2016年春、Nothing's Carved In Stoneは実り多き日々をおくっている。シーンの猛者たちと熱いライブを繰り広げた“Hand In Hand Tour 2016”、ニューシングル『In Future』とアナログ盤『MAZE』リリース、そして5月に控えた日比谷野音ワンマン。加速度的に成長のスピードを増し、多くの支持を集めている彼らが目指す“未来”を知るために、今月号では村松と生形の2人にインタビューを敢行。ニューシングルと日比谷野音のこと、そして現在の心境をじっくりと訊いた。
●“Hand In Hand Tour 2016”の横浜Bay Hallを観させてもらったんですが、手応えはどうですか?
生形:対バンツアーが5年ぶりくらいなので、めちゃくちゃ楽しいですよ。
村松:自分らとしては待望だよね。すげぇ楽しい。
●お、いいですね。
生形:やっぱり先にライブをやられて燃えるよね。俺らのツアーだから、当たり前だけど俺らのお客さんが多いんですよ。だけど対バン相手のライブがものすごく盛り上がるんです。それを横目に見ていると“ヤバい”って思うから、その感覚が久しぶり過ぎて楽しい。
村松:しかもそれがフェスではないっていう。自分たちが心からかっこいいと思っているバンドに来てもらって、その場の環境を作っていることにも興奮するんですよね。
生形:しかもこの3本が(※当インタビューはcoldrain / 04 Limited Sazabys / BRAHMANとの対バンが終わった後に実施)、全部三者三様というか。ヘヴィロックで海外をずっとまわっているバンドと、若手で伸びてきているバンドと、先輩と。
●まさに第一線で活躍するライブバンドですよね。
生形:BRAHMANはすご過ぎました。2年くらいライブを観ていなかったんですけど、観るたびに“すごいな”って。定期的に観た方がいいなと思いました(笑)。そのくらい刺激を受けるバンドだし“バンドってこういうことだな”っていう。
村松:リハからして異次元。普通にやっているだけなのに。
生形:そこに立つだけでバンドになっていて。あの感覚は言葉にできないですね。
●このツアーを経てNothing's Carved In Stoneがどう変わるのか楽しみですね。Bay Hallでもやっていましたが、M-1「In Future」を音源で聴かせてもらって、ライブで聴かせてもらったときの印象といい意味で全然違っていて。拓さんがハンドマイクで暴れ回っていたじゃないですか。
村松:うん。
●これはそもそもどういう経緯でできた曲なんですか? 結構今までにあまりないタイプといいますか。US的なハードロックというかソリッドな印象があるんですけど。
村松:“MAZE × MAZE TOUR”の初日に楽屋で話をしていて。俺らはツアー中に曲の構想を作ることが多いんだけど、「このバンドかっこいいよね」ってお互いに言い合って音源を聴いたりしていたんです。アルバム『MAZE』のときも、「The Poison Bloom」とか、俺らの源流であるアメリカっぽい音に近付いていく動きがあったじゃないですか。その流れでラウドな音が俺たちの間で盛り上がっていて、ヘビーロックとかハードコアとかをいろいろ聴いたんですよ。それでYouTubeとかをみんなで見たりして、ポロッとひなっちがベースで最初のリフを弾いて。
●あ、ベースからなんですね。
生形:いつものパターンと言えばパターンなんですけどね。で、豊洲pitのときにアンコールでイントロだけ弾いてみたり。
●なるほど。しかもこの曲は歌詞が…。
生形:まさかのオニキ(大喜多)なんですよ(笑)。英語の部分は俺なんですけど、日本語は。しかもちょうど拓ちゃんがいなかったんです(※村松が年末に病気療養していたときの出来事だった)。それが曲作りの初日で、曲がバァーッとできて。何でオニィが書くことになったんだったかな? 俺がプリプロでギターを録って帰ってきたら、そういう話になっていたんだ。
●オニィが「書きたい」と?
