今年10周年を迎え、初の4日間開催となった“MASTER COLISEUM '15”を大成功させたSABOTENとPAN。関西を拠点に活動し、時に手を取り合い、時にはライバルとして切磋琢磨しながら音楽シーンの荒波を乗り越えてきた両バンドが、この11月にそれぞれ新作をリリースする。今月号では「キヨシと川さん夢のスペシャル豪華対談」と題し、それぞれのフロントマン・キヨシと川さんを迎えて“MASTER COLISEUM '15”を振り返りつつ、それぞれの新譜に迫りつつ、最も近い関係だからこそ話せることをじっくりと訊いた。
●“MASTER COLISEUM '15”は楽しかったですね。僕はマスコロ'15公式インスタ係としてバックヤードもウロウロさせてもらいましたけど、出演者もお客さんも、出演していないバンドマンやスタッフも楽しんでいて、すごくいい雰囲気の4日間だった。
川さん:そういう人が増えてきた。
●増えてきた?
川さん:うん。出演するバンドだけじゃなくて、それ以外のバンドマンもいっぱい来るようになったし。
キヨシ:出演するバンドも、自分の出演日じゃなくてもおったりとか。
●みんなの遊び場所になってるというか。
川さん:みんなが気をかけてくれているというか。そういうのをなんとなく感じてる。
●第1回目の10年前はどうだったんですか?
川さん:10年前は誰もおらん。スタッフも少なかったし。
キヨシ:楽屋には出演者しかおらんかったよな。
川さん:飲食ブースもないし、なにからなにまでシンプルというか。
キヨシ:ほんまに7バンドだけがライブするっていう。
川さん:転換中にDJやったのは2年目やったっけ?
キヨシ:あれは1年目やねん。
●DJ?
キヨシ:「野外とかやったらDJおるやろ」ってイメージで入れたんですよ。SUNSET BUSのSATOBOYに「ちょっとDJやってよ」「おう、任せとけ!」みたいな感じで頼んで、転換のときにDJの音で繋ぐっていう感じだったんですよ。
●はい。
キヨシ:でもイベントの中盤あたりで無音になってて「あれ? SATOBOYなにしてんねん?」ってなって(笑)。
川さん:途中で1杯、2杯と積み重ねていったビールが効き出して、寝とったんです。
●ハハハ(笑)。
キヨシ:そんな手作り感たっぷりでしたね。前の方のスタンディングエリアも今は鉄柵で囲っていますけど、当時はプラスチックの柵しか置いてなくて。
●え!?
キヨシ:ライブが始まったら出演者も総出でプラ柵を「ウオーッ!」って支えに行って。
川さん:何百人かの暴れるやつらを、サビが来るたびに支えてたんです。
キヨシ:そんな第1回目でした。
●ハハハハ(笑)。当時から10年続けようと思っていたんですか?
川さん:いや、2年目があるかどうかも見えてなかった。
キヨシ:そうやんな。とりあえず蓋開けてからっていうか、勢いだけやったな。
川さん:まあ9年目まで来たときは「10年目やろう」って決めてたから言えたけど、そんなに先のことは考えられてなかったかな。もちろんバンドからのアイディアもいっぱい出すんやけど、一緒にチームで動いてくれているスタッフからのアイディアもいっぱい出してもらってということがあってのイベントやし。
●10周年の今年は、感慨深いものがあったんですか?
川さん:うん。10周年やし、違うことがしたいというか、ちょっとスペシャルバージョンにしたいと思ってて。1回、会場を大きくしようかっていう話も出ていたんです。
キヨシ:大阪城音楽堂じゃなくて、大阪城公園で大阪城をバックにやろうか、みたいな。
●あ、そんなアイディアも出ていたんですね。
川さん:1万人くらいのキャパにして1日でやるかとか。でも場所探しっていうのが結構難しくて、もちろん音の問題もあるから“MASTER COLISEUM”に向いてないところも多いし。
キヨシ:それに場所は、いろんなイベントと被るしな。
川さん:うん。で、いろいろ考えて、やっぱり大阪城野外音楽堂でやることが、もしかしたら“MASTER COLISEUM”らしさがあるかもしれへんっていう結論になって。7年目から2DAYSにしていたものを倍にして、今年は4日間やろうと。
キヨシ:いや〜、今年はやる前は胃もたれしたな〜。
●胃もたれ?
