10周年を記念したベストアルバム『10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST』を今年3月にリリースした後も初のホールツアーを行うなど、新たな動きを見せ続けているlynch.。そのツアーファイナルの5/8@渋谷公会堂で明らかにしたとおり、8月から3ヶ月連続でのリリースを敢行してきた。8/5に第1弾シングル『EVOKE』、9/2に第2弾シングル『ETERNITY』と来て、いよいよ10/7に第3弾フルアルバム『D.A.R.K. -In the name of evil-』がリリースされる。それぞれに異なる面を表現した2枚のシングルを経て、遂に放たれる今作はまさに“ダーク”にして“イーヴル”。『EXODUS-EP』(2013年)で解放した、バンドが本来持っている凶悪なまでに魅惑的な“ダークネス”を前作のアルバム『GALLOWS』(2014年)で突き詰めたところから、さらにもう一段階上の次元へと昇華させるような傑作だ。自らの象徴たる“闇”をより深めつつ、ライブではオーディエンスを熱狂と歓喜へと導く強力なエナジーを持ったアルバムについて、Vo.葉月とG.悠介に訊くスペシャル・インタビュー。
●今回は3ヶ月連続リリースとなりましたが、3作でのつながりのようなものは意識していたんでしょうか?
葉月:そこは意外と考えていなくて。『EVOKE』と『ETERNITY』を聴いて「アルバムはどうなるんだろう?」と考えていた人は、(想像と)全然違うものが来ると思うんですよ。だから全然関係ないといえば、関係ないです。
●“3部作”的なつながりがあるわけではない。
葉月:どちらかというと3ヶ月連続でリリースすることで、“お祭り騒ぎ”みたいな感じで(リスナーも)テンションが上がるだろうなというところだったんです。だからアルバムに向けて、徐々に紐解かれていくという感じではないですね。
●では、そもそも今回の3ヶ月連続リリースを考えたキッカケとは?
葉月:M-7「ETERNITY」のミュージックビデオ(MV)をどうしても撮りたくて。でもシングル一発で出すのも「どうかな?」と思ったし、かといってアルバムのリード曲というのもまた違うなと…。というところで3ヶ月連続リリースの2枚目としてなら、1枚目(『EVOKE』)に王道を出すことによって(『ETERNITY』を)1つのフックとして良い形で出せるんじゃないかと思ったんです。そこで3ヶ月連続リリースをやろうということになりました。
●「ETERNITY」ありきの企画だったんですね。
葉月:そうなんです。静かな曲で真っ白い幻想的な世界を描いたMVなんですけど、白いイメージの映像をデビュー当初から撮りたいと思っていて。今またメイクも取り入れるようになって、普通の格好をしているロックバンドにはできないような見せ方をしたいなというところもありましたね。そこで「そういえば白い映像を撮りたかったな」というのを思い出して、今回やるに至った次第です。
●白いイメージの映像が「ETERNITY」という楽曲にハマるだろうと思っていた?
葉月:「ETERNITY」は、その映像をイメージして作ったんですよ。完全に画が先で、そこに向けて曲を作っていきました。
●逆にM-4「EVOKE」は、lynch.の王道を示すものを作ったということですが。
葉月:まずファンを安心させておいて、そこからフックを入れていくという(笑)。
●そこはファンを意識した部分もあるんですね。
葉月:僕は客観的な目で見て、そういうところを気にしちゃうんですよ。自分自身もファン気質なところがあるから。
●ファンの抱くイメージを裏切ったりしたくない?
葉月:そうですね。意図がきれいに伝われば良いんですけど、なかなかそういうわけにもいかないから。
●最初のお話にもありましたが、今回のアルバム『D.A.R.K. -In the name of evil-』の内容について『EVOKE』と『ETERNITY』からは想像できないだろうと思っていた?
葉月:たぶん想像できないと思います。どういうものをみんなが想像しているかはわからないけど、この2枚からは想像できないだろうなと。あくまでも(独立した)シングルとして考えた2枚なので。
●今作を聴いて、『EXODUS-EP』と前作のアルバム『GALLOWS』から連なる流れにあるものなのかなと思ったんですが。
葉月:まさにそうですね。『GALLOWS』を作った時に出た反省点を、今回のアルバムに活かしたというか。『EXODUS-EP』の頃から“ダーク”というキーワードはあって、『GALLOWS』でもそこを突き詰められたとは思うんです。でも歌詞やリフやフレーズといったところで、もうちょっと“ダーク”というものを突き詰めることができたんじゃないかというのが反省点としてあって。
●まだ突き詰め足りない部分を感じていた。
葉月:『GALLOWS』では、まだ普通な曲は普通だったから。「lynch.といえば“闇”だの“暗黒”だの言っていて、黒い格好やメイクをしている悪魔みたいなバンドじゃないの?」みたいな(笑)、そういうわかりやすい存在にしたいなっていうところで今回は制作を始めたんです。タイトルがコンセプトそのままなので、「タイトルをどうしよう?」となった時もこれしか出てこなくて。
●まさに『D.A.R.K. 』(笑)。サウンド面でもダークさを意識したわけですよね?
