前作のリリース以降はフェスやサーキットイベント、自主企画などで全国各地を精力的に回り、ライブを軸足に置いた活動を置いてきた彼ら。その結果、肩の力を抜いて、自分たちらしさを出すことができるようになったという。そんな経験を得て完成した今作『シュレディンガーの猫』は、Brian the Sunらしさが100%濃縮還元された1枚と言えるだろう。成長には必ず変化が伴う。しかし初心を忘れないままに変化を続けることは容易ではない。芯にある想いはそのままに、さらに磨きをかけて進化するBrian the Sunの今を感じとってほしい。
●前作のリリースツアー以降、フェスやイベントの出演が増えてきていますね。
白山:そうですね。2月〜3月には“スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2015”(以下列伝)があったんですが、ワンマンではまだ埋められない箱で、常に満員の状態でライブができたのは良い経験でした。
●先日は“KANSAI LOVERS 2015”でライブを見させて貰ったんですけど、着実に話題になってきている中でも、芯は全然ブレてないなと感じたんです。
森:選んでこれをやっているわけじゃなくて、これしかできないんですよね(笑)。“それは明らかにちゃうやろ”ってことはせえへんもんな。
白山:“周りがこれをやっているから、自分たちもやっておこう”みたいなのはないですね。最近は特に良い感じに力が抜けてきて、俺らがバンドを組んだ時からの目標にやっと近付いてきた気がします。
●“目標”というのは?
白山:“◯◯に似てる”と言われる存在じゃなくて、「ああいうのってBrian the Sunっぽいよね」と言われるようなオリジナリティを持っていきたいと思っているので、それが徐々に作れてきているのかなと。
●なるほど。確かに今作『シュレディンガーの猫』を聴かせてもらっても“Brian the Sunっぽいな”と思う要素がたくさんありました。収録されている5曲のうち、3曲は前々からあった曲なんですよね。
森:そうですね。中には前メンバーの時の曲もあるんですが、当時はもっとソリッドでライトな音だったのが、2人(小川、田中)がやることによってまろやかで重みが増しました。3曲とも曲自体が純粋に良い出来だと感じていたので、それをブラッシュアップできた結果ですね。
●前作では“これまでと違うことをやってみよう”という挑戦がありましたけど、実際やってみてどうでした?
森:“お客さんにとって、曲が良いってこと以外に必要なことはないな”という答えに至ったんです。意図がどうというよりも、良い曲を作ってその時々の自分たちをパッケージしてみたら、良い感じになった。
白山:そうすることでお客さんも増えてきたし、ちゃんと届いている気がしますね。
●ライブでも変化を感じたということ?
森:そうですね。俺たちのライブって、基本的にお客さんが聴き入ってくれるんですよ。でもそういうライブに慣れていない人は、盛り上がっていない事に対して“これで大丈夫なんかな?”って不安になると思うんです。体を動かしてないとアカンみたいな空気がある。
白山:でも6月に“FREEDOM NAGOYA'2015”に出させてもらったとき、メロコアシーンのお客さんが僕らの曲をじっくり聴いてくれていて。それが自信に繋がりました。
●そのスタイルが通じることが実感できたから、良い意味で肩の力が抜けたのかもしれませんね。
森:その頃から変に煽ったりするのも止めましたね。今年に入ってからは、ライブに対する意識がだいぶ変わりました。お客さんとのやりとりを極力なくしていったんですよ。
●何かそうしようと思うキッカケがあったんですか?
森:バンドマンだって人間やから、直接求められている声を聞くのが快感なんですよ。でもそこで満足しちゃうと良くないし、“このバンドはこういう人なんや”っていうのが相手に伝わった時点で、身近な存在になっちゃうじゃないですか。親しみやすさで勝負するんじゃなくて、もっと圧倒的なライブをしたい。
白山:距離が近い方が良いライブになるバンドもいますけど、僕らの場合はそうじゃない思うので。
●純粋に曲で勝負したいという想いなんですね。今作を通じて、リスナーに伝えたいことはありますか?
森:実は、俺たちから能動的に“こういうことを感じてくれ”っていうのは別にないんですよね。今俺はこう思っているという主張はあるけど、(リスナーに対して)そういう風に生きろ、とは思わないし。言葉としての意味を感じることはできるでしょうけど、今の天気に意味なんてないじゃないですか。それくらいの感じです。
●なるほど。だから“伝えたいこと”はないんですね。
森:最近は歌っている時に曲と一体化するような感覚もあるので、そこに意味を求めるんじゃなくて、色味として感じ取ってくれたら良いなと。伝えたいことは俺らのライブや活動の仕方を見れば分かると思うし、ライブに来て、一緒に共鳴してほしい。
白山:今って無料で音楽が聴けるじゃないですか。その中でお金を払ってライブに来ているって事自体すごいことやから、そういう人たちは僕たちの今のライブを見れば共鳴してくれると思います。自然体の僕たちを見てくれたら大丈夫かなと。
森:確かに。お客さんがライブハウスに足を運んで、得たいと思うものを、どういう風に表現していけばいいかをずっと考えてたけど、結局気持ち良いものにするってところが今の結論ですね。
●きっと『マタタビ ツアー 2015➡2016』ではその結論が体感できることと思います。ツアーはリリース日の11/25、東京公演からスタートですよね。
白山:そうですね。列伝ツアーは、他の人たちのおかげで連れて行ってもらった感覚が強くて。だから列伝で行った地域を、僕らが中心になってもう一度回ろうというコンセプトがあります。それに地方の会場は、初めてツアーを回った時に出演した箱ばかりなんですよ。そこでちゃんと満員にして、10人も呼べなかった頃のライブを見てくれた人たちに、お礼と“ちゃんとお客さんを呼べるようになりました”という報告をしたいですね。
●それ、めちゃめちゃカッコいいですね。変化があっても軸がブレないのは、きっとそういう精神があるからだろうなと思います。
Interview:森下恭子