キヨシ:2DAYSのときも、自分らが企画しているっていうのもあるから休む間もないんですよね。気疲れもするし。“それが倍になる”と考えたら、もう(笑)。
川さん:どうやって4日間のバリエーションを付けようっていう、各バンドのライブのこともあるし。4日間来る人も居るし、そこはいろんな気持ちがあるのもわかるんやけど、自分らのライブはどの曲をやろうかな? とか。当然1日しか来いひん人も居るし、9/12-13だけ来る人も居れば、9/21-22だけ来る人も居るし。
●そうか。
川さん:4日間来る人は少ないと思うんやけど、それでも少なくても来てくれる人は居て。そこはすごくありがたいし、まったく一緒のライブをするつもりは全然ないねんけど、その中で違いを付けつつも、会場全体に行き渡らせるようなライブのやり方を“どうしようか?”みたいな。
キヨシ:まあ限界はあるけどな。
川さん:そう。でもその日、その瞬間になったら“今この瞬間を盛り上げたい!”っていう気持ちが絶対に強くなるやろうなと思ってたから、そういうセットリストとかを組んで。SABOTENもたぶんそうやったと思うし。
キヨシ:うん。でも4回ライブやるから、セットリストを全部変えるのも難しいし。
川さん:“MASTER COLISEUM”のいいところは、SABOTENとPANが一緒にやっているからこそ、この2バンドがトップとトリをやるということが定着してて、初日はSABOTENがトリをやって2日目はPANがトリをやる、みたいな感じてやっていて。トップとトリというのは当然役割が違うからこそ、やることも変わってくる。でも今回4日間あるということで、SABOTENに至っては3日目が4番目にやるっていう。
キヨシ:これもSABOTENとPANでミーティングして、3日目くらいでちょっと驚かせたろうと。
●うんうん。
川さん:最終日はPANがトリ前でSABOTENがトリ。そうやって出順でもバリエーションが出せたのは、2バンドでやってるからこそっていう。やっぱりそれはよかったかなって。
●4日間全部楽しかった印象がありましたね。
川さん:うん。全部おもろかった。初めて出るバンドも多かったし。
●いちばん印象に残っているのは2日目のアンコールで、SECRET 7 LINEの曲をSABOPANでやったとき、会場に来ていたSECRET 7 LINEのRYOくんとTAKESHIくんがステージに出てきて一緒にやったことで。なんというか、SABOTENとPANのメンバーがすごくカラッとした笑顔で一緒にやっていたのが、本当に本当にグッときました。
川さん:SECRET 7 LINEは出ることが決まってて、出られへんくなって。「さあどうしよう」となったんですけど、何も言わずに何もないっていうのも変やし、かと言って何をしたらええんやろうって。めっちゃ話し合ったんです。
キヨシ:前々日に7人で話し合ったな。
川さん:SABOTENとPANでSECRET 7 LINEの曲をやるのは“どうなんかな?”と思ったんです。やっぱりこの2バンドのキャラクターだったら「さあみんな楽しもうぜ」っていう発信になるから、その方向でやるのはどうなんかなと。
●はい。
川さん:でもそれを、らしさをなくしてやるのもまた違うし。7人で話せば話すほどいろんな意見が出るんですけど、やっぱりやるということに関して間違ってはないからやろうということが決まって。それを事前に、TAKESHIに「こんなことやろうと思ってるんやけどどうかな?」って訊いてたんです。そしたら「そう思ってくれるのは嬉しいからやってくれ」と言われて。それで7人で必死で練習して。
キヨシ:英語の歌やしな。
川さん:そうそう。俺らは英語で歌うことに慣れてないから。で、なんとか覚えたんですけど、そしたらTAKESHIが「SABOPANが演奏するんやったらRYOが“ギター弾かせてもらおうかな”って言ってる」と連絡してきて。「ほんまに? じゃあもしRYOがOKやったらTAKESHIも出てきてや」って言ってたんです。
●おお!