葉月:そうですね。不協和音の入れ方とかも意識して。音の運びでもスケールを無視していたり、「悪い響きが何かないかな?」と探しながら作っていましたね。
●“In the name of evil”というサブタイトルのとおり、“悪い”感じも意識していたと。
葉月:“ダーク”と“イーヴル”というのが2つのテーマだったんです。
●確かに歌詞の中にも“闇”や“灰”といった言葉が繰り返し出てきたり、邪悪なイメージの言葉も多いですよね。
葉月:そこはやっぱりイメージとして意識しましたね。自分たちがメイクをしていることについて、「なぜメイクをしているの?」と思われたくなくて。ちゃんとリンクさせたいというか。(リスナーが)「なるほどね」と思う感じにしたかったから、自ずとそういうキーワードがたくさん散りばめてあります。
●歌詞の内容を読めば、ちゃんとヴィジュアル的なイメージともリンクしている。M-2「D.A.R.K.」で“あなたに捧げたい この闇を この愛を”と歌っているのはすごく象徴的かなと。
葉月:この“闇”というのは僕らの存在そのものというか、その比喩ですね。自分たちの出しているものに「ハマれ!」っていう(笑)。
●ちなみに、悠介さんも闇を放っている?
悠介:普段からそんなに明るい人間じゃないので、闇を放っていると言えば放っているのかな。…心の闇はだいぶあります(笑)。
●そういう部分が曲にも出ている?
悠介:う〜ん…。でもただ暗いだけのものではなくて、別の“闇”というか。闇に沈んでいくような感じというよりは、そことは違うものを曲作りの時には意識しているかもしれない。USロックのダークさよりも、UKロックの感じに近いですね。リスナーとして聴いている時も、自分はそういう曲にグッと来るから。
●暗くても、ただ陰鬱なものではない。
葉月:暗いものを作ろうとしているわけではないから。“わかりやすいキャッチーなもの”というのは前提にあって、その色づけの部分を“ダーク”というテーマでやっているだけなんです。鬱々しい感じでは全くないですね。
●今作に収録されている中ではM-8「FALLEN」とM-12「MELANCHOLIC」が悠介さんによる作曲ですが、曲作りの際には“ダーク”と“イーヴル”というテーマを意識していたんでしょうか?
悠介:バンドが今向かっている方向性というのは元々『EXODUS-EP』の時からあったものなんですけど、そこを意識すると僕は曲が作れなくなるので…。あえてそこは意識せずに、自分のギタリストとしてのキャラクターを考えて作った感じですね。
●「MELANCHOLIC」はまさにタイトルどおりメランコリックな曲調が、悠介さんらしい。
葉月:これは悠介くんから受け取った時点で仮タイトルが「MELANCHOLIC」だったんですけど、曲のイメージにピッタリだったので“このまま行こう”となりました。
●自分の中でもそういうイメージがあった?
悠介:そうですね。自分の中では、白いドレスを着た女の人が舞っているようなイメージがあって。歌詞が上がってきた時にもそういうイメージに通じる言葉が入っていたので、わりとリンクする部分はあったのかなと思います。
●曲から受けたイメージが近かったんでしょうね。
葉月:僕も完全に曲のインスピレーションから歌詞を書いたので、おそらくそういうことだと思います。
●この2曲はアルバムに向けて作ったもの?
悠介:「FALLEN」に関しては去年の夏のツアー中に作った曲で、『EVOKE』と『ETERNITY』のカップリング曲(「GUILTY」と「VARIANT」)を書いたのと同時期ですね。どちらもどの作品に入るかは決まっていなかったけど、とりあえず候補出しだけは早めにしておいて。作品全体のコンセプト的なものは葉月くんが頭の中でイメージしていることが多いので、選曲は彼に任せて「良いように使って下さい」という感じでした。
●葉月さんはどういう基準で選んだんでしょうか?
