多種多様なジャンルを貪欲に咀嚼して昇華した“規格外”サウンドを鳴らすバンド、DIV(ダイヴ)が新作ミニアルバム『EDR TOKYO』をリリースする。“エレクトロニック・ダンス・ロック”の頭文字から名付けられた“EDR”という言葉が示すように、デジタルなサウンドとバンドの鳴らす有機的な生音が高次元で融合したのが今作だ。昨年10月にリリースしたシングル『イケナイKISS』で見せた方向性をさらに推し進め、単にEDMの要素を取り入れただけには終わらない、比類なき“DIVの音楽”を創り出している。ミニアルバムとしてはデビュー作の1stミニアルバム『無題のドキュメント』(2012年)以来2作目となるが、またここが彼らの新たな出発点となるのかもしれない。そして浮き沈みの激しいシーンの中で楽曲はもちろんのこと、ライヴでも高い評価を集めてきた彼らが2016年10月10日、遂に日比谷野外大音楽堂ワンマンライヴに挑む。バンドとして今、大きな契機に対峙しようとしている4人にじっくりと話を訊いた。
「自分たちにとっても“起点”になる作品なのかなと思っていて。身を削って作った作品ができたので、このCDに恥はかかせたくない。この思い入れを形にした音源を、汚すような活動はしたくないなという気持ちがあるので、それをライヴでも形にしていけたらなと」
●昨年10月にリリースしたシングル『イケナイKISS』はEDM色が強いものでしたが、今回の新作ミニアルバム『EDR TOKYO』はそこをさらに推し進めた感じがします。
CHISA:『イケナイKISS』の時からこういうコンセプトでやっていこうかなとは思っていたんですけど、やっぱりシングルでは伝えきれない部分もあったんです。僕らにとってミニアルバムは一番最初に出して以来(1stミニアルバム『無題のドキュメント』/2012年)で、今回で2枚目なんですよ。だから1つの新たな出発点として、ミニアルバムっていうものが良いなと思って。それに、やっている側の僕らもリフレッシュできるかなというところはありましたね。
●EDM色を強めることで、今までのファンに受け入れられるかどうかという不安はなかった?
CHISA:最近そこを振り切っていることがスポットライトを浴びた感じになっているんですけど、DIVというバンドは最初からそういうものだったんじゃないかなと思うんです。たとえば他のバンドはライヴでお客さんを盛り上げるためにサビの後にガッツリ間奏を入れたりしていた時も、あえて僕らはそういうことをやらなかったりして。
●お客さんに対して擦り寄るようなことはしないというか。
CHISA:自分たちが今やりたい曲をやることで、もしかしたらこれまで応援してくれてきた人たちが「DIVはそんなんじゃない」って言うかもしれない。でも「最初はそうだったじゃん」って思うんですよ。自分たちのやりたい音楽を作って、それを一生懸命やるというのが最初の形だった気がするから。そもそも今までDIVを好きで応援してくれていた人たちに対して、本当に僕らがやりたいことをちゃんとやらなかったら、それはそれで失礼というか。
●実際、今作ではEDM色が増しつつもライヴでノレる感じやバンド感もちゃんとあって。そこのバランスがすごく良い作品になっていると思います。
CHISA:今回はバンドとデジタルの融合をテーマに、メンバー各々が思うものをまず0(ゼロ)から作るところから始まったんですよ。色んなバンドの形があるけれど、DIVに関しては“これをやる”と提示したライヴや音楽に対して全員がちゃんと向き合って、全員が理解しなきゃダメだなと思っていたんです。誰か1人がやりたい音楽を作って、それにみんながついていくような形ではライヴができないんじゃないかなと思っていて。
●DIVとしてやろうとしていることを、メンバー全員がきちんと理解することが必要だと考えていたんですね。
CHISA:たとえばEDMっていうコンセプトでライヴをするにしても、その音楽に対して各々が“どう理解してやっているか”が大事だと思うんですよね。別に言葉にして言えなくても良いんですけど、“良いものができた”と感じられるのはそういうところからなんじゃないかと思うんです。そういう意味では自分の中での“DIV”っていう音楽の1つの形が、今作を作ることによって4人の中にできたのかなと。
●全員がちゃんと向き合って考えたことによって、新たな“DIV”の音楽の形を1つ確立することができた。
CHISA:実際にやってみると、すごく面倒くさいんですけどね(笑)。誰かが1つ強いイメージを持って引っ張っていくほうが、本当は楽なんですよ。みんながどんな曲を持ってきたとしても、それに沿ってアレンジしてしまえば良いわけだから。でもそれだとコンセプトに対して理解の差が生まれちゃうし、その曲を持って行った時に全員が同じ熱量でライヴを作れないと思ったんです。だから、今回はそういうふうにやろうと思って。
●今回は曲作りも全員でやっているんですよね。
CHISA:自分が思う“DIVの音楽”を2曲持ってくるというのが、このアルバムのスタートだったんですよ。結果的にM-1「東京、熱帯夜につき」とM-6「神様がもしいるなら」が僕で、M-2「夜想GALAXXXY」とM-4「甘美な嘘と退屈な薄紅」がsatoshi、M-3「サクラユメ」(通常盤のみ収録)がちょびで、M-5「Relic Snow」が将吾という内訳になっていて。どの曲も『EDR TOKYO』というイメージで作ってきて、そこからアレンジに関してはみんなで話し合った結果、この形になっています。
●『EDR TOKYO』というタイトルやコンセプトは、最初に話し合って決めていた?