川さん:で、当日に会ったらRYOが「やる」と言ってくれて。でも俺らいちおう7人でやるつもりでパート決めして練習してたから、キヨシが弾くつもりだったギターをRYOが弾いて。サケに至っては、TAKESHIが叩くからドラムの横で立って観てるだけという。
●確かにそうだった(笑)。
川さん:だからあれはぶっつけ本番だったんです。曲の入りも、TAKESHIがドラムだから確認もしていなくて、内心“どうしよう?”と焦りながらバーッとやったんです。それに途中でRYOがギター弾いてサビに入るところがあるんやけど、RYOがそれを忘れてて。
キヨシ:だからもう、笑うし、泣くし。サケ見て笑うし、RYOが泣いてるから俺も泣いてまうし。深い1曲やったよな。
川さん:SABOPANとしては、とりあえずステージに引っぱり出して、やってよかったなって。
●感動しました。使い古された言葉かもしれないけど、仲間っていいなって。
川さん:うん。“MASTER COLISEUM”じゃなかったら俺らもあんなことできひんし。あのことでライブハウスに来にくくなる人が居るんやったら、それをなんとかできるのは俺らバンドやと思うし。
キヨシ:RYOとTAKESHIが元気になるんやったら、俺らはそれでいいかなって。
●そういうことも含めて、すごく濃くて楽しい4日間でした。
2人:濃かったな〜。
●11/4にSABOTENがアルバム『MASTER PEACE』、11/11にPANがシングル『想像だけで素晴らしいんだ』をリリースするということですが、お互いの新作の感想を教えてもらっていいですか?
キヨシ:PANは20年続けてきて、僕はいろんなPANを知っているんです。最初の方は渋い曲が多くて、その中にも関西のコテコテなノリがあって、メジャーにいったときも知ってるし。そういういろんな時期を経て、今回のシングル曲「想像だけで素晴らしいんだ」はいちばんじゃないかなって思うくらい好きな曲です。
●へぇ〜。
キヨシ:グッときますね。PANのリズムやサウンドの原点でもあるし、PANが持っている中で“おもしろい”とか“ハッピー”とか“楽しい”っていう要素が最近はいちばん表に出ていると思うんですけど、でも本当のPANの原点のいいところがガッと詰まった1曲で。僕にはすごく染みますね。
●おお!
キヨシ:歌詞も、昔を知っているからこそ余計に染みる部分もあったりして。自分も16年バンド続けてるから、この曲を聴いてて“ああ〜、そうやんな〜”って、バンドマンにも響くんじゃないですかね。お客さんにはもちろんですけど。ジャケットもいいですよね。
●なるほど。SABOTENのアルバムはどうでしたか?
川さん:おもしろい1曲目の幕開けだし、バッチリじゃないかな。SABOTENはいつもちょっと変わったことをやってくるっていうか。それはずっと昔から思ってるし、ひねくれてるからこそやねんけど、それをちゃんと作品のレベルにまで仕上げてくるっていう。
●はい。
川さん:“これなにやってんの?”とか、変なギターの弾き方したりとか。性格が出てる。まさに。それが“らしさ”になってるねんけど、リズムっていうか譜割りが特徴的で、それを作品のレベルにまで仕上げるっていうのはすごいなと思うし。アイディアってそんなにポンポン出てこないだろうし、例えアイディアが出てきたとしても完成させるのは大変やから。それは昔から思うし、新作を出すたびに何か変なことを1つ持ってくるなっていう感覚はあるかな。
●キヨシくんは、そういう自覚はあるんですか?