葉月:悠介くんの作った曲のストックが5〜6曲あったんですけど、そこから各作品に割り振っていった感じですね。シングル(のカップリング曲)に関しては表題曲とは対極に位置するようなものを選ばせてもらって。アルバム(に収録した曲)のほうは、ハマりが良いものというか。アルバムの全体像について大体のイメージがあったので、「これだったらパズルのピースとしてしっかりハマるだろうな」というものを選びました。
●曲のストックはどれくらいあったんですか?
葉月:ストックは全然ないです。元からあったのは、M-13「MOON」だけじゃないかな。実は「MOON」は『GALLOWS』の時に収録候補にあったんですけど、その時は何となくハマりが悪くて取っておいたんですよ。それが今ここで登場したという。
●すごくラストらしい曲だなと。
葉月:ラストだなと思いました。でも『GALLOWS』には「PHOENIX」が既にあったので、ちょっと違うなと。
●ラストっぽい曲が重複してしまう。
葉月:(2曲とも入っていると)ちょっとガチャガチャしちゃうなというところはありましたね。
●基本的に形にしたものは全て収録している?
葉月:アルバムの全体像を見て、空いているところにハマる曲を作るという感じなんですよ。「ここにこういう曲が欲しい」となって、「じゃあ、そういう曲を作ろう」ということで埋まっていくんです。だから全部揃うと、もう作らなくなっちゃうんですよね。
●全体のイメージは見えていたわけですね。
葉月:「ここは激しい曲で、ここは歌もの」というイメージはあって。特に冒頭の「D.A.R.K.」とM-3「ANTARES」に関しては、頭の中には構想があったんですよ。だから「すぐできるだろう」と思って後まわしにしていたら、全然できなくて…。最終的には結構ギリギリでした。
●オープニングのイメージは明確にあった。
葉月:『GALLOWS』がいきなり大爆発するような始まり方だったから、そういうものじゃなくて今回はもうちょっと低く重い感じで始まりたいなというのがあって。「ANTARES」は今までのいわゆる“lynch.っぽさ”というものを、この1曲で全て担当してもらおうというところで作った曲ですね。
●逆にM-5「GHOST」は異色な感じがします。
葉月:そうですね。「GHOST」は「こういう曲を作りたい」というのが先にあったかもしれない。ステーキ屋さんに行った時に、ロカビリー調の音楽が流れていて。「これは使えるな!」と思ったんです。
●ロカビリーは、バンドのルーツにないですよね…?
葉月:全くないです。でもルーツになさすぎて、逆に面白かったんですよね。「これをウチのバンドでやったら面白いぞ」と思って、ダークな感じにアレンジして。イントロのベースの音は、ロカビリー感を出すためにすごくこだわりましたね。
●M-10「INVADER」はBa.明徳さんとの共作ですが、どうやって作ったんですか?
葉月:これは僕の中で構成とテンポ感とリズムは全部あったんですけど、ベースのスラップをメインにしたいなと思っていたんです。それをAK(明徳)さんに考えてきてもらって。
●葉月さんが作ったものに、AKさんがスラップを加えた。
葉月:「キーも気にしなくて良いから、とりあえず弾いた時に一番カッコ良いものを持ってきてくれ」と頼んだんです。それで持ってきてもらったものにキーを合わせて、ギターやメロディをハメていった感じですね。…まあ、別に1人でやろうと思えばできたんですけど(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
●そこはAKさんを活かしたと(笑)。
葉月:そのほうが良いかなと(笑)。ファンの人も喜ぶと思うから。
●M-9「BEAST」のコーラスには、ファンも参加しているそうですが。
葉月:まず「EVOKE」のMVをTwitterでより拡散してもらうにはどうすれば良いかというのを考えていて。“ファンが喜ぶようなことを”と考えた時に、抽選で(レコーディングに参加する権利が)当たるようにしたら盛り上がるんじゃないかというところから始まりました。「BEAST」のAメロやサビのコーラス部分は“人数”感が欲しいんですけど、僕はいつも1人でそれをやっているのでなかなか無理があるんですよ。だからファンの方に参加してもらったら、“人数”感が出るんじゃないかと思って。実際に10人の方をレコーディングに呼んでコーラスをやってもらったら良かったですね。
●ライブ感も出せたのでは?
葉月:やっぱり臨場感が出ますよね。ファンの方には「いつものライブの感じでお願いします」と言って、やってもらいました。
●ファンにとってもレコーディングに参加できて嬉しいし、良い試みですよね。
葉月:ファンの方もすごく喜んでくれていて。誰よりも早く新曲が聴けるわけだし、クレジットにも名前が載るし、声も音源に入るっていう。僕らもMVが拡散されるわけで、本当に良いことばかりでしたね。
●レコーディング全体で見ても、今回はスムーズだったんでしょうか?
