ロックンロールをベースにした爆発的なサウンドに、どこか懐かしさを漂わせる歌謡曲的なメロディと歌詞。そんな二面性を持った唯一無二のロックバンド、Outside dandyが初の全国流通盤となる1stフルアルバムをリリースする。2007年に地元・愛媛で結成した彼らはメンバーチェンジなどの紆余曲折を経つつも、精力的なライブ活動で実力を磨いてきた。聴く者の心に響くメッセージ性を持った楽曲と、フロアを沸かせる熱いパフォーマンスはその賜物だろう。様々な想いのこもった今作『Mr.』を名刺代わりに、彼らはここから新たな一歩を踏み出していく。
●2007年に愛媛で結成されたそうですが、最初から今のメンバーだった?
村上:初期メンバーは、僕と松本の2人だけなんです。2009年に4人で上京してきたんですけど活動がなかなか上手くいかずに、地元から一緒に出てきたベースとドラムは1年で辞めてしまって。2011年頃に今の2人が加わって、現在の形になりました。そこからやっと本格的な活動が始まった感じですね。
●結成当初はどういう音楽をやっていたんですか?
松本:グランジっぽい曲をやっていましたね。
村上:結成当時、僕はニルヴァーナにハマっていたんですよ。あと歌謡曲が元々好きだったので、歌謡曲的なメロディを激しいサウンドに乗せたものをやっていて。当時は、曲自体ももっと暗くてダウナーな感じでしたね。今みたいにダンスロック的な部分やライブでお客さんを煽るようなアプローチもなく、ライブでも粛々とやっている感じでした。
●今のような音楽性になったのはいつ頃から?
松本:2013年頃だと思います。今もライブで定番になっている「サタデーナイトメランコリック」っていう曲が、その頃にできたんですよ。初めて僕たちが作った16ビートのダンスチューンだったんですけど、その曲ができるまで僕たちは客席から一歩引いたようなライブしかできなかったんです。だから暗い印象もあったし、近寄り難い印象もあって。でもその曲をライブでやり始めてからは、客席との距離も縮まっていったんですよね。
●「サタデーナイトメランコリック」ができてから、ライブも変わっていった。
松本:僕たちも客席を巻き込むようなライブができるようになって、客席からもステージに向かってくるようなエネルギーが出てきたんです。その時からほぼライブで欠かしたことがないくらいやっているので、僕たちを変えてくれた曲だなと思います。そこからはお客さんが増えていくのも、目に見えてわかったんです。より客席に向けて発信するような曲作りができるようになった1つの起点でしたね。
●色んな変化の起点になる曲だったと。
松本:そこから村上のボーカリスト性も高まっていって、そこに魅力を感じるお客さんもたくさん来てくれるようになったんです。ライブのエネルギー感が増してきたことで、僕たちももっとパワーを上げていこうということで変わっていった感じですね。そこからは作ってくる曲が一気に変わったし、歌詞の書き方も変わりました。
●クレジットを見ると作詞作曲は村上くんがメインでやっているわけですが、編曲がOutside dandy名義になっているものと松本くんの個人名義になっているものがあるのはどういう違いなんですか?
松本:基本的には僕がアレンジをしているんですけど、個人名義のものは僕が8割以上アレンジを加えたものですね。でもたとえばM-1「OVER」やM-10「さらば、ロックスター」のように、“気持ち”を大事にした曲というのがあって。「まず気持ちだよね」っていう曲はみんなでアレンジを作り上げているものが多いので、そういう違いが出ているんです。
●「OVER」や「さらば、ロックスター」は“気持ち”が先行している。
松本:「OVER」はメンバーが抜けそうになったりして、僕らが悩みを抱えていた時期にできた曲なんですよ。だからサビの“愛を超えて”というフレーズも色んな意味で捉えられると思うんですけど、自分たちに向けたメッセージ性もあって。「さらば、ロックスター」はバンドマンの生き様を書きつづった曲で、自分たちが泥水をすすってきたことを赤裸々に書いているんです。そういう“気持ち”が先行する曲に関してはメンバー各々が思うことを尊重してアレンジしているという意味で、編曲名義も合作にしています。
●この2曲の歌詞は、地元から上京してきた自分たちの気持ちを書いたものなのかなと思ったんですが。
村上:歌詞のストーリーやテーマとしては自分のことなんですけど、どんな人にでも“描いている夢”はあって。そこをどれだけ突き詰めているかは別として、“こんなはずじゃなかった”と思っている人がほとんどだと思うんですよね。だからバンドマンとしての自分たちを描いてはいるけれど、そうじゃない人にも伝われば良いなと思っています。
●バンドマンに限らず、夢を追いかけて東京に出てきている人たちに向けている。
村上:それだけ東京という街にはたくさんのストーリーがあると思うし、色んな人間が色んな想いを抱いて暮らしている街だと思うから。そういうところを切り取って、音楽にできたらなと思っています。
●村上くんの歌詞は、ちょっと懐かしい感じもするのが特徴かなと。
松本:僕と村上は、90年代のJ-POPが大好きで。あの時代って、本当にみんなが良い歌詞と良い歌を歌っていたという印象が今も残っているんですよ。その当時の音楽が今でもすごく好きだから、そういった時代を取り戻したい気持ちが自分たちの中にはあって。だから古臭いと言われても、村上が書くレトロな感じの歌詞は活かしていきたいんです。サウンド的にはロックンロールという印象を持たれるんですけど、実は僕らが大事にしているのは歌謡曲の要素で。そこはこれからも守っていきたいところですね。
●歌謡曲の要素を大事にしているんですね。
松本:村上はすごくロックンロール的なボーカリストかというと実はそうじゃなくて、歌謡曲を歌い上げるタイプのボーカリストなんですよね。サウンドは爆発的なロックンロールなんだけど、ボーカルの持っている雰囲気はすごく歌謡曲チックだという2面性をOutside dandyでは大事にしたいんです。
●村上くんのボーカルとしてのカリスマ性や個性も、バンドの大きな武器になっているのでは?