キヨシ:いや、ないです。
●え? ないの?
キヨシ:全然ないっすよ。
川さん:全部計算やんな? 携帯のボイスメモにめっちゃネタ入ってるよな?
キヨシ:ないよ! 携帯見てもええよ!
●ハハハ(笑)。“変”というと悪く受け取るかもしれないけど、一般的ではなくて独自のアプローチがあるっていうことですよね?
川さん:そう。
キヨシ:たぶんそれは、僕が聴いてたバンドからの影響だと思うんです。プログレとかも好きですし、僕らの世代でめちゃくちゃわかりやすい例で言うとREACHとか。あの辺が近い空気感あるよな。
川さん:うん、まあそうかな。
キヨシ:あの人たちは英語詞で、楽曲のアレンジや構成がすごいんですよ。そういうのがめちゃくちゃ好きやったから、SABOTENの音楽にも影響していると思うんです。
●なるほど、でもさっき川さんの話を聞いてて思いましたけど、アレンジや歌詞も含めて全部キヨシくんの性格が出ているなと。
川さん:そうそう。やっぱりこれだけいっぱい歌詞を書いてきたら、そこがにじみ出てしまうし。
キヨシ:うわ〜、性格悪いみたいな感じになってるやん(笑)。
川さん:今更、性格良くはなられへんって(笑)。
●アハハハハ(笑)。でもそれがいい方向で作品になってると思いますよ(笑)。
川さん:でもバンドやってたら“普通”っていうのがいちばんよくないと思うから。だから“あのバンドの長所ってなんやろ?”って考えたときに、パッとなにか出てくるのがいいバンドで、それが無いのは大問題やと思うし。
キヨシ:それは確かにそうかもな。
川さん:だから悪いところっていうか、完成されてないものも逆に持ってないとアカンから。それが隙を与えている部分やと思うし、突っ込みどころというか、余裕を与えることにもなるから必要やし。やっぱりどっちにも振れ幅がないのは大問題やから。キヨシがこういう奴で、こういう音楽を作って、SABOTENの3人のキャラクターがあってというのは、お客さんが楽しみにしている部分やし。そういうSABOTENがいろんなシーンに行ったときに“今日はどんなライブするんかな?”とか“あの曲するんかな?”ってワクワクできる部分やっていうのは思うけど。
●でもPANの今回のシングルも、リード曲「想像だけで素晴らしいんだ」は本当にストレートでジーンとくる楽曲ですけど、他の3曲って変わってますよ。
キヨシ:うん。ヘンコやな。
●だから作品全体で見たらPANもひねくれてると思う。
川さん:確かに「想像だけで素晴らしいんだ」がピックアップされていて、自分でもこの曲はいい曲やなって思うけど、他の3曲は全然違うねん。
キヨシ:バランス取れてるな。
川さん:「想像だけで素晴らしいんだ」みたいな曲だけでPANはバランス取れへんから、今回は4曲入ってるけど、でもそうじゃないPANっていうのはいっぱいあって。どっちかと言うと、最近の流れでいうと楽しくてライブでワイワイ騒ぐような作品を出してきたからこそ、今はこの曲を出してもいいタイミングかなって。
●パブリックイメージと共通しているかどうかはわからないんですけど、僕はPANに対して“楽しくておもしろいバンド”、SABOTENに対しては“楽しくてピースフルでライブが激しいバンド”というようなイメージを持っているんですけど、今回の作品は両バンドともシリアスな感情に焦点があたっているというか、そういう濃度が高い気がしたんです。
2人:ほう。
●SABOTENの『MASTER PEACE』については、すごく怒りというか強い感情が入っているかと思えば、真逆のピュアな気持ちも綴られていて。
キヨシ:ああ〜。
●PANの『想像だけで素晴らしいんだ』についてはタイトル曲に込められている気持ちの濃度がすごく高いから、作品としてはそこに焦点があたる。
川さん:うん。
●想像するに、“MASTER COLISEUM”が10周年を迎えたこともあるし、20年、16年というキャリアの違いはあれど、バンドとして作品についてもかける想いみたいなものが強かったのかなと。
川さん:俺らは曲を作っては歌詞をつけるから、“こういう曲にしよう”というつもりで曲作りはしてなかったけど、レコーディングが終わって「じゃあどれをリード曲にしようか」と話し合って、それで「想像だけで素晴らしいんだ」に焦点を当てたというか。
●なるほど、結果的に、今の感情や想いみたいなものが「想像だけで素晴らしいんだ」を選んだと。
川さん:まあPANとしては、年末12/20になんばHatchワンマンというのがあって、それが頭の中にあって曲を作ったし、“MASTER COLISEUM”のステージで初めてやることも考えていたし。
キヨシ:初めてやったときも、なんかみんな歌っとったもんな。ライブにも向いてると思う。
●なるほど。キヨシくんは?