生形:確か「俺と書こうよ」と言われたんですよね。最初は全部英詞でっていう話だったんです。その3日後くらいにオニィが「サビの歌詞がある程度できたから見てもらっていい?」って歌詞を送ってきたら、ぜんぶ日本語だった(笑)。
●ハハハハ(笑)。
生形:それを見て“ここから部分的に英語に訳すのか”と。一応テーマみたいなものは決めていて、それに対してオニィが書いてきて、そこにいろいろ俺の考えを乗っけた感じで作ったんです。
●テーマというのは“バンドとオーディエンスの関係”ということですか?
生形:最初はそう言っていたんですけど、オニィのやつを見る限り俺が思ったのは、バンドの生き様やスタンスみたいなものを感じたから、俺もそういう風に書きました。誰かに対してというより…もちろんそれもあるけど…何を大切にしてバンドをやっているか。
●オニィの歌詞はどういう感触でした?
村松:すごくよかった。俺の病気が治ってスタジオに来たときに、ちょうどオニィが日本語の詞をスタジオに持ってきた日だったんですよ。メロディはもう付いていたから「サビを拓が歌ってみてよ」と言われたときにこの言葉があって、それを4人で組み立てながら歌詞を作ったんです。元となる言葉はあったんですけど、少しずつ変えたり、みんなでメロディの譜割とかを考えながら。
●歌詞の最終的な調整をみんなでやったと。
村松:そういうやり方は初めてだったので、決着の部分が…例えば俺が居て、スタジオには真一が居てくれて歌を歌ってとかじゃなくて…4人でそこに決着を付けることが出来たっていうのは、すごくよかったと思う。
●バンドとしては新しいことができたというか。
村松:そうですね。
生形:俺はシングルでは新しいことをやりたいという考えがあって。シングルだからこそできることってあると思っているんですよ。それをアルバムに反映させる。海外のバンドってそういうのが多いじゃないですか。海外のバンドが先行で出すシングルってすごく変わった曲が多いと思うんです。ちょっと実験をしているんだろうなと思っていて。
●なるほど。リスナーからしたら“えっ! 次はどうなるの?”みたいな。期待が大きくなりますよね。
生形:そうなんですよ。1曲とか2曲しかないぶん、好きなことをそこでやれるっていうか。しかもアルバムと違って、より自由にできる気がしていて。曲にしても、そういう意味でも新しいことができたからよかったなと思っています。
●今までもインタビューで何回も言っていましたけど、Nothing's Carved In Stoneというバンドはすごく緻密な部分とか、それを幾重にも構築していく気持ちよさみたいなところがひとつの大きなポイントのような気がするんです。「In Future」も緻密なことをやっているんでしょうけど、音一発で決めるというか、粗いわけじゃないんだけど、大味になっているのがすごく新鮮で。むしろアプローチ的には、今まで敢えてやってこなかった、NGにしていたところなのかなと思ったんです。
村松:俺は世代としてはちょっと真一たちと違って。真一たちがダサいと思っていたものが、俺の世代になるとちょっとかっこよかったり。世代のズレってあるじゃないですか。俺らも4人それぞれ世代が違って、それでもやっぱり共通する音楽項があってそれを重ね合わせているんだけど、俺らの中でも時代に合わせて開けることができる引き出しは違っていて。別にそれは合わそうとしていないけど、そろそろ出してもいいんじゃないかなっていう部分はいっぱいあるんだよね。
●あ、これから先も。
村松:そうそう。“出したいけど温存しとこう”みたいな引き出しはいっぱいあって、そういうのがちょこちょこ開いた感覚はあるかもしれないです。
●そういえば「In Future」はハンドマイクで歌う、というのは最初から決まっていたんですか?
生形:最初から決まっていました。だからシンプルなのかもしれないですよね。ギターもなるべくひとりでできるようにしたんです。アレンジをするときも、ライブを考えているんですよ。
村松:「ギター弾きたくない」と言って(笑)。弾きたくないというか、ピンヴォーカルをやりたいと。
生形:前回のツアーからそういう場面が増えて、「もうちょっと増えるといいかもね」という話になったんです。
●なるほど。「In Future」をシングル曲にすることを決めた上でM-2「Ignorance」を作ったんですか?
村松:そうですね。メインは間違いなく「In Future」だった。
生形:先にできたっていうのもあるし、それありきで作ったんですよ。曲ができて「じゃあこれをシングルにしよう」って、そこに向かって制作したんです。
●「Ignorance」はどういう経緯でできたんですか?
