日本では全くもって無名の存在ながらも2度のUSツアーでは北米大陸を熱狂させた“デスメタルポップ”バンド、ジ・アズキウォッシャーズが満を持して1stフルアルバムをリリース。2号連続インタビューの後編となる今回は、アルバム『inonci』の内容について4人のジャパニーズ蛮族どもに話を訊いた(引き続きトラディショナルなメタルテイストで)。ちなみにタイトルの“イノンチ”とは、アイヌの言葉で“殺人”という意味だという。まさしく冒涜の限りを尽くすヤツらが、この狂気的かつ奇跡的作品について余すところなく語り尽くす…。震えながら、熟読せよ!
●今回は君たちの1stアルバム『inonci』について訊きたいんだけど、まず1曲目の「ツタンカーメン風ふでばこ」はバンドの代表曲的なもの?
Keita:まさにそうだね。
Kenta:自分たちではよくわからないんだけど、ライブでのウケが良いんだよ。だから代表曲になったというか、「しょうがねぇからライブの最後にやってやるか」っていう感じになっているね。
●しょうがなく代表曲になったのか…。作曲したYuにとっても、重要な曲だったりする?
Yu:この曲を作っている時は体調が悪くて…。千葉のとあるラーメン屋で脂ギトギトのラーメンを食ったんだけど、脂がキツ過ぎたのか腹を壊したんだよ。そこから数日間は下痢で苦しんだっていう、つらい思い出が甦ってくるね。だから、この曲をやる度に俺はちょっと冷や汗をかくんだ。
●下痢の記憶が甦る曲なんだね。M-7「内臓一揆」もタイトルを見ると、下痢の歌っぽいんだけど…。
Yu:この曲は下痢とは全く関係ない。逆にこれを作った時、俺の内蔵はすこぶる調子が良かったんだ。
●これはどんなシチュエーションで生まれた曲?
Yu:電波を出すデカい柱を朝から晩まで警視庁の中で支えているというバイトを、俺は1週間くらいやったことがあって。この曲の歌詞と曲は、その柱にしがみついている時に出てきたんだ。
●…それは夢の中の話じゃないよね?
Yu:現実だよ。その仕事が本当につらくて…。その場で巡回の警察官の目を盗みながら携帯電話のボイスレコーダー機能で、思い付いたものを録音していったんだ。
●警視庁の中で“嫌だ嫌だ…”とか“死ね死ね…”という歌詞を吹き込んでいたと。
Yu:もし見つかって携帯電話を取り上げられて、内容を聴かれていたら相当ヤバかっただろうね(笑)。
●HAHAHA(笑)。しかも歌詞の途中でなぜか唐突に“そして お前はゲイだろ!?”と出てくるのは…?
Kenta:どこからゲイが出てきたんだろう…?
Yu:それは俺もちょっとわからないな。たぶん、そのあたりで柱から出ている電波にヤラれちゃったんじゃないか? だんだん電波が効いてきたんだろうね。
●Yu自身も電波を出していそうだけどね(笑)。M-8「ジャングルで飢え死に」はMVにもなっているけど、今回のリード曲なのかな?
Yu:いや、歌詞をパッと見た時にこれが一番MVにしやすいだろうと思っただけなんだよね。これなら特殊効果とかを使わなくてもMVが撮れるなっていう。
Keita:歌詞に恐竜が出てきたりしないからね。
Kenta:毒キノコを食って死ぬだけの話だから(笑)。
●内容的に映像化しやすかったと。
Yu:他の曲もそうなんだけど、この曲は特に中身がなくて。
●自分で言うなよ(笑)。
Yu:いや、本当に何もないんだよね。
Keita:今回、MVの絵コンテを描くにあたって歌詞を読み返してみたら、本当にただ主人公がジャングルで道に迷って毒キノコを食べて死ぬだけの内容で。「どうしよう、これ…?」って、思わず頭を抱えたね(笑)。
Shun:それで歌詞の意味をYuに聞こうと思ったんだけど、Keitaに「いや、絶対に本人もわかっていないから」と止められて(笑)。
Keita:こっちが期待しているようなものは、何も返ってこないだろうなって(笑)。
●歌詞は意味不明なものも多いけど、Yu本人の中ではストーリーがあったりする?
Yu:基本的には、あるようでないというか…。俺の頭の中に手を突っ込んで、そこにあるものを「ハイ!」って差し出している感じだね。どちらかと言うと歌詞の内容に関しては「好きに解釈してくれ」っていうところなんだ。
●とはいえ、ブログで歌詞の解説をしているのはどういう理由で?
Yu:親切心かな。そういうインタープリター(通訳)みたいなものがないと、さすがに誰も理解できないかなと。
●まあ、あれを読んでもさっぱり理解できないと思うけどね(笑)。
Keita:全然、理解できないよね。
Kenta:理解できない情報が、さらに増えるだけっていう(笑)。
●メンバーもYuの真意を理解してはいない?