葉月:スムーズだったと思います。ただ今回、弦楽器はみんな宅録なんですよ。だから(個々に)苦戦していたとしても、その場を見ていないので知らないっていう(笑)。
●実際に自宅で作業した悠介さんはどうでした?
悠介:家でやる作業は楽な部分もあるんですけど、その場では全て自分でジャッジしなくちゃいけなくて…。他の人の意見が聞けない分、神経も使うというか。「プロデューサーが隣にいてくれたら楽なのにな」と思いつつも、何か言われたら言われたで「う〜ん…」ってなるし、どっちも楽じゃないといえば楽じゃない(笑)。でもインディーズの頃はそれが普通だったので、「昔はこういう感じだったな」と懐かしみながらやっていた部分はありますね。
●弦楽器を宅録にした理由とは?
悠介:ベストアルバム(『10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST』)の時にやってみたら、「これ(宅録)でもわりといけるね」という話になって。それで今回もやってみました。最新のテクノロジーって、すげぇなと思いましたね。
●ベストアルバムを作った経験も今作に反映されていたりする?
葉月:そういうノウハウみたいなところはかなり反映されているし、録音の仕方はモロに反映されていますね。その時にミックスをしてもらったエンジニアさんに「もっとこうしたいんですけど」と言ったら、「このアレンジじゃ、それは無理だね」と言われたりして。「じゃあ、どうすれば良いんですか?」というやりとりの結果が今回のフレージングにも活きていたりする。だから今回はかなりシンプルになっているんですよね。「音圧を上げたいなら、こんなに弾いてちゃダメだよ」みたいなことを言われて、「なるほどな」と。そういう面ではベストアルバムの経験がかなり活きていると思います。
●エンジニアさんとのやりとりを通じて、イメージしていた理想の音にも近付けた?
葉月:今までは「何でできないんだろう?」とずっと思いながら、好きなフレーズを全部入れていたんですよね。でも一歩引かなきゃいけないところは引かなきゃいけないんだというのがよくわかりました。音はどんどんすごくなっているなと思っていて。エンジニアさんと会話しながら「もっとこうやらなきゃダメだよ」というのを実践していっているから、どんどんイメージに近付いてはいます。
●自分の理想とする音に近付いてきている。
葉月:まだ改善点や反省点はあるんですけど、今回も前作の反省点からできているから。次への活力というか、次の作品を生むパワーになるから全然良いんですよ。
●『EXODUS-EP』〜『GALLOWS』以降は自分たちの理想に向けて、より振り切って進めているのかなと思います。
葉月:でも単純な理想という感じでもなくて。“やりたいこと”というよりも、“やったほうが良いこと”を意識しているんですよ。“もっとlynch.はこうであったほうが良いんじゃないか?”ということに自分たちが意識して取り組むことによって、もっとギュッと締まったものになるのかなと。バンドとして良いものは作れているんじゃないかなと思っています。
●“やったほうが良いこと”をやることで、結果的に“やりたいこと”をやれているのでは?
悠介:そうかもしれない。だからこそ、こういう良い作品ができるというのはありますからね。そこには自信を持っています。
●今回も自信のある作品になった?
悠介:今回は1曲1曲すごく個性が強いので、“これが1つの作品になったらどんな感じになるんだろうな?”っていうのが自分でも想像できない部分があったんですよ。でもヤバいものができちゃったな…というのが自信を持って提示できるというか。これが出せたことによって、またその次に向けての力が付いたと思います。
●リリース後にはまたツアーも予定されていますが。
悠介:まずはアルバムを引っさげてツアーをまわってみないと、わからないところがまだあって。その中で自分なりに見えてくるヴィジョンみたいなのがあると思うんですよ。
●楽曲自体もライブでやっていく中で感覚を掴んでいくというか。
葉月:そうですね。でも今回の曲は、ライブではかなり楽しいと思います。“ライブでこうしたら盛り上がるだろうな”というようなことを初めて意識したから。
●今までは意識していなかったんですか?
葉月:全く意識していないわけではないけど、ライブを意識して曲の構成を考えたりはしていなかったですね。今回は曲の構成でテンポチェンジが多かったり、コール&レスポンスが多かったりして。そういう部分を意識して作ったので、ライブでは(オーディエンスは)すごく忙しいと思いますよ(笑)。
●ライブですごく盛り上がれるものになっている。
葉月:今まで以上にそうなっていると思います。
Interview:IMAI