キヨシ:僕もね、川さんの話を聞いてて“そうそう”って思ったんですけど、僕らも今回の9曲をレコーディングして、どれでMVを作るとか考えてないんですよ。どこに焦点が当たろうが後悔しないようにっていうか、胸を張れるつもりで今回も作ってて。だから全部録り終わって、マネージャーやスタッフみんなと話し合って「インターネットヒーロー」でMV作ることになったんです。
●はい。
キヨシ:今回収録は9曲ですけど、実際には30曲くらいデモを作ったんです。今まではメンバーで収録曲を全部決めてたんですけど、今回はレーベル側が“自分らも参加させてくれ”っていう気持ちを持ってくれたんです。その中で絞り込んでいった結果なんですよね。
川さん:へぇ〜。
キヨシ:そういう意味では、かなり気合いが入ってるし、めっちゃ苦労した。だって今回の制作で、1回夜中に叫んだもん。寝てて、急に「ウワーッ!!」って。
一同:ハハハ(笑)。
川さん:ストレスがあったんや(笑)。まあ曲を作るのってなぁ、アイディアを思いつけばいいねんけど、“この曲って何なんやろ?”ってその曲の周りをずっと歩いてまわってるみたいな。
キヨシ:わかるわ〜。
川さん:それがすぐ出てくるときは、それだけですごくいい曲になるだろうし。でもその期間は、楽なものじゃないかな。
キヨシ:キツいよな。だいたい僕の場合、歌詞は大きなテーマがあるんですよ。でも言葉を並べると似たようなことばかり歌ってることが結構あるから。
川さん:うん、バリエーションつけるっていつも考えるけど、“今までどんだけバリエーションつけてきたんや!”ってなるよな。PANは4人が曲を作ることができるし、メンバーそれぞれの色があるから。やっぱり4人は4人らしさっていうのが出るっていうか。「ダイスケっぽいな」「ゴッチっぽいな」っていうのはあって。そういうのはみんなそれぞれあるねん、絶対に俺にもあって。
キヨシ:うんうん。
川さん:それをヒントに俺は歌詞を書いていく。でもキヨシは全部自分で作ってるからな。だからヤッソーやサケが作った曲があってもいいっていうか、聴く側としては絶対に楽しいと思う。
キヨシ:うん。俺も作ってほしい。
●ハハハ(笑)。
川さん:それが完成されてなかったり、今までのSABOTENの曲に近いものじゃなくても全然OKやと思う。
キヨシ:7月にリリースしたスプリット『TROPICAL PARK 2』で1曲ずつお互いに楽曲提供するということで、「ナンデモヤ!」っていうPANが作詞作曲した曲があって。“制作ってこんなに楽なんか!”って思ったもん。説明書がもうあるっていう素晴らしさ(笑)。
●そっか、そう考えたらSABOTENのバリエーションはすごいですね。
川さん:うん、全部自分でやるっていうのはすごい。サケやヤッソーの曲があって全然いいと思う、ほんまに。それを全部形にする必要とかもなくて、アイディアだけだったとしても。
キヨシ:まあ、そのときが来ればっていう感じかな〜。
●さきほど“らしさ”っていう話がありましたけど、自分たちのオリジナリティを自覚したタイミングっていうのはあったんですか?