Kenta:そうだね。だから自分に都合の良いように理解して、都合の良いように演奏している感じで。M-10「水-没」なんかはまさにそうで、俺は勝手にシリアスな物語だと思っているんだよ。でもYuの中には、たぶん全く違うものがあるんだろうね。
Yu:解釈は自由だよ。勝手に変えてくれてもOKさ。
●Kentaは「水-没」をどう解釈しているの?
Kenta:この曲では珍しく半分くらいのリフを俺が書いていて、最初に持ってきた段階ではもっとEMOっぽいキレイなメロディの曲だったんだよ。でもYuから「アレンジが終わったよ」と言われて聴いてみたら、何だかよくわからないデスメタルリフから始まっていて…「何だ、これ!?」っていう。だから、俺の考えたネタをボツにしているから、「水-没」(“水”谷のネタを“没-ボツ-”にした)なのかなと思ったんだけど…どうなの?
Yu:いや、そこまで考えていなかったね。この曲も色々あったんだよ。家でデモを作っている時に、この曲の“フーフー”と言っているパートが夜に突然ひらめいて。部屋でMTRを使って色んな“フーフー”を1人で録っていたら、どうやら窓が全開に開いていたらしくて、周りから完全に“キ×ガイ”だと思われて…。隣の部屋の住人に思い切り壁をドンドン叩かれて、「いいかげんにしろ! これ以上やったら警察を呼ぶぞ!」って窓越しに言われちまったんだ。
●隣の住人も良い迷惑だな(笑)。
Yu:この曲の前半をやっている時はその思い出が甦ってくるから、俺はハラハラするんだよ。まあ、その後も窓を閉めて、作業を続けたんだけどね(笑)。
●窓といえばM-4「カンフー網戸飛ばし」も意味不明なタイトルだけど、これはどういう内容なの?
Yu:俺は高校生の時に男子校で寮に入っていたんだけど、寮の中にある網戸を全部吹っ飛ばすっていうのをやっていて。ただそれをやっていてもあんまり面白くなくて、やっている側としてもすぐに飽きるんだよね。そこでカンフーっぽい感じで網戸を吹っ飛ばしている姿を動画で撮って、誰が一番面白いかというのを競い合ったら楽しいんじゃないかと思い付いて、そういうことを夜中にやっていたんだ。
●歌詞の“しかし窓と網戸は鎖で繋がれた様だ”というのはどういうこと?
Yu:俺たちがやり過ぎたので業者が呼ばれて、窓と網戸を鎖で繋いじまったんだ。鎖で繋がれると網戸が飛ばなくなって、本当に楽しくないんだよ…。
●高校時代にそういうことをしていたのは、抑圧されていたことへの反抗的な意味合いもあった?
Yu:いや、俺は常に解放されていたよ(笑)。カトリックの学校で規則は厳しかったけど、その中でできる限りの悪さをしていたんだ。
●M-9「瞰望岩」はYuの出身地である北海道に実在するらしいけど、これはどういう内容?
Yu:瞰望岩は俺の地元にある自殺の名所で、結構な数の人がそこから旅立っていくんだよね。いわくつきなんだけど、観光名所でもあって。山にもならないような中途半端な高さの岩で、俺はその中途半端な感じが好きなんだ。歌詞は実際の話ではないんだけど、こういうことがあったら楽しいなと思うものを書いた感じだね。
Keita:この曲の歌詞はわかりやすいよね。まず瞰望岩から落ちた人が目覚めたら、ジュラ紀だったと。そしてなぜか恐竜の卵を抱えていたので、恐竜に追いかけられて絶体絶命! っていう話になっている。
●曲によっては、タイトルと歌詞の内容がちゃんとつながっているものもあるよね。
Yu:そういうタイトルは、だいたい後付けなんだよね。できた歌詞を見ながら後付けすると大体それっぽくまとまるんだけど、そうしないと逆に収拾がつかなくなってM-5「博物館 of putrefied rancid azuki washer」みたいな感じになるっていう。
●この曲はバンド名の由来になっていたりもする?
Kenta:この曲名から、このバンドの名前が生まれたんだ。まあ、曲中には一度も“azuki washer”という言葉は出てこないんだけどね…。
Keita:“azuki washer”とは何なのかとYu本人にも問い詰めたんだけど、未だに答えはわからずじまいなんだよ。
Yu:わからん…。ただ“小豆洗い”を英語に直しただけじゃないかな?
●小豆洗いは日本の妖怪の名前だよね?