生形:これもひなっちのフレーズありきですね。ほぼ同じ時期です。いつもだったら俺はギターで違うことを弾くんだけど、今回はあえてユニゾンにしているんですよ。そこがまずいつもと違うところかもしれない。その当時みんなで聴いていた音楽に影響されて、割とゴリゴリになっていて。みんなでYouTubeを観て「かっこいいね、これ」みたいに話していたことがきっかけになった曲なんです。
●だからシンプルに聴こえるのか。「Ignorance」はサビのメロディを開ききらずにスカす感じが美しく見える、Nothing's Carved In Stoneのうまいところが出ていますよね。
村松:リフレインが聴かせたくて、そういう感じでメロディを付けたんです。だからサビでガツンと来ないんだけど、サビと呼ばれるコーラスの部分があって、そこにはちゃんとメッセージがあってリフレインで耳に入ってくる、というのが合うんじゃないかなと。
生形:洋楽チックだよね。
●歌詞は拓さんですよね? パッと見でもわかるくらいの村松的世界観なんですけど。
村松:ハハハ(笑)。
●「Ignorance」の歌詞には“time”という言葉が何回も出てくるじゃないですか。「In Future」も“一秒でも 一秒でも長く”という言葉があって、同じことを歌っているんだけど、全然ベクトルが違うというか。
村松:あぁ〜、全然考えたことなかった。
●マジか(笑)。僕の解釈としては、「In Future」も「Ignorance」も見えているかどうかは別にして“希望”を求めていて、“希望”を掴むために必要なのは“時間”だという共通項があって。だから歌詞が対になっているのかなと思ったんですが。
村松:そうですね、対にしました。
●あれ? 嘘つくときの顔になってる(笑)。
村松:今回は特に何も考えなかったですね。「Ignorance」は英語から書いたんですけど、意味というより鳴りで作っていたところがあったので。仮歌の時から“time, time, time”とか言っていたんですよ。
●なるほど。ライブについても訊きたいんですが、1年前の3ヶ月連続渋谷CLUB QUATTROくらいから、目に見えてライブが変わってきましたよね。
生形:俺はそんなに変わっている気はないんですよね。ただ、どのバンドもそうなんですけど、見せ方がいろいろあると思うんです。ゴリゴリでいくのか、ちょっとポップなものを混ぜていくのかとかで、いろいろやりようはあると思っているんです。その中で、割と最近はゴリゴリなのがバンド的にもモードなのかなと。音とステージングで圧倒するっていう。
●なるほど。
生形:“感動させる”というよりは、“圧倒する”という違いというか。それが最終的に感動に繋がればいいというか。
●そこを高めることで、ライブの着地点が見える。
生形:それをやりきれたと思う日は“すごくよかったね”と思える。俺個人的にはですけど。
●それはここ最近の話ですか?
生形:ここ最近の話です。去年の3ヶ月連続の渋谷CLUB QUATTROのときは、それよりも曲を覚えるのとライブの構成を間違えないようにっていうのでいっぱいいっぱいでした。全部1本ずつだし、録音するのも知っていたし。でもその後にフェスがあってツアーがあって…前回のツアーが割と大きな箱だったから、いつもと違った感触はありましたけどね。もっと世界観をデカく見せたいとか、照明とか全部含めてですけど。
●うん、去年のツアーの照明は良かったです。
生形:そこはすごく考えたというか、考えてもらったというか。そうやって振り返ってみると、去年はいろいろやったのかな? 変わったといえば変わったのかもしれないです。
村松:確かに去年は“準備はできた”みたいな感じがありましたね。
●拓さんは最近のライブのモードというか、マインドはどういう感じですか?
村松:どうだろう? …最近はあまりないですね。“ライブができたらいいかな”みたいな。
●重く考えないということ?
村松:うん。“考えてもしょうがないな”という感じになっていて。俺はあまり考えすぎるとよくないなと思って、最近はライブのこととか“こういう風に歌詞を書かなきゃいけない”というのはあまり考えないようにしていますね。
●感じたものをそのままという感覚?
