではすごいことで…。
木下:そうなんだ。ずっとムチャしてたのかと思った。それが何でぶっ壊れたの(笑)?
大野:東京に出てきたタイミングで、“ムチャ”というよりは“面白がり”なところが勝っちゃったのかもしれない。大阪から出てきて一発目に打ち上げる花火は面白いほうが良いんじゃないかっていうのがあって。“ムチャやけど、面白いな”と思ったら、面白いほうを取っちゃうっていう…結局、“ムチャしい”なんかな(笑)。
木下:根本は“ムチャしい”だと思うよ。
●duoでのワンマンが1つのキッカケになった。
大野:そうですね。“東京に出てきたし、勝負したい!”みたいな気持ちがあったから。そこはやっぱり“大阪魂”みたいなものがあるのかもしれないですね。“都会でやったるぞ!”みたいな。周りからは「東京に来ても何も変わらないよ」とか言われたんですけど、自分が一度も住んでないのに何も言いたくないなって。住んでみて本当に無理だったとわかってから言うのと、誰かに「無理や」って言われたことを鵜呑みにするのはまた違うから。もちろん絶対に成功するつもりで出てきているし、そいつらを見返してやりたいという気持ちもある…といったこともあって、ムチャをするのも面白いなっていう考え方になっちゃいましたね。
●木下さんも昨年4月に渋谷CLUB QUATTROでワンマンをやったりと、過去に挑戦的な試みをしてきているんですよね。
木下:そうですね。お互いにそういう大事なライブがある時は、助け合ったりもして。
大野:直ちゃんのクアトロワンマンは“太陽に届く場所 〜いのちの音が聞こえる〜”というタイトルやったんですけど、当日の昼間に俺らが“太陽に届く前の場所”っていう応援企画をやったりして(笑)。実際そこに来たお客さんの中で木下直子のことが気になった人たちが、その夜のワンマンに行ったりもしたんですよ。逆に今年3月に下北沢GARDENで僕が“絶対大野”というタイトルのワンマンをやった時も、その応援企画で“多分大野!!”っていうイベントをやってくれて(笑)。
●ハハハ(笑)。
大野:“そっちのほうが面白いわ!”っていう(笑)。他にも一緒にイベントをやったり、その中の企画でCDを作ってコラボレーションをしたりもして。そのCDを作る時に男と女でコラボしている感じを出したくて、直ちゃんの曲のサビの部分に遠吠えみたいな“オオオ〜”っていうコーラスを入れさせてもらったんですよ。クアトロワンマンで、そのコーラスが入っているバージョンをやってくれたのはすごく嬉しかったですね。
木下:オリジナルバージョンのCDにはそのコーラスは入っていないんですけど、コラボしたバージョンがすごく良くて。何のお礼もせず、勝手に盗みました(笑)。
大野:お礼とかっていう感じじゃないもんね。“してやったり”みたいな(笑)。その感じが楽しいです。
●お互いに刺激される部分もあるのでは?
大野:それはありますね。今も仲は良いけど、やっぱりミュージシャン同士としてはバチバチの関係で「俺のほうが!」「私のほうが!」ってなるから、それが面白かったりします。
●ライバル心はお互いに持っている。
大野:「直ちゃん、良いライブしよったな〜。でも絶対に俺が勝つ!」みたいな(笑)。そういうのが面白いですね。直ちゃんはピアノで俺はギターで楽器は全然違うけど、持っているパワー的なものは近くて。グッとくるところのポイントは似ている気がするので、ライブを観ていると「こう来たか!」という感じで燃えますよね。
木下:歌い方もアプローチの仕方も違うんですけどね。
●ライブの本数が多いところも共通点だったりする?
木下:ライブがめっちゃ好きなんですよ。
大野:僕も大好きですね。でもお互いに活動している界隈はちょっと違うんですよ。
木下:ブッキングライブで一緒になることはほとんどないですね。
大野:お互いのイベントに呼び合ったり、共同イベントを企画したりする場合が多いですね。
●界隈が違うんですね。
大野:わかりやすいところではピアノとギターという違いがあって。直ちゃんは“ピアノ女子”というイメージが強いと思うんですよ。力強いんですけど、そんなにはっちゃけている感じではなくて。でも僕ははっちゃけているので(笑)、あんまり合わないだろうと思っている人が多いのかもしれないですね。
木下:でも私がもし静かなピアノ弾き語り系のイベントに出たら、浮くよ? 「圧の強い人が出てきた!」みたいな(笑)。
大野:それは“圧”の問題でしょ(笑)。
●圧の強さは共通しているのでは…(笑)。
大野:グググッとくるところは近いですね。
木下:あと、声のデカさね(笑)。
大野:圧の強さは一緒やけど、最後に残るものはちょっと違うっていうのが面白いよね。直ちゃんのライブが終わった後って、ライブを思い出して色んなことを考えたりする余地があるような気がするんですけど、俺はもう爽快感だけみたいな…。
木下」「楽しかった〜!」みたいな感じだよね。
大野:そういうライブの余韻のまま「明日も頑張るか!」っていう感じになるから。そういう意味でも、対極やね。
木下:どちらかと言うと、私のライブでは泣いている人のほうが多いかな。オノケンのライブは笑っている人が多いんですよね。…やっぱり対極だね。
大野:対談って面白いね!
一同:ハハハハハ(笑)。
(次号、後編に続く)
Interview:IMAI
“木下直子&大野賢治 合同発売記念インストアイベント”
2016/07/23(土) タワーレコード名古屋パルコ店
2016/07/29(金) タワーレコード梅田NU茶屋町店