松本:もちろんそうですね。たとえばもし他のボーカリストが作る曲や歌の後ろにギターをつけろと言われても、今やもう僕にはどんなギターを弾けば良いのかわからなくて。逆に、自分よりもギターが上手い人はたくさんいるだろうけど、Outside dandyのギターは僕にしか弾けないと思っているんです。自分にとっては、そこを追求してきた9年間だったから。
●これまで9年間活動を重ねてきた中で、村上くんのボーカルや松本くんのギターそのものが“Outside dandy”になっている。
村上:僕ら2人は付き合い自体も古くて、もう12年くらいになるんですよ。だから僕も同じように、もし他のギタリストと一緒にやれと言われてもたぶん無理だと思っていて。すごくわがままになっちゃうというか。2人とも我は強いんですけど、僕は全般的に松本の言うことを信頼しているんです。「翔(松本)がそう言うなら、OKでしょ」っていうのは多いですね。それは諦めではなく、信頼だから。その中でも自分が譲れないところはちゃんとぶつけるし、今はすごく良いバランスでやれているなと思います。
●そういう関係性が徐々にできてきた?
村上:徐々にですね。
松本:歳を取っていくと各々が色んな経験をしていくものだし、お互いが東京に来て良いふうに変わっていったという成長過程を見てきているから。そういう中でお互いの言葉にも説得力が出てきて、気付いたら良いバランスが取れていたんだと思います。あと、もちろん他のメンバー2人がバランスを取ってくれているというのもあって。鈴木(Ba.)や柳田(Dr.)に助けてもらっているなと感じる部分もたくさんありますね。
●現リズム隊の2人が加わって、今の4人になったことも大きかった。
松本:この2人じゃなかったら難しかったなと、今でも思いますね。バンド内の仲もすごく良いほうだと思うんですよ。
●制作中にぶつかったりすることもない?
村上:それはあります。今回の制作中もあったんですけど、ぶつかるとすれば僕ら2人がほとんどですね。
松本:音楽って正解がないじゃないですか。だから自分たちでもわからなくなる時があって。自主でやっていた時はずっと同じエンジニアさんと一緒にやってきたんですけど、今回はレーベルに所属して初めての流通盤ということで今までとは違う人と一緒にやったんですよ。その人からの指摘で歌詞や曲の見直しも入った上で、今回はレコーディングに臨んでいて。初めて第三者が加わったことによって、自分たちの“常識”が実は常識ではないという部分が見えてきたんです。歌詞やアレンジについて直したほうが良いと言われたことに対して自分の中で混乱もあったし、そこで何が正解かわからなくなったんですよね。
●初めて第三者が加わったことで、自分たちの中に迷いが生じたと。
松本:そういう中でも、自分たちが譲れない部分というのは絶対的に守っていて。助言してくれる人がいたことによって、“何が自分たちにとって強みで、何を本当に大事にしたいのか”というのが今までわかっているようでわかっていなかったんだなということに気付いたんです。今回はそれが再確認できたレコーディングや作品になったと思いますね。
●第三者と一緒にやったことが良い経験になった。
村上:そうですね。特に“伝わる/伝わらない”っていうところについては、自分の中でハッキリした部分があって。ただ、歌詞を直すのは辛すぎて、本当にハゲるかと思いましたけど…(笑)。
●ハハハ(笑)。それくらいつらかったと。
村上:できれば、歌詞は直したくないんです。だから今は曲を作っている時点で、何回も歌詞を見直すようになりましたね。
松本:それから村上の作る曲や書いてくる歌詞がまた変わったし、僕たちメンバーが受け取る印象も変わったから、本当に良い経験になりましたね。階段を1つ上れたようなレコーディングでした。
●アルバムタイトルの『Mr.』というのは、どこからきているんですか?
松本:バンド名から連想される言葉というか。僕らにとって今回は色んなことを経て、ようやく辿り着いたリリースなんですよね。レーベルに所属して初めての全国リリースというのもあって、自分たちの中ではすごく思い入れが強くて。これを機に自分たちが変わっていかなきゃいけないし、そういう意味でも今回は自分たちを表すタイトルをつけようと思ったんです。
●それが『Mr.』だった。
村上:『Mr.』という案が出た時点で、これが一番良いなと思ったんですよね。今回が初の全国流通ということもあって、全国的に見ればOutside dandyってまだ何者でもないと思うんです。そのデビューアルバムに『Mr.』って付けてしまうのが超カッコ良いなと思って。
松本:僕たちにとっては、これはもう『Mr.』っていう作品なんですよ。言葉の意味というよりも、響きと印象が大事で。自分たちの中では「こういう曲だったら、このタイトルでしょ」って自然に思えたから。「『Mr.』っていう作品だから聴いて下さい。そしたらわかってもらえるから」っていう感じですね。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子