村松:ん〜、何なんですかね。俺は去年3ヶ月で変わったと思っていて。あれがキッカケでいろいろ変わったなっていう。
●うん。
村松:多少バンドにも動きがあった時期で、結果別に対したことじゃなかったんだけど、俺的には気持ちがガラッと入れ替わった時期だったんですよ。それで“ライブに求めるものって何なんだろうな?”といろいろ考えたんですけど、最終的に“あまり考えないで楽しんだ方がいいんだな”というところに帰ってきて。今はそこがブレない感じ。「楽しむ」といっても、4人のその日のグルーヴを楽しむこともできるし、お客さんとのやり取りを楽しむこともできるし。自分たちの中にあるいろんな切り口…ゴリゴリモードや楽しいモードみたいな…を、うちのバンドは何がいいかって、それを狙ってやるというよりは気分でやるんですよ。「今日はこういうモードがいいかな」というのを考えていなくて。
●その話を聞いて思い出したんですけど、この前拓さんに聞いてびっくりしたんですよ。Nothing's Carved In Stoneって、リハは1時間くらいしかしてないんでしょ?
生形:1時間は言い過ぎですけど(笑)。一応スタッフに気を遣って2時間はやります(笑)。
●というか拘束時間はそれくらいでも、実際にリハをしているのは1時間くらいなんですよね?
生形:4人で合わせるのはそうですね。あとは誰か1人各々が残ってやったりとか。
●その話を聞いてびっくりしたんですよ。リハから緻密にやっていると思っていたから。そうじゃないとあのアンサンブルはできないと思っていたら、全然違った。そのときの気分でいろんなモードになるっていうのは、たぶんリハを1時間くらいしかやっていないことと関係しているような気がするんです。
生形:自己責任ですよね。4人で合わせるのはもちろんなんですけど、うちはバンドとして特殊なんですよね。
●普通は全員でスタジオに入って練習して、それでアンサンブルをだんだん磨いていく、みたいなイメージがあります。
生形:通しリハなんて3回やって当たり前ぐらい、みたいな。でもそこはうちの場合は自己責任かなっていう。
●昔からそういう感じなんですか?
生形:最初の頃はもうちょっとやっていたかもしれないですね。でも最初から短いのは短い。通すのは基本1日1回しかしない。
●だからライブに余白があるのか。
生形:そうですね、ちょっとセッションに近いかもしれない。ガッチガチに練習してやればイレギュラーはないけど、俺らみたいにやっているとイレギュラーはたくさんありますよね(笑)。どっちにも良さはあるんですけど。
●楽曲やアンサンブルのイメージからガッチガチに練習していると勝手に思っていたんですけど、Nothing's Carved In Stoneのライブは観るたびに違う印象が強いのは、きっとそういうことなんですしょうね。あとライブというと、5/15に日比谷野外大音楽堂がありますよね。チケット争奪戦が激しいみたいですが…。
生形:俺らは東京で日曜日にワンマンをするのが初めてなんですよね。7年間やっていて、今まで全部平日なんです。
●あ! 言われてみるとそうだ! そうだったのか!
村松:日曜日に売ってみたらチケットの競争率が増したという。
●もっと日曜日にやれよ!
生形:会場が全然取れないんですよ(笑)。
村松:俺らタンポポですよ。コンクリートに咲くタンポポ。自力で出て来てる(笑)。
●ハハハ(笑)。
生形:でもNothing's Carved In Stoneで席ありの会場は初めてなので。みんな立つけど動かないですからね。
●どうなるんだろう…。
生形:集大成じゃないけどアルバムツアーでもないし、野音に合いそうなライブができればなと思ってます。
村松:まぁ、俺ら流エンターテインメントですよね。自分たちの好きなライブの形ができれば。野音は初めてだから。
●イベントでも出たことはないんですか?
生形:ないです。俺自身も2回くらいしかない。しかも昼間しかやった覚えがないから、暗いのはかっこいいだろうなと思いますね。
●野音のライブは全部いい印象があるというか、個人的にも日比谷野音で良くないライブを観た記憶がない。
村松:みんなも野音というと、それぞれの思い入れがあるんでしょうね。それをその日にお客さんと一緒に作れるっていうのも嬉しいですよ。
interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子