川さん:俺らのわかりやすいきっかけというと、プロデュースしてもらったこと(※2009年3月リリースのシングル『いっせーのせっ!!』で伊藤銀次をプロデューサーに迎え、色々と苦労した結果、川さんは歌詞に対する価値観が変わった)かな。そこで考え方が変わったりとか、そこからはいろんな荷物を1回下に降ろすっていうか、要らんもんを持ってたんちゃうかっていう。まずはそこの作業をして。
●制作のときに、一度客観的に自分たちを見ると。
川さん:そう。ほんまは説明なしでやらなあかんものを、説明が要るものになってたというか。まあ説明があることが悪いとは思わへんけど、“どっちが自分は好きなんかな?”と考えたときに、説明なしでいきたいなと思うから、じゃあそのために何をしようかというアプローチになって。
●ふむふむ。
川さん:そうしてくると、何かを達成したときに達成感もあるし、“やりたいな”と思ったことをやれたときのやりがいにもなる。そういう考え方で今はやってるし、そこで“PANの良さって何なんやろう?”とか“PANがこれから何をやるべきなんやろう?”って考えるし、できひんことはやらなくなるし、自分らのやれることをやろうぜって追求するというか。その辺で変わってきて、オリジナリティっていうものをはっきり自覚するようになったんかな。
●なるほど。荷物を降ろしたのが大きいと。
キヨシ:「荷物を降ろす」っていいな。要らない荷物を降ろす。
川さん:昔は持ってなかったけど、途中でいろんなことができるようになって、いっぱい影響受けて、そうなるとちょっと動くペースが遅くなってきたから、1回荷物を捨てようって。
キヨシ:なるほど。俺も捨てよう!
●めっちゃ影響受けてる(笑)。
キヨシ:『進撃の巨人』でな、仲間の死体を持ってバーッて走るシーンがあるねん。
川さん:うん。
キヨシ:一緒に訓練した仲間やから、連れて帰りたいねん。でも巨人が追いかけて来てて、上官は「置いていけ」って命令するけど「イヤです!」って言うねん。でも実はその上官は、今まで死んだ仲間のワッペンを全部剥がして、泣かずに大事に握りしめていて。
●なるほど。
キヨシ:結局、そいつは仲間の死体を捨てきれずに巨人に食われてしまうねん。で、もう1人の仲間が泣きながら捨てる…そういうことやな?
●違うと思う(笑)。
川さん:『進撃の巨人』っておもろいん?
キヨシ:うん。俺、ナメてた。おもろい。
川さん:巨人って悪い奴なんや。
キヨシ:いや、一概には言えない。まだ答えは出てない。
●死体…荷物を降ろすと。
キヨシ:そう。その死んだ仲間も、捨てることを望んでいたんですよ。「俺たちを置いていけ」っていう。その究極の選択をPANはしたっていうことですよね。
●さっきから何の話やねん(笑)。
川さん:いや、でも、降ろすのって結構勇気が要ることやから。だから言ってみれば、いろんなものを身に付けて、鎧を着て闘ってたものを、1回鎧を脱いでみると。脱いだら動きは速くなる、けど防御力は低い。シンプルな曲ってそうやんか。
キヨシ:うん。
川さん:シンプルな曲って、何もしてないからいいっていうもんじゃないやん。じゃがいも1個ポンと出されても、それがいいっていうわけじゃないし。よっぽどいいもんじゃないと。
キヨシ:この話、本が出せるんとちゃいます?