CHISA:『EDR TOKYO』だったり“DIVの音楽”という言葉を使っているんですけど、要するに『イケナイKISS』からの流れのものなんですよ。そこからもっと洗練させたものというか、各々が思う形で“『イケナイKISS』を進化させたらこうなる”っていうものを作ってきて。それが結果として、“DIVの音楽”になるんだと思うんですよね。
●各々が思う形で作ってきたことで、バラバラなものになったりはしなかったんですか?
将吾:1人1人が考えることだから、そこに統一性はなくて良いんです。みんなが同じようなものを作って来ても逆に困るし、それが望んだ結果なんですよ。目指しているものは一緒だけど、作るものは違うっていう感じですね。
CHISA:どれだけ「こういうものが作りたい」と言ったとしても、実際に聴いてみないとわからないんですよね。やっぱり100回説明するよりも、1曲作って持ってきたほうが絶対に早いんです。だからコンセプトが決まった時に「それぞれ作ってきて下さい」と言うことで、すごくシンプルに進んだというか。“こうあるべき”というものをみんなで話し合ってから作ったというよりは、コンセプトをまず自分で解釈して噛み砕いて音にして持ってきてもらうところから始まった感じですね。
●個々の解釈に委ねるというか。
CHISA:だから、あんまり「それは違うよ」っていうふうに矯正もしなかったんです。そういうことをやると、誰か1人の音楽になっちゃうから。“DIVの音楽って何だろう?”っていうことを考えた時に、それをどう解釈するかは4人の自由だと思っているんですよ。でも結果的にこういう音ができたから、1つの基準はできたのかなって。
将吾:できたよね。「東京、熱帯夜につき」と「神様がもしいるなら」は、音色がEDM的なんです。でも「サクラユメ」と「Relic Snow」に関しては、構成がEDM的なものになっていて。そういう色んなパターンが詰まっている感じですね。
●単に音色だけではなく、色んなEDMの側面を形にできている。
将吾:そもそも今回のコンセプトが決まった時に、僕は「全部が4つ打ちになるのは嫌だ」と言ったんですよ。EDM色は出ているんだけれど、ちゃんとロックに聴こえるというものにはできたと思っていて。EDMというのを成り立たせるのは、音色だけではないというのを今回学びましたね。
●それぞれがコンセプトに向き合って解釈したことによって、EDMというものをちゃんとDIVの音楽として昇華できているのかなと。あとはやはり4人全員が作曲していることでも、DIVの色が出せているんだと思います。
CHISA:4人全員が曲作りに携わったという意味でも、すごく自然な形で1人1人が思い入れを持てる作品になったんじゃないかなと思います。バンドって、そうあるべきだと思うんですよね。「君は上手く弾いてくれたら良いから」っていうだけなら、別にその人である必要がないというか。自分で曲を作って、自分のパートを担当してライヴでもやるっていうのが、あるべきバンドマンの姿なんじゃないかなと思うんです。
●この4人がいてDIVなんだという、必然性を感じさせる作品になっている。
CHISA:最近の作品はそうなっていますね。もしこの4人じゃなくて、もう1人違うメンバーがいたり、もしくは誰かがいなかったとしたら、全く違う作品になっていたはずなんですよ。この4人全員がいないと作れないものじゃないとダメだと思う。各々が好き勝手に作ってきたものを、みんなでどうやってアレンジしようかって考えていくような今回のやり方って全然効率的じゃないけど、バンドをやる上では効率的なんじゃないかと思うんです。すごく自然なやり方だから。たぶんそこでズルしたら、絶対にどこかで歪みが生まれるんだろうなって思うんですよね。そういう意味でも今回は、ものすごく当たり前に“バンドをやっている”っていう感じで作れたんじゃないかと思います。
●面倒くさい過程をあえて踏むことで、ちゃんと“バンド”として作ったものになるわけですよね。
CHISA:そう思いますね。テクノロジーも進化しているし、“こうやったほうが楽”というものはあるんでしょうけど、当たり前のことを当たり前にやるのが一番良いと思うんですよ。僕らはズルしてやれるほど、器用じゃないと思うから。自分で作っていないものを“作ったフリ”をしてライヴで見せても、良いライヴにはならないと思うんです。そういう意味では、まだ今作からは「東京、熱帯夜につき」しかライヴでやっていないですけど、他の曲も早くやってみたいんですよね。
●「東京、熱帯夜につき」は、ライヴでも今回の音源と同じアレンジでやったんでしょうか?
将吾:アレンジは一緒ですね。
CHISA:でも、聴こえ方は違うかもしれない。ミックスのバランスが、ライヴと音源では全然違うから。やっぱりライヴでは楽器を弾いている人が目の前にいるので、同期の音よりも楽器や歌のほうが前に出ていると思うんですよ。もしかしたら先にライヴで聴いている人は、MVや音源を聴いた時に“あれっ、こういう曲だっけ?”ってなるかもしれないですね。
●特にこの曲は音源で聴くと、ギターの音があまり聴こえなかったりしますよね。
CHISA:この曲にはギターを1本しか入れていないんです。
将吾:でもスピーカーによって、聴こえ方が違ったりして。スピーカーによってはギターの音がよく聴こえたりもするのも面白いところなんですよね。安いものも高いものも色々あるんですけど、意外とチープなヤツだとギターがメッチャ聴こえたりするんです。
●そういう楽しみ方もできるものになっている。
将吾:言ってしまえば、全曲そうなんですけどね。ただ何故か「東京、熱帯夜につき」はイヤホンの種類でも変わるんですよ。こういう曲って普通はローが効くイヤホンのほうが良い感じに聴こえるんですけど、この曲の場合はそれだとギターが全然聴こえないんです。でもフラットめのイヤホンで聴くと、意外と聴こえたりして。実は一番最後の大サビの部分ではギターソロっぽいことをやっているんですけど、そういうのも聴こえたりする。もちろんライヴでは、そこもメチャクチャ聴こえると思います。
●実際、ライヴでやってみた時の反応はどうだったんですか?
CHISA:良かったですね。EDMの1つの持ち味として、ロック的にメチャクチャ盛り上がったりはしないけど、自然に身体を揺らせるのが良いところなんだろうなと思って。初めてやる曲だとしてもリズムの面とかで、人の身体が受け入れやすいジャンルの音なんだろうなと思いました。
●ノリやすいリズムなんでしょうね。そういう面でEDMの良さは取り入れつつも『“EDR” TOKYO』というタイトルにしているのは、バンドとしてのこだわりなのかなと。
CHISA:EDMではないですからね。たとえば“バンド”という部分を外してしまえば、簡単にEDMになるわけじゃないですか。もしかしたらそうしたほうが、自分たちがやりたいイメージを簡単に実現できるかもしれない。でも僕らは、本来は混ぜられないものを無理やり混ぜようとしているんですよね。だからEDMじゃなくて、“EDR”なのかな。相反するものを混ぜているから、自分でもすごく面倒くさいことをやっているなと思います。そういうところもあって、今回はあえて日本語の歌詞にしているんですよ。たとえば「東京、熱帯夜につき」みたいな、全然EDMっぽくない言葉をタイトルにしていて。
●「甘美な嘘と退屈な薄紅」なんかも、EDMっぽくないタイトルですよね(笑)。
CHISA:そんなタイトルのEDMの曲って、他には絶対にないじゃないですか(笑)。
●そういう部分も含めて、“DIVの音楽”になっている。アルバムタイトル『EDR TOKYO』の“TOKYO”は、「東京、熱帯夜につき」から来ている?
CHISA:そうですね。今作の中では「東京、熱帯夜につき」が一番、色が出ているというか。“EDR”というコンセプトで統一されている中にも様々な色があるという印象があって、それが東京っぽいのかなと。カラフルだけどチープじゃないし、聴き方によってはシリアスに聴こえたりする感じも東京っぽくて良いなというところで、このタイトルにしました。
●サウンドのデジタルな質感は、東京の街が持つサイバーな感じにも通じる気がします。
CHISA:東京って冷たさもあって、ちょっとカオスな感じがするんですよね。あと、“TOKYO”を付けることで世界に向けている感じもするというか。東京から発信している感じがして、カッコ良いかなというのもありました。
●『EDR TOKYO』で示したものが、DIVの今後の指針にもなっていくんでしょうか?
CHISA:僕らのことなので“これを一生やっていく”とは約束できないんですけど、今はこれがDIVの音楽かなと思っています。これからブラッシュアップしていって、新しくできた“DIVの音楽”というものをさらにレベルアップしていけたら良いですね。
●ここで作ったものをさらに進化させていく。
satoshi:僕はガムシャラになりたいんですけど、ガムシャラになれないタイプなんですよ。でも『EDR TOKYO』はガムシャラになれる要素を持ったアルバムだと思うんです。思い入れもあるし、ただ「できたからリリースします」みたいな気持ちではないから。だから、“これがどうなるのかな?”というところに興味があるんですよね。自分たちにとっても“起点”になる作品なのかなと思っていて。身を削って作った作品ができたので、このCDに恥はかかせたくない。この思い入れを形にした音源を、汚すような活動はしたくないなという気持ちがあるので、それをライヴでも形にしていけたらなと思っています。
●10/10には日比谷野外大音楽堂(以下、野音)でのワンマンライヴも控えていますが。
satoshi:こういう音楽性のものが終わるのか続くのかは、ライヴが分岐点になると思っていて。野音がどういうライヴになるかによって、もしかしたら永久にこういう音楽を追究していくことになるかもしれないし、逆にそこでEDRの時期は完結して次のものをやるということになるかもしれない。ライヴっていうものには、それくらいの力があるんじゃないかな。
●野音でやるイメージは描けている?
ちょび:初めての野外なので、どういうものになるのかというのがまだそこまでイメージできていないんですよ。まだ先のことなので今のうちに色々と勉強して、どういうDIVを見せられるのかという可能性は探しておきたいなと思っています。DIVにとって今までで一番キャパのデカい会場でのワンマンでもあるので、見せ方は常に考えていきたいですね。
satoshi:これからの日々の過ごし方が大事だと思っていて。『EDR TOKYO』をリリースしてから、それがお客さんに届いてどういう気持ちになってもらったか、そして僕はどういう気持ちでステージに立ったのかというのをこれから経験していくことで、野音に自分がどういう姿で立ちたいかも見えてくると思うんですよね。だから楽しみでもあるんですけど、怖くもあるっていうか。正直言って僕は今(2月)の段階では、野音で良いライヴができないと思っているんです。
●今のままではダメだという感覚がある?
satoshi:もうDIVは、冗談では済まされない規模になってしまったと思うんですよ。だから野音をやるに値するアーティストになれなかったら、ダメなんだろうなと。我々はあくまでもチャレンジする立場なので、厳密に言えば“野音に立てそうな人”になっていれば十分だと思うんです。野音を超えているようなアーティストになれたら一番良いんですけど、いきなりそれは難しいと思うから。ただ、“野音にチャレンジするに値するミュージシャン”には10/10の時点でなっていなければ、良いライヴはできないと思いますね。
●挑戦者の資格は手に入れておかないといけない。
satoshi:挑戦者の資格がないなら、やったとしても良い戦いにはならないんですよ。少なくとも今の2月の時点ではまだできないと思っているから、あと7ヶ月をどう生きていくかでしょうね。それで変われないならダメだなと。
●10/10は、メンバー個々が野音までの日々をどう生きてきたかが試される1日にもなりそうですね。
CHISA:どうなっていくのか、見ていて欲しいです。ものすごく楽観的な言い方をすれば「やれるんだから、やれば良い」という話ではあって、あとはそのチャンスを活かすのか逃すのかっていうだけだと思うんですよ。“ここまでやってダメだったら、もうダメだ”と思えるくらいまでやらないとダメだと思うから。
satoshi:やっぱり『EDR TOKYO』は一生懸命作ったものなので、それを持って野音までは頑張っていきたいんです。そして『EDR TOKYO』を持ったDIVのsatoshiは野音で死んで、10/11からは新しい形の自分として活動できるくらいまでいきたいですね。
●ある意味、野音はバンドにとって1つの通過点というか。野音が頂点ではなくて、そこをキッカケにもっと大きくなっていかなくてはいけない。
satoshi:そうあるべきですよね。僕らは別に野音を目指して音楽をやってきたわけじゃないから。
CHISA:もっと純粋なことを言えば、良いライヴをすれば会場はあんまり関係ないですからね。“良いライヴをするっていうのはどういうことか”という柱を1人1人がちゃんと持って挑んで、それがお客さんに伝わるかどうかというだけだと思うんです。自分も挑戦者として、楽しみなんですよ。ものすごくワクワクしているというか。野音で良いライヴができなかったら死ぬわけじゃないけど、逆に“死んでも良い”と思えるくらいのライヴができたら良いなと思います。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子