シンプルかつソリッドなサウンドと、圧倒的な声で紡ぐリアルな悩みを描いた歌詞が10代を中心に共感を得ている3ピースロックバンド、ユビキタス。2012年10月に大阪で結成した彼らが、3年目にして初のフルアルバム『記憶の中と三秒の選択』を完成させた。ベルウッド・レコードの新インディーズレーベル“ROCKBELL”より2014年1月に全国デビューを果たして以降、これまで2枚のミニアルバムを発表してきた彼らだが制作とライブが続く中で苦悩もあったという。今年5月と7月には『空の距離、消えた声』『透明人間』という2枚のシングルを立て続けにリリースし、徐々に良いベクトルへと向かっていった末に辿り着いたのが今作だ。“進化と退化”というテーマの下に、この3年間の集大成であり現時点でのベストとも言えるアルバムを作り上げたメンバー3人に迫る巻頭スペシャル・インタビュー。
●結成から3周年を迎えたわけですが、3年間での進化を自分たちでも感じられている?
ヤスキ:最初は本当にサクッと軽い感じで結成したんですけど、その頃からの遊び心は失わずに来られているのかなと思います。3ピースバンドをやるのも初めてだったので、最初は音数の少なさを自分たちでも消化しきれていなかったんですよ。でもそこから3年を経て、前進している感はありますね。
ニケ:最初の1年間は本当に自由な感じで、自分たちがやりたい時にやるというスタンスだったんです。でもだんだんお客さんが増えてくるにつれて、ライブ1本1本に対する姿勢も変わってきて。ちょっとずつ自信が付いてきて、ライブの見せ方も変わってきたと思います。
●結成当初はそこまでガッチリとバンド活動をしている感じではなかった。
ヤスキ:最初の1年は本当に3ヶ月に1回くらいしかライブをしていなかったんですよ。だから結成3周年とは言いつつも実質は2年くらいの内容かなという感覚もあって、「もう3年経ったのか…」という感じですね(笑)。結成当初は、今頃はもう海外でやっているくらいのイメージを持っていて…。
●もっとビッグになっている予定だったと(笑)。
ヤスキ:完全に遊び心から始まっているから(笑)。でも遊び心に勝るパワーはないと思っているんですよ。だから、海外まで行っているんじゃないかなとイメージしていたんですよね。発信する側がそういう面白いことをやってワクワクさせられないとダメだなというのは、結成3年目の今もすごく感じています。
●遊び心は失わずに来られている。
ヒロキ:今でも心の底から遊んでいますもん(笑)。個人個人でイメージは違うんでしょうけど、アホな夢を語っていましたね。「来年はこうなってるはずやから、たぶん3年後には海外でごっついフェスに出ていると思うけどな」みたいなことを言っていて。
ヤスキ:内々だから言える、仲間同士のトークっていう感じですね(笑)。
●他人には馬鹿げていると思われそうな夢を語り合える関係性というのも大事なのでは?
ヤスキ:今までのバンドでは、そういうことをやってこなかったから。ユビキタスでは本当に“兄弟”みたいな感覚で一緒に音楽をやれているというのは、バンドのグルーヴにもつながっているなと思います。
●その兄弟のような関係性が良いんでしょうね。
ヤスキ:たとえばメンバーがすごく困っているとしたら、全力で助けたくなる…みたいな。今までやってきたものに関しては、僕はすごくドライだったんですよ。“音楽っていうのは曲が全てだ”みたいに思っていたんですけど、そこにプラスアルファとなる“人間味”というものを今のメンバーに教えてもらって。ユビキタスを結成したことによって、音楽と自分のプライベートを良い意味で混ぜられるようになったというか。それまではそこを完全に切り離していたんです。それが自分にとって、このバンドを結成して変わった一番大きな部分ですね。
●音楽に対する考え方や生き方まで変えてくれたというのは、メンバーの人間性が大きい?
ヤスキ:何か…似ているんですよね。その中でも個々で特化されているものがあって、バランスとしてはすごく良いんですよ。僕が特化している部分はニケにはなくて、僕が持っていないところはニケかヒロキにあったりする。上手く三角形にサイクルしているところが面白いなと。初めてです、こういう…腹立つバンドは。
●腹立つんだ!?
ヤスキ:好きすぎるゆえにというか。たとえば親が自分に似ていたら腹立ったりするじゃないですか。そういう感覚ですね。
●同族嫌悪的な(笑)。
ヤスキ:「ワーッ!」ってなりますもん。「同じこと思うわ、俺も!」っていう。言ってしまえば、「好き」っていうことなんですけどね。ニケも今までは何事においても3年続いたことがなかったんですよ。
ニケ:全てにおいてなかったですね。
●それがユビキタスでは続いていると。
ニケ:いつもは我慢して溜め込みすぎて爆発するんですけど、ここでは我慢せずに言えるという環境がデカいですね。
●兄弟や家族のような、お互いに気を遣わずに自然体でいられる関係性がある。
ヤスキ:そういう感覚で、上手くできていますね。自然にいられるんですよね…腹立つんですけど(笑)。
●ヒロキくんは?
ヒロキ:う〜ん…、僕はホンマに何も考えていないんですよね。
ニケ:(ヒロキは)末っ子なんで(笑)。
●3人の中で末っ子的な存在だと。
ヒロキ:一番年下やし、僕は2人についていっている感じなんです。
ヤスキ:いや、逆に僕らも引っ張ってもらっていますよ。ヒロキは賢いんで、そこのバランスも良いんです。
●そういった関係性も3年間でより深まってきた?
ヤスキ:元々はお互いに別々のバンドをやっていたんですけど、何か気が合ったというか。呑みに行ったりもしていて、異様に仲は良かったんです。
ニケ:他のバンドにいたがゆえに、お互いの良いところと悪いところがわかるんですよね。そういうところも言い合えたりして。
●お互いを客観的に見ることができたんですね。
ヤスキ:全員が元々いたバンドでまとめ役だったので、最初はまとまらなかったんですけどね。それぞれが「俺はこう思っている」と言い合う感じで。
●それが徐々にまとまるようになっていった?
ヒロキ:役割分担が自然に決まってきたんです。
ヤスキ:そこが見えてきた瞬間に、スムーズになりました。最初は楽曲制作からライブの見せ方やライブスケジュールの決め方についても各々の考え方があったので、言い合いになっていたんです。でもお互いの特化している部分がわかってきたら、たとえばライブを決めるのはニケに頼んだりとか、そういうバランスが上手く取れてきて。お互いを信頼するようになってきてからは、リーダーはいないけれど頭脳は3つあるっていうようなバンドになりましたね。
●そうなったのはいつ頃なんですか?
ヤスキ:初流通盤の1stミニアルバム『リアクタンスの法則』をリリースさせてもらった頃からですね。結成のいきさつを考えてみても、まさかこのバンドが全国流通でリリースするなんて正直思っていなかったから。そこが意識の変わった瞬間というか。“もっとやってみたい”となった時に、我の出し方が上手になったんです。「じゃあ、ここは俺が」とお互いに言い合えるようになって、そこらへんから変わりましたね。でも2枚目でちょっとモメたんですけど…。
●2ndミニアルバム『奇跡に触れる2つの約束』を制作する時にモメたということ?
ヤスキ:そこで1回ぶつかったんです。やっぱり2枚目は1枚目を超えたいという気持ちがあるので、色々と話し合ったりして。2枚目のリリース前後は(バンドの状態が)結構カオスでしたね…。でもそこを乗り越えて、今回3枚目を出せることになって。その前に今年5月と7月に出させてもらったシングル2枚のあたりから空気はものすごく良くなってきていたんですけど、今はもうメチャクチャ良いベクトルになっています。
●2ndミニアルバムはバンドにとって転換点だった?
ニケ:1枚目を出した時はまだライブでも自分たちが楽しんでいる感覚やったんですけど、リリースしてからツアーで色んなところへ行くにつれてお客さんを楽しませようとか色んなことを考えるようになっていって。それで2枚目ではどういう方向に進むのかというのが、みんなバラバラになったんですよね。
ヤスキ:2枚目はアレンジとかもすごく苦労した作品で、お互いの意見がなかなかまとまらない時期でしたね。
●自分たちだけではなく、お客さんやリスナーも楽しませることを意識したがゆえに方向性がまとまらなくなった感じでしょうか?
ニケ:そうですね。色んな欲が出てきて…。
ヤスキ:結果的に2枚目はすごくポップに完成させたんですけど、その“ポップ”というところに至るまでにもすごく時間がかかって。「1枚目のユビキタスで行きたい」という人もいたり、すごく色んな意見があって苦労しました。今思えば、ちょっと下を向いていたのかなと。2枚目の前後は迷いすぎて、各々が考え込んじゃっていたのかなとも思いますね。
●自分たちの内に内にと向かってしまっていた。
ヤスキ:「これで良いのかな?」というものがいっぱいあった中で、やっぱり2015年5月のシングル(『空の距離、消えた声』)を出せたことによって一気に顔を上げられたというか。「これで勝負しよう」というところに持っていけたのが、5月のシングルでした。
●そうさせてくれたのは、やはりシングルの曲が強かったということでしょうか?
ヤスキ:表題曲のM-1「空の距離、消えた声」は、結成当初にやっていたような感じで作れた曲で。でもこの曲が仕上がるまではすごく悩んでいて、スタジオの時間を何回も潰すくらいメンバーにも迷惑をかけたんですよ。「これじゃあかん」と思って、メンバーにも「できひん」と言って。もう自分的には底辺まで落ち込んでいた時に、そこから這い上がれた曲なので力もすごく入っていると思いますね。
●一時は底辺まで落ち込んでいたんですね…。
ヤスキ:初めてメンバーに「歌詞ができひん」とか「メロディができひん」と嘆いて。その時に2人が「信じてるで」と言ってくれて、その翌日にできたんですよ。自分の内側の部分をこれまでは2人に吐き出していなかったんですよね。そこを吐き出した瞬間にすごく身体が軽くなって、言葉とメロディがバーっと出たので…ドヤ顔で持って行きました(笑)。
●「空の距離、消えた声」が、バンドが良い方向に変わるキッカケになった。
ヤスキ:そこで「2015年はこういう楽曲主体で勝負してみようか」ということをメンバー同士で初めて話したのかな。「こういう突き抜けるようなギターロックで今年1年は勝負してみいひん?」っていう話をできたのが大きかったですね。
●この曲が2015年の指針になったというか。
ヤスキ:そこからは早かったですね。2015年に入る段階で今回のアルバムの話は出ていたので、それに向けて曲を作っていくという流れで。今回はM-3「ヒーローのつくり方」がリード曲なんですけど、これは「空の距離、消えた声」を匂わせるような疾走感のある曲を意識して作ったんです。「今年はこういう音楽で勝負したい」という気持ちが全面的に出ていますね。
●7月に出したシングルの表題曲のM-8「透明人間」はどんなイメージで?
ヤスキ:これは僕のアマノジャク感が出ていますね。「空の距離、消えた声」みたいな楽曲が先にシングルで出た後で、次は予想を裏切りたかったんです。サビはファルセットで歌っているんだけど、すごくラウドなドラムが入ってきたりして。1枚目のシングルとは差別化を図ろうということで作りました。「透明人間」に関してはユビキタス結成当初の楽曲に近いものがあったので、イメージもしやすかったんですよ。
●“進化と退化”が今回のテーマだそうですが、「空の距離、消えた声」のようなこれからの方向性を示すようなものが“進化”で、「透明人間」のような結成当初の楽曲に近いものが“退化”ということなのかなと。
ヤスキ:まさにそういう感じですね。“3年前の自分らならこうやるだろうな”という楽曲と、“これから4周年に向けて駆け抜けていくためにはこの曲が要る”というような挑戦的な楽曲をこの10曲の中に収めたくて、そういうイメージで作りました。
●そのテーマはどこから生まれたんでしょうか?
ヤスキ:結成3周年で、2015年に入る段階でフルアルバムリリースの話も頂いていて、「変わらないといけない」というのは意識していたんです。そこらへんで“進化と退化”というのが出てきたのかな。気が付くと、挑戦的な自分と結成当初の自分を思い出すかのような楽曲を両方とも制作していたという感じでした。
ニケ:シングル2枚を聴いた時に、そういうコンセプトのアルバムになるのかなとは感じていましたね。“これからのユビキタス”と“ユビキタスの原点”を5月と7月のシングルで両方見せられたので、アルバムはその集大成というか。2015年に向けたアルバムなので、イメージとぴったりでした。
●シングル『透明人間』のカップリングにも入っていたM-2「キャッチする選択」は、自分自身の内面をえぐるような歌詞になっていますが。
ヤスキ:歌詞にもあるんですけど、この時期は色んなことで期待とかが膨れていて。でも僕自身は今回のアルバムの楽曲がまだできていなくて、それが歌詞では“失速”という表現になっているんです。シングルをリリースした時はまだアルバムの曲ができていなかったので、自分を奮い立たせるために書いたような感じはありますね。
●シングル2枚を出した時点では、まだアルバム用の曲ができていなかったんですね。
ニケ:ツアーと並行して、ずっと制作していて。ライブをやりながら、アルバムのイメージをどうしていくかをずっと考えていたんです。
ヤスキ:でも全然、曲が出てこなくて…。僕は打ち上げにもほとんど出ずに、ずっとツアー先のホテルでギターを弾いて曲を作っていました。最後は3曲くらいまとめて、一気にできたりもしましたね。
●最後にまとめてできた3曲とは?
ヤスキ:M-5「君の季節」、M-7「ボクノウチュウ」、M-10「メランコロニー」ですね。
●「君の季節」にはストリングスも入っていますよね?
ヤスキ:初めて取り入れてみました。僕らはいつもメンバー全員で曲を聴きながら、どこにコーラスを入れたいかチェックしていくんですよ。でもこの曲を聴いた時は、誰もどこにもチェックを入れられなくて。そういう時にギターの倍音がバイオリンっぽく聞こえたのでプロデューサーに「ストリングスが入っているようなイメージがする」と言ったら、すぐに「やってみようか!」となったんです。できあがった時は「自分たちの楽曲にこんなにも色を足してくれたんや!」っていう衝撃がありましたね。化学変化が起きた曲だと思います。
●自分たちにとっても衝撃的な曲になったと。
ヤスキ:僕の中では、これもリード曲だと思っていますね。
●どの曲もシングルに匹敵するような力を感じます。
ニケ:自分の中ではベストアルバムだと思っていて。だから「何曲目からでも聴いて下さい」って言えますね。
ヤスキ:僕は「ヒーローのつくり方」とM-4「奇跡は僕の街で」と「君の季節」のどれがリード曲でも良いと思っていたんですよ。それくらい自分の中で作り込んでから提示したので、どれになっても良いと思っていて。でもスタッフも含めたチームのみんなで話し合った結果、「ヒーローのつくり方」になったので間違いないかなと。
●そこは色んな人の意見も聞き入れて判断したと。
ヤスキ:どうしても自分らだけで判断していたら、見落としてしまうところもあるんじゃないかと思って。今までは何でも自分たちで決めがちだったんですよね。スタッフに「どう?」って聞かれても、「いや、それは違うんですよ」とか言うようなホンマに生意気なヤツらだったんですけど(笑)、今はもうそんなことは全然ないですね。
●そういう心境の変化が起きたキッカケとは?
ヤスキ:たぶんライブやと思いますね。ツアーをまわったりしている中で、自分らに足りないものがいっぱい見えたんやと思います。そういうものが見えた時に、逆に強くなれたのかなと。今までは怖さもあって、「これ以外ないです!」と言っていた気がするんですよ。
●他人の意見を突っぱねるために、自分たちでガードしていた。
ヤスキ:でも今回は色々と初めてのことが多かったし、「進まないと」という意識が強くて。だから素直に色んな言葉が耳に入ってくるようになったんでしょうね。
●次のステップに進みたいという意識があるからこそ、曲作りで悩んだりもしたんでしょうね。
ヤスキ:まさにそうですね。もっと色んな景色が見たいじゃないですか。未だに行ったことのない地方もあるんですよ。そういうところにも行けるようになりたいし、今後の目標としては「ワンマンツアーができたら最高やな」という話をメンバーといつもしているんです。そうなるためにはどうすれば良いのかを考えて、自分らに足りないものは色んなところから吸収して、前進していきたいなと思っています。
●今作はそのキッカケになるような1枚というか。タイトルの『記憶の中と三秒の選択』に込めた意味とは?
ヤスキ:“記憶”は結成してから今までのことで、“選択”はこれから自分たちがどう進んでいくかというところですね。そういう意志が表れていて。
●“三秒”は3年目や3枚目にかかっているのかなと。
ヤスキ:そのとおりですね。“秒”に関しては、本当に3年間が早かったなというところからで。自分らの知らないこともいっぱいあったし、それがめまぐるしく変化していって、息つく暇がなかったというか。今までは音楽をしていく上できっちり考える時間があったんですけど、初めて色んなことをやりながら考えないといけないという環境に放り込まれたんです。だから、本当にあっという間という感じでしたね。
●今までに体験したことのないペースだった。
ニケ:リリースしてツアー中やのに、もう次の制作もしながらライブもせなあかんっていう…。
ヤスキ:そしてツアーファイナルをやる頃には、もう次のリリースの発表があって。となると、その発表までには曲を作ってレコーディングしないといけなくて…ということがずっと続いていたんです。初めてそういうことを経験させてもらったので、ホンマに早かったというか…3年が一瞬でしたね。
●そして今作リリース後にも、またツアーが控えているわけですが。
ニケ:去年も大阪と東京でワンマンをやっているんですけど、その時は大阪がファイナルやったんですよ。今回は東京でのワンマンがファイナルになっているので、今はそこをSOLD OUTさせることを目標にやっていて。そこに向けて、アルバムをリリースしてからも活動していきたいなと思います。
ヒロキ:僕はファイナルまでに身体を仕上げていこうと思います。
●えっ、それはどういう理由で…?
ヒロキ:今はライブでタンクトップを着てドラムを叩いているんですけど、ファイナルでは上半身裸で叩きたいと思っているんですよ。その時にお腹がシックスパックになっていないと、「あいつ、何で脱いでるねん?」みたいに思われたら嫌じゃないですか(笑)。だからツアーで体を鍛えて体力も付けて、最後は暴れようかなと。
●ツアーの成果をファイナルでは見せると。
ヤスキ:リリースしてからツアーをまわって、どう化けるかなと思っていて。自分ら自身がどう化けて、ファイナルのワンマンまで持っていけるかなというのが今はメチャクチャ楽しみですね。
Interview:IMAI