●そうですね。タイトルは『進撃の川さん』で。
キヨシ:ハハハ(笑)。でもPANは要るものは捨てなかったっていうことですよね。自分らが要るものだけを握りしめて闘ってるっていう。
川さん:だからどこにひと工夫するかっていう感じやと思うねん。いろんなところに工夫しようとすると、もともとやろうとしていたことがわからなくなる。
キヨシ:なるほどね。進撃の川さんか。わかってきた。
●SABOTENはどうですか? 自分たちのオリジナリティを自覚したきっかけとか。
キヨシ:自覚してないんですよ。まだわかんないんです。
川さん:溢れてるやん!
キヨシ:そうかな〜。楽曲に関しては、そのときにやりたいことを優先して僕ら活動してきたから、わかんないんですよね、SABOTENらしさって。
●そうなのか。
キヨシ:唯一自覚があるというか残っているのは、「染みる曲がある」って言われることが多いんですよね。アレンジとかはロックバンドとして活動しているんですけど、3人の根本はめちゃめちゃロック畑というわけではなくて、ポップスというか割と歌モノを聴いて育ってきているんですよね。だから歌を大事にしたい。その気持ちはずっとありますね。
●確かに今作は染みる曲の印象が強いです。
キヨシ:ありがとうございます! でも自分たちらしさっていうのをちゃんと説明できないのが、僕たちの弱さですかね。荷物を降ろしきれてない(笑)。
●ハハハ(笑)。SABOTENとPANってすごく特殊な関係性だと思うんです。“MASTER COLISEUM”を一緒にやってるし、“SABOPAN”という言葉があるように1つで見られることも多いと思うんです。
2人:うん。
●仲間でもあるし、ライバルでもあるだろうし。最後に聞きたいんですが、お互いにとって、それぞれどういう存在なんでしょうか?
キヨシ:PANが居るからSABOTENも続けることができたっていう場面はありますね。“MASTER COLISEUM”とか関係なしに考えたら、もしかしたらあのタイミングで終わってたんじゃないかなっていうことが何回もあったし。なんかでも、同期で、リハスタもずっと一緒やったし、お互いが全然のときから知ってて、何もわからへんのに「いつか野外でフェスやろうぜ!」とか言ってて。お互いクソガキの頃からの付き合いで、僕らずっと客観的にPANを見てますし。やっぱり対バンも定期的にしてるから、PANのこの20年間のいろんな道を知っていて、それでも今もがんばってやっているから、俺らは俺らのペースで、自分たちの道をちゃんと歩いて行かんとあかんなって思わされます。
●なるほど。PANはどうですか?
川さん:うーん、昔とかはSABOTENの作品に刺激を受けたこともあったし、それがそのまま活動とかやっているシーンとかでもあったし。「あいつらこんなイベント出てるで、俺ら呼ばれたこともないのに」っていうこともよくあったんですよ。やっぱりそれは羨ましくもあったし、“どうやったらいいんやろうな?”っていうところもあったんです。
●はい。
川さん:だからSABOTENが引っ張ってるつもりはなかったやろうけど、俺らはそこを1つの目標にしていたところもあって。SABOTENがメジャーでやっているところも見てて、そういう状況は“俺らの一歩先を行ってるな”っていう感覚で。でもそれを特に口にすることはなかったし、PANのバンド内でも話したことはなかったけど、メンバーはみんな感じていたことだったんです。
●なるほど。
川さん:自分ららしくやらないと意味がないっていう気持ちもあったから、俺らのやりたいことをやりながらどうにか伸ばしてきたっていう。で、途中から俺らは、自分たちのやりたいことだけをやるんじゃなくて、お客さんを楽しませた方がもっと満足できるんじゃないかなって思うようになって。
キヨシ:ほう。
川さん:だからやるプロセスも大事やけど、でも結果が大事やから。そこを求めたとき、ライブのやり方とか自分たちのいいところをもっと伸ばしていこうっていう考え方が強くなったんです。
●ライバルというか、刺激をいちばん受ける存在だと。
川さん:もちろんそうですね。だから今は「SABOTENはまたこんなことやってるな。じゃあ俺らは俺らでらしいことをしよう」っていう感じかな。
interview:Takeshi.Yamanaka