Shun:しかも誰もそれを知らなかったっていう…。
Yu:曲を作っている時に「歌詞の中にこれを入れたいな」って、何か単語が浮かぶことがあって。でも結局は入れないまま進むというのが結構あるんだけど、この曲はそれをタイトルに入れたまま置き忘れちゃった感じだね。
●ちなみに“putrefied”(腐った)っていう単語も、普通はあまり使わないと思うんだけど…。
Yu:この単語って、デスメタルの歌詞に腐るほど出てくるものなんだよ。この曲の中には1回も出てこないんだけど(笑)、その言葉からそういう部分が伝われば良いかなっていう。
●デスメタルの流れを汲んだバンドだというのが伝われば良いと。デスメタル的な曲調の中に、ポップな要素を混ぜようと思ったのはどういう理由で?
Yu:デス声のいかついサウンドで、日本語の歌詞がはっきり聞こえるものってあんまりないなと思って。そういうものをやってみたいという気持ちはちょっとあったかな。実際に聴き取れるかどうかは別の話なんだけど、どこまで日本語の言葉をデス声で放てるかっていう。
Keita:でもちゃんと歌詞カードを見ながら聴けば、何を歌っているのかわかると思うよ。今回は特にそういう曲が多く入っているから。
●M-3「千切れlove」の“傘はさせそうにない、槍だから”という部分で急に歌謡曲的なメロディが入ってくるのも面白いかなと。
Yu:そういうところは全部、俺の思い付きだね。「これを入れたら楽しいかも?」みたいなことの連続が、こういう形になっていて。
Shun:俺がこのバンドに誘われた時、最初に聴かされたのが「ツタンカーメン風ふでばこ」「千切れlove」「ジャングルで飢え死に」とM-6「Niflheimr」で。どれも自分の中ですんなり消化できた中で、「千切れlove」だけはすごく引っかかっていて…。この曲で初めて「ヤベェ…このバンドは頭がおかしいな」と気付いたんだよね。
●逆に他の曲はすんなり受け入れられたというところに、Shunのすごさを感じる…。
Kenta:逸材だよね。
Keita:俺たちも最初、こういう音楽をShunはきっと受け付けないだろうなと思っていたんだよ。でも意外や意外、今となってはShunが一番、頭がおかしいんじゃないかっていう(笑)。ここまで自分の中で消化できているっていうのがすごいよね。
●この曲は展開のめまぐるしさも面白いところかなと。
Kenta:この曲は繰り返しがないんだよね。
Shun:「千切れlove」は1回も同じパートが出てこないんだ。どのパートも1回やったら、それで終わり。俺はこの曲のイントロがすごく好きなんだけど、最初の数秒だけで終わるっていう(笑)。
Yu:俺たちの曲には、“決して後ろを振り向かない”というものが何曲かあって。
Keita:このバンドの曲を譜面に起こすと、繰り返し記号が全く使えないから大変なんだよ。一体、何メロまで出てくるんだっていう…。
●Aメロ〜Bメロ〜サビとかで終わらずに、Cメロ以降もどんどん発展していく。
Yu:サビを繰り返してみようかなと軽く意識したりもするんだけど、自分が思うままに作っていくと結果的にはよくわからない感じになって。今作の曲は初期のものが多いから、そういう意味で特に何も考えていない状態で作った曲たちが入っているのかもしれないな。
●最近はもっと考えて作るようになってきた?
Yu:いや、表面だけだね(笑)。
●HAHAHA(笑)。ちなみにリリース後は日本国内でライブの予定も特に決まっていないとのことなんだけど、何か理由がある?
Keita:俺たちは正直、日本でライブをする意味をあまり感じていなくて。
Kenta:日本のライブハウスでやると、俺たちが必死でこの曲たちを演奏してみても、会場が全会一致でポカーンとなっちゃうんだよね。でもアメリカだと、たとえば「内臓一揆」のレゲエパートでオーディエンスが踊ってくれたり、デスメタルパートでは頭を激しく振ってくれたりするのが楽しくて。こんな曲たちにもちゃんと反応してくれるんだっていう喜びがある。
Shun:こっちのことを知らないのに、初見でそういう反応を見せてくれるのがすごく嬉しいんだよね。
●日本のライブでは反応があまり感じられないと。
Yu:日本でライブをやると本当にみんながポカーンとしているんだけど、俺は逆にそれが快感なんだよね。「こいつら、全然わかってないな」っていうのがもう…ゾクゾクするよ(笑)。
一同:HAHAHAHAHA(爆笑)。
●まずは今作をキッカケに、日本のリスナーにも興味を持ってもらえたら良いね。
Yu:理解されるかされないかも、まず聴いてもらわないことにはわからないからね。俺たちの今一番の関心はたくさんの人に聴いてもらって、どういう反応をするのかを見たいっていうところなんだ。
Keita:Yuの一番近くにいるはずの我々でも理解しきれていないわけだから、「みんなはもうご自由に理解してくれ!」っていう感じだね(笑)。
Interview:Imai
ジ・アズキウォッシャーズ - ジャングルで飢え死に [